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本蔵-知る司書ぞ知る(128号)

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本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

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2025年6月20日版

今月のトピック 【腐敗と発酵】

 じめじめとした季節に注意したいことの一つは、食べ物が腐敗すること。この「腐敗」という現象は、人間に有益だと「発酵」と呼びます。今月は人間と深いかかわりを持つ腐敗と発酵について詳しくなる本を3冊紹介します。

「腐る」というすごい科学(SUPERサイエンス)』(齋藤勝裕/著 シーアンドアール研究所 2023.6)

微生物が食物を改良する作用や発酵の仕組みについて丁寧に説明したうえで、醸造や酪農、バイオ医薬品などでどのように発酵が活用されているのかを解説しています。発酵がいかに人間と深いかかわりを持っているのかがわかる一冊です。

47都道府県・発酵文化百科』(北本勝ひこ/著 丸善出版 2021.6)

日本各地の風土に合わせて多様な発展をした発酵文化について、都道府県別にまとめ、地域の特色や主な発酵食品についてまとめています。醤油や味噌、日本酒などの伝統的な発酵食品から、塩麹やクラフトビールのような近年人気のあるもの、さらに藍染や柿渋といった発酵を使った技術や文化についても書かれています。

発酵文化人類学:微生物から見た社会のカタチ』(小倉ヒラク/著・イラスト 木楽舎 2017.5)

発酵を通して人類の文化を掘り下げるという視点でまとめられた一冊。ヒトの営みと発酵とがいかに密接かをうかがい知ることができます。各章の終わりには解説として参考文献がまとめられています。

今月の蔵出し

虹果て村の秘密(Mystery land)』(有栖川有栖/著 講談社 2003.10)

今回ご紹介する資料は、大阪生まれの推理小説家・有栖川有栖の『虹果て村の秘密』です。有栖川有栖といえば、デビュー作『月光ゲーム』から始まる江神二郎シリーズと、『46番目の密室』から始まる火村英生シリーズが有名ですね。
有栖川有栖の作品は、大阪が舞台であることも多く、火村英生シリーズの1つ『鍵のかかった男』には大阪府立中之島図書館も出てきます。

さて、『虹果て村の秘密』は、宇山日出臣(日出臣はエディターネーム。本名・宇山秀雄)が送り出した「かつて子どもだったあなたと少年少女のためのミステリーランド」というシリーズの1冊です。有栖川有栖は、子どもたちに向けた作品を書かれるイメージはあまりないですよね。収録されている「わたしが子どもだったころ」にも「ジュブナイル・ミステリは初めて」と書かれています。この作品は、主人公の小学六年生・上月秀介の視点で書かれており、文章も子どもの感覚や心情が表れていて(烏賊崎という登場人物の名前について、「漢字で書くと、烏賊崎というむずかしい名前になる。」といったような)、有栖川有栖作品としてはなんとも新鮮な味わいがあります。

内容は夏休みに友だちの優希と一緒に訪れた虹果て村で起こる殺人事件。易しい文章で書かれていますが、内容は本格ミステリ。密室で起こった殺人事件、土砂崩れによって交通が遮断された村、いかにも「ミステリ」という状況です。設定を聞くと気になってきませんか? 大人としては危ないことはしてほしくないところですが…ミステリ作家になりたい秀介と、刑事になりたい優希は、今回の事件に一所懸命向き合います。子どもたちの活躍をぜひ読んでみてください。

※ミステリーランドのシリーズについては、「本蔵-知る司書ぞ知る(106号)」で紹介した『編集者宇山日出臣追悼文集:新本格ミステリはどのようにして生まれてきたのか?』でも少し触れています。有栖川有栖はこの追悼文集にも文章を寄せています。
(文中敬称略)

【Q】

新幹線60年大百科:鉄道写真家が撮り続けた超特急の記録』(南正時/著 イカロス出版 2024.10)

今年は、山陽新幹線が全線開業して50周年になります。そのことにちなみ、新幹線をテーマとしたこの本を紹介します。

この本は、東海道新幹線開業60周年の2024年に刊行されました。著者の南正時さんは、長らく鉄道写真家として活躍されており、当館でも著作を多数所蔵しています。

著者と新幹線との出会いは偶然でした。まだ開業する前の昭和39(1964)年6月に米原付近で試運転電車と遭遇し、持っていたカメラで無我夢中で撮影したそうです。そのカットが鉄道写真活動の始まりとなり、この本の最初を飾っています。

その時から撮り続けた東海道新幹線を中心に、山陽、東北、上越、北海道、山形、秋田、九州、西九州、北陸の各新幹線の写真が解説やエッセイとともに綴られています。そして営業車両だけでなく、試作車両や、「ドクターイエロー」の愛称で有名な検査車両等についても触れられています。

また、現在では無くなってしまった食堂車や公衆電話、冷水器等の車内写真も掲載されています。特に食堂車については複数箇所で紹介されており、著者の思いが伝わってきます。自分自身も利用したことがあったので懐かしく感じました。

日本の大動脈である新幹線の貴重な写真が多数収録されており、コンパクトによくまとめられています。新幹線について知りたい、と思ったらまず始めにこの本を読んでみてはいかがでしょうか。

【Karma!】

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