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本蔵 -知る司書ぞ知る(18号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2016年4月20日版

『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎/著)

中学生の「コペル君」が友達との出会いや学校での出来事を通して、人生を生きるための羅針盤を獲得していく物語です。長い間読み継がれてきた本ですので、学校図書館などでタイトルを目にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
「コペル君」という名前は叔父さんがつけたニックネームで、地動説を唱えた天文学者・コペルニクスの頭三文字から採られました。主人公がデパートの屋上から地上の人込みを眺めていた時に感じた「人間は水の分子のようなもの」という感覚、言い換えれば自己中心的な幼児的世界観から脱け出して自分を相対化していく経験を、天動説から地動説への大転換になぞらえたものです。コペル君の父は既に亡くなっていて、母の弟であるこの若い叔父さんが、自然科学、経済学、歴史や哲学などの広範な知識を分かり易く説くとともに、コペル君自身の経験や発見を将来に向かって考え続けるよう方向づけるメンターの役割を果たします。
本書は『日本少国民文庫』(全16巻)の最終配本として、新潮社より1937(昭和12)年8月に出版されました。当時、ヨーロッパではムッソリーニやヒトラーが政権の座に就いていました。同年7月には盧溝橋事件が起こり、翌1938(昭和13)年には日本では国家総動員法が制定されています。『日本少国民文庫』は山本有三の企画編集によるもので、背後には、言論活動に対する制約が厳しさを増す中、次の時代を背負う少年少女には「偏狭な国粋主義や変動的な思想を越えた、自由で豊かな文化のあることを、なんとかしてつたえておかねばならないし、人類の進歩についての信念をいまのうちに養っておかねばならない」(『ジュニア版 吉野源三郎全集1』(ポプラ社)巻末「作品について」)という思いがありました。
終戦後、本書は改訂を加えつつ新潮社から版を重ねました。1967(昭和42)年にはポプラ社から『ジュニア版 吉野源三郎全集1』として刊行され、この際にも改訂されています。1982(昭和57)年には1937(昭和12)年の新潮社版を底本とした岩波文庫版が刊行されましたが、この巻末には丸山真男の「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想―吉野さんの霊にささげる―」が収められています。

執筆されたのが約80年前ですので、背景となる社会の状況は現代と大きく異なります。コペル君の通う「中学」は男子の中等教育を行う旧制中学校ですし、貧富の差は激しく、銀行の重役だった父が亡くなった後「郊外の小ぢんまりとした家」に引っ越し「召使の数もへらし」たコペル君の家にさえ「ばあやと女中が一人」いる一方(引用は岩波文庫版による)、貧しい同級生は家業の豆腐屋の手伝いのために学校を休むこともあり学業に専念できません。1937(昭和12)年新潮社版に登場する「省線電車」は、2000(平成12)年ポプラ社版では「国電(現在のJR)」に変更されています。しかし、コペル君の父の心からの望みであった、コペル君にりっぱな人間になってもらいたいという思いや、コペル君を導きその成長や躓きを温かくまた厳しく支える叔父さんやお母さん、そしてコペル君自身の持つ、自ら考え成長していこうとする力など、物語の核心となる部分には、時代を超えて若い人たちとその親たちに訴えかけるものがあります。
当館では、新潮社版、ポプラ社版(ジュニア版吉野源三郎全集1同改訂版ポプラポケット文庫の3種)、岩波文庫版を所蔵しています。また、国際児童文学館では1937(昭和12)年刊行の初版初刷もご覧いただけます。*

2011(平成23)年に出版された梨木香歩著『僕は、そして僕たちはどう生きるか』は、現代の日本を舞台にした作品ですが、ここにも主人公として中学生のコペル君が登場します。命名の由来は母の弟である「叔父が子どもの頃読んだ本の主人公の名前」であり、本書との強い関連が示唆されます。登場人物たちの抱える問題は当然の事ながら遥かに現代的で、同時代に生きる大人として胸を衝かれますが、平成のコペル君も自分自身や社会について考えを深め、これからの人生を真摯に生きていこうとします。

若いころに読んだ本と再会し、世代の異なる人たちと共有していただけることも、図書館の喜びのひとつです。

*国際児童文学館の資料は館内利用のみです
【OC】

「日本国憲法」を読み直す』 (井上ひさし/著 講談社 1994.1)

