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本蔵 -知る司書ぞ知る(27号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2017年1月20日版

生命はなぜ生まれたのか:地球生物の起源の謎に迫る(幻冬舎新書)』(高井研/著 幻冬舎 2011.1)

生命はなぜ生まれたのか、誰もが興味を抱くテーマです。無から有がどうやって生まれたのか、知りたいと思いませんか。本書は、40億年前の原始地球と同じような環境の現在の深海を調査することによって、地球生物の起源の謎に迫ります。

著者によると、宇宙における生命の誕生と繁栄を考える上で極めて重要なのは、海底や地下の「高温の岩石と水の化学反応」だそうです。地球以外の岩石型天体でも水が存在していれば普通に起きる化学反応であり、宇宙共通の単純な現象であると言います。

深海底には、熱水などの水の流れによって、マントルや地殻の中に存在する地球内部エネルギーが出ている場所があります。その熱水活動が無機・有機物を濃縮し、無数の有機物発酵生命が誕生する場になったと言います。しかし、そのほとんどすべては生命活動の持続に必要なエネルギーを確保することができずに消え去っていったのだと。ただ、一定の熱水活動域の熱水には、水素の濃度が群を抜いて高く、そこに「誕生した無数の有機物発酵生命の中から、熱水から供給される高濃度の水素と海水中の二酸化炭素をエネルギー源として原始的なメタン生成やその他の水素エネルギー代謝能を持った『最古の持続的生命』が生まれた」と言います。
こうして、地球誕生6億年後の40億年前に最初の生き続けることができる生命、メタン菌が誕生したというのです。生命は、その後5億年から10億年という長い時間をかけて、太陽光を利用してエネルギーを得ることができるシステムを獲得します。その光合成生物が、地球規模の生態系を支えるに足る役割を果たすようになるのは30億年前程度と考えられるそうです。

本書は、何度か読み返さないとわからない難解な部分もあり、いわば新書の域を超える科学読本です。しかし、「熱水は岩石から海水でとった出汁」といったように、鶏ガラや、豚骨などを使ったラーメンの出汁というたとえと対比しながら、おもしろおかしく、わかりやすく解説している部分もあります。難しい本ではあるものの、軽妙な文体と合わせ、著者のできるだけわかりやすく書きたいという気持ちが現れていて好感が持てます。

著者は海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究者で、深海や地殻内などの極限環境に生息する微生物や生物の生理・生態や、その生態系の成り立ちと仕組みの解明が専門の微生物地球学者です。著書には、ほかに『微生物ハンター、深海を行く』があります。「しんかい6500」で世界中の海へ潜り、人類の共通祖先となり得る微生物を探す著者の自伝本です。併せて読むと、より理解が深まるかもしれません。(文中敬称略)

 【慈】

数学の秘密の本棚』(イアン・スチュアート/著 ソフトバンククリエイティブ 2010.3)

「数学は、学校で教わるものだけじゃない。それどころか、学校で教わらない数学の方が面白い。テストを受けたり正しい答を出したりする必要がなければ、面白いことがたくさんあるんだ」(p.1)

数学が好き、と人に言うと怪訝な顔をされることがあります。「自分は数学ができない」という苦手意識を持っている人も多いと思います。数学で重要なのはいかに速く数式が解けるかでしょうか。それともテストで何点以上とれるかでしょうか。

『数学の秘密の本棚』の著者、イアン・スチュアートは1945年生まれのイギリスの大学教授で、数学の短い話を語るのがとても上手です。この本は、彼が14歳のときから50年近く集め続けた、数学の面白い話をもとに作られました。パズル、ジョーク、伝説、数学者の小話、専門用語とたくさんの数学的なネタが詰まっています。この本を開いてみると、数式はあまり出てきません。それよりも写真やパズル、奇妙な図形がよく登場します。また誰もが学校で習ったピタゴラスの定理から、ときにはメルセンヌ素数、フラクタル幾何学、ポアンカレ予想、などの高度な話まで、できるだけ分かりやすく話してくれています。高度な数式を理解することは強要されません。クイズ形式のコラムも、ひとしきり考えてみて難しければ、後ろについている答えを見ることができます。興味が持てない話題は飛ばせます。もちろん、紙と筆記用具を用意して、時間をかけて自分の力だけで答えを見つけるのも楽しいと思います。

また、本書ではマッチ棒を動かす問題、電卓を片手に遊ぶ話、楕円の描き方など数学的な話題がたくさん紹介されています。その中にはこんな短いジョークもあります。「世の中には10種類の人間がいる。2進法が分かる人間と、分からない人間」(p.89)それぞれの話題には毎回見出しがついているのですが、本当に数学の話だろうか?と思ってしまうものもあります。「偽コインを見つける」「魔六角陣」「川渡り2──やきもち焼きの夫婦」「公平な分け方」「電気、ガス、水道を引く」など。

