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本蔵-知る司書ぞ知る(99号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2023年1月20日版

今月のトピック 【とんち・クイズ】

1月9日は「一休さん」の語呂合わせで、「とんちの日」「クイズの日」とされています。「とんち」(頓知/頓智)とは、「その場に応じて即座に出る知恵」という意味。一休さんの説話から、現代の大喜利に至るまで、古来日本人が愛してきた「ひらめき」の文化を楽しんでみませんか?今回は、とんち・クイズにまつわる本を3冊紹介します。

一休ばなし:とんち小僧の来歴 (セミナー<原典を読む>)』(岡雅彦/著 国文学研究資料館/編 平凡社 1995.9)

「屏風の虎退治」「このはし渡るべからず」などのとんち話で有名な一休さん。室町時代に実在した禅僧の一休宗純が後の時代にどのような形で伝えられていったかを読み解きます。一休さんの伝承が広がるのに一役買ったのが、江戸時代に書かれた『一休ばなし』などの説話集です。明治時代になっても一休さんの説話集はくり返し出版され、当時の講談師によって「虎退治」などの新話も作られました。各時代で尊敬され親しまれた一休さんの姿が、原典を辿りながら描き出されています。

「とんち教室」の時代:ラジオを囲んで日本中が笑った 増補版』(青木一雄/著 展望社 2010.3)

終戦後の昭和23年から高度経済成長期の昭和43年まで、20年にわたって放送されたNHKのラジオ番組「とんち教室」をご存じですか?先生役の司会が出したお題に、生徒役の俳優・漫画家・囃家などが考えて回答する形式の人気番組でした。例えば、「子どもの喧嘩」とかけて「ヤミで買った羅紗」と解く、その心は…「思ったよりケガ(怪我/毛が)少ない」。闇市で質の良くない衣類を売買していた当時の状況が伺えます。本書にはこのような問答がたくさん収録されています。回答を読んでクスッと笑いながら、当時の日本に思いをはせてみるのはいかがでしょうか。

クイズ化するテレビ (青弓社ライブラリー)』(黄菊英・長谷正人・太田省一/著 青弓社 2014.7)

テレビでは多くのクイズ番組が放送されており、他のジャンルの番組でも、ニュースの「めくりフリップ」やCM前の「この後何が起こるか」というテロップのように、クイズの形式が様々に取り入れられています。クイズ形式が持つ意味を解き明かすため、著者は「啓蒙」、「娯楽」、「見せ物化(回答者をキャラクター化したり、情報をショー化する)」という3つの側面に注目します。いつもは何気なく見ているテレビですが、本書を読んだ後に見返すと、そこに潜むクイズ要素に気が付くかもしれません。

今月の蔵出し

破れ星、流れた』(倉本聰/著 幻冬舎 2022.6)​

著者の倉本聰さんは、長年北海道富良野市に居住されています。「うちのホンカン」「北の国から」「昨日、悲別で」「優しい時間」「風のガーデン」等の北海道内を舞台にしたドラマを多数制作され、富良野塾を主宰し多くの俳優と脚本家を養成されてきたこともあり、名前を聞けば北海道をイメージされる方も多いかと思います。

この本は倉本さんの自伝エッセイですが、北海道での暮らしはまったく触れられていません。東京で生まれた幼少期の頃から、シナリオの道で生きていこうと決めて勤務していたニッポン放送を退社するまでが描かれています。

戦前、戦中期に過ごした幼少期における、環境が激変する中での父親を始めとする家族とのつながり、映画や演劇に熱中しシナリオの勉強に打ち込んだ学生時代、ラジオドラマの制作で悪戦苦闘しながらも実力をつけていったニッポン放送時代、どの時期も稀有な経験が数多く綴られており、興味深く読み進めることができました。

この本を読めば、多くの人々の心に感動を与えたドラマが生みだされた理由の一端に触れることができるのではないでしょうか。

【Karma!】

わたしたちの登る丘(文春文庫)』(アマンダ・ゴーマン/著  鴻巣/友季子/訳 文藝春秋 2022.5)​

ちょうど2年前の2021年1月20日、アメリカ合衆国・バイデン大統領の就任式で朗誦され、発表直後から私訳・試訳が多数生まれた、若き詩人の詩。版権を得た日本語版は、表紙から開くと縦書き日本語訳を、裏表紙から開くと横書き見開き対照の英語原文と日本語訳を読むことができます。

解説対談では、就任式という祝いの場でありながら、絶望に満ちた陰鬱な表現から始まる背景や、「武器のarmが腕のarmsに」「傷つけるharmが調和のharmonyに」など、綴りが重なる日常的な言葉を並べて、みごとに絶望から希望へと転じていく「まるで魔法を見て聴いているよう」な技巧も語られます。報道の見出しにもさかんに引用された「“just is” Isn’t always justice.」部分の表記のエピソードなど、読みどころ満載の解説です。

現実に正義がないなら、放置するか改善するかは自分たち次第、よりよい世界を次世代に渡そう、と語るZ世代の詩。この詩には、単純な善悪判定や、むやみに勇ましいだけの励ましはなく、抑圧され無名のままに世を去った無数の先人への敬意や労りも感じられ、疲れ果てた人々にもやさしく響くことでしょう。

また訳者解説では、言葉の選択に留まらず、各国語版の翻訳者選定をめぐる「代弁者の資格」の課題など、より深く広く、世界の複雑さについて言及があります。

薄い文庫版に、読み応えのある内容がぎゅっと詰まった1冊です。

【笑門来福】


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