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本蔵-知る司書ぞ知る(92号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2022年6月20日版

今月のトピック 【虫×別分野】

6月4日は、6(ム)4(シ)の日なので「虫の日」です。虫は嫌い、という方も多いと思いますが、今回はそんな虫嫌いの方にも興味を持ってもらえるよう、虫とは全く関係なさそうな検死、文化人類学、コンピュータの分野から3冊、虫の本を紹介します。

虫から死亡推定時刻はわかるのか?:法昆虫学の話』(三枝聖/著 築地書館 2018.7)

タイトルにある法昆虫学とは、「調査・捜査に利用するために、昆虫について研究する分野」のこと。例えば主に死体についたウジによる死後経過時間の推定、などがこれに当たります。本書は、そんな法昆虫学の学者である著者が、検視現場での実体験や死亡時刻を割り出す方法などを書いた本。死体と虫を扱った本ではありますが、グロい写真などは一切ないので、ミステリーの推理を聞いている気分で気楽に読むことができます。

大衆文化のなかの虫たち:文化昆虫学入門』(保科英人/著 宮ノ下明大/著 論創社 2019.12)

日本のアニメやゲームではなぜ真夏にホタルが飛ぶのか、テントウムシをデザインした商品はなぜ多いのか。本書は、そんな現代大衆文化に取り込まれた虫について書かれた本。サブカルチャーを中心として幅広いジャンルに登場する虫について考察しています。「仮面ライダー」のような誰でも知っているような作品から、「ぼくのなつやすみ」のような少しマニアックな作品まで様々なタイトルが登場するので、自分の知っているタイトルが登場しないか、ワクワクしながら読める一冊です。

昆虫の脳をつくる:君のパソコンに脳をつくってみよう』(神崎亮平/編著 朝倉書店 2018.4)

昆虫の脳をコンピュータ上でシミュレーションして再現する。そんなSF世界のようなことを現実でやってみよう、というのが本書。実験を紹介するだけでなく、読者が自前のパソコンで昆虫の脳を再現する手順も解説しています。また他にも、機械にカイコガを部品として組み込んだ、いわゆる「サイボーグ昆虫」を作成し、カイコガの脳の仕組みを調べる実験なども紹介されています。

今月の蔵出し

熊野御幸』(神坂次郎/著 新潮社 1992.2)

​鎌倉時代前期の歌人として名高い藤原定家は、建仁元(1201)年、後鳥羽院の熊野御幸に随伴し、その一部始終を自身の日記『明月記』に記しました。この本は、定家の目から見た熊野御幸を通して熊野を紹介した本です。

私はその昔、大学の卒論の調査のため、この時代を代表する日記のひとつである『明月記』を読みました。当時の日記は、個人的なものではなく、政治や儀式の詳細を書き留めて子孫に伝えるためのものですが、『明月記』は、他の日記とは少し違います。体調が悪いとか、昇進が叶わない不満、貧乏の嘆き、さらには人の悪口まで、不平不満が書き込まれていて、読んでいてとても面白い日記です。

中でも、印象的なのは、京から往復3週間もかかる熊野御幸に随伴したときの場面です。改めてこの作品と『明月記』を見比べると、この作品が、『明月記』の記述に忠実に沿いながら、作家ならではの豊かな想像で肉付けし、また他の記録や伝承を交え、定家の旅をいきいきと描き出していることが分かります。

当時、定家は歌人としてはすでに名声がありましたが、官人としては中級でした。後鳥羽院らの本隊に先立ち、先鋒として王子を廻り、儀式や宿所の手配をします。しかも寝るのは粗末な土間の仮屋。病弱な定家は山の寒気に触れ、途中から咳病、腹痛を発し、青息吐息になります。ある時は寝坊し、またある時は訪れた家で喪中のけがれに触れ、慌てて水垢離(みずごり)をする始末。峻険な山道に息も絶え絶えの中、夜には後鳥羽院に呼び出され、和歌の会の講師を勤めます。

苦難の旅ですが、芸術家肌で世事には疎い定家が一生懸命に奔走する姿に、親しみを覚えます。また後鳥羽院のパワフルなことにも驚かされます。この時、後鳥羽院21歳、定家40歳。

和歌山出身で、熊野にも造詣の深い著者ならではの作品です。当地に伝わる信仰や伝承もふんだんに盛り込まれ、その神秘に触れることもできます。

【ハチ公】

脳には妙なクセがある』 (池谷裕二/著 扶桑社 2012.8)

脳に関する様々な興味深いトピックが紹介されている本であり、様々な論文や実験結果をわかりやすく説明してくれることで、脳に関する興味をかきたててくれる1冊です。

本書の「はじめに」に記載の著者の言葉によると、本書の「バックボーン」となるトピックは、「脳は妙に笑顔を作る」「脳は妙に不自由が心地よい」「脳は妙に使い回す」の3つです。これら3つのトピックを通じて、著者は、心は脳だけにあるのではなく、身体や環境に大きく影響されており、脳だけを使うのではなく身体運動も用いることで、脳のニューロンがより強く働くとして、身体が脳に与える影響の重要性を強調しています。例えば、笑顔に似た表情を作ると、快楽に関係したドーパミン系の神経活動が変化するという論文内容を紹介し、楽しいから笑顔を作るというより、笑顔を作ると楽しくなるという脳の働きが紹介されています。また、「恐怖」や「嫌悪」の表情を作ることで、「恐怖」や「嫌悪」への準備を脳が始めるということが紹介されています。このような、顔の表情が本人の精神や身体の状態にも影響を与えるという説の他、姿勢を正すことで自己評価(自分への確信度)が高まるという実験データなども紹介されています。

著者は、「脳科学の視点から見て、『よりよく生きるとは何か』を考えること」をアウトリーチ活動のテーマとしており、「楽しくごきげんに生きる」という目標を達成するために脳科学の成果が活きることに幸せを感じるそうです。そのようなスタンスで書かれているためか、上記3つ以外のトピックも「脳は妙に幸せになる」など幸せに関するトピックや、「脳は妙にゲームにはまる」「脳は妙に恋し愛する」など雑学として楽しめるトピックもたくさん紹介されています。目次をご覧になり、気になったトピックを読むだけでも知的好奇心が満たされ、楽しめる本だと思います。

【Poco】


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