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大阪府立中央図書館 国際児童文学館 資料展示「ふしぎの描き方-あまんきみこ&富安陽子の世界-」【解説】

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更新日:2018年11月9日


はじめに

 本展示は、日本を代表する作家であるあまんきみこと富安陽子の本や関連資料を「ふしぎ」を切り口に紹介します。
あまんきみこのデビュー作『車のいろは空のいろ』は、出版50年になり、3世代にわたって愛されています。富安陽子は、雑誌『子どもの館』に「菜の子先生」を掲載してから、約40年がたち、小学生が最もよく読んでいる作家の一人です。
二人には「ふしぎ」を描くという共通点がありますが、その手法は大きく異なります。本展示を行うことによって、それぞれの「ふしぎ」の描き方の特徴を探ると同時に、二人の作品の魅力をたどりたいと思います。

主 催: 大阪府立中央図書館 国際児童文学館
協 力: 一般財団法人 大阪国際児童文学振興財団

あまん きみこ

 1931年旧満洲に生まれる。坪田譲治主宰の童話雑誌『びわの実学校』への投稿を経て、1968年『車のいろは空のいろ』(ポプラ社)で第1回日本児童文学者協会新人賞、第6回野間児童文芸推奨作品賞を受賞。1981 年『こがねの舟』(ポプラ社)で旺文社児童文学賞、1983 年『ちいちゃんのかげおくり』(あかね書房)で小学館文学賞、1986年『ぽんぽん山の月』(文研出版)で絵本にっぽん賞、2004年 『きつねのかみさま』(ポプラ社)で日本絵本賞などを受賞。2001年には紫綬褒章、2016年には 第51回 東燃ゼネラル児童文化賞を受賞している。

富安 陽子(とみやす ようこ)

 1959年東京都に生まれる。1991年『クヌギ林のザワザワ荘』で日本児童文学者協会賞新人賞、小学館文学賞、1997年「小さなスズナ姫」シリーズで新美南吉児童文学賞、2001年『空へつづく神話』でサンケイ児童出版文化賞、2002年に『やまんば山のモッコたち』でIBBYオナーリスト、2011年『盆まねき』で野間児童文芸賞を受賞。「ムジナ探偵局」シリーズ(童心社)、「シノダ!」シリーズ(偕成社)、「内科・オバケ科 ホオズキ医院」シリーズ(ポプラ社)、「やまんばあさん」シリーズ「妖怪一家 九十九さん」シリーズ(理論社)など、著作多数。

1.ふしぎのはじまり

あまんも富安も子ども時代におばさんやおばあさんなどの家族からたくさんおはなしを聞いて育ちました。
あまんきみこは、子ども時代に「キンダーブック ソラノオハナシ」(1939年 7月号)を読んで「月夜を歩くと海の底を歩いている」という感覚を抱きました。童話作家としてのデビューは雑誌『びわの実学校』13号(1965年10月)に掲載された「くましんし」。この作品でタクシー運転手の松井さんが生まれました。
富安陽子は、「エルマーとりゅう」(ルース・スタイルス・ガネット)「メアリーポピンズ」(P.L.トラヴァース)「ムーミン」(トーベ・ヤンソン)などのシリーズを夢中で読みました。高校卒業時の自費出版『童話集』の後、本格的デビュー作品は1986年『やまんば山のモッコたち』(福音館書店)でした。

2-1.あまん作品に登場するキャラクター

あまん作品には、読者といっしょに「ふしぎ」を体験してくれるキャラクターや、「ふしぎの世界」へ誘うキャラクター、「ふしぎの世界」から来たキャラクターなどがいます。
お客さんに親切なタクシー運転手の松井さん、小学1年生で冒険好きのえっちゃんと気まぐれな飼い猫ミュウ、5歳でちょっと引っ込み思案のおっこちゃんとうさぎのぬいぐるみのタンタン、動物と仲良しのあかりちゃん、一人暮らしのハルおばさんとねこのルパンは、現実世界とふしぎの世界を行き来します。
ふしぎの世界には、おにた、こぎつねのふうた、『きつねのおきゃくさま』のきつねおにいちゃんとひよこ、などが住んでいます。
きつねやねこがたくさん登場して人間とは少し違う感覚で世界を見せてくれます。

2-2.富安作品に登場するキャラクター

富安作品には、妖怪やおばけなど、人間と似ているようでちょっぴり違う個性的で魅力的なキャラクターがいっぱい登場します。
負けん気の強い山神(やまがみ)スズナ姫、力持ちで好奇心の強いやまんばのむすめまゆ、引っ越してきた茂のめんどうをみるぼっこ、気まぐれだけれど頼りがいのある菜の子先生、296歳のスーパーおばあさんやまんばあさん、オバケ専門の名医である鬼灯(ほおずき)先生、妖怪ばかりの七人家族九十九(つくも)さん一家、キツネと人間の間に生まれた信田(しのだ)家のユイ、タクミ、モエのきょうだい、ふしぎを解明するムジナ探偵、ねこじゃら商店の主である白菊丸(しらぎくまる)などがいます。
また、遊び心いっぱいの女の子サラは、ブタのぬいぐるみのピンキーとふしぎな世界へ出かけていきます。

