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本蔵-知る司書ぞ知る(34号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2017年8月20日版

今月のトピック 【原子爆弾被害状況の資料】

先月、核兵器禁止条約が国連において採択されました。その前文に「核兵器の使用の被害者(ヒバクシャ)及び核兵器の実験により影響を受ける者にもたらされる容認し難い苦しみと害」とあるとおり、唯一の被爆国である日本は原子爆弾によって甚大な被害を受けました。2度と繰り返してはならないその惨禍を克明に記述する資料について、以下3点紹介します。

『広島原爆戦災誌』(広島市役所/編 広島市役所 1971)

総説(第1巻)、各地区や各事業所等の被爆状況を詳細に記述する各説(第2~4巻)資料編(第5巻)からなる全5巻で構成されており、各種調査資料や体験者の証言等を網羅的に収録しています。なお、当資料は平和データベース(広島平和記念資料館)にて、全文PDF公開されています。

『長崎原爆戦災誌』(長崎市役所/編 長崎国際文化会館 1977~1985)

総説編(第1巻)地域編(第2巻)続地域編・終戦前後編(第3巻)学術編(第4巻)資料編(第5巻)からなる全5巻で構成されています。現在、国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館による英訳事業が取り組まれており、その一部暫定版が国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館ホームページにて公開されています。

広島、長崎に対する原子爆弾の効果』(合衆国戦略爆撃調査団総務部/編 広島平和文化センター 1987)

米国調査団による調査・分析資料を日本語訳したものです。原子爆弾の作用や効果について記述しています。他にも、同調査団による資料として『広島および長崎の保健・医療部門に対する原子爆弾の効果』、より詳細な『広島に対する原子爆弾の効果』(全8分冊)を所蔵しています。

今月の蔵出し

和の心日本の美松江:三十六人の「松江物語」』(松江観光協会/編 松江観光協会 2007.5)

「松江」と聞いて、何を思い浮かべますか?宍道湖や松江城、お茶の文化などを思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。その他にも、松江には様々な魅力があります。「松江」の事をあまりご存じではない方には、特におすすめしたい一冊です。

この本には、文人や著名人によって書かれた松江についてのエッセイが三十六編収録されています。執筆者の中には、松江市や島根県出身の方もいれば、そうではない方もいます。そのような方々がいろいろな形で松江と関わり、その中で感じた印象や、想い出などを語っています。松江の名所やお祭りなどの様子を写した写真も掲載されており、この一冊に、松江に対する多様なイメージが凝縮されています。

私自身、一時期松江に暮らしていたことがあり、その頃の事を思い出しながら読み進めていましたが、同じものを見ていても人によって着目する点がこうも違うのだな、と興味深く感じました。例えば、しじみで全国的にも有名な宍道湖ひとつとっても、よく言われる夕景の美しさだけではなく、湖を泳いだ時に足の裏で触れたしじみの感触、渡ってくる水鳥たち、そこで採れる食材など、バラエティに富んだ視点で取り上げられています。

また、松江を「神々の国の首都」とその著作の中で表現し、今でも松江の人たちに「へるんさん」として親しまれている小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)や、松江城と堀川、神魂神社に温泉など由緒ある地への言及も多く、風情豊かな松江を手軽に満喫できる一冊となっています。

松江を再発見できる本としては、その他、『松江観光事典』、『松江誕生物語』、『道ばたで出会った日本:松江・ハーン・ヒロシマ』などもおすすめです。

 【Dora】

シーハン博士のランニング人間学』(ジョージ・シーハン/著 新島義昭/訳 森林書房 1981.9)

私が初めてフルマラソンを走ったのは2005年のことでした。辛く、苦しいレースでしたが、この大会の完走をきっかけにマラソンの虜になり、今では100キロを超える大会にも参加するようになりました。ちょうどそのすぐ後、第1回東京マラソンが開催された2007年頃に日本にマラソンブームがやってきます。『レジャー白書2016』*によると日本のランナー人口は2,000万人を超えると言います。また、ウルトラマラソンや山岳マラソンなど、過酷ともいえる大会が各地で開かれるようになりました。なぜマラソンは人を惹きつけるのでしょうか?

日本に先立つこと30年、アメリカでは1970年代にマラソンブームが起こりました。本書はちょうどその真っ只中の1978年にアメリカで刊行されました。著者のシーハン博士(1918-1993)は44歳から走り始めた市民ランナーであると同時に医者、思想家、そして哲学者です。本書ではそんなシーハン博士が生きるとは何か、スポーツとは何か、走るとは何かについて、自らの体験を、そして哲学者や文学者、詩人らの言葉を駆使して語りつくします。マラソンに関する本ですが、走り方も練習法も栄養学もほとんど出てきません。しかし、その言葉は、多くのランナーが感じているであろうことを、的確に表現しているように思うのです。

なかでも、第14章「負ける」、そして第15章「苦しむ」がおすすめです。なぜ人は苦しみながらも走り続けるのか、「苦しむ」の中でシーハン博士は語ります

“私はきびしい目標に立ち向かい、試練を受けたいのだ。自己の限界を知り、乗り越えたいのだ。単に走り、楽しみ、創造しているだけでは物足りないのである。”

これこそがマラソンの魅力だと、私も思うのです。

本書は本国アメリカではもちろん、スペイン語版やフランス語版なども版を重ねているのですが、残念ながら現在のところ日本においては絶版になっています。走っている方も、走るのが嫌いな方も、図書館でお借りいただき、ぜひご一読ください。

*の資料は館内利用のみです。

【Running Librarian】


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