大阪府立図書館

English 中文 한국어 やさしいにほんご
メニューボタン
背景色:
文字サイズ:

本蔵-知る司書ぞ知る(130号)

大阪府立図書館 > TOPICS > 中央 > 本蔵-知る司書ぞ知る(130号)

本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

》「本蔵」の一覧はこちら

2025年8月20日版

今月のトピック 【お墓】

お盆には一族で集まりお墓参りをする、そんな風習も変わりつつあるようです。これまでは「家」単位で管理・継承されることが多かったお墓ですが、近年そのあり方は多様化しています。社会の形や価値観をリアルに写し出すお墓の問題について深掘りしてみませんか?今月はお墓に関する本を3冊ご紹介します。

世界のお墓文化紀行:不思議な墓地・美しい霊園をめぐり、さまざまな民族の死生観をひも解く』(長江曜子/監修 誠文堂新光社 2016.11)

美しいカラー写真をめくりながら、世界各地のお墓をめぐることができる一冊です。パリのカタコンブ、モロッコのイスラム教徒の青色のお墓、芝生が広がるサンフランシスコの霊園など、特徴あるお墓が多く取り上げられています。お墓を見比べることで、時代や地域ごとに異なる文化や信仰のあり方が浮かび上がってきます。

お墓の社会学:社会が変わるとお墓も変わる』(槇村久子/著 晃洋書房 2013.9)

著者が経験した父母の見取りという身近な話題から、変わりゆく葬式、散骨や樹木葬などの新しいお墓の形へと議論は進んでいきます。欧州や東アジアの墓地制度とも比較しながら、「個人化」「無縁化」「流動化」が進む日本のお墓の現状が描かれます。

p.136-160「第2部第二章 都市史としての墓」では、大阪市公営墓地について取り上げられています。江戸末期からの大阪の墓地の沿革や、墓碑からたどる近代大阪を作った人々のライフヒストリーなど、興味深い内容になっています。

トラブルを未然に防ぐ行政書士が教える墓じまい・改葬の進め方』(大塚博幸/著 税務経理協会 2024.8)

お墓が遠方にある、継承者がいないなどの理由で、墓じまいや改葬をする件数が増えています。本書では、民法などを参照しながら、必要な書類や手続きの流れについてまとめられています。また、実際に墓じまい・改葬の相談に乗っている著者の経験にもとづき、石材店や寺院・霊園などとやり取りする際に気を付けるポイントなどについても書かれています。

今月の蔵出し

みらいめがね 3:こんな世界でギリギリ生きています』(荻上チキ/著 ヨシタケシンスケ/著 暮しの手帖社 2024.11)

今年の夏も本当に暑いです。照り返しの眩しさの軽減にと、数年前にサングラスを購入したのですが、とても快適で外出時には欠かせなくなりました。

今回紹介します『みらいめがね』のシリーズは、評論家でラジオパーソナリティでもある荻上チキさんのエッセイです。『りんごかもしれない』などでお馴染みのヨシタケシンスケさんが絵を担当されており、ほっこりしつつも、少しエッジのきいたストーリー調のイラストは読みごたえがあります。

昨年出版された最新刊3巻のまえがきでは、荻上さんがサングラスを購入された際の体験について掲載されています。「サングラスいいですよね、わかります!」という共感を抱くとともに、サングラスや日傘に抱きがちなバイアスを例にした、いわゆる「色眼鏡」を外すことで見える景色が変わったというお話が印象的でした。

日常のもやもやから、今起こっている紛争まで、荻上さんの視点から書かれる様々な事象は、誰もが持っている「色眼鏡」について、改めて考えてみるきっかけになると思います。文章から読むもよし、はたまたヨシタケさんのイラストから入るもよし(あとがきも素敵です)。夏のサングラスとともに、おすすめしたいシリーズです。

【くろぶち】

春にして君を離れ(ハヤカワ文庫)』(アガサ・クリスティー/著 中村妙子/訳 早川書房 2004.4)

名探偵ポアロシリーズや名探偵ミス・マープルシリーズ等の推理小説で有名なアガサ・クリスティーが別名義のメアリ・ウェストマコット(Westmacott, Mary)として1944年に出した小説です。

突然ですが、私は昔からドキドキすることが苦手です。そのため、小説もそっと後ろから読んで、結末を知ってから安心して読むこともしばしば・・・。(結末を見て読まないことにすることもしばしば)

生粋の本好きの方に怒られてしまいそうでなかなか開陳することができなかったのですが、司書仲間にまるっきり同じタイプの方を見つけて安心したことがありました。

そこで、この本蔵をご覧いただいている方の中にも同じタイプの方がきっといらっしゃると信じてこの先を続けるのですが、ご安心ください。この小説では、ドキドキする展開は何も起こりません。主人公が、ただこれまでの人生を回想しながら旅をして、家に辿り着くまでのことを描いた小説です。

出発前と同じ場所に戻ってきます。物語が始まったときと戻る場所では外見からは何も変わらないのに、その間に主人公の心の中では実に様々な事が起こります。

私はいつも、この小説を読むとダニエル・キイスの『アルジャーノンに花束を』を思い出します。

いずれの小説もバッドエンドでもハッピーエンドでもありませんが、主人公が一つ一つ消化しながら前に進んでいくためでしょうか、意外なほどに読後感は悪くありません。そして、結末を最初に読んでしまうタイプの方にはとても重要なポイントかと思いますが、主人公も最後まで安全です。

ですので、Wikipediaも生成AIも遠ざけて、できるだけ内容に関する記述を読まずにぜひご一読ください。おすすめする理由がたちまちネタバレになるため、詳しくお伝えできないのが残念なのですが、何も知識を入れずに読んでいただきたい1冊(欲を言えば2冊)です。 

【いろは】

「本蔵」の一覧はこちら

PAGE TOP