大阪府立図書館

English 中文 한국어 やさしいにほんご
メニューボタン
背景色:
文字サイズ:

本蔵 -知る司書ぞ知る(6号)

更新日:2024年1月5日

本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2015年4月20日版

リトル・ベティー・ブルー:猫のマザーグース』(YOUCHAN/著 瑞雲舎 2002.12)

この本は絵本です。こども資料室にあります。
著者のYOUCHAN(ユーチャン)は、本名を伊藤優子という東京在住のイラストレーターで、日本SF作家協会の会員でもあります。この本は著者の初めての絵本で、もともとは台湾で出版されたものを、内容や版型などを改めて、日本でも発刊したものです。

副題にあるとおり、内容はマザーグースです。マザーグースの詩をYOUCHANが翻訳したものですが、絵本に主役として登場するのは猫で、翻訳も猫が主役ということでかなり大胆な意訳が試みられています。たとえば「Wee Willie Winkie」は「小さなウィリー・ウィンキー」とでも訳すのが正しいのでしょうが、この絵本では「黒猫ウィリー・ウィンキー」と訳され、パジャマ姿で街をさまよいながら寝ない子を探すウィリーは黒猫として描かれています。
また書名となった「リトル・ベティー・ブルー」ですが、本書のコンテンツでは「ベティーのゆううつ」と題され、赤いドレスに赤いリボン、右足だけに赤い靴を履いた女の子の猫が、困った顔で立っている姿が描かれています。そして「あとがき」に書かれているように、ここでも大胆な意訳が施されて、ちょっとあやしげで奇妙な味の詩になっています。

なぜ書名が『リトル・ベティー・ブルー』で、なぜ登場するのが猫なのか。そのわけはとても簡単。ブルーはYOUCHANのシンボルカラーで、猫はYOUCHANが愛してやまない家族だからです。
YOUCHANは2014年に初めての個人画集『TURQUOISE(ターコイズ)』を出版しました。ターコイズというのはトルコ石、その色彩がターコイズ・ブルーと呼ばれていることは言うまでもないでしょう。YOUCHANのイラストの多くは、さまざまなバリエーションのブルーがふんだんに使われています。
そしてFacebookにしばしば飼い猫の写真を投稿している愛猫家のYOUCHANですから、この絵本に登場する猫は、どれもこれもとても愛らしく、ちょっと怖い詩の「リジー・ボーデン、手に斧もって」でも、リボンを頭につけた可愛い猫が描かれています。

YOUCHANのイラストは寒色のブルーが基調となっていても、とても暖かく、優しげです。YOUCHANのウェブサイト「YOUCHANのイラストパーク」の中には、オリジナル作品で「パノラマ島綺譚」と題されたイラストが掲げられています。この作品は江戸川乱歩の小説『パノラマ島奇談』のラストシーンをモチーフにして描かれたもので、原作ではとても凄惨なシーンなのですが、YOUCHANの手にかかると、さまざまな色相のブルーを基調に、夢のような、あるいは遊園地のような、心地よさを感じる情景として表現されるのです。これがYOUCHAN流の「パノラマ島奇談」の解釈なのでしょう。

冒頭にYOUCHANが日本SF作家協会の会員だということを書きました。これは、2008年にSFマガジン読者賞イラストレーション部門を受賞したことがきっかけで、SF評論家で慶応義塾大学教授の巽孝之がSF界の大御所の朝倉久志らに働きかけて会員に迎えられたものだそうです。そのせいでもないでしょうが、YOUCHANの仕事には、SF系小説などの装幀が多くみられます。2013年には宝塚市の手塚治虫記念館で開催された企画展「日本SF作家クラブと手塚治虫」のメインビジュアルを担当していますし、当館所蔵の近刊書の中から、YOUCHAN装幀のものを少し拾い出してみても、鈴村和成著『村上春樹は電気猫の夢を見るか?』、林譲治『小惑星2162DSの謎』、太田忠司『星町の物語』、平田真夫『水の中、光の底』などのSF系出版物が挙げられます。

巽孝之はYOUCHANの画集『TURQUOISE(ターコイズ)』に「トルコブルーの夢」という題の一文を寄せ、その中で「2014年現在の彼女は新世紀のSFアートの代表格となった。日本SF第一世代の視覚イメージを広く支えたのが天才イラストレーター真鍋博だったとするなら、21世紀においてその役割はYOUCHANに継承されたといっても過言ではない」と評しました。いくぶんかの仲人口的意味合いがあるかも知れませんが、星新一らSF界の代表的作家の著書を飾り、硬質な絵柄でSFアートのイメージの一典型を創り上げた偉大なイラストレーターと比較して絶賛されたことは、YOUCHANとしてもこの上ない名誉であったでしょう。

当館にはYOUCHANの著書がもう一冊あります。こちらは絵本ではありません。彩流社から出されている「現代作家ガイド」シリーズの『カート・ヴォネガット』です。著者名は本名の伊藤優子で表記されています。YOUCHANが好きな作家の筆頭に挙げる米国のSF作家のガイドで、装幀はもちろんご本人がなさっています。

ここで紹介した本をぜひ一度手に取って、YOUCHANの作品をご覧ください。きっとYOUCHANのイラストが好きになるに違いありません。(文中敬称略)

