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本蔵-知る司書ぞ知る(80号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2021年6月20日版

今月のトピック 【気象】

6月1日は気象記念日です。1875年に気象庁の前身である東京気象台が創立され、毎日3回の気象観測が開始されたことを記念して、1942年に制定されました。今回のトピックでは気象や天気に関する資料をご紹介します。

天気予報はどのようにつくられるのか』(古川武彦/著 ベレ出版 2019.11)

天気予報が私たちに届くまでのプロセスを、わかりやすくかつ丁寧に解説した1冊です。大気や海洋の様子を観測する種々のシステムや、観測データをもとに予測をする技術の紹介のほか、波浪と津波の予測に関する記述もあります。この1冊で気象庁の技術や全体像がつかめます。

人と技術で語る天気予報史:数値予報を開いた<金色の鍵>』(古川武彦/著 東京大学出版会 2012.1)

回顧録や関係者へのインタビュー、筆者の体験などを手がかりに描かれた気象予報に関わる人々の記録です。日本初大型電子計算機導入の話題を中心にしつつ、天気予報が当たらないことが多いと述べた社説に反論する明治時代の気象台職員や、敵艦船の現れる海域の天候予想を担う戦時の気象人など黎明期の天気予報に関わる人々の人間ドラマも描かれます。

見えない大気を見る:身近な天気から、未来の気候まで(くもんジュニアサイエンス)』(日下博幸/著 くもん出版 2016.11)

「雲はなぜ落ちてこないの?」「雨つぶはどんな形?」など天気や気象の素朴な疑問を、実験や身のまわりにある現象との比較で探る本です。雨量を測る実験や夕日を作る実験など、家にあるものでできる実験も掲載されています。著者の気象学への思いが文章の端々に表れており、気象学をより身近に感じることができる1冊です。

今月の蔵出し

亡命ロシア料理』(P・ワイリ/著 A・ゲニス/著 沼野充義 ほか/訳 未知谷 1996.9)

「亡命」「ロシア」「料理」。なんとも奇妙な言葉の組み合わせに興味を惹かれました。私は食べることが大好きなのです。できればずっとおいしいもののことを考えていたいし、なにしろ日本にはたくさんのおいしい料理がある。けれども、ロシア料理にはあまり馴染みがないことに気づいたのです。

著者のワイリとゲニスは、東西冷戦の時代に旧ソ連からアメリカへ亡命したロシア人コンビ。ニューヨークでジャーナリストとして活動し、何冊かの本を上梓しています。この本は料理人によるレシピ本ではなく、アメリカ在住ロシア人の料理エッセイ本なのです。彼らは、アメリカのジャンクフードやダイエット文化を痛烈に批判したり、なかなか祖国の食材が手に入らないことを嘆いたりと、毒舌風のロシアンジョークを交えながら遠く離れたふるさとに想いを馳せます。

章タイトルからして秀逸です。「お茶はウォッカじゃない、たくさんは飲めない」(…そ、そうなの?)「壺こそ伝統の守り手」(壺!?)、「スメタナを勧めたな!」とダジャレも駆使。ロシア・東欧文学者である沼野充義さんの訳文が光ります。

ロシア料理の中ではスープ料理が非常に大事で、肉や魚、キノコのスープなど、多種多様なスープ料理が紹介されています。「いい料理とは、不定形の自然力に対する体系(システム)の闘いである」(本書p.46)など熱い料理への情熱が、思わず引用したくなる冷静で理知的な文章によって語られています。本文中のレシピで食欲も刺激されますし、エッセイとして読んでも本当に面白いです。

ロシアの文化や地理歴史についてあまり詳しくない私は、この本にあふれるロシア料理への愛をさらに理解するために、深く知りたいと思うようになりました。本書いわく、「食道楽の見地から世界を見る」。ボルシチ(50皿分!)などのレシピもついていますので、ぜひお試しください。

【在原】

悲しみとともにどう生きるか(集英社新書)』(入江 杏/編著 集英社 2020.11)

マスク着用、外出や面会の自粛、手洗い・消毒も厳守していたのに。
新型コロナ感染症(COVID-19)の世界的流行で、「用心しても病やけが、災害や事故や事件が完全に防げるとは限らず、喪失は誰にでも起こりうること」が、今まで以上に実感を伴って共有されつつある今日この頃。知っているつもりだった人の意外な暮らし方、感じ方、多種多様な行動様式に気づく機会も増えました。

本書は、上智大学グリーフケア研究所の編者が「スティグマ(負の烙印)」「二・五人称の視点」「悲しみの多様性」「沈黙を強いるメカニズム」「ケアとセラピ―」「準当事者」「分人(対人関係ごとに生じるさまざまな自分)」「悲嘆の文化の変容」など、ノンフィクション作家、批評家・随筆家、小説家、臨床心理学者、宗教学者の講演や寄稿、トークセッションを収録。

章題が図書タイトルとなった第五章には、
「生きている人たちとの関係の中で新しい分人をつくってみたり、今まで仲が良かった人との分人の比率が大きくなっていくことで、その後の人生を続けていくことが出来るはず (中略) 辛い状況にある当事者の人に対して、自分はどう接したらいいかわからないと立ち止まるのではなく、その人に辛い分人だけを生きさせないために、新たな分人をつくることができるような関与をすることが大事ではないでしょうか。」(P204より)
とあります。じゃあ、どうしたら?

人はそれぞれ違うもの。「自分がしてほしいこと」が他の人に喜ばれるとは限りません。自分にできるだろうか、の問いに
あなたを閉じこめる「ずるい言葉」 10代から知っておきたい』(森山至貴/著 WAVE出版 2020.8)はいかがでしょうか。
「悪気はないんだから許してあげなよ」「そんな言い方じゃ聞き入れてもらえないよ」言ったり言われたり、何かおかしい、何か違う気がしたあの時のもやもやが「なるほど!」に変わりそうな1冊です。

【笑門来福】


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