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大阪府立中之島図書館だより「なにわづ」 No.134

更新日:2004年11月30日

なにわづ・題字

2000年9月 No.134

三代目中村歌右衛門という役者

荻田  清

 今から162年前の天保九年、大坂で一人の偉大な役者がなくなった。その人の名は中村玉助、俳名は梅玉。以前の名は三代目中村歌右衛門、俳名は芝翫であった。その名は今日に残っているため、よく知られていると思われるが、三代目が大坂の役者であったことは忘れられようとしている。父は金沢の出身で、やはり大坂で活躍し、天下を狙う大悪人などを演じる実悪という役柄を確立した、初代の歌右衛門なのである。三代目は父の芸風を継いで実悪・敵役を得意としたが、小柄で容貌に難のあったことを逆手にとって、幅広い芸を開拓した。この人を描く大坂の錦絵も多数残っている。弟子にも恵まれていた。二代目関三十郎、二代目中村富十郎、四代目歌右衛門、初代中村歌六…。今日、上方歌舞伎の代表のように言われる「乳貰い」「雁のたより」といった芝居も、この人の創始した狂言であった。

ただ、上方役者であったことが忘れられる理由もないではなかった。はじめて江戸に下った時に起こった三代目坂東三津五郎との確執が語り伝えられ、その対抗心から江戸において変化舞踊を手がけだし、それを大坂に伝えることとなった。しかし、しばしば江戸に下ったわけではなく、生涯に三度、のべ八年弱にすぎなかったのである。

つい最近、『日本映画傑作全集』というビデオで、長谷川一夫主演の映画「男の花道」を観た。映画のことは何もしらないが、昭和十六年の制作、原作・脚色は小国英雄、監督はマキノ正博だという。戦後も映画化され、舞台化され、この映画・舞台によって、三代日中村歌右衛門の名前は、知られているようでもある。テーマの明快な感動的な映画であったが、ここでは歌右衛門が女形の役者として出てくる。どんな役でも演じた人であるから女形も演じないわけではなかったが、基本的には実悪・立役といった男の役であった。戦前すでに三代日の実像が損われつつあったのであろうか。歌舞伎400年の歴史を見渡す時、そこにはまだまだ解き明かされていないこともあり、あるいは誤解されて伝わっている部分もあるように思う。

(おぎた・きよし 梅花女子大学教授)

◆「松川半山展-幕末・明治初期の挿絵画家-」を開催しました◆

~平成12年6月1目(木)~15日(木)於:当館文芸ホール~

 平成12年度特別展示として、「松川半山展 -幕末・明治初期の挿絵画家-」を開催いたしました。 松川半山(文政元年~明治15年)は、幕末から明治にかけて、大阪で活躍した挿絵画家できわめて多くの版本を残しています。 今回の展示では、版本の挿絵を中心に、画稿・書簡等の肉筆も展示し、半山の画業を総合的に紹介しました。

半山は『淀川両岸一覧』『浪華の賑ひ』等の名所図絵、『小学入門教授解』等の教授本、『興歌喚友集』等の狂歌本、引札、西洋文明をいち早く紹介したものなど大変幅広い分野の挿絵を描いていますが、総体的に実用的な内容のものが多くみられます。彼はいわゆる芸術性のみを追求する画家ではなく、実生活に役立つことを意識して、実用書の内容を活かすための挿絵画家に徹していたのではないか、と思われます。

それは半山が額に入れて飾るような一枚絵を描いて、華々しく画壇で活躍するのではなく、専ら版本に挿絵を描いたことからも言えます。半山は、描く対象については、各種の文献によって克明に調査し、その由緒、故事等を考証していたことが、彼の随筆等で分かりますが、その地道で精緻な画風から、すでに現在では見ることのできない幕末・明治初期の風景や風物を見ることができます。

中でも明治期に入って、欧米からの文物が輸入され、新しい洋風建築や汽車等の交通機関、新しい教育等によって、半山の絵のテーマはさらに広がり、この時期の挿絵は、色彩が鮮やかで、まさに新しい風が、日本に大阪に吹き込んできた感じがして、特に注目されます。

半山の画業を辿ってみると、改めてその偉大さが感じられ、大阪が生んだ風俗画家として、もっと高く評価されるべきで、地元大阪においてさえ一般にはそれほど知られていないのは彼の名利を求めない、無欲で地味な人柄がそうさせているのではないか、と思われました。会期中には、2000人を越える入場者がありました。ご来場ありがとうございました。

尚、展示パンフレット「松川半山展」(全8P)の残部があります。

◆関連講演会の報告◆

初夏の講演会
「松川半山 -幕末・明治維新期における一挿画作者の動向-」

平成12年6月24日(土)
講師:長友千代冶氏(仏教大学教授)

松川半山について、生涯や画業について、わかりやすくお話いただきました。講演会では、半山の四代目にあたる松川孝三郎氏が、半山の肖像画を公開してくださり、講演会に華を添えていただきました。

