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本蔵-知る司書ぞ知る(73号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2020年11月20日版

今月のトピック 【手袋の日】

紅葉の季節も終わろうとしており、冬がそこまでやって来ています。寒い季節に欠かせないものと言えば、手袋ですね。11月23日は手袋の日です(日本手袋工業組合が制定)。今回は手芸の分野ではない手袋に関する本を3冊紹介します。

東かがわ手袋産地の変容』(細川進/著 学文社 2012.1)

まずは工業の分野の本を。香川県は「衣料用ニット手袋」の出荷額では全国シェアの90%以上を占めており、中でも東かがわ市は国内手袋産業の一大拠点となっています。景気の好不況や社会情勢の変化によって、海外生産への移行や新しい素材を使った高機能商品の開発など、手袋業界も変化が求められてきました。手袋産地は変わり続けます。

わたしの手袋博物館』(福島令子/著 暮しの手帖社 2005.11)

次は衣食住の習慣・風俗の分野から1冊。手袋は寒さを凌ぐためだけに着用するものではありません。おしゃれを楽しむファッションアイテムとして、仕事中に様々なものから手を守る防護品としてなど、活躍の場はいろいろです。ツタンカーメンの手袋、大石主税の手袋など歴史的な手袋も掲載しています。手袋博物館、開館します。

片手袋研究入門:小さな落としものから読み解く都市と人』(石井公二/著 実業之日本社 2019.12)

最後は、分類上、どの部類にも入らない分野「雑著」からです。道端に手袋が片方だけ落ちているのを見かけたことはありませんか?路上に落ちている片方だけの手袋をラッキーアイテムのように感じていた著者は、これを「片手袋」と名付け、片方だけが取り残されることになった発生のメカニズムなどを推察しています。片手袋の声が聞こえてきませんか?

今月の蔵出し

空が香る』(三宮麻由子/著 文藝春秋 2010.1)

音、手触り、味、匂いで世界を感じている著者が、四季を通して感じ体験したエピソードが16編収められています。冬の章には「氷の畔の一期一会」、夏の章には「涙のお寿司物語」など内容が気になるタイトルが並んでいます。

書名になっている「空が香る」は、著者が空の香りを意識するようになったいきさつが書かれています。著者いわく、地上だけではなく空にも香りがあるのだそうです。「天の息吹」と名付けたその香りが一年で最も強く感じられるのは夏で、香りの種類が多く移ろいが速いことがその理由です。

著者は突然の夕立や通り雨など雨を伴った空の動きを香りから察知するなかで、空の香りを意識するようになりました。なかでも、一度体験してその不思議さが忘れられなくなった通り雨には、並々ならぬ関心を抱いていました。通り雨が「来て、行く」ところを見届けたいと心待ちにしていたある日、郵便物を取りに庭へ出ると、雨の匂いとともに何かの予感を感じます。そのまま佇んでいると、激しい雨に全身を包まれ、雨の匂いは草木の放つ甘い香りに変わります。しばらくすると、雨は音のない音をたてて突然止みました。

大人になるにつれて、ともすれば忘れてしまうようなささやかな出来事を、その時どきの匂いや温度とともに鮮やかに記憶し大切にし続ける著者の心の在り方や感受性の豊かさに魅了され、鈍くなっている感覚を少しでも取り戻したいと思いました。

冬は音が少なく感覚が研ぎ澄まされるため、感覚を開放するにはもってこいなのだそうです。私もこれから迎える冬の静寂に、耳を澄ませてみようと思います。

私が著者を知るきっかけになった『でんしゃはうたう』は、電車の音のみで展開する絵本です。電車が進む「たたっつつっつつ たたっつつっつつ どどん…」。他の電車とすれ違う時の「ぼっ しょんしょんしょん ふっ しょんしょんしょん たたっ」など音が的確に表現され、声に出して読むと楽しい一冊です。ぜひ、こちらも手にとってみてください。

【薄荷】

一粒の柿の種:サイエンスコミュニケーションの広がり』(渡辺政隆/著 岩波書店 2008.9)

科学というと、難しいという印象を持つ人が多いのではないでしょうか。難解な科学を一般の人にもわかるように、非常に優れた表現力で、わかりやすく伝えてくれる科学者たちがいます。古くは、ガリレオ・ガリレイやダーウィン。彼らの著書は、一般読者向けの科学書だったと本書で紹介されています。また、この本のタイトルにある「柿の種」は、お菓子の名前ではなく、随筆家としても有名な物理学者である寺田寅彦の短文集『柿の種』にあやかっていて、あとがきに「サイエンスライターの草分け(と、あえて呼びたい)」とあります。

本書では、古今東西のサイエンスライターの紹介のほか、博物館の起源や、日本で広く開かれているサイエンスカフェ、科学を題材にした小説やアニメなど、サイエンスコミュニケーションの具体例が書かれています。そして、このように様々な手段で科学への関心が高まることによって、科学技術リテラシーが身に付き、結果として人々の生活を豊かにしてくれるという、サイエンスコミュニケーションの重要性を伝えています。

この本自体が、じつは江戸時代に雪の結晶を観察したお殿様がいたことや、シャンパンの泡の科学など、ちょっとした科学ネタを楽しく知ることのできる、サイエンスコミュニケーションの優れた1冊になっているので、科学を敬遠している人にも、おすすめしたい本です。

【水花】


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