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本蔵-知る司書ぞ知る(58号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2019年8月20日版

今月のトピック 【A I について】

2019年8月29~31日に世界人工知能大会が上海で開催されると発表がありました。2000年代以降、第三次人工知能ブームといわれ、今やAIは生活にかかせないものとなりました。未来のAIはどうなっていくのでしょうか。今月は人工知能に関する資料を3冊ご紹介します。

人工知能と社会 2025年の未来予想』 (AIX/監修 オーム社 2018.2

電気通信大学が設置した国立大学初の人工知能研究拠点、AIX(人工知能先端研究センター)に所属する研究者達による本です。人工知能がいかに人間と共存できるか。人類が幸せに生き抜くために、人工知能を活用するにはどうしたら良いのか。2025年までの未来予想をのぞいてみませんか。

人工知能に哲学を教えたら』 (岡本裕一朗/著 SBクリエイティブ 2018.9)

人工知能に哲学を教えることはできるのか。人工知能に芸術作品を生み出すことはできるのか。人工知能とは一見結びつかない倫理、芸術、幸福、宗教などを哲学的な観点から考える本です。

人間の未来AIの未来』 (山中伸弥/著 羽生善治/著 講談社 2018.2)

山中伸弥 京都大学iPS細胞研究所所長と羽生善治 将棋棋士の対談集です。

なぜ棋士は人工知能に負けたのでしょうか。先端医療がすべての病気に勝つ日は来ますか。十年後、百年後、この世界はどうなっていると思いますか。興味ある話題について、お二人の率直な意見を知ることができる1冊です。

今月の蔵出し

もっと知りたいはにわの世界:古代社会からのメッセージ』(若狭徹/著 東京美術 2009.4)

2019年7月、百舌鳥・古市古墳群が世界文化遺産に決定されました。登録決定までの活動を、堺市の「ハニワ課長」(外部リンク)が盛り上げていたのが記憶に新しいです。また、登録決定を記念し、南海電鉄や近畿日本鉄道では埴輪をモチーフにしたラッピング電車が運行されるなど、古墳そして埴輪のアピールが続いています。

さらに、100点以上の埴輪が出土した今城塚古墳を擁する高槻市は、8月20日を「ハニワの日」と定めており、マスコットキャラクター「はにたん」(外部リンク)の誕生日もこの日です。そこで、今回はカラー写真満載の埴輪の入門書をご紹介します。

本書では、埴輪は前方後円墳を飾るために作られたものなので、両者をセットで理解する必要があると強調されています。古墳が発展すると埴輪の種類・量も増加し、儀式や狩猟の場面を表現するようになったことなど、古墳と埴輪の変遷を学べます。特に、「第二章 埴輪人物絵巻」が圧巻で、「大王の埴輪劇団」と紹介されている高槻市の今城塚古墳の埴輪を見に行きたくなりました。また、本書を読むと、形やしぐさなど埴輪を見るポイントを掴めます。有名な埴輪(外部リンク)についてのコラム「踊る埴輪は踊らない?」や鷹狩・鵜飼の埴輪がとりわけ興味深いです。
埴輪のカラー写真が豊富に掲載された図書としては、『デジタル技術でせまる人物埴輪』もあります。より専門的な内容ですが、出土した古墳ごとの埴輪の集合写真に見入ってしまいます。

大阪初の世界文化遺産が登録された記念すべき夏、大阪府立中央図書館4階の人文系資料室では展示「はにわ! ハニワ!! 820」を開催中(9月1日まで)。埴輪に関する図書を読んで、“はにわ熱”を高めてはいかがでしょうか。

【亥吉】

短編小説礼讃(岩波新書 黄版)』(阿部昭/著 岩波書店 1986.8)

これは、自身も短編小説の名手である著者が、短編小説の醍醐味を語る本です。少し本文をご紹介します。

「(モーパッサンの短編は)どのページでも生々しい人間と、みずみずしい自然とが、読者の目と心をぞんぶんに楽しませてくれる。モーパッサンの筆にかかると、すべてが美醜善悪を問う前に、すばらしく官能的である。

ともあれ、世の中には、一度聞いたら、あるいは一度読んだら忘れられない『話』というものがある。人物の名前とか場面場面の細部とかは思い出せなくても、ああ、あの話か、とまるごと記憶によみがえる。そういうのが短編小説の魅力である、と読者の側からは定義できそうである。読むことと同じくらい、読んだものの思い出も大切である」(第1章 彼は昔-森鴎外、モーパッサン)

どの章を読んでも、著者が浮き浮きして書いていることが伝わってきます。
なぜ、これほどまでに「書く喜び」が力強く伝わってくるのか。
「序」には「古今東西の名作短編についてあれこれ語ることは、短編小説びいきの一人としてまことに心の浮き立つ経験である」とはありますが、著者から伝わる強さの理由は、それだけではないとも思えます。

著者は後年小説から遠のき、日記とも伝記ともとれるエッセイを書くようになるのですが、その3部作の1作目「言葉ありき」には作家井上ひさし氏から次の評が寄せられています。「東北の田舎高校生だった男(井上氏)は、阿部のたしかなことばに動かされ、想像力をかきたてられて、読むうちに『ひょっとしたら自分は湘南地方にある名門高校で三年間を過ごしたのではなかったのだろうか』と錯覚させられた。このことばの力。それは『言葉』と『物』とのかかわり合いを厳しく問いつめていった者への神からの贈り物であるのかもしれない。出来合いのことばを疑い、その出来合いの言葉を怖れ気もなく使う自分を疑った末、ことばへの信仰を回復した(後略)」(朝日新聞 文芸時評 昭和55年12月22日)

井上氏の評には、著者の姿勢が言い尽くされています。強い言葉の力を持った著者が、極上の短編を惜しみなく紹介してくれます。モーパッサンも国木田独歩も読んだことはありませんでしたが、そんなことには関係なく引きずり込まれます。みなさんも、ご一読ください。

【春】


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