◆秋の展示会と講演会のお知らせ◆

於:大阪府立中之島図書館3階 文芸ホール

【特別展示】

傾きもの(かぶきもの)の系譜 -
上方歌舞伎400年-

平成12年10月1日(日)~15日(日)
(2日、9日、10日は休館)

【関連講演会】

(1)「上方役者、三代日中村歌右衛門」     講師:荻田 清氏(梅花女子大学教授)     平成12年10月21日(土)1時30分から
申込締切:10月7日(土)

(2)「上方歌舞伎のおもしろさ」
講師:中川芳三氏(松竹演劇部顧問)     平成12年11月11日(土)1時30分から
申込締切:10月21日(土)

申込み:往復葉書に住所、氏名、講演会名を記入して下記まで。
〒530-0005大阪市北区中之島1-2-10    大阪府立中之島図書館 大阪資料課

中之島図書館ホームページのごあんない

当館では昨年4月からホームページを開設し多くの方にご利用いただいております。

《資料検索》

大阪府立図書館(中之島・中央)の蔵書が検索できます。 大阪府立図書館におさがしの資料がなかった場合、他の図書館の蔵書が調べられるように、インターネットで資料検索のできる公共図書館・大学図書館にリンクしています。 図書館の資料だけでは解決できないような問題を調査する場合に利用できる専門機関(「類縁機関」)も紹介しています。

《おおさかページ》

大阪および図書館に関する情報を盛り込んだページです。大阪資料・古典籍室で開催している小展示の資料集を掲載しているほか、図書館に寄せられた質問をピックアップした「よりぬきレファレンス」、「本」についてのまめ知識をまとめた「本の話」や、中之島図書館の業務についても紹介しています。

このほか、貴重書や特別コレクション、国の重要文化財である当館建物の紹介などもご覧いただけます。職員の手作りでホームページを開設して1年半。調べものをしようとする方の手がかりとなるような役に立つ情報を発信していきたいと考えています。

http://www.mydome.or.jp/nakanoshimalib/

寄贈図書紹介

「鉛筆コンテが観た京阪沿線の建築物-歴史は語る 町屋、レトロ建築スケッチ集」
水津俊和 画・文/京阪電気鉄道(株)発行
もうすぐ百周年を迎える中之島図書館は、歴史を感じさせる近代洋風建築で、写真や映像、絵画の中に発見することができます。これもその一冊。この画集の中では、鉛筆コンテと淡い水彩で優しい雰囲気ながら堂々と建つ姿が描かれています。
「大阪生活必携」(発行:大阪府ほか)
 英語・中国語版/ハングル版/スペイン・ポルトガル語版/インドネシア語版/タイ語版/フィリピノ語版/ベトナム語版  在住外国人の方々に向けた生活必要情報のハンドブック。日本語との併記です。
<関西国際空港第一期工事関係資料>
 大阪府府政情報センターが収集・開架してきた上記資料約300点の寄贈を受けました。大阪資料・古典籍室でご利用いただけます。ただし館外への貸出はできませんのでご了承ください。また同じく第二期工事関係資料は、府政情報センターで開架しています。

カード箱

常連さんに学ぶ

中之島図書館には多くの常連さんが来られます。一口に常連さんと言っても、新刊本を次々予約して借りて行かれる方、ブラウジング的に館内で読書をされる方、熱心に調べものをされる方、またしばしば職員に声をかけてくださる方、一人で黙々と作業をされる方など、その利用のしかたは実に様々ですが、私達新人職員にとって、図書館の使い方を熟知された常連さん達は、有り難い存在でありまた一種こわい(?)存在でもあります。なんといっても中之島図書館歴が桁違いなのですから。しかし毎日同じように来てくださること、そのことでこの図書館を応援してくださっていることをひしひしと感じています。図書館はこうした常連さんの期待に応えるべく、また更に一人でも多くの方に新しい常連さんになってもらうため、日々努力を続けています。私も一日でも早く一人前の職員として認めて頂けるように今、頑張っているところです。

(一般資料課 三浦)

図書館員になって

中之島図書館で司書として働き始めて五ヶ月が過ぎました。いろんな利用者の方と接する中で、教えられたことが三つあります。一つ目は中之島図書館の古さです。「昔、利用してたんだけど」と久しぶりに訪れられる方が結構おられます。昔見た資料を求めて来館される方もいます。二つ目は貴重な資料が保存されていることです。ある利用者の方が「古本屋で買うとこれは高いよ」と教えてくださいました。中之島図書館にしかない資料もあるそうです。三つ目は生涯学習時代の到来といったところでしょうか。多くの方が図書館の資料を巧みに利用されて、興味のあることについて調べておられます。私も書庫出納する中で、資料の読み方や所在の有無などを教えていただく形になります。
これからも利用者の方から様々なことを学びながら、利用者の方と資料のよき出会いをお手伝いできたらと思っています。

(一般資料課 平居)


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