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本蔵-知る司書ぞ知る(96号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2022年10月20日版

今月のトピック 【住まい】

毎年10月は住生活月間です。これにちなみ当館では展示「住まい ここかしこ」を10月30日まで開催中です。今回はその展示資料の中から3点をご紹介します。

世界の居住文化百科:ビジュアル版』(ジョン・メイ/著 藤井明/日本語版監修 本間健太郎/訳 柊風舎 2013.6)

世界のヴァナキュラー(その風土特有のという意)な建築を紹介した本で、地元の材料を使い伝統的な手法で建てられた住居が掲載されています。ヤナギの壁に羊毛のフェルトをかぶせたモンゴルのゲル、火山の堆積物でできたカッパドキアの洞窟住居など、各地様々で興味深いです。住居ではありませんが、リサイクル材料の建築、タイのワット・パ・マハー・チェディー・ケーウという寺院は100万本のビール瓶でできていて、ハイネケンの緑色と地元のチャーンビールの茶色のボトルでつくった模様が美しいです。

消えゆく同潤会アパートメント:同潤会が描いた都市の住まい・江戸川アパートメント(らんぷの本)』(橋本文隆/編 内田青蔵/編 大月敏雄/編 兼平雄樹/写真 河出書房新社 2003.12)

関東大震災復興支援のために設立された同潤会によって、大正末から昭和初めに建てられた16の同潤会アパートメント。耐震耐火性の高い鉄筋コンクリート造、水道・電気・ガスの設備、各戸に備えられた水洗トイレ、和洋の生活様式を選択できるなど、当時においてたいへんモダンな集合住宅でした。本書では昭和9年に完成した江戸川アパートメントを、この建物で生まれ育った筆者が紹介しています。和洋、家族・単身向の各戸、中庭、浴場、食堂、社交室…当時の写真とエピソードを交えた文章からは住人の暮らしぶりがうかがえます。

日本の名作住宅の間取り図鑑:住まいの歴史がマルわかり』(大井隆弘/著 エクスナレッジ 2019.3)

江戸から昭和にかけての日本の「名作住宅」を間取り図とともに紹介しています。現在も見学できる住宅が多くあり、訪れたことがある場所は再発見があり、読後に訪れる場所はより理解が深まります。昭和7年に建てられた寺西家阿倍野長屋は現在飲食店として利用されています。以前に訪れた際は登録有形文化財であることを知らずに食事するのみでしたが、次回は本書の間取り図や解説をもとにじっくり見学したいと思います。

今月の蔵出し

マリス博士の奇想天外な人生(ハヤカワ文庫 NF)​』(キャリー・マリス/著 福岡伸一/訳 早川書房 2004.4)

​PCR検査のPCRって何の略?1983年にPCR(polymerase chain reaction=ポリメラーゼ連鎖反応)法を開発したのはキャリー・マリス博士。この方法で狙ったDNAの断片を大量に複製できるようになったことで、遺伝子研究をはじめ幅広い分野に大きな進展をもたらし、1993年ノーベル化学賞、日本国際賞を受賞しました。

そのいきさつを含め数々の奔放なエピソードが綴られた自伝が『マリス博士の奇想天外な人生』です。いささか狙いすぎなタイトルですが、マリス博士は奇行で名を馳せた人物であったらしく「ほとんどの噂が大筋で本当」(訳者あとがきより)とのこと。

しかし、本書の注目点はむしろ日本語訳のなめらかさにあります。内容の突飛さ、自由なキャラクターを面白おかしく煽り立てるような文体ではなく、いたって平熱を保つので、1人称によって半ば博士とシンクロしている読者には「誠実でまっとうな考えの人物なのでは」と思えてくるという逆転現象さえ起こってきます。黒子のようでいて、その気になれば自称(私・オレ)や語尾(だよ・だぜ)の置き方などで人物像・世界観をいかようにもできる翻訳者は、読者にとって陰の著者とも言えるでしょう。

マリス博士にまつわる「噂」については、初読の楽しみのために残しておきたいと思います。ただ、自由奔放な自伝の終わりは、なんとも柔らかな着地でありました。単行本の後に刊行された文庫版には「訳者による著者インタビュー」が収録されています。生き生きとしたやりとりの中で、次なる発明の内容が披露されています。いずれか形になり、世界のどこかで使われているのでしょうか。

最後まで夢うつつにマリス博士の視点に浸らせてくれた翻訳者は福岡伸一氏。著書『生物と無生物のあいだ』『動的平衡』で広く知られるようになるのは数年後のことです。

【狼】

少年が来る(新しい韓国の文学15)』(ハン・ガン/著 井出俊作/訳 クオン 2016.10)

アンニョンハセヨ!今回は韓国の小説を紹介します。

私はなぜかタイトルだけで勝手に「魔太郎がくる!!」的なイメージを持ち、「あれ?(想像してたんと違う……)」と思いながら、最後まで少しずつゴリゴリ読み進めました。(読むたびに胸が苦しくなって一気に読めなかったんです!)

この小説は、1980年に韓国の光州で起きた光州事件を扱っています。光州事件では、多くの市民が軍によって殺されました。ストーリーは章ごとに語り手が変わる形式で進み、様々な立場の人が(中には死んだ少年が)語っている章もあります。ドラマチックではなく淡々と語られる文章が心にポツポツと届き、リアルな感覚を生み出します。

読み終わった後は大きなショックで胸がいっぱいになり、小説のパワーに圧倒されてしばらく呆然としていました。

私は韓国の料理や化粧品、アイドルのBTSが好きなのですが、その繋がりで韓国の小説を読み始めました。そして、韓国の歴史や社会問題を少しずつ知る中で韓国の見方も変わり、同時に自分が暮らす日本のことも一層いろんな角度から考えるようになりました。

韓国の小説は、読みごたえのあるものや、自由で明るいSF、気持ちが軽くなるものなど、他にもたくさん面白い作品が翻訳されています。ぜひ読んでみてください。アンニョン~

【キムパちゃん】


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