同じ著者の続編で『数学の魔法の宝箱』という本もあります。前巻と同じく数学的話題を集めたものです。最後に、その中から(1)「数学者の数学に関するつぶやき」と(2)「数学者でない人の数学に関するつぶやき」を紹介します。

(1)「私の手にかかれば、すべてが数学に変わる」(p.97, ルネ・デカルト)

(2)「数学が苦手でも心配するな。きっと私の方がもっと苦手だ」(p.203, アルベルト・アインシュタイン)

【祭】

あしながおじさん (岩波少年文庫)』(ウェブスター/作 遠藤寿子/訳 岩波書店 1969.7)

手紙はお好きですか?
面倒、書くのは手が疲れる、長い文章を読むのがしんどい、返信までに時間がかかる。
敢えて挙げてみるならそんなデメリットもありますが、私は手紙を書くのも、読むのも大好きです。
電子版手紙ともいえる電子メールでさえ、より早く、感覚的にやり取りが出来る短文のコミュニケーションツールに押され気味な昨今、こういった本はもしかして今後出版されなくなってくるのでは?とひとり、焦燥感を抱きました。

『あしながおじさん』は、昨年没後100年を迎えたアメリカの女性作家、ジーン・ウェブスターが1912年に発表した作品で、原著名は『Daddy-Long-Legs』、日本でのタイトルは原著名そのままの訳となっています。ちなみに、『あしながおじさん』の中に登場する主人公の親友、サリーを主人公とした邦訳名『続あしながおじさん上』の原著名は『Dear Enemy』、直訳すると「拝啓 敵さま」。こちらも気になるタイトルですが、『あしながおじさん』後の話となりますので、ぜひ『あしながおじさん』を読んだ後に読んで頂きたい一冊です。
孤児院で育ったジルーシャは、名前を名乗らないある人の援助を受けて大学に入るのですが、「手紙を毎月欠かさず送り、大学での様子を報告すること」がその条件として出されました。
ジルーシャはその人の影を偶然見かけたときの印象から、名前を名乗らない援助者に「あしながおじさん」という愛称を付けます。
当初の約束通りとは言え、手紙を出しても出しても返事をくれない「あしながおじさん」に、時には少し拗ねてみせながらも、ジルーシャはこまめに手紙を出し続けます。
この本は書簡体小説で、最初の導入部分のエピソードを除き、全てジルーシャからの手紙のみで構成されています。
4年間の楽しい大学生活を生き生きと書き送るジルーシャ。そして、その中で現れた男性に恋をしますが、孤児という身の上から、苦悩します。
相談する相手がいなかったジルーシャは、誰かに聞いてほしいという気持ちだけで、あしながおじさんに手紙を送ります。
こちらの翻訳では、その中での言葉がとても美しくて、私はとても好きなので引用します。
「月の光が美しいのに、あのかたがここであたしといっしょにながめてくださらないから、あたしはあの月の光がにくらしいのよ。けれども、あなただって、だれかを恋したことがおありでしょう。だから、あなたはおわかりでしょう?」
全編を通して、とても素直な言葉で、精一杯伝えようとするジルーシャに、癒され、励まされる一冊です。
なお、『あしながおじさん』は、NHKの連続テレビ小説「花子とアン」の主人公のモデルにもなった村岡花子さんを始め、色んな方が訳されています。
ご紹介した本の初版は、1933年出版。この本で初めて『あしながおじさん』のタイトルが使われ、当初のタイトルは『あしながおぢさん』でした。翻訳された時期により、当時の読者に受け入れられやすいような表現に工夫されていることが多いので、訳者による違いを楽しんでみるのも良いかもしれません。当館にもいろんな訳者によるものの所蔵があります。

最後に、携帯電話の普及率が既に9割を超えていたタイミングで出版された、敢えての書簡体小説をご紹介したいと思います。森見登美彦『恋文の技術』は、恋文とありますが、『あしながおじさん』と同じぐらい、恋愛要素は控えめで、基本的にはこちらも学生生活を中心に、コメディータッチで描かれています。私が手紙を、書簡体小説をなぜ好きなのか、その答えは、この本に書かれていました。
「どういう手紙が良い手紙か。」そのあとに続く言葉、私もまったく同感です。
この本の主題とも言える言葉なので、あえてここには書きません。ぜひ最初から読んで頂き、ご自身の目で確かめて頂けたら嬉しいです。

【いろは】


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