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本蔵-知る司書ぞ知る(86号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2021年12月20日版

今月のトピック 【柳宗理とプロダクトデザイン】

今年の12月25日はプロダクトデザイナー柳宗理(やなぎ そうり/むねみち)の没後10年の日にあたります。柳はバタフライスツールのデザイナーとして知られていますが、器や鍋などの家庭用品から、オリンピックの聖火台や高速道路の防音壁などの公共建造物にいたるまで幅広いデザインを手がけました。今回のトピックでは柳宗理とプロダクトデザインに関する本をご紹介します。

Yanagi Design:Sori Yanagi and Yanagi Design Institute』(柳工業デザイン研究会/編 平凡社 2008.8)

柳宗理とそのデザイン事務所「柳工業デザイン研究会」の仕事をまとめた本です。代表作や制作現場などの写真550点、「デザイン考」「アノニマス・デザイン」などの柳の文章を収録しています。本書掲載の寄稿文の中には、日常で慣れ親しんだ道具を集めた「Super Normal」という展覧会に訪れた柳が、自身のデザインしたステンレスボールを見て「これは誰の作品ですか?」と尋ねたという興味深いエピソードも綴られています。

天童木工(家具の教科書シリーズ)』(菅澤光政/著 美術出版社 2008.4)

柳は「デザイン考」の中で「デザイナーには特に技術者の協力が必要である」と述べています。天童木工は山形県の家具メーカーで、柳をはじめとした多くのデザイナーや建築家と協働して数々の名作家具を世に出してきました。本書はその歴史と名仕事を紹介しています。バタフライスツールが畳での生活を考えて畳を傷つけないようにデザインされたこと、1978年に柳がデザインしたひじ掛け椅子*はコストが合わず商品化に繋がらなかったことなど、家具誕生の背景が綴られています。

*この椅子は2007年に飛騨産業がヤナギチェアとして復刻し、『飛騨スタイル:日本の暮らしのいいカタチ』で紹介しています。

500プロダクトデザイン傑作集』(ファイドン 2013.11)

機能性と美しさを兼ね備えた500の製品を写真と文章で紹介しています。柳がデザインしたスツールやボールなども掲載されていますが、有名なデザイナーの製品だけでなく、洗濯ばさみやキーホルダー、牛乳瓶といった作者不詳の日用品も掲載されています。柳は「アノニマス・デザイン」という言葉(デザイナーがタッチしていない、純粋に用途のみを考慮した製品という意)をしばしば用いていましたが、そんなアノニマスな美しいものをあらためて教えてくれる一冊でもあります。

今月の蔵出し

わたしはだれ?』(ノーブスミー/さく・え 出版ワークス 2020.12)

みなさんは、「SDGs」という言葉を知っていますか。SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略です。地球規模の様々な問題を解決してより良い世界にするための17個の目標(ゴール)と169個の具体的目標(ターゲット)があり、2030年までの達成目標として、2015年に国際連合で定められました。近頃は、新聞やニュースで頻繁に取り上げられるようになり、聞いたことがあるという人も多いでしょう。図書館においても、SDGsに関する図書を借りて帰る人をよく見かけるようになりました。

本書は、そんなSDGsをテーマにした絵本でありつつも、「SDGsとはこういうものだ」という具体的な知識の説明はありません。書名のとおり、「わたしはだれ?」という問いの文に対して、「あなたは○○」というやりとりが続きます。そこでは、地球の様々な美しい自然が描写されますが、それだけではなく、「あなたはかなしみのまち」「あなたはなげきのうみ」と、地球が直面する問題についても描写されています。
著者はメルヘンチックな表現が得意で、とても可愛らしい絵を楽しく見ることができます。一方、多くは語らない文は、私たちに、今の、そしてこれからの地球について現実的な問題としてしっかり考えさせるようになっていると思います。

なお、本書は日本語と英語が併記されており、多くの人が一緒に読んで楽しみ、そして考えることができます。みなさんも、ぜひ、本書を読んで地球のことを考え、話し合ってみてはいかがでしょうか。

「わたしはだれ?」という問いに、みなさんなら、どのような地球を思い浮かべますか。

【善哉】

サムライブルーの料理人:サッカー日本代表専属シェフの戦い』(西芳照/著  白水社 2011.5)

著者の西芳照さんは、サッカー日本代表の海外遠征に帯同するシェフです。この本は、2004年ワールドカップドイツ大会アジア地区予選から2011年アジアカップ優勝までの間の舞台裏を、「食」の面から描いたドキュメントです。私はサッカーのことは全くわからないのですが、食べることにはとても興味があるのでタイトルにひかれて読みました。

帯同シェフの役割は、選手が万全のコンディションで試合に出られるよう、選手の「食」を支えることです。食材の調達から運搬、厨房の衛生管理の徹底、現地厨房スタッフとの調整など、その仕事は多岐にわたります。栄養学的に優れた食事を提供するだけでなく、選手が食欲を落とさないように、そして何よりも、食事を楽しめるように様々な工夫をこらします。

W杯南アフリカ大会へ向けた準備では、標高の高い土地でおいしいごはんを炊くための情報収集をします。「普通の炊飯器で炊いている」という現地からの情報があったものの、西さんは情報収集を続け、そして見つけたひとつの情報を参考にして独自に準備をします。西さんの誠実さ、仕事への真摯さが伝わるとともに、情報に携わる仕事をしている私にとっては、情報の重要性を改めて認識させられたエピソードでした。

また、この本ではシェフ以外の帯同スタッフの仕事も紹介されています。サッカー日本代表の活躍の背景には、これほどまでに多くの人たちのきめ細かな仕事があるのだと感じ入りました。

西さんの視点から、厳しい勝負の世界で戦う選手の精神的な強さが垣間見られる一方、「食」を通じた選手たちの交流や、選手の西さんへの気遣い、人気メニューのラーメンを前にした選手と監督が見せるそれぞれの個性などのエピソードが印象に残ります。まさに「『食』は人を良くする」。サッカーに詳しくない方にも楽しんでいただけると思います。

【オフサイドがわからない】


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