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本蔵-知る司書ぞ知る(76号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2021年2月20日版

今月のトピック 【服】

2月9日は服の日でした。衣類への関心を高め、服を着る楽しみを広げようと1991年に制定されてから今年で30年です。それにちなんで今月は服にまつわる本を3点ご紹介します。

それいゆ [復刻版]』*(国書刊行会)

挿絵画家や服飾美術家として活躍した中原淳一(1913-1983)が、終戦後間もない1946年8月に創刊した女性雑誌の復刻版です。当時、洋服はスタイルブック(洋服の型などを写真や図で示した本)から好きなデザインを選んでつくることがほとんどでした。本誌では「それいゆぱたーん」という色刷りのスタイルブックを折り込みのかたちで連載しており、中原の描いたデザインを入手できるこの連載は読者にとってとても魅力的だったようです。

                                        *の資料は館内利用のみです。

HAPPY VICTIMS着倒れ方丈記』(都築響一/文・写真 アルフレッド・バーンバウム/訳 青幻舎 2008.11)

特定ブランドの服や靴などを収集している85名の着倒れ(衣服にお金をかけて財産をなくすこと)たちの生活空間とそのコレクションが被写体となっている写真集です。デザイナーやブランドの考え方に惹かれてはまった人、店員さんが好きで買い続ける人、服を買うために安い部屋に住む人や食費を切り詰める人、なめられないように服で武装する人、かっこよく着こなすためにジムに通う人など…。服や服をつくる人への愛を感じられる1冊です。

キル』(野田秀樹/著 新潮社 1995.3)

NODA・MAPの第1回公演として1994年に初演された劇作品です。モンゴル帝国をつくったジンギスカンの戦いにファッション界の競争を重ねた物語で、ファッションデザイナーの主人公テムジンは世界中の人々に自分のブランドの服(制服)を着せたい(=征服したい)という思いにかられています。タイトルの「キル」には「着る」「切る」「斬る」「kill」などの言葉がかけられていますが、登場人物の結髪の「服を着ることは、人生を生きること」という台詞が印象的でした。

今月の蔵出し

幻獣辞典』(ホルヘ・ルイス・ボルヘス/著 晶文社 2013.10)

最近、アマビエという妖怪が話題だそうですね。なんでも疫病にご利益があるとかで、いまだ世間を騒がせている新型コロナの退散を願って、その個性的な風貌を描いたグッズなんかも売られているのだとか。妖怪というと、なんだか人間に悪さするヤツらばかりだと思いこんでいたので、世の中には親切な妖怪もいるんだなぁと感心しました。

ところで、日本にこんな変わった妖怪が伝わっているのなら、遠い異国の地にはどんな奇妙な妖怪が伝わっているのでしょうか?もちろん、外国に”妖怪”なんて言葉はありません。きっと妖怪の代わりに別の言葉を使って不思議な生物のことを呼んでいるのでしょう。では、その不思議な生物にはどんなものがいるのか。

本書『幻獣辞典』は、そんな不思議な生物を、世界的な作家J.L.ボルヘスが世界中から集め、一冊にまとめた本です。西はギリシャのミノタウロスから東は日本の八岐大蛇まで、洋の東西を問わず様々な生物が載っているのはもちろん、ルイス・キャロルのチェシャ猫やカフカの想像した生物まで載っています。誰が読んでも、知らないものに出会う新鮮な驚きを味わいながら楽しめる一冊ですよ。

なお、この本の著者であるJ.L.ボルヘスの作品は、本書で取り上げられた不思議な生物に負けないくらい、不思議で奇妙な作品ばかりです。ですから、もしもこの本を読んでみて、もっと不思議な気分に浸りたいと思ったなら、ぜひ一度読んでみてください。

【てむじん】

帰ってきたソクラテス』(池田晶子/著 新潮社 1994.10)

この本は、ソクラテスが現代に居て、色々な人たちとおしゃべりをする、という本です。

ある章では、サラリーマンが盛大に愚痴を言っています。

「今じゃ給料を稼ぐだけの粗大ゴミ扱いだ。こんな人生なんてっ。俺には別の選択肢があったはずなのに!」

ソクラテスが「それじゃあ、今の家族を放ってトンズラしたら?」と唆し、「無責任な!」とサラリーマンの妻も交えて言い合っているうちに、本当の答えにたどり着きます。

「ええ、その通りです。あれこれ考えて結局それが1番いいと考えるから、現にそうしているんです。本当に嫌なら、してるわけないんだ」

私が転職し、今の職場に来て1年目に話題になった本でした。「何が起きてもその都度、自分の責任で選択して生きている」ということが腑に落ちて、その後、随分と楽に過ごせた気がします。

著者は「哲学を学問から解放した」と言われています。この本も平易な言葉で書かれており一気に読めますが、ジャーナリストや福祉係の職員、環境主義者やフェミニストなど、小さな章に分かれているので、気になる章だけ拾い読むのもお薦めです。

ソクラテスが、無邪気に、大人気ない物言いをするのが痛快です。よろしければ、どうぞ。

【春】


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