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本蔵-知る司書ぞ知る(35号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2017年9月20日版

今月のトピック 【芥川龍之介】

今年は芥川龍之介の没後90年にあたります。若くして、かの夏目漱石に短編『鼻』を絶賛され、以後も数々の傑作を物し、「短編の妙手」と謳われた芥川。『羅生門』、『芋粥』、『蜜柑』などの短編小説や『蜘蛛の糸』、『杜子春』などの児童向け作品は、我が国の国語教科書によくとりあげられてきました。的確な表現と端正な文章は、文豪と呼ぶにふさわしいものです。

芥川龍之介全集』第17~20巻 書簡』(芥川龍之介/著 岩波書店 1997.3/4/6/8)

本書には、明治38年から亡くなる昭和2年7月までの芥川の書簡が収められています。小説家としての芥川には近づきがたい孤高のイメージがありますが、彼の手紙には存外気さくで親切な様子が見られ、世間に知られていない芥川の人となりを窺うことができます。

芥川龍之介句集:我鬼全句』(芥川龍之介/著 永田書房 1980)

無季・自由律を入れれば1,014の俳句が収められています。芥川の周りには俳句に巧みな人がたくさんいたようです。学生時代からの友人に久米正雄、東京・田端に集った文士仲間に久保田万太郎や室生犀星がいましたし、正岡子規の「畏友」夏目漱石の門下でもあったので、俳句はごく自然に彼の表現手段の一つとなったのではないでしょうか。

芥川賞・直木賞150回全記録(文春ムック)』(文藝春秋 2014.3)

日本の文学賞の中で、多くの方がまず思い浮かべるのは芥川賞(芥川龍之介賞)でしょう。文藝春秋社社主・菊池寛が、生前親交のあった芥川の死後、その業績を記念して、1935年に直木賞(直木三十五賞)とともに創設しました。本書は芥川賞受賞者の写真とプロフィール、候補作などを記録したもので、受賞者のメッセージなども収録しており、80年を超えるその歴史を知ることができます。

今月の蔵出し

流れ (自然が創り出す美しいパターン)』(フィリップ・ボール/著 早川書房 2011.11)

いつも何気なく見ているものの美しさに気づくと、毎日の景色が少し違って見えてくると思いませんか?この本は、その美しさに気づかせてくれます。

例えば砂漠。典型的な砂漠のイメージも、実は風に運ばれた砂の粒子が流され、つくられるべくしてつくられた形だそうです。風に運ばれた粒子が砂漠の地面にぶつかり、跳ね返った粒子がさらに何度か地面で弾みながら風下に運ばれる。そうしてあの砂漠のパターンが出来上がります。

また、ドライフルーツ入りのグラノーラなどで、袋の残りが少なくなってくるとドライフルーツなどの大きいかけらはなくなり、フレークのくずばかりが残る現象を「ブラジルナッツ効果」というそうです。(ブラジルナッツはナッツ類の中でも大きいものです)これは、グラノーラが製造された工場から家に到着するまでに揺さぶられ、大きさの違う粒子が流れを起こすことによって大きいかけらが上に浮かぶ現象だそうです。(ときどきは大きな粒子が下にしずむこともあるそうです)

その他、川の流れ、排水溝の渦、鳥や魚の群、地球のマントルまで様々な流れについて載っています。身近な現象に流れが存在し、流れのパターンに従って形ができていくことを知ると、日常の出来事も飽きることなく眺めることができると思います。ぜひこの本で「流れ」が創り出す美しさを楽しんでみてください。

この本はシリーズ3部作になっています。本書は第2部で、第1部『かたち (自然が創り出す美しいパターン)』、第3部『枝分かれ (自然が創り出す美しいパターン)』があります。どの順番で読んでも楽しめます。

 【おすしちゃん】

汲む:詩画集』(茨木のり子/詩  宇野亜喜良/絵 ザイロ 1996.9)

『汲む:詩画集』は、少し変わった形状をしています。

横に長くつなぎ合わせた紙を折り畳んで作る「折本」です。折り畳んでいる紙を伸ばすと宇野亜喜良の美しい絵が広がって、茨木のり子の詩をより心に深く刻みつけます。

茨木のり子といえば、「わたしが一番きれいだったとき」が教科書に掲載されるなど、戦後の代表的な詩人です。彼女の詩は、後藤正治著の伝記『清冽:詩人茨木のり子の肖像』のタイトルのとおり、読者に清く澄んでいるという印象をあたえます。

この詩集の表題になっている「汲む ―Y・Yに―」という詩にはずいぶん昔に出合いましたが、感銘をうけて永く心に残っています。この詩は茨木のり子の詩の中でも多くの人がとりあげています。一部を紹介します。

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな

ぎこちない挨拶 醜く赤くなる

失語症 なめらかでないしぐさ

子どもの悪態にさえ傷ついてしまう

頼りない生牡蠣のような感受性

それらを鍛える必要は少しもなかったのだな

(中略)

あらゆる仕事

すべてのいい仕事の核には

震える弱いアンテナが隠されている きっと……

多くの人が、この詩に勇気づけられたのではないでしょうか。

『汲む:詩画集』には、代表作「自分の感受性ぐらい」など11編が収められています。

近年では『倚りかからず』が、詩集としては異例の15万部を売り上げました。茨木のり子73歳の時です。人をみつめる温かなまなざし、凛として生きる姿勢が、多くの人から共感を得たのはないでしょうか。

茨木のり子の世界をのぞいてみませんか。きっとこころに残る言葉に出合えることでしょう。

【haru】


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