本蔵-知る司書ぞ知る(82号)
本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。
2021年8月20日版
今月のトピック 【宿】
8月10日は「宿の日」です。それにちなみ、当館では8月31日まで展示「宿をめぐる」を開催しています。今回は展示資料の中から以下の3点をご紹介します。
『ホテル博物誌』(富田昭次/著 青弓社 2012.4)
ある時は芸術家の安らぎの場。またある時は歴史的事件の舞台。長い歴史の中で、ホテルは様々な役割を果たしてきました。本書は「文学」「映画」「ホテルライフ」などをキーワードにホテルにまつわる数々の逸話を収録しています。今まで知らなかったホテルの魅力に気づかされる一冊です。
『可笑しなホテル:世界のとっておきホテル24軒』(ベティーナ・コバレブスキー/著 松井貴子/訳 二見書房 2011.6)
氷で作られたホテルに運河を漂うカプセルホテル、はたまたパイナップルそっくりの宿・・・。地下洞窟から樹上まで、あらゆる場所にある可笑しなホテルが紹介されています。
どのホテルも見た目はもちろんのこと、オーナーがホテルを建てた理由が興味深く、頁をめくる手が止まりませんでした。
『野宿入門:ちょっと自由になる生き方』(かとうちあき/著 草思社 2010.10)
高校生のときから野宿が趣味の著者が、おすすめの野宿グッズや場所選びのコツなどについて、自身の体験談を交えながら解説しています。野宿の知識だけでなく、野宿中に出会った人々とのやりとりや、大人になってからの母との野宿など面白い話が満載なので、野宿をしない方でも楽しめる一冊です。
今月の蔵出し
『革命前夜』(須賀しのぶ/著 文藝春秋 2015.3)
昭和から平成に時代が変わるころ、東ドイツの音楽大学に留学する23歳の日本人ピアニストの主人公が、音楽に悩み、人間関係に苦しみ、悩んでいることにも悩みます。音楽だけに限らず、なにかを生み出すときには、悩みや痛み、苦しみが伴うことを改めて思い出させる作品です。
作品中にはクラシック音楽が何曲か登場します。曲がどんな曲かを知らなくてもなんとなく話の内容から、こんな感じの音楽なのだろうと想像しながら作品を楽しむこともできますが、インターネットで検索すればすぐに聴くことのできる曲ばかりですので、曲を聴きながら作品をお楽しみください。作品中の音楽を聴いたことがある、場所にいったことがある、景色を見たことある、それだけで読み方に大きな違いが出てくる経験はおありだと思います。4月から乗り始めた近鉄けいはんな線のホームで流れる音楽が、ミレシラシレミレシレと聞こえる私が、皆さんと見る世界、聞こえる世界が違うように、知っていると知らないでは大きな違いです。
【n.you】
『アレフ(岩波文庫)』(J.L.ボルヘス/作 鼓直/訳 岩波書店 2017.2)
本書の作者ボルヘスは、無限や永遠といった途方もない概念を小説にするのが非常に上手な作家です。別な作品集である『伝奇集』に収録されている「記憶の人フネス」という作品では、完璧で無限大の記憶力を持った人間の常人離れした思考を描き、「バベルの図書館」という作品では、無限の文字の組み合わせによって過去現在未来に存在する全ての本を所蔵する図書館を創造しました。
本書、『アレフ』には、ボルヘスの作品の中で私の一等好きな作品である「不死の人」が収録されています。この作品、ストーリーは不死になってしまった男が紆余曲折を経て不死を失って普通の人間になる、という割とよくある話です。しかしその不死を失う理由がボルヘスらしく、曰く、
「その水が不死を授ける川がここにある。どこかに、その水が不死を洗いさる川があるだろう」
怪奇小説好きの方、ちょっと変わった小説が好きな方ならきっと楽しめる作品ですので、ぜひ一度、手にとってみてください。
【てむじん】