大阪府立図書館

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本蔵-知る司書ぞ知る(36号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2017年10月20日版

今月のトピック 【お菓子にまつわる資料】

大阪府立中央図書館では、10月13日(金曜日)~11月8日(水曜日)の期間で、「企業ミュージアム特別展示 江崎グリコ」を開催します。今回は、展示に関連し、お菓子にまつわる資料について、以下3点を紹介します。

ぼくは豆玩(オマケ)』(宮本順三/著 いんてる社 1991.5)

グリコのおまけ係として活躍された宮本氏。安価な制作費で、小さな箱に入るよう仕上げる等、制限の中での制作過程には、おまけ作りのドラマがあります。読み進めるうちに、工夫をこらしてチャレンジする宮本氏の隣で自分もおまけ作りに取り組んでいるような気持になっていく、おまけへの愛とアイデアにあふれた資料です。

デザインの解剖 01明治ミルクチョコレート』(佐藤卓デザイン事務所/著 平凡社 2016.11)

「明治ミルクチョコレート」は、刻まれた仕切りと窪みがあることにより、手で割りやすいが、輸送等の衝撃では割れにくくなり、固まる時間を早くする形状に工夫されているそうです。このシリーズは、(株)明治の主力商品を取り上げ、デザインの視点で着目し、どのような工夫がされているかを探っています。今迄何気なく割り食べていたチョコレートを、観察したくなる1冊です。

グリコ日記 僕の見た太平洋戦争』(小島吉孝/著 学生社 1995.8)

戦前、子供達に人気のあったグリコの引換賞品の日記帳。これに綴られた国民学校6年生から旧制中学4年生迄の5年間の、戦中戦後を生きた少年の日々の記録です。爆撃におびえ、日本の将来を憂いながらも、日々の生活のことも淡々と綴られており、そのことで一層少年の文外の思いが察せられ、心に深く押し迫ります。

今月の蔵出し

シリーズ世界のお祭り 7 ハロウィン』(ロビン・メイ/著 バーグランド・薫/訳・解説 同朋舎出版 1989.2)

秋になって、店頭やテーマパークで「ハロウィン」の文字を見かけるようになって来ましたね。最近では「経済効果はバレンタインデーを抜いた」という分析もあるようですが、本書は「ところで、そもそも、ハロウィンってなに???」という時にオススメの本です。

もともとは紀元前から現在のイギリスに住んでいたケルト人の11月1日「新年1日め」のお祭りで、1年の収穫を神様に感謝し先祖や死者の霊を弔う日でもあったこと、イギリスを征服したローマ人や、キリスト教、アメリカ大陸への移民とともに各地に伝播・変化・発達したこと等の説明があり、多数の絵や写真も掲載されています。

本書は小学校5-6年生向けですが、大人も充分に楽しめる内容です。もう少し詳しく知りたい方は『ハロウィーンの文化誌』をどうぞ。「第4章 世界的祝祭」には、世界中のコスプレイヤーに大人気の「日本式ハロウィン」も紹介されています。

また、逆に小学校就学前から低学年向けには、絵本『ハロウィーンってなぁに?(主婦の友はじめてブック)』もオススメです。魔法使いの女の子ビビにおばあちゃんがハロウィンの由来や楽しみ方を説明したり、友達と「トリック・オア・トリート」と言いながら楽しんでいる様子が色鮮やかなイラストとともに描かれています。

  【みぃ】

塩狩峠(新潮文庫)』(三浦綾子/著 新潮社 1988)

タイトルの塩狩峠は標高260メートルほどの峠で、日本有数の大河天塩川と石狩川水系の分水嶺です。

明治42年2月28日の夜、急坂を登りつめた列車の最後尾の連結器が外れ、客車が後退をはじめたところ、偶然、乗り合わせていた鉄道職員の長野政雄がとっさの判断で、線路に身を投げ出し自分の体で客車をとめ、長野は殉職、乗客は救われたという事件をもとに書かれた小説です。作者の三浦綾子によって、主人公は永野と書き換えられ、間近に迫った結納のため札幌に向かっていてこの汽車にいた設定になっています。

この作品、数十年前、今や伝説のガイドブックとなっている『とらべるまんの北海道』を手に、文庫本を持って旅をしていた私の学生時代の思い出の作品です。

塩狩峠の線路の横の碑に寄り添って『塩狩峠』を読んだ時、永野は最期の瞬間、何を考えて命を投げ出したのか、職業や生きる意味を深く考えたことを今でも思い出します。読み終えた文庫本を手にしたまま、カーブした鉄路の先に見える空を、ぼんやりとの眺めていると、警笛をならして列車が通り過ぎました。後で聞くと、鉄道員精神をもった先輩に哀悼の意を込めて警笛を鳴らすこともあったとのことでした。

「書を捨てよ、町へ出よう」は寺山修二の評論ですが、よく「書を持って、町へ出よう」を実践していました。今でいえば聖地巡礼、作品の舞台めぐりですが、そこへ行くだけでなく、その場で作品を再読します。必ず以前と違った感覚で作品を見つめなおすことができます。数ある文学作品の舞台での再読では、三毛別(現苫前町三渓)での吉村昭著『羆嵐(新潮文庫)』は臨場感があり、風が吹くだけでも背筋が凍るようでした。

皆さんも「書を持って、町へ出よう」いかがですか。

 【入り鉄砲にディオンヌ・ワーウィック】


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