【鰈】

ハラスのいた日々』(中野孝次/著 文芸春秋 1987.2)

「ハラス」と名付けた柴犬を飼い始めてから看取るまでの13年間の思い出を描いた本です。犬を飼ったことがある方はうちの犬もそうだったなあと自分の犬を思い浮かべて頷きながら読めますし、犬を飼ったことがない方も犬を飼ってみたいなあと思わせる一冊です。当時のベストセラーとなりドラマや映画化もされました。昭和63(1988)年度の新田次郎文学賞を受賞しています。
所々にハラスのスナップ写真が挿入されており、その後定位置となる椅子に生後40日のハラスがちょこんと座っている写真は何度見ても可愛いくて飽きることはありません。

ハラスは著者の晩酌につまむ酒の肴の「アゴ」が大好物で、それをめあてに晩酌の相手をつとめます。元々食の細いハラスで、アルコールのにおいも苦手でしたが、酒飲みの飼い主につきあっている間にすっかりなじんでしまったエピソードが印象に残ります。
そしてハラスが11歳になろうとする時に事件がおきます。老いの兆候を見せるハラスを元気づけようと著者はスキー場に連れて行くことにしました。そのスキー場でハラスは、違う車を追いかけてしまい、結局4日間行方不明になります。不注意で雪山で死なせてしまったと考え、著者はなかなかあきらめきれません。これが最後と、スキー場で探し回って著者がロッジに戻った少し後に、ハラスが帰ってきます。探し犬の新聞広告のちらしを配布しようとしていた前日のことです。
老いが進行するにつれ、ハラスは悲しいほど切ない存在になっていき、そしてついに亡くなってしまいます。

ハラス亡きあとの後日談は『中野孝次著作集 06』に収められています。
また関連本として『絵物語ハラスのいた日々』や『ハラスよ!!ありがとう(ポプラ社いきいきノンフィクション)』、『犬のいる暮し』が発行されています。

【robin】

デヴィッド・ボウイ・イズ』(ヴィクトリア・ブロークス/著 スペースシャワーブックス 2013.7)

“David Bowie is”というタイトルの回顧展が、2013年3月、ロンドンにあるヴィクトリア&アルバート美術館で開催されました。イギリス出身の世界的なスーパースターであり、ミュージシャン、アーティスト、パフォーマーであるデヴィッド・ボウイのデビューから約50年間の活動記録を一挙に展観する本イベントは、長い歴史を持つこの国立美術館で開催された展覧会の中で史上最もチケットが入手困難なものとなり、あまりの盛況ぶりに会期が大幅に延長され、20万人以上の来場者を得たとのことです。さらに翌年アメリカ、カナダを巡回し、2015年3月から5月まではパリで開催されています(残念ながら日本にやって来る予定は今のところなさそうです)。
本書『デヴィッド・ボウイ・イズ』は、その回顧展図録の日本語翻訳版で、初版1984部(ボウイがジョージ・オーウェルのSF小説『1984年』に影響を受けて制作した『ダイアモンドの犬』収録曲「1984年」に因む)の完全限定生産として販売されました。「デヴィッド・ボウイとは○○」というテーマに沿って展開された展示物は、レコード・ジャケットの原画や写真、ミュージック・ビデオの絵コンテ、ステージ衣装、出演映画のスチール、直筆歌詞のほか、幼少時の写真や収集物などプライベートな品も満載。その図録ということもあり、ページを繰るごとに偉大なスターの活動の多様性を知ることができ、ファンにとっては手元に置いて愛でたい1冊といえるでしょう。

本書から得る何よりの驚きは、時代を象徴する文化的遺産の保存という意義で、国立美術館が自国出身の、しかも存命のスターの衣装をコレクションの対象としているという事実です。「デヴィッド・ボウイ・アーカイヴ」と名付けられたコレクションを元に、この展覧会を企画した学芸員であるヴィクトリア・ブロークスとジェフリー・マーシュは本書の序文で、ボウイのアートと音楽を、衣装から映画に至る展示物を通じて、大きな文化的物語に結びつけることが針路だと記しています。
なるほど、どのページを開いても、ボウイには唯一無二の存在感があります。とりわけ、山本寛斎デザインの衣装で「異星人」姿のボウイの、鋤田正義撮影による写真は圧巻です。ボウイはその創作活動において、自身が影響を受けた書物や映画や、写真、ファッション、アート等を見事に取り入れ、また各分野で才能ある人物を登用し、共に作品世界をデザインしていくことで知られています。そんな彼をスージー・スー(1976年結成のパンク、ニューウェイブバンドであるスージー・アンド・ザ・バンシーズの女性ボーカリスト)はかつて、「参考文献一覧を手にやって来る稀有なポップ・スター」と語り、その影響を享受したそうです。本書で初めてボウイのことを知る読者の中にも、彼の独特なヴィジュアル・スタイル、存在のインパクトに惹かれる人は多いのではないでしょうか。

本書は縦32センチ、横25センチ、320ページある大型本で、持ち帰るにはしっかりしたバッグが必要かと思います。ボウイに興味を持たれた方は、彼が70年代に発表したアルバムごとに収録曲の歌詞と解説をまとめた『デヴィッド・ボウイ詩集:スピード・オブ・ライフ』もぜひ読んでみてください。

【霧】

ページの先頭へ


PAGE TOP