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本蔵-知る司書ぞ知る(81号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2021年7月20日版

今月のトピック 【特撮をみつめる視線】

本年2021年は、特撮の神様円谷英二生誕120周年、ウルトラマン放送開始55周年、そして仮面ライダー放送開始50周年という記念の年です。当館では特撮本の展示「シン・トクサツ」を開催しています。今回はその中から、様々な視点で特撮をみつめた本を3点紹介します。

ずっと怪獣が好きだった:造型師が語るゴジラの50年』(品田冬樹/著 岩波書店 2005.3)

怪獣造型師である著者が、ゴジラの下あごの可動域の問題といった造型師ならではの話や、時代の変化とともに特撮がどう変わっていったのかなど、特撮について幅広く論じた本です。中でも「ゴジラVSビオランテ」の制作現場についての対談では、撮影が始まってもまだビオランテのデザインが決まっていなかった、などの思わずニヤリとしてしまうような裏話、苦労話が満載です。

バルタン星人はなぜ美しいか:形態学的怪獣論<ウルトラ>編』(小林晋一郎/著 朝日ソノラマ 2003.12)

怪獣の造形美について熱く語る本書。タイトルにあるバルタン星人はもちろん、「ウルトラQ」のカネゴンや「ウルトラマンティガ」のキリエロイドなど、昭和から平成にかけて幅広い年代の作品から怪獣、宇宙人を取り上げ、その造形の素晴らしさを語りつくします。読後におなじみの怪獣や宇宙人を改めて見直してみれば、まるで芸術作品を眺めているような気分になることでしょう。

ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた (新潮文庫)』(青山通/著 新潮社 2020.3)

「ウルトラセブン」の最終話「史上最大の侵略」で使用されたシューマンのピアノ協奏曲。その演出と演奏に衝撃を受けた著者が、長年に亘って同じ演奏のレコードを探し求めた記録が中心の本ですが、個人的にオススメしたいのは、第2章の「ウルトラセブン 音楽からみたオススメ作品」。ストーリーの概要とその話のどの場面で、どんな音楽がどのように使われていたかが解説されていて、読めば「ウルトラセブン」をもう一度見て確かめたくなること請け合いです。

今月の蔵出し

ビッグ・オーとの出会い』(シェル・シルヴァスタイン/著 倉橋由美子/訳 講談社 1982.7)

ちょっとぐらいの汚れ物がどの程度の汚れなのか気になっておられる全国数千万人の「ミスチルファン」の皆様はじめまして。

そんな皆様ならYouTubeで公開されているMr.Childrenの「常套句」のMV(ミュージックビデオ)に、印象的なアニメーションが使われていることはご存じかと思います。
好きな人に常套句(よくある言葉)を話しかけようとしているが、もう狂おしいほどの熱い思いが裏側に込められているラヴソング。あぁ愛情表現に雛形はないのよね。赤面するほどに愛を叫び、切ないミスチルサウンドとあいまって半崎信朗が作成した不思議の日が沈んだ世界のような映像に引き込まれてしまいます。

そのシンプルでありながらも、インパクトのある映像を見ると、シェル・シルヴァスタインの絵本を思い出してしまいます。描かれない鼻、点にしてあるいは短い線で描いた目、そして単純な円い輪郭のみで身体は描かないという登場(人物?)が共通点です。

ぼくを探しに』は、ぼくがかけらをなくし、足りないかけらを探しに行く話。そして『ビッグ・オーとの出会い』は、その続編でかけらのほうが主人公。
かけらは、自分がぴったり入るやつが来てどこかへ連れて行ってくれないかと待っている。いろいろなやつがやってくるけれど、結局ちょうど合うやつとは出会えない。ある日、ビッグ・オーが現れ「君一人なら、転がっていけるかもしれない」というが、かけらは「一人で転がれない」と答える。ビッグ・オーに「やってみたことあるの?」と言われ、かけらは気がついて…。
2019年7月には『はぐれくん、おおきなマルにであう』のタイトルで村上春樹の翻訳で再刊されました。

思い込みのせい、いくつになっても人はバイアスに左右されてしまうもの。この本は、自発的な人生への転換やおひとりさま礼賛という、かけらからの目線だけでなく、こどもの巣立ちや仲間の背中を押すというビッグ・オーからの目線で読むこともできます。いろいろな受け取り方ができて、どの世代もなかなかはまってしまう作品です。「あぁ誰かのビッグ・オーになれているのかしら」と、遠くを見てしまう私…。

シルヴァスタインはシンガーソングライターでもあり、半崎信朗は絵本作家でもあります。そんなところが両者を連想させるポイントなのかもしれません。

「常套句」のMVで主人公がばらばらになって空から降る、一番最後のシーン。このかけら達もすっくと立ちあがり、ついには自分で転がって、「はっぴいえんど」を手に入れてくれるはずと中央図書館のある司書は妄想に耽ってしまうのでした。

もう気が付いてますよね。ペンネームの通り、この文章には大阪市城東区の町名(読み)が11個隠れていますわ。お探しあれ。

【Yolk is natural food 改め 城東区のかけら】

All about Niagara 1973-1979+α』 (大滝詠一/著 白夜書房 2001.3)

去年おうち時間のためにハンモックを購入しました。それを部屋の中に吊るして、今時分だと大滝詠一の「A LONG VACATION」あたりを流します。お供にはジャケットを手掛ける永井博のイラストレーションが良いでしょう。欲張りな私は各盤のジャケットを集めたこの一冊。眺めているだけで、爽やかな夏気分になります。

でも、私の夏ど真ん中の歌と言えば、大滝詠一も所属していたはっぴいえんどの「夏なんです」。ムシムシした夏の空気を感じる、まさに日本の夏の歌です。

アーティストの曽我部恵一も著書『昨日・今日・明日(ちくま文庫)』(曽我部恵一/著 筑摩書房 2009.11)内で、夏の歌として「夏なんです」をあげています。この本の中には、はっぴいえんどのメンバーに会ったエピソードも。松本隆、細野晴臣、鈴木茂…生きる音楽界の伝説の彼らと、大ファンの曽我部。いかに尊敬しているかなど言いたいこと、聞きたいことも沢山だったでしょう。けれども舞い上がって緊張した曽我部は、ろくに話せません。私も彼らのファンなので、その時の曽我部の気持ちが分かってしまって、文字を追いながら背中に脂汗をかいていました。そんな中でも自分の「風街ろまん」のジャケットに、ちゃっかりサインをもらいます。

3人のサインを集め、最後に残ったのは大滝詠一。曽我部はやはりうまく話せないながら、それでもサインを頼み、断られます。「サインが全部揃うと全てがそこで終了してしまうから」と。いやもう本当に、曽我部恵一うらやましいな~!手の中にはっぴいえんどの大半のサインがあって、いつかの贅沢に大滝詠一を取っておけるってとてもすてきだな~!

ただ、大滝詠一は2013年に急逝しています。結局、曽我部のジャケットに4人のサインが揃ったのか気がかりです。

どうも私は、本命に対して素直になれず、回りくどいことをしてしまう人間なので、大滝詠一の話がしたいのに、違うことばかり書いています。

ただ、今は夏なんです。大滝詠一の曲が最高に気持ちよく聞こえる季節なんです。ただひたすら夏と言えば大滝詠一ではっぴいえんどで、私は大滝詠一が好きだってそれだけの話なんです。

【もちづき】


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