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本蔵-知る司書ぞ知る(89号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2022年3月20日版

今月のトピック 【源平合戦の時代】

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、テレビアニメ「平家物語」など、治承・寿永の乱、俗にいう源平合戦の時代を舞台とする番組が話題です。この6年にわたって繰り広げられたいくさの日々を滅びゆく平家一門の姿とともに哀切に描いた『平家物語』は、琵琶法師の語りによって文字を読めない人々にも広く流布し、様々な物語に形を変えながら現在に至るまで愛され続けています。今回は、源平合戦や平家の人々について書かれた資料をご紹介します。

平家物語絵巻』(林原美術館/編著 クレオ 1994.5)

源平合戦を描いた絵巻は室町時代にはすでに存在していたようですが、ほとんど残されていません。乱世における戦いの記憶を後世に伝える合戦図は平和な世が続いた江戸時代に多く作られました。本書も江戸時代前期に描かれ越前松平家に伝わった平家物語絵巻です。36巻全巻揃った貴重な絵巻の中から83場面を選び『平家物語』の筋をわかりやすく紹介しています。同絵巻の舞台をたどる『平家物語絵巻紀行:林原美術館所蔵』もあわせてどうぞ。

源平合戦の虚像を剥ぐ : 治承・寿永内乱史研究 (講談社選書メチエ72)』(川合康/著 講談社 1996.4)

私たちは無意識に、都で貴族的な生活を送った平家の人々を「武者」とは呼ばず「公達」と呼び、荒々しい坂東武者に対して、平家はどこか文弱なイメージを持っています。このイメージは果たして本当だったのでしょうか。著者は、『吾妻鏡』などの記録、各種史料、そして『平家物語』の諸本の合戦記述を精査し、源平合戦や当時の武士たちの実態を浮き彫りにしていきます。『平家物語』によって作り出された源平合戦の時代の一元的なイメージを覆してくれる一冊です。

平家公達草紙 : 『平家物語』読者が創った美しき貴公子たちの物語』(櫻井陽子・鈴木裕子・渡邉裕美子/著 笠間書院 2017.2)

昨日まで栄華を極めていた人々が見る間に滅びていく諸行無常の時代。『平家物語』や源義経の北行伝説のように、非業の最期を迎えた人々を悼み、多彩な物語が紡ぎ出されました。鎌倉時代に書かれた『平家公達草紙』は平重盛や平重衡ら、平家の若き公達の在りし日々を描いた回想録です。作者は諸説ありますが、おそらく平家に近しい人物の手になる登場人物たちは、『平家物語』で描かれる傲慢な権力者や合戦の敗者としての平家一門ではなく、その時代を生きた等身大の貴族の青年たちの姿を見せてくれます。

今月の蔵出し

国史大辞典を予約した人々: 百年の星霜を経た本をめぐる物語』(佐滝剛弘/著 勁草書房 2013.6)

歴史について調べ物をしたことがある方の多くは、吉川弘文館発行の『国史大辞典』*を使った経験をお持ちのことでしょう。15巻全17冊で約54000項目を収録する国内最大の歴史辞典です。現在多くの図書館で自由に手に取ることができるように書架に並べられている全15巻物は、1979年から約20年に亘って発行されたものですが、1908(明治41)年発行の初版は「本編」*と「挿絵及年表」*の2巻物でした。

この初版発行の前年に作成され、辞典の予約者に配付されたと思われる『国史大辞典予約者芳名録』を、たまたま宿の女将から見せられた佐滝剛弘氏が本書『国史大辞典を予約した人々』を著わしています。『国史大辞典』は当時、教員の初任給ひと月分ほどの高価なものであったらしいが、予約者芳名録には9000件近い名前が記載されており、佐滝氏はそれらの個人や組織について調査し、その人となりや成り立ちを丁寧に紹介しています。

個人では、与謝野晶子、高村光雲、柳田国男、折口信夫、伊藤左千夫、佐々木信綱、新村出、大槻文彦、諸橋轍次、金田一京助といった錚々たる人物が名を連ねています。

組織では、各種教育機関、商店、企業、官公庁、神社・仏閣、図書館等さまざまあり、著者はその多くを訪ね歩いています。その図書館のうちの一館として、「大阪・中之島に今も建設当時のまま重厚なネオバロック様式のたたずまいを見せる大阪府立中之島図書館が、芳名録に載る府立大阪図書館である(現在、府立中央図書館は、東大阪市にある)。」と中之島図書館が紹介され、当館のことにも言及されています。

府立図書館で明治41年の受入印が押された初版の『国史大辞典』は、中之島図書館から移され、現在は当館の地下書庫に収蔵されています。15巻物の『国史大辞典』にしか馴染みがない方も、一度手に取ってみられてはいかがでしょうか。

*の資料は館内利用のみです。

【天野】

うちのネコ、ボクの目玉を食べちゃうの?:お答えします!みんなが知りたい死体のコト』(ケイトリン・ドーティ/著 化学同人 2021.8

子どもたちから寄せられた死についての質問に対して、作家兼葬儀屋がユーモアたっぷりに丁寧に回答していきます。子どもたちからの質問は意表をつくものばかり。「棺に入れられた髪の毛は伸びるの?」「はちみつを使えば死体の腐敗は防げるの?」「虫は何で人間の骨まで食べないの?」「ミイラに包帯を巻くときって臭かった?」等。

自分が死んだら飼い猫は自分を食べるのかの質問については、猫はエサをくれる飼い主との関係をしばらくは守って襲ったりはしないけれど、飼い犬は飼い主が動かなくなると不安になって、起こそうと噛みついてくる事例があるそうです。

巻末の著者と医師との談話で、死に怯える子どもの話がでてきますが、私も5歳ぐらいのときに、親族の葬儀に立ち会い、そこで人が亡くなったら火葬するということを初めて知り、非常に驚きました。「死んだら焼かれる」と、しばらくは寝る前にそのことばかり考えてなかなか寝られませんでした。

著者は子どもが死について怖がるのは自然なこと、具体的に説明したほうが死に対する子どもたちの恐怖は和らぎやすいと述べています。死についての興味深いエピソードを読んでいくと、ただ死が怖いというだけの気持ちから、もっと知りたいという思いが生じました。随所にある、味のあるイラストも素敵です。

【くるくる】


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