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本蔵-知る司書ぞ知る(70号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2020年8月20日版

今月のトピック 【戦争を知る本】

当館では、8月30日まで展示「戦後75年 戦争を知り平和を考える」を開催しています。今回はそれに関連して、展示資料の中から、戦争について知ることができる以下の3点を紹介します。

戦争中の暮しの記録』(暮しの手帖/編 暮しの手帖社 1969)

本書は、1968年8月に太平洋戦争中の暮しを特集して発行された雑誌『暮しの手帖 第96号』*を、単行本化したものです。1967年に暮しの手帖社が戦争中の暮しについての記録を募集し、寄せられた原稿1736編の中から約140編を選んで掲載しています。配給のこと、食糧の窮迫、疎開先での生活、空襲の日のこと、防空壕をつくったときのことなど、戦時下を生きた人々の生の声を通して、当時の暮しの様子を知ることができます。

*の資料は館内利用のみです。

本土空襲全記録 (NHKスペシャル)』(NHKスペシャル取材班/著 KADOKAWA  2018.8)

本書は、2017年8月に放送されたNHKの番組「本土空襲 全記録」の内容を書籍化したものです。アメリカ国立公文書館所蔵の米軍の戦闘報告書や作戦記録、米軍戦闘機のガンカメラ(パイロットが引き金を引くと自動的に録画を開始する小型カメラ)の映像などを整理した調査結果が記載されています。太平洋戦争において、なぜ、どのように米軍による日本本土空襲が拡大していったのか。調査結果から浮かび上がった空襲の実態を知ることができます。

かわいそうなぞう (おはなしノンフィクション絵本)』(つちやゆきお/ぶん たけべもといちろう/え 金の星社 1970.8)

小学校の国語の教科書に採用されていたことがあり、ご存知の方も多いかと思います。太平洋戦争の最中、東京の上野動物園で実際に行われた猛獣殺処分をもとにした創作絵本です。戦争のために人間の都合でやむなく餓死させられることとなった3頭のぞうたち。餌を与えられず徐々に弱っていく様子が描かれており、とくに檻の中で痩せ細った身体でぞうの飼育係に向けて懸命に「えさをください」と芸をする場面は、いたたまれない気持ちになり、戦争の残酷さが伝わってきます。

今月の蔵出し

愚の旗』(竹内浩三/著 成星出版 1998.8)

昨年、三重県立図書館の文学コーナーで常設展示を見る機会がありました。「三重ゆかりの文学と文学者展」と題し、松尾芭蕉、本居宣長、江戸川乱歩など、多くの作家や作品が紹介されている中、ひっそりと異彩を放つ書物がありました。竹内浩三『愚の旗』。伊勢市出身の人だったのです! 1945年、23歳で戦死した詩人・竹内浩三の、死後10年にあたり、姉の松島こうが私家本として限定200部で出版した作品集(1956年刊)です。初めて見ました。こういう時、図書館員の性分で、自館の蔵書検索をしてみるのですが、2018年に出た復刻版ともども大阪府立図書館には所蔵していないものでした。

開いて展示している箇所が絶妙でした。「ぼくもいくさに征くのだけれど」の詩。詩の全体は14行なので、これまで手にしてきた書物の中では、見開きで読み切る形で読んでいました。それがこの展示本では、詩の中間の7行だけが見開きになっています。ちょうど切ない部分です。

ぼくがいくさに征ったなら

一体ぼくはなにするだろう てがらたてるかな

だれもかれもおとこならみんな征く

ぼくも征くのだけれど 征くのだけれど

なんにもできず

蝶をとったり 子供とあそんだり

うっかりしていて戦死するかしら

余白たっぷりの紙の上に書かれた、素朴で素直な言葉。そして現実となった戦死。もの寂しさがひろがっています。

さて、今回紹介する本書は、時を経て、松島こうの甥である松島新が企画し、私家本やその他から竹内浩三の詩をはじめ、短編小説、マンガ、日記、姉宛ての手紙などを収録し、自身が装幀やデザインに携わったものです。「あとがき」によれば竹内浩三の「視点・感性」を、「若くして死んだ彼と同じ世代の若者に」追体験してもらいたいという思いを込めたそうで、竹内浩三を初めて知る若い人が読みやすいような構成になっています。戦後75年が経ちますが、今も世界の各地で戦闘や紛争が続いています。竹内浩三が書いた詩や日記が、戦争を知らないわたしたちの心に何を届けてくれるでしょうか。

また、竹内浩三は突拍子もないユニークな小説も書いていますので、短編小説を所収する『戦死やあわれ(岩波現代文庫)』もあわせて紹介しておきます。来年2021年は生誕100年のメモリアルイヤー。伊勢の方ではイベントがありそうです。その折に、またゆっくり三重県を訪れることができればいいなとコロナ禍中、切に願わずにはいられません。

【霧】

狩野亨吉の研究』(鈴木正/著 ミネルヴァ書房 2013.9)

狩野亨吉は、1865(慶応元)年秋田県に生まれ、後に京都帝国大学文科大学長などを務めました。狩野は、江戸時代中期の医師であり思想家でもある安藤昌益『稿本自然真営道』を発見したことでも知られています。また、夏目漱石と親交があり、『夏目漱石周辺人物事典』*に「漱石が学問・人格で最も尊敬していた人物」(p.57)と紹介されています。

本書は、「狩野亨吉研究」「狩野亨吉遺文抄」「狩野亨吉関係資料」の三部構成になっています。内容としては、「狩野亨吉ドキュメント」と題するまとまった伝記や「年譜」「著作年表」など狩野に関する貴重な資料が収録されています。

ところで、狩野は本を大量に読むものの書くことはあまりしなかったようです。小林勇は『蝸牛庵訪問記』に「あんなに本を読んでいて一冊も著述がないのも変わっている」(p.15)という幸田露伴の話を載せています。

司馬遼太郎も『街道をゆく29』「秋田県散歩」で「著作といえば、第一高等学校での教え子安部能成が編んだ『狩野亨吉遺文集』(岩波書店)という小冊子があるくらいではあるまいか」とし、その理由について「亨吉のおもしろさは、後世に対しても無欲であることだった。著作をのこして後世に名を残すなど、身ぶるいするほどいやだったらしい」(p.199)と記しています。とは言え図書館としては、若干困った先生ではあります。なお、本書には『狩野亨吉遺文集』未収録の文章が収録されています。

もともと本書は1970年に刊行されましたが、出版元のミネルヴァ書房と資料を提供した岩波書店との間で問題が生じたことにより、一部裁断され市場には多くは出回らなかったようです。そのため一時古書価が高騰したこともあったようですが、2013年に約半世紀を経て新装版として刊行されました。

*の資料は館内利用のみです。

【ツンドク】


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