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本蔵-知る司書ぞ知る(31号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2017年5月20日版

今月のトピック 【アンディ・ウォーホル】

今年はアンディ・ウォーホルの没後30年にあたります。キャンベルのスープ缶の広告やマリリン・モンローなど著名人の写真をシルクスクリーンに転写した作品は、誰もが目にしたことがあるのではないでしょうか。従来の芸術の概念に反旗を翻し、指導的なポップアーティストとして活躍したウォーホルの作品を堪能できる資料を紹介します。

アンディ・ウォーホル全版画:カタログ・レゾネ1962-1987』(アンディ・ウォーホル/[画] 美術出版社 2003.9)

1962年に最初に紙を用いて製作された1点ものの作品から、1987年に発表された最後のポートフォリオまで、試し刷り版画と未出版版画も含めたウォーホルの全グラフィック作品を収録しています。図版1700点に完全製作データを付し、巻末には「版画制作年譜」、「版画展史」が掲載されています。

アンディ・ウォーホル(Shinchosha’s super artists)』(アンディ・ウォーホル/著 新潮社 1990.10)

セルフポートレイト、ドル札、マリリン・モンロー、毛沢東、スープ缶、モナリザ等61件の作品が掲載されています。また、ミラノでの「最後の晩餐」展の直前(1987年1月)に行われたウォーホル最後のインタビューが収録されており、彼のコマーシャルアーティストやアートについての考え方を伺い知ることができます。

アンディ・ウォーホル展』(アンディ・ウォーホル/[画] [アンディ・ウォーホル展実行委員会] 1989)*

1989年に開催された「アンディ・ウォーホル展」の図録です。未公開の貴重な作品を含む絵画およびグラフィックス等の主要な作品が掲載されています。『美術手帖』1973年11月号増刊に発表された美術評論家、石崎浩一郎氏の「銀色の生ける死」が収録されており、芸術作品の個性的創造ということの意味を逆転させ、絵画作品を量産させたウォーホルについて述べられています。

*の資料は館内利用のみです。

今月の蔵出し

ショスタコーヴィチの証言』(ソロモン・ヴォルコフ/編 中央公論社 1980.10)

今回紹介する『ショスタコーヴィチの証言』はソロモン・ヴォルコフによるソ連の作曲家ショスタコーヴィチ(1906‐1975)へのインタビューにより構成された本です。もう少し正確に言うと、ヴォルコフが文章化し、ショスタコーヴィチが承認のサインをして成り立ったものです。ふたりは最終稿をソ連時代のロシアでは活字にできないと判断してヴォルコフが原稿を国外に運びだし、ショスタコーヴィチの死を待って1979年にアメリカで出版されました。

その内容はスターリンに対する徹底した嫌悪と共産主義体制への批判に満ちており、ソ連のプロパガンダ映画の音楽を担当し、重要な賞を受賞していたそれまでのショスタコーヴィチ像と違ったことで世界に大きな反響を呼びました。

そのために、ショスタコーヴィチに痛烈に批判されたソ連政府はこれを「偽書」としましたが、その後アメリカの音楽学者からもこの本に疑問符が投じられました。そのあたりのことは、千葉潤『ショスタコーヴィチ(作曲家・人と作品シリーズ)』の178-182頁に簡明に記載されています。ちなみに、著者の千葉氏は『ショスタコーヴィチの証言』を「偽書」としています。

はたしてこの『ショスタコーヴィチの証言』は「偽書」なのでしょうか。ショスタコーヴィチはソ連の体制派なのでしょうか、反体制派なのでしょうか。彼の真意はどこにあるのでしょう。

ロシア語を解さない、音符の読めない私には結論を出すことができません。

しかし、主題が明快でありながら、滑稽、諧謔、風刺、皮肉がちりばめられた彼の音楽作品のように、ナチスに侵略された祖国がスターリン体制下のソ連であり、息が詰まるような時代と社会を渡り歩いた作曲家の単純には割り切れない複雑な心情、人生を知れば、こうした奇書が生まれるのもむべなるかな、と思います。

【茶風鈴】

ゴリラが胸をたたくわけ(たくさんのふしぎ傑作集)』(山極寿一/文 福音館書店 2015.9)

ゴリラが胸をたたいている姿を見たら、「怖い、威嚇してる」と思ってしまいます。映画「キングコング」ではゴリラを巨大化したような怪獣が大暴れをし、ゴリラ=凶暴のイメージがありましたが、この本を読むと、ゴリラのイメージが一変します。

著者がアフリカでゴリラの調査をしていると、あるゴリラが胸を張り、両手で胸をたたきました。「ゴリラのドラミングだ」と気づいた著者は、ドラミングが戦いの宣言と言われているのを思い出し緊張します。ところがゴリラが襲い掛かってくる気配はありません。「自分が敵でないとすると、敵は近くにいるはず」と思っていると、ずっと遠くからドラミングの音が聞こえてきます。相手が遠くに離れているので戦うことはできません。ゴリラは向こうの群れのゴリラとドラミング合戦をしているようです。そこで著者は「ドラミングって本当に戦いの宣言なのだろうか」と疑問を持ち、観察を続けます。

子どもゴリラもよくドラミングを行います。顔に笑いの表情を浮かべて、子どもゴリラの集団に近づきドラミングします。相手を遊びに誘うときにもドラミングをします。

人間にとっての言葉のように、ゴリラにとってのドラミングは相手に自分の楽しい気分を知らせるサインとして使われることもあるようです。

著者のゴリラに対する愛情や尊敬の気持ちが伝わり、ゴリラが愛おしく感じられます。全頁に絵がついていて、くりっと丸い目が愛らしいゴリラがたくさん描かれています。もっとゴリラについて知りたいと思う児童書です。

今回紹介した『たくさんのふしぎ』シリーズは絵、写真が豊富に付いています。子どもにいろいろな事柄に興味を持ってもらえるよう、分かりやすく描かれていて、おとなの方にもおすすめです。

【くるくる】


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