今年は、日本国憲法公布(1946年11月3日)から70年めにあたります。昨年2015年は戦後70年とからめて憲法論議が大変盛んな年となりました。
本書は、今からほぼ20年前の1994年、戦後50年に際して出版されたもので、作家・井上ひさしが宮城県仙台第一高等学校の同級生で、憲法学者である樋口陽一と対談したものです。
樋口陽一は、比較憲法学の第一人者であり、英語、ドイツ語、フランス語、ラテン語等の語学にも堪能で、国際感覚にも卓越した学者です。その彼が日本国憲法をフランス、ドイツなどの諸外国の憲法と比較しながら、世界の中の日本国憲法の位置・性格を解き明かしてゆきます。「九条の会」呼びかけ人の井上は日本国憲法の理念を明らかにすべく、樋口に情熱をもって問いかけています。
この本は、のちに講談社文庫として出版、2014年7月にはその改訂版として岩波現代文庫の形で出版されました。この岩波版では、樋口による「ある劇作家・小説家と共に<憲法>を考える」が収録されています。その中で、樋口は2010年に亡くなった友・井上ひさしについて「作家井上ひさしにとっての憲法」、「憲法にとっての井上ひさし」を論じています。

日本国憲法の理念を考えるうえで参考となるものには、同著者の岩波ブックレット『先人たちの「憲法」観 “個人”と“国体”の間』が挙げられます。これは、体系的なものでなく、選び出された対象は、法学・社会諸科学の専門家の書いたものではありません。「専門家の間での論議ではなく、世の中一般で、多かれ少なかれ指導的な役回りをするような立場にいた人々の言説」をとりあげています。日本帝国憲法の創設時の人権についての伊藤博文と森有礼のやりとりを記した章は、特に興味深いです。この時代は、政治家たちにも西洋諸国に日本を認めさせよう、不平等条約を打破したいという熱い思いがひしひしと感じられ、彼らも真摯に憲法を論じていたのだと強く感じました。

 2016年3月に出版された『「憲法改正」の真実』は、“改憲派”の小林節と“護憲派”の樋口陽一の対談が大変刺激的で興味深く、日本国憲法の改正について深く考えるために最適な資料となっています。上記2冊と合わせて一読されてみてはいかがでしょうか。

【雀】

ふれる世界の名画集』(日本点字図書館点字制作課/編 日本点字図書館 2012.3)

当館には、心身に障がいのある方へのサービスを担当する障がい者支援室が1階にあります。ここでは障がいのため図書館にお越しいただけない方に、点字図書や録音図書の貸出などをおこなっています。点字図書館とは違って、所蔵している点字図書は少ないのですが、当館にないものは他の図書館から取り寄せてお借りいただいたりもしています。今回は、当館所蔵の点字図書の中から、『ふれる世界の名画集』をご紹介します。

この本は、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」、ミレーの「落ち穂拾い」、ムンクの「叫び」など西洋の代表的な絵画12作品を浮き彫り彫刻のように半立体化し、触ることで絵の理解を促す本です。本文では大活字と点字が両方印刷されていて、作者や絵の背景だけでなく、その絵にどのようなものがどのように書かれているかもわかるように解説されています。たとえば、40ページ。ミレーの「落ち穂拾い」では、つぎのように書かれています。「図は横書きで、3人の人物が横1列に並んでいます。一番右端の女性は1人離れて立っていますが、左の2人は手前と奥に重なり、左端の女性が半分ぐらい隠れています。」

このように、世界的に有名な絵画が実際にどのようなものかを触って知ることができ、芸術に親しむ第一歩となる1冊です。当館で所蔵しているものは少し摩耗していますが、そのことから、多くの利用者に触れられ、楽しんでいただけたのではないかと考えています。

最近では、美術館でも美術作品に触れる機会が増えてきています。近くでは、「六甲山の上美術館 さわる ミュージアム」が兵庫県にあり、約100点の作品を触ることで、一つ一つの作品とじっくり向き合うことができます。また、徳島県には、世界の名画に触れることができる「大塚国際美術館」があり、非常に人気があるようです。誰もが知っているであろう「モナリザ」や、「最後の晩餐」など世界の名画が1,000点以上展示されています。写真を撮ってもOK!展示品は全て高い技術で作られたレプリカですが、レプリカと言っても侮るなかれ。大きさも全て原寸大で再現されているので、美術書や教科書と違い、原画が持つ本来の迫力を味わうことができることと思われます。

今回ご紹介した『ふれる世界の名画集』とあわせておすすめしたいのは、東京点字出版所発行の『世界地図』です。この本も立体加工されていますので、『ふれる世界の名画集』で、それぞれの作品を所蔵する美術館のある国を知り、その国をこの『世界地図』でたどるなど、日本に居ながらにして世界の美術館が体験でき、なお一層世界の名画に親しむことができるかもしれません。ぜひ、お試しください!

【Maria】


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