大阪府立図書館

English 中文 한국어 やさしいにほんご
メニューボタン
背景色:
文字サイズ:

本蔵-知る司書ぞ知る(32号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2017年6月20日版

今月のトピック 【大阪港開港】

今年は大阪開港150周年。これを記念し、6月21日(水曜日)から1階展示コーナーで、大阪歴史博物館と連携した企画展示「水都大阪の歩み 近世から近代の川と港を中心に」が始まります(8月20日(日曜日)まで)。今回は、この展示の中から、大阪港開港当時の様子がわかる図書をご紹介します。

大阪港の生い立ち』(大阪港史編集委員会/編 大阪市港湾局 1959)

昭和32(1957)年7月15日に迎えた開港90年を記念した事業として編纂された『大阪港史』(第1巻 934ページ参照)を基に、小史にまとめた内容です。7世紀の地名「難波津」の説明から始まり、多数の写真や古地図が掲載されています。巻末に「大阪港主要年表」もあります。

大阪港物語:人、モノ、情報の集まるみなと』(羽原一三/著 関西新聞出版局 1988)

『関西新聞』に連載された「大阪港ものがたり」全193回をまとめた図書です。著者は長年海運・港湾事業に携わられた方で、歴史の縦軸の中にその視点も光っています。「第5章 近代の大阪」では、五代才助(友厚)が川口運上所(後の大阪税関)の初代長官となり、押し寄せる外国列強と対峙したことも書かれています。

水都大阪盛衰記(新なにわ塾叢書)』(大阪府立文化情報センター/編著 ブレーンセンター 2009.8)

江戸時代以来の大阪の「学塾」の伝統を受け継いだ「新なにわ塾」の講座をまとめた『新なにわ塾叢書』の1冊です。堀田暁生(大阪市史編纂所長)の講演「川口港とその周辺 川口外国人居留地と文化」と巻末の資料から、建築・洋服・食べ物などの「大阪の文明開化」の様子がわかります。

今月の蔵出し

わたし、いややねん』(吉村敬子/文 松下香住/絵  偕成社 1980.10)

37年前の刊行ながら、「多様性」がキーワードの今、光をあてたい絵本の蔵出しです。
タイトルに、「なにがいややのん?」と表紙を眺めると、題字の下にある「もの」。表紙から本文、裏表紙まで、登場する絵はこの「もの」の姿だけです。
表紙で正面から読者と向き合っていた「もの」は、「わたし でかけるのん いややねん」でたたまれ、「ひとの ようさんいてるとこ きらいや」で横倒しにされ、「あんまり 行きたない」と包まれ…。
正確に描かれた、「道具」であり「移動手段」であり「体の一部」でもある「もの」が、読者と正面から向き合い、横を向き、たたまれ、包まれ、包みから出て開かれ、遠ざかったり、近づいたり、大活躍します。
そして…。
その「もの」とは、車椅子。
でも、この作品は、車椅子使用者の思いの吐露にはとどまっていません。「すべての人が、なんでもなく、ふつうに、快適なくらしができるような社会に」という著者の願いは古びることなく、いじめや事故、自然災害や犯罪被害、そのほかさまざまな「生きづらさ」に共鳴します。
「小さい頃から、私は外へ出かけるのが割合に好きだった。でも、心のどこかに、人の目に対する恐怖感が全くなかったとはいえない。」と書き起こされるあとがきでは、著者自身が執筆時に直面していた社会的バリアと、執筆中の気持ちの変化が述べられ、それが最終ページのあの一言に結実したことがわかります。
初版は1980年、「一緒に成長する」意味を社名にこめた偕成社から出版されました。
大阪府内市町村図書館でも数館所蔵がありますが、大阪府立中央図書館をご利用の方は、ぜひ、この本の「蔵出し」をお試しください。A5サイズで厚みも1センチほどの小さな絵本です。

【笑門来福】

ディック・ブルーナ:ぼくのこと、ミッフィーのこと』(ディック・ブルーナ/[著]  講談社/編 講談社 2005.4)

世界中で愛されている絵本の主人公「ミッフィー」。2017年2月16日、ミッフィーの作者ディック・ブルーナは、その生涯を閉じました。

1955年、オランダ語で子うさぎという意味の絵本「ナインチェ」が出版されました。幼かった長男が眠りにつくとき、ベッドサイドで、うさぎを主人公に即興で語っていたおはなしを元に作られたこの絵本は、日本では、児童文学者・石井桃子によって『ちいさなうさこちゃん』(第1版)と翻訳され、英国では「ミッフィー」と翻訳されました。当時のミッフィーは、点のような丸い目と×の形をした口元は同じですが、手描き風で今のミッフィーよりも素朴な印象でした。

ディック・ブルーナ:ぼくのこと、ミッフィーのこと』は、生き方や創作へのこだわりなどについて、ブルーナが77個の質問に答えるインタビュー形式で構成されています。例えば、ミッフィーは、なぜいつも正面を向いているのでしょう。まっすぐなまなざしの子どもたちと正直に対峙したいという気持ちから、正面を向く姿勢になりました。また、決められた6色のブルーナカラー、15.5cm四方の正方形の判型など、シンプルな形にこだわるのはなぜでしょう。想像力の余地を残し、子どもが自由に感じられる絵本を目指しているからです。ブルーナの温かく誠実な人柄が伝わり、立場や目指すものが異なっても、熱い気持ちと努力を続けることができれば一人一人が輝くことができるというブルーナの信念が胸に響きます。

肉親の死を扱った『うさこちゃんのだいすきなおばあちゃん(ブルーナの絵本)』、盗みをしてしまった罪悪感を描く『うさこちゃんときゃらめる(ブルーナの絵本)』など、いつも新しいテーマ、表現方法に挑戦し続けてきたブルーナの作品をこれ以上見ることができないのは残念ですが、『ディック・ブルーナのすべて』『ディック・ブルーナのデザイン(とんぼの本)』では、ブルーナについてより深く知ることができますので、ぜひご覧になってみてください。(本文敬称略)

【gardenia】


PAGE TOP