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本蔵-知る司書ぞ知る(74号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2020年12月20日版

今月のトピック 【宇宙旅行】

今年の12月2日は、日本人が初めて宇宙飛行をして30年を迎える記念日でした。1990年の同日、ジャーナリストの秋山豊寛氏を乗せたソユーズTM11号が宇宙へ旅立ちました。今回のトピックでは、宇宙旅行や宇宙での暮らしに関する資料をご紹介します。

宇宙旅行入門』(高野忠/編 パトリック・コリンズ/編 日本宇宙旅行協会/編 東京大学出版会 2018.7)

宇宙旅行全体を知るための入門書です。序盤では、「宇宙旅行とは何たるか」を小説と事実から説明し、中盤では技術の他、観光・経済・マーケティング・法律・医学などの分野の専門家がそれぞれの立場から宇宙旅行について記述しています。最終章では、諸分野の課題をまとめています。序では富野由悠季氏が宇宙開発についての思いを執筆しています。

宇宙で暮らす道具学』(松村秀一/監修 松本信二/監修 宇宙建築研究会/編著 雲母書房 2009.8)

建築家・研究者・宇宙開発関係者が「道具」に焦点を当てて宇宙建築を考察する1冊です。世界的ホテルチェーンが構想する宇宙ホテル、宇宙生活で使う椅子、バイオスーツ、月面キャンピングカーなど、今までに経験していない環境で用いる創造的な道具や建築について考察しています。

日本人宇宙飛行士公式写真記録集』(秋山豊寛/著 和田久士/著 小学館 1991.5)

トピックの冒頭でご紹介した秋山氏の宇宙飛行時の公式写真記録集です。サバイバル訓練など宇宙飛行士としての訓練生活の様子、発射台と打ち上げの瞬間、宇宙ステーション「ミール」の内部、帰還カプセルが着地した瞬間など、この宇宙飛行に関わる写真が収録されています。当時の宇宙開発状況を知ることができる1冊です。

今月の蔵出し

深夜特急』第1便第2便第3便(沢木耕太郎/著 新潮社 1986.5-1992.10)

コロナ禍の今こそ読み返したい、紀行小説の金字塔です。

26歳の主人公は、ふとしたことから友人と「インドのデリーからイギリスのロンドンまで、乗り合いバスで行けるか」という賭けをし、バックパックを背負って、期間もルートも決めない旅に出ます。

まず、デリーまでの寄航地として立ち寄った香港で、毎日が祭りのような熱気に浮かされます。あらゆるものが商われる夜店、エネルギッシュな人々、貧富の格差。しかし富める者と貧しい者のどちらが幸せかは分からないという思いを抱きます。マカオではカジノに熱中して、天国と地獄を垣間見、インドのベナレスでは、ガンジス河のほとりで遺体が焼かれ流される様子を時間を忘れて見つめます。カトマンズでの、自分を見失いそうになる憂鬱な雨。同じ貧乏旅行のヒッピー達の乗り合いバスで疾走するアジアン・ハイウェイ。

主人公は、新たな町につくと、安宿を探し、安食堂で食事をし、街を歩き回ります。その全ての過程で値段の交渉をします。主人公の関心は、名所旧跡にはなく、もっぱら人間にあります。様々な商売人との熾烈なかけひき、町中で出会うこどもや老人たちとの交流。それらの人々と意思疎通ができるようになるたび、現地の風習に馴染んでいくたび、魂が自由になっていくことを感じます。同時に、長く根無し草で旅を続けるがゆえの孤独、虚無感も抱えます。

私が最初にこの本を読んだのは、大学生の時でした。あまり海外に出かけたりはしない消極的な学生でしたが、ただひたすら読んで憧れました。

この作品に描かれているのは1970年代の状況です。その後、いくつもの戦争があり、テロもありました。また経済成長、グローバル化、情報化した現在、これらの国々は今、どんな状況でしょうか。

旅に出ることは、何にも代えがたい経験であり、また一方、このような本を読むことでも、心は自由に旅することができる、と思います。

【ハチ公】

どうぶつの考古学図鑑:あにまるず-ANIMAL×Zoo』(福島県立博物館/編集 福島県立博物館 2019.9)

本書は2019年9月7日から11月17日まで、福島県立博物館で開催された企画展の図録です。発掘調査によって見つかった、縄文時代から古墳時代の動物造形品や、動物の角や骨でつくった道具、アクセサリーなどが集められています。動物造形品がとにかく可愛い!という第一印象から、本書を読み始めました。古墳時代後期に作られた埴輪のムササビは、四肢を広げ、今まさに空中を滑空している姿が愛らしく、解説によればムササビを造形した埴輪はこれだけだそうです。他にもウリボウの縞模様を表現したイノシシ形土製品、クマ形土器、カエル形鹿角製品なども登場します。

動物と人との関わりを示す考古資料も数多く紹介されています。狩猟の様子を表した銅鐸(国宝「袈裟襷文銅鐸(けさだすきもんどうたく)」)では、弓を構えた人と5頭のイヌがイノシシを狙っていて、イヌが人のパートナーとして狩りに同行しているように見えます。

また、「はにわの鳥の見分け方」というコラムでは、同じ鳥形埴輪といっても、鶏、鵜、鷹など、鳥によって嘴や尾の表現が異なることや、実際の鳥から埴輪を作るだけでなく、埴輪を手本に埴輪を作っていき、元の形から変化していくことがあると書かれています。

造形品は、獲物が得られるよう祈るマツリに使われたり、古墳に葬られた首長の事績を示すものとして狩猟の様子を埴輪で再現したりと、作られた理由が推測できるものもあれば、なぜ作られたのかわからないものもあるそうです。どうして作られたのか、図録を眺めながら、古代人の暮らしへの想像を膨らませてはいかがでしょうか。

【雫】


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