 3.ふしぎなできごと

あまん作品にも富安作品にも、日常の延長としてふしぎなできごとが数多く起こります。
あまん作品『きんのことり』では、きたかぜのこが旅をし、『雲のピアノ』では、青木さんが人魚の子どもがひく「海のピアノ」などを調律し、『七つのぽけっと』には7つのふしぎなできごとが入っていて、むかしの話『海からきたむすめ』や『こがねの舟』でもふしぎなできことが起こります。
一方、富安作品『ねこじゃら商店へいらっしゃい』では、白菊丸の売る商品、『ほこらの神さま』では、三人の男子が拾ったほこら、『シノダ!鏡の中の秘密の池』では、おばあちゃんが送った鏡台がふしぎなできごとを起こします。また、『おとうさんの玉手箱』や、古事記の再話『絵物語 古事記』にもふしぎなできごとがつまっています。

4.ふしぎな空間

あまん作品の空間のキーワードの一つは「空」です。子どもの時、病気がちで布団で窓から見える空を見ていたあまんは、その風景を「空の絵本」と名付けています。『ひつじぐものむこうに』『ぽんぽん山の月』『天の町やなぎ通り』も空に関わる作品で、『きつねみちは天のみち』は「雨のすきま」のお話、『すずかけ写真館』や『おかあさんの目』もふしぎな物語の舞台になっています。
千里ニュータウンで子ども時代の一時期を過ごした富安作品の空間のキーワードには「山」「家」「学校」があります。『キツネ山の夏休み』『だんだら山のバク博士』は「山」、『クヌギ林のザワザワ荘』 『オバケ屋敷にお引っ越し』は「家」がふしぎの舞台です。『天と地の方程式』や「菜の子先生」シリーズは「学校」でふしぎなことが起こります。

 5.ふしぎのナゾ解き

富安作品の特徴の一つに、ふしぎのナゾが解き明かされていくおもしろさがあります。
「ムジナ探偵局」シリーズは、ムジナ探偵と源太少年が「人ではないもの」の起こした事件を解き明かします。『カドヤ食堂のなぞなぞ』は、ひさし少年がうな丼を食べるためになぞなぞに挑戦。『空へつづく神話』は、理子が図書室で出会った白髪頭のおじさんの正体を探り、『かくれ山の冒険』では尚がかくれ山に住む猫婦人の悪事をあばき、『シノダ!時のかなたの人魚の島』は、信田家が人魚伝説のナゾを解き、『アヤカシさん』は、ケイが「アヤカシさん」の正体を見つけます。
あまん作品の多くは「ふしぎ」が当たり前のこととして描かれていますが、『もうひとつの空』では、風景画に描かれた子どもが突然一人増えたナゾが明らかになります。

6.ふしぎ×戦争

あまんきみこは、1931年に旧満洲に生まれ、16歳の時に日本に引き揚げて来ました。戦争中を生きた一人として、あまんは多くの作品に戦争を描いています。そして、その中でふしぎなことが起こります。
『ちいちゃんのかげおくり』は、空襲で一人ぼっちになったちいちゃんが、空で家族に出会い、『おはじきの木』は、戦争で娘を亡くしたげんさんが、木の中でおはじきをする娘の姿を見、『鳥よめ』は、鳥よめと周平さん夫婦の仲が戦争によって引き裂かれます。
富安陽子『盆まねき』では、なっちゃんがおじいちゃんやおばちゃんにふしぎな話を語ってもらいます。その中に出て来るシュンスケさんのことが本の最後に「ほんとうのお話」として語られており、読者はシュンスケさんが特攻隊員として亡くなったことを知ります。

7.「ふしぎ」のゆくえ

 二人自身や作品について知りたいと思ったら、『空の絵本』(あまんきみこ)『童話作家のおかしな毎日』(富安陽子)などのエッセイ集が出版されています。
あまんに関しては、「白いぼうし」「ちいちゃんのかげおくり」などの国語教科書掲載作品の研究書があると同時に、神宮輝夫『現代児童文学作家対談9』のインタビュー録や『ざわざわ』創刊号「特集あまんきみこ」(2015年5月)などの参考文献があります。
富安研究はまだ始まったばかりですが、『日本児童文学』には「特集:高楼方子&富安陽子―「児童文学」は、いま」(2002年4月)があり、早い時期から注目の作家であったことがわかります。
あまんきみこも富安陽子も作品を書き続け、出版され続けています。これからも多くの「ふしぎ」が紡がれていくことでしょう。

解説執筆:一般財団法人大阪国際児童文学振興財団

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