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本蔵-知る司書ぞ知る(106号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2023年8月23日版

今月のトピック 【箸】

8月4日は箸の日でした。毎日の食事に欠かせないお箸。この日には各地の寺社で使われなくなったお箸に感謝をこめて箸供養が行われています。普段意識することが少ないかもしれませんが、今回はお箸に関する3冊の本をご紹介します。

箸(NHK美の壺)』(NHK「美の壺」制作班/編 日本放送出版協会 2007.11)

箸」の鑑賞法と選び方の三つのツボを紹介した本です。そのツボの一つが「箸先」です。二本の棒でつまむ・割る・かき混ぜる・運ぶなどができる便利なお箸。先の細いものは魚の皮をはいだり、身をほぐしたりしやすく、より使いやすいようです。また、先の太いものや表面がざらざらしているものは口当たりに違和感を覚えることも…食べものや口に直接触れる箸先にこだわると、より美味しく食事をすることができそうです。

箸(カラーブックス)』(一色八郎/著 保育社 1991.11)

箸と食文化、箸と神話、箸の種類など「箸」にまつわるさまざま事柄を解説しています。世界の食法には手食と箸食、ナイフ・フォーク・スプーン食があります。それは主食や食事マナー、調理法の違いによるそうですが、米や小麦の麺が主食の東アジアは箸食が中心です。朝鮮半島では箸と匙(スプーン)は完全なセットで、「匙箸(スジョ)」という一つの単語になっています。御飯は匙、菜類は箸を使うそうで、同じ箸食でも使い方の違いが興味深いです。

箸置きの世界:食卓の小さな遊び(コロナ・ブックス)』(串岡慶子/著 平凡社 2022.9)

食事中にお箸を置く位置に迷うことがあるかもしれませんが、箸置きがあるとその位置がきまり、器の縁にかけたり、わたしたりすることもなく、お箸を取りやすくもなります。本書はそんな箸置きの実用性を紹介しており、絵図や文献をもとに古代からのお箸の置かれ方の変遷を推察しています。四季の花や野菜、動物、おもちゃなどのカラフルでかわいらしい箸置きの図版からは、食卓に季節感や遊び心を添えてくれるその魅力が伝わってきます。

今月の蔵出し

日本語と外国語(岩波新書 新赤版)』 (鈴木孝夫/著 岩波書店 1990.1)

この記事が掲載される頃には8月の下旬に差し掛かり、学生の皆さんは夏休みも終わりに近づきつつあるかと思います。絵心のない私は、小学生の頃に夏休みの宿題で出る絵日記が苦手で、新学期が始まる直前にやっとのことで取り掛かった記憶があります。
さて、絵日記に限らず、皆さんもこどもの頃に絵を描いて遊んだ経験があるのではないでしょうか。虹の絵はお絵描きの定番ですが、皆さんはいくつの色で虹を描いていましたか?
本書の序盤(第一章、第二章)では、日本語と外国語でものごとをとらえる際の切り分け方が変わることに着目します。一般的に虹がいくつの色でできていると考えるかは、言語によって変わるようです。日本語の場合は七色、英語の場合は物理科学分野の本や教育現場では七色とされているものの、民衆の知識レベルでは六色というのが主流を占めているとのこと。フランス語では七色、ドイツ語では五色、ロシア語にいたっては四色から七色までの幅があるといいます。さらにはラテン語やギリシャ語の古典文献に見られる虹の色に関する研究を引用し、深掘りしていきます。研究結果はもちろんのこと、アリストテレスの時代に虹が何色と考えられていたかが記録として残っていることに驚きます。
そして中盤(第三章)では、日本と海外での常識の違いについて語られ、さらに終盤(第四章、第五章)では、日本語と外国語の表記や音声に関する差異について考察が続きます。
内容が幅広い為、興味のあるところから読んでみるのも良いかと思います。
ところで、本書では日本で太陽といえば赤が一般的と書かれていますが、私の印象では赤だけでなく、黄色、オレンジ等の色も一般的と言えるように思います。このあたりは日本の中だけでも地域によって差があったり、世代間で差があったりするのでしょう。また、本書が出版されたのが1990年ということもあり、現在の感覚とは少し違いがあるのかもしれません。出版当時と現在の違いを意識しながら読むと、さらに発見がありそうです。

【バルカのらくだ】

編集者宇山日出臣追悼文集:新本格ミステリはどのようにして生まれてきたのか?』(太田克史/編 星海社 2022.3)【910.26/319NX/】

今回ご紹介する資料は、ミステリーの編集に長く従事され、日本ミステリーの育ての親の一人ともいわれる宇山日出臣(宇山秀雄)の追悼文集です。
さて「新本格」というと――古くは江戸川乱歩が、マイクル・イネスやニコラス・ブレイクなどのイギリスの作家を便宜的に「新本格派」と総称しています。また笹沢左保や草野忠雄らの作風が「新本格」と呼ばれたこともあります。
現在は日本の推理小説のジャンルのひとつとして定着しています。ここでいう「新本格」は、日本で1980年代から1990年代にかけて登場した、綾辻行人をはじめ、歌野晶午や麻耶雄高、二階堂黎人などの一連の作家たち(の作品)をいいます。
この「新本格」というジャンルを生み出したのが宇山日出臣です。なお、「宇山日出臣」というのはエディターネームで、作家・島田荘司が命名したのだそうです。
宇山の有名なエピソードといえば、中井秀夫の『虚無への供物』を文庫化するために講談社に入社したという話。1974年に『虚無への供物』を刊行後、長きにわたってミステリーの編集に従事します。世に送り出した作家は、綾辻行人、法月綸太郎、我孫子武丸、摩耶雄高など…新本格の作家といえば名前が浮かぶ、著名な方々ばかりです。
1996年にメフィスト賞を設立したのも宇山です。メフィスト賞も数々の著名な作家が受賞しています。ちなみに、当時、応募先がなかったために、京極夏彦が原稿を持ち込んだことが、メフィスト賞の設立につながったそうです。
さらに、「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」レーベル「ミステリーランド」を世に送り出します。2003年から刊行され、2006年の宇山逝去後も継続され、シリーズは2016年に全30冊で完結しました。当館はこのシリーズの資料を所蔵していますが、蔵書検索で「書名:ミステリーランド 出版社:講談社」で検索していただけると、錚々たる作家が執筆していることを実感できます。
この追悼文集には、実に53名の追悼文、そのほか編集者や作家による座談会、宇山のエッセイなどを収録しています。追悼文では、お酒が大好きなこと、オペラが好きなこと、細かいチェックが入って返ってくる原稿など、興味深い話がたくさんあります。
そして、宇山に励まされたこと、お酒が好きなのをわかっていても体調を思って諫めなくてはいけなかったことなど、故人を思い出して寂しさが滲む文面に触れると、とても愛された方だったのだと感じます。
現在活躍されている多くの作家にとっての、宇山という編集者の存在を垣間見ることができる資料です。(文中敬称略)

参考:
・『出版文化人物事典:江戸から近現代・出版人1600人』(稲岡勝/監修 日外アソシエーツ 2013.6)【023/356N/(2)】p.62「宇山日出臣」
・『日本ミステリー事典(新潮選書)』(権田万治/監修 新潮社 2000.2)【910.33/1NX/】

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