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本蔵-知る司書ぞ知る(71号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2020年9月20日版

今月のトピック 【芸術の秋】

秋は芸術の季節です。美術、音楽、映画、写真に文学と、一言に芸術といっても多種多様ですよね。映画や音楽は好きだけど、絵は難しそうだから全然見ないという方にも楽しんでいただけそうな作品を3冊紹介します。また当館では、9月30日まで「てのひらの上の風景―ちいさな写真集―」と題しまして、手に取りやすい小さいサイズの写真集などを展示しております。芸術の秋を楽しみに、ぜひ当館までご来館ください。

成田亨作品集』(成田亨/著 羽鳥書店 2014.7)

芸術鑑賞の手始めに、大人には懐かしく若者には新しく、そして子どもだって楽しめる、あの作品を眺めてみるのはいかがでしょうか?こちらの本はあの「ウルトラマン」をデザインした成田亨さんの作品集。テレビに映っていた姿とは少し違う、着ぐるみとして立体化される以前の作者のアイディアがアート作品のように描かれています。ページを開くとおなじみの怪獣や宇宙人たちがズラリと並び、隅っこにはその怪獣のデザインコンセプトが書かれています。ファンブックとしてはもちろん、芸術本としてもとても面白い作品集です。「ウルトラマン」を知っている方も知らない方も、ぜひ一度、手に取ってみてください。

ミュージック・グラフィックス1000mini』(ストルツ・デザイン/編 グラフィック社 2010.9)

音楽好きの方なら、オシャレなCDジャケットに釣られてCDを衝動買いしてしまった経験が一度くらいはあるはず。この本は、そんな罪作りなCDジャケットやポスターなどを集めた作品集です。いろいろなアーティストの作品が載っていることはもちろん、中を開いて見せたり付属品を取り出したりと、他のジャケット集では見られない部分まで載っています。音楽に興味がなくても眺めているだけで面白いですし、もしかしたらアーティストに興味を持つきっかけにもなるかもしれませんよ。

優雅に叱責する自転車』(エドワード・ゴーリー/著 河出書房新社 2000.12)

絵本で絵と言葉を一緒に味わうというのはいかがでしょう。絵本なんて、と侮るなかれ。世の中には大人向けの絵本というものもあるのです。作者エドワード・ゴーリーはその分野を代表する一人。アルファベット順の死因でこどもたちが死んでいく『ギャシュリ―クラムのちびっ子たち』など、ちょっと残酷な作品で有名です。ですが、今回紹介したのはナンセンスに突き抜けた奇天烈な作品ですので、残酷な作品が苦手な方も安心して読んでみてください

今月の蔵出し

村に火をつけ、白痴になれ : 伊藤野枝伝』(栗原康/著 岩波書店 2016.3)

度肝を抜かれて、一気に読み進んでしまった本です。いろいろとやばすぎるのです。この評伝の主役である伊藤野枝の生きざまも、野枝を崇拝するがごとくに愛する著者のテンション高めな文体も。

しかし、それもむべなるかな。火の玉のような生命力をみなぎらせて生きた伊藤野枝という女性の強さ、自由奔放さに、読んだ人は圧倒されてしまうのではないでしょうか。

伊藤野枝は1895年、福岡生まれ。大正時代に女性の解放運動などで活動し、内縁の夫であったアナキスト(無政府主義者)・大杉栄とともに関東大震災直後に憲兵の甘粕大尉らに殺されてしまいます。そのとき野枝はまだ28歳。二人の夫との間に7人の子をなしています。

小さいころから読書が大好きで、東京の女学校に編入すると、そこで出会った辻潤(のちに日本のダダイズムの中心人物となる)に教えられ外国の文献を読み漁り、女性解放運動に興味を持ちます。

というのも、野枝にはそのころ親たちに決められた結婚相手がありました。地元に戻り入籍はするものの、やっぱりイヤ! とすぐに逃げ出します。その後東京に戻り執筆活動を開始し、女性を家庭に縛り付ける「結婚」という制度や、旧態依然とした社会制度と真っ向から対決するのです。

大杉栄と出会い、一緒になってからは労働者問題にも深くかかわることになります。今でも、仕事と家庭の両立に悩む女性は少なくありませんが、おそらく大正時代の女性を取り巻く環境はもっと苛烈だったのだろうと想像できます。そこに一石を投じようとしていた一人が、伊藤野枝でした。思想弾圧の犠牲になったことが、残念でなりません。

この本には文庫版もあります。そのほか、著者は『大杉栄伝 永遠のアナキズム』(夜光社 2013.12)など書いています。

伊藤野枝の評伝としては、『美は乱調にあり』(瀬戸内晴美/著 文芸春秋 1984.3)などもありますので、ぜひ比べて読んでみてください。

【在原】

遙かな巨大仏 西日本の大仏たち(Kan Kan Trip)』(半田カメラ/著 書肆侃侃房 2020.2)

大仏と言えば、奈良の大仏(台座含む総高18.03m)や鎌倉大仏(同13.35m)を連想される方が多いかと思いますが、「巨大仏」なる存在をご存じでしょうか。日本には、奈良や鎌倉の大仏と同等、あるいはそれ以上の大きさの巨大な仏像(観音様や明王様等も含む)が各地に鎮座しています。

私が学生時代に居住していた茨城県にも牛久大仏という世界最大のブロンズ製立像(全高120m)があり、初めてこの大仏を目にした際にはその巨大さに度肝を抜かれ、誰が何のためにこの様な仏像を建立したのか、知的好奇心を激しく揺さぶられました。それ以来、旅先等に巨大仏がおられる場合には積極的に拝ませてもらっています。

本書はこのような巨大仏を中心に、西日本に鎮座する約80の大仏を紹介したガイドです。大仏写真家を名乗られている筆者も私と同様牛久大仏に衝撃を受け、以来10年にわたって全国の大仏を巡り、本書を含む2冊の本を書き上げられました。本書での各大仏の紹介文は短いものですが、その筆致には大仏に対する筆者の愛情が溢れています。また、タワー等の大仏とは別の「巨」なるものたちも随所で紹介されており、「高い所」や「大きな物」が好きな方には嬉しい内容です。

本書を見ていただくと、大仏が我々の身近に存在していることが分ります。最近は新型コロナウイルスの影響で遠出はしにくい状況ですが、本書を携えて近所の大仏を訪れてみるのも一興かも知れません。

ちなみに、大阪府立中央図書館の正面にある超高層ビルの東大阪市総合庁舎は全高115.8mですので、牛久大仏とほぼ同じ高さです。当館を利用された経験のある方ならこの庁舎も目にされたことがあるかと思いますので、牛久大仏の大きさを想像していただけるのではないでしょうか。残念ながら牛久大仏は西日本がメインの本書では詳しく言及されていませんが、東日本がメインの同著者による前著『夢みる巨大仏 東日本の大仏たち』では紹介されていますので、こちらも是非ご覧ください。

【隊長】


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