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本蔵-知る司書ぞ知る(38号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2017年12月20日版

今月のトピック 【児童精神科医 佐々木正美】

現在、「追悼:2017年に亡くなられた方々の作品」展示を当館1階小説読物室で行っています。展示資料には含まれていませんが、児童精神科医の佐々木正美さんも、今年、惜しまれつつこの世を去ったひとりです。
佐々木正美さんの子育てや障がい児教育に関する多数の著作には、育児をはじめ、いろいろなことに心が疲れた時に、心をほっと暖めてくれる、温かな励ましの言葉が多数含まれています。

子どもへのまなざし』(佐々木正美/著 福音館書店 1998.7)

「子どもの精神科の医者として、お父さんやお母さんにお願いしたいことは、子どもの笑顔や喜ぶ姿に、ご自身が喜べるご両親であってほしいということです」の言葉のように、子どもの幸せのため、子どもの健やかな育ちのために大切なことを教えてくれます。

子どもへのまなざし 続』(佐々木正美/著 福音館書店 2001.2)

『子どもへのまなざし』の読者からの、多数の質問に答える続編です。子どもの思いやりの心の育て方、子どもの欲求をどこまで満たすのか、兄弟げんかへの対処法、一人っ子の育て方、仕事を持っている母親の子どもの育て方、片親の場合の子どもの育て方、障がいを持つ子どもの育て方等に関する疑問に、温かな言葉で回答しています。

子どもへのまなざし 完』(佐々木正美/著 福音館書店 2011.1)

乳幼児期から老年期に至るまでの発達課題や、発達障がいのある子どもたちへの理解や接し方などについて、わかりやすく教えてくれます。また、「幸福は分かち合うもの」など、著者が自身の人生を思い返し、思い出される人生の大切なことについても書かれています。

はじまりは愛着から:人を信じ、自分を信じる子どもに』(佐々木正美/著 福音館書店 2017.9)

最後の著作となります。今までの多数の著作の中で伝えられてきた、子育てにおいて大切なことが、読みやすくまとめられています。また、あとがきも、子どもたちの幸せと健康のために尽力してきた著者らしい、子どもの幸せを願う言葉で締めくくられています。

今月の蔵出し

戦下のレシピ:太平洋戦争下の食を知る(岩波アクティブ新書)』(斎藤美奈子/著 岩波書店 2002.8)

戦時中の食事情と言えば、食べるものがなくみんな飢えていた、かぼちゃやさつまいものつるまで食べたことなどを聞きます。しかし、本書を読むと、これまで漠然としかイメージできていなかったその本当の苦しさが理解できます。

ここには、戦況が悪化するにつれ多くの雑誌が休刊になるなか、終戦まで発行され続け、戦後も続いた3つの婦人雑誌『婦人之友』『主婦之友』『婦人倶楽部』に掲載された家庭料理のレシピが紹介されています。開戦初期こそ「鉄兜マッシュ」や「興亜ちまき」といった軍国調のお遊び料理もありましたが、次第に節米(お米を節約する方法)が説かれるようになり、さらに、配給が少なくなるにつれ、炊き増えのするお米の炊き方、少しの肉や魚を何日にも分けて食べる方法、野草の食べ方、代用醤油の作り方といった切実な記事が増えていきました。終戦前夜には空襲警報に備えいつも身に着けておく非常携帯食の作り方、焼け跡での煮炊きの方法まで紹介されました。著者の主張は「戦争の影響で食糧がなくなるのではない。食糧がなくなることが戦争なのだ。(中略)だから『戦時下』ではなく『戦下』のレシピなのである。」という記述に明確です。

戦況がどうなろうと、命ある限り私達は毎日食べなければいけません。空襲警報がしばしば鳴り、いつ焼け出されるか分からないなか、配給の列に長時間並び、冷蔵庫もない時代に少しの食糧を何日にも持たせなければならない、その苦労はどれほどであったかと思います。家族の食卓を預かる女性達の壮絶な戦いがそこにはありました。もう二度と、戦争のためにささやかな庶民の暮らしが脅かされることがないことを祈ります。  【ハチ公】

こどもの世界文学 17 ドイツ編 3 スケートをはいた馬』(エーリッヒ=ケストナー/作 鈴木武樹/訳 講談社 1971)

街にクリスマスソングが流れる季節になりました。クリスマスプレゼントといえば、12月25日の朝、枕元に一冊の本とお菓子が置かれているのが子どもの頃の我が家の定番でした。プレゼントされた本は、何度も何度も繰り返し読んだものですが、なかでも1番のお気に入りがこの『スケートをはいた馬』でした。このお話は、5月35日に、コンラート少年が南洋について作文を書くという宿題をだされたことからはじまります。コンラート少年と、独身の叔父さん、それとサーカスでスケートに乗っていた馬は、なぜか一緒に衣装ダンスの入り口から南洋へと出かけて行きます。途中、木の幹についたハンドルを回すと皮をむいたりんごがでてくるような「なまけ天国」やカエサルやナポレオンが競技する「偉大なるむかし城」などを通って、数々の冒険をするというものです。(このお話は『五月三十五日』というタイトルでも出版されており、こちらのタイトルの方が知られているかもしれません。)

成長する中でこの本のことはいつしか忘れてしまっていましたが、図書館に就職し、書庫で作業中、ふとこの本に再会することができ、懐かしさでいっぱいになりました。子どもの頃は、作者のことは全く気にしていませんでしたが、作者は『エーミールと探偵たち』、『飛ぶ教室』、『ふたりのロッテ』などで有名なエーリッヒ=ケストナーでした。面白いはずです。

思えば、私が司書という職業についたのも、本の楽しさを教えてくれたサンタさんのお蔭かもしれません。この思い出の本を手に取ると、実家の廊下や座敷で座り込んで読みふけっていたことやその空気感、幸せだった子ども時代のことも思い出すことができます。

みなさんも思い出の一冊と図書館で再会しませんか。タイトルがあやふやでもお手伝いさせていただきますよ。

                                                                      【ウメ子】


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