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杉田正幸「盲ろう者へのパソコン支援」:大阪府立図書館紀要第37号

更新日:2013年11月1日


杉田 正幸(中央図書館)

1.はじめに

2001(平成13)年に厚生労働省が行った身体障害者実態調査結果では全国に「推計盲ろう者数」は13,000人いると言われている。その内、大阪府(大阪市を含む)の数は全国盲ろう者協会の推計で900人と言われている。
視覚と聴覚の両方に障害を持った人「盲ろう者」は他の障害者以上に情報障害、コミュニケーション障害がある。普段、なにげなくテレビやラジオから入ってくる情報や新聞や本・雑誌などから入ってくる情報は盲ろう者のほとんどが自ら取得することができず、通訳・介助者を通じて得る方法が中心となる。また、コミュニケーションについても手話、点字などを手で触って読み取る通訳方法を主体とし、その際には個々に通訳者を介しておこなうことが必要である。
大阪府立中央図書館では2001年から盲ろう者へのパソコン支援(個別指導)をおこない、2003年度から盲ろう者対象のインターネット講習会を開催し、多くの盲ろう者の情報障害が克服できるよう現在も継続中である。

2.盲ろう者の種別と情報環境

盲ろう者は、1)全く目が見えなく耳が聞こえない「全盲全聾」、2)全く目が見えなく聴力が弱い「全盲難聴」、3)視力が弱く全く耳が聞こえない「弱視全聾」、4)視力が弱く聴力が弱い「弱視難聴」の4種類に大別することができる。全盲全聾の場合は目からも耳からも情報が入らないため、点字による情報摂取、手書き(手の平にひらがな、カタカナなどの文字を書きコミュニケーションをとる方法)、触手話(手話を手で触って通訳を受ける方法)を使うなどして情報を得るしかない。点字の場合、紙の点字を手で触れて読むことが一般的であるが、盲ろう者の場合はブリスタ(後述)及び指点字を用いることが多い。指点字とは通訳者の指を点字タイプライターのキーに見立てて、キーを打つように盲ろう者の指の上を叩く方式で、左右の人差し指、中指、薬指の6本に対応させる。
障害が多少軽度で、視力がある場合は拡大文字を見ること、少し聞こえれば音声による情報摂取が可能である。 視覚と聴覚に重度の障害のある盲ろう者はパソコンの画面に表示されている内容を見て確認することは困難である。弱視の人の場合は画面の情報を拡大するソフトを用いることでパソコンを使うことができる。全盲者の場合はパソコン画面を見ることができないので点字ディスプレイを用いてパソコン画面の内容を点字で確認する方法がとられる。
一部の盲ろう者は1990年代の前半、MS-DOS環境でパソコンを使っていた。MS-DOSはCUI(キャラクター・ユーザー・インターフェース)という文字中心の情報であったため、文字情報を点字に変換し、点字ディスプレイに出力しやすかったので、比較的盲ろう者が使いやすい環境であった。点字を頼りにワープロで文書を書いたり、パソコン通信で電子メールの交換、データベースへのアクセス、掲示板へのアクセスなど、盲ろう者が自ら他者とコミュニケーションがとれ、情報発信ができることの意義は大きかった。
Windows3.1やWindows95の発売以降、文字中心だったパソコン環境がGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)と変わり、視覚的な判断や仮想的な操作が必要となり、これらシステムの点字表示の開発が遅れたこともあり、盲ろう者は暫くの間、パソコンを使えない環境になった。しかし、Windowsの点字出力や画面拡大の開発も進み、2000年頃を境に盲ろう者がパソコンへアクセスすることが再び増えてきた。最近では電子メールを中心にインターネット検索、ワープロなどそれぞれの目的に応じたパソコンの利用が徐々に増えている。
当館では、日本障害者リハビリテーション協会より2000年に盲ろう者支援用のパソコン、点字ディスプレイ、各種ソフトウェアの貸与を受け、2000年度には国のIT講習会の予算でパソコン、点字ディスプレイ、各種ソフトウェアを導入し、障害者へのパソコン支援の環境整備に努めた。

3.盲ろう者へのパソコン個別支援

2001年8月に、盲ろう者の通訳・介助をしている方から相談を受けた。「盲ろう者でこれからパソコンを使いたい人がいるのだけど、点字ディスプレイなどを実際に触って試せるところがなく、大阪府立中央図書館にはそのような環境が整っているというふうに聞いた。これまでに他で機器を触らずに説明を聞いたりしたが、本人は理解できず、分からないので実際にいろいろと触ってみたい。」とのことであった。当館では盲ろう者への支援をしたこともなかったので、最初はどのように支援をしたらよいのか分からず躊躇したが、とりあえずは環境も整っているので引き受けた。それからおよそ1年間、その方はほぼ毎週、図書館に通ってきた。最初は点字ディスプレイの種類の説明、使い方、パソコンのキー配列の説明、電子メールの使い方などパソコンの基礎について指導をおこなった。毎回、パソコンが得意で点字も分かる触手話通訳者と盲ろう者が一緒に来られ、こちらの説明を触手話通訳を受けながらおこなった。また、手話では分かりにくい部分はブリスタ点字速記用タイプライタを用いて、点字で通訳し、紙テープに記録した。その点字のメモを毎回、持ち帰って家で復習された。1年経ち、ある程度、点字入力でパソコンが使えるようになり、パソコン、点字ディスプレイを購入され、自宅で電子メールなどを使えるようになった。自宅でも使えるようになったことなどから、この支援はおよそ1年で打ち切った。
その後、個別支援ではおよそ15名の盲ろう者への支援をおこない、現在も7名の盲ろう者の個別支援を継続している。

表1 主な個別支援内容

  • 1.パソコンの基本操作(パソコンの立ち上げ・終了、キーボードの配列の説明、キーボード練習)
  • 2.点字入力(6点入力)の説明と練習
  • 3.Windowsの基本的な操作
  • 4.電子メール(送受信、アドレス帳、添付ファイルなど)
  • 5.ホームページの閲覧
  • 6.ホームページの検索
  • 7.点訳ソフト
  • 8.画面拡大ソフト
  • 9.その他、盲ろう者に利用可能な機器、ソフトウェアの説明

写真1 ブリスタ

 

ブリスタは6つのキーの組み合わせで点字を入力する盲ろう者用の通訳用点字速記タイプライタ。打った点字は左側から紙テープで打ち出され、盲ろう者はその点字を触って通訳を受けます。

4.盲ろう者向けインターネット講習会

当館では2001年から盲ろう者へのパソコン個別支援を実施してきたが、盲ろう者用機器(点字ディスプレイ)やソフトが充実していることや盲ろう当事者や盲ろう団体からの講習会への要求が強かったことから2003年度から盲ろう者向けインターネット講習会を開催した。初年度は11名の応募があり、大阪府内に住む4名の盲ろう者が受講した。盲ろう者には事前にパソコンの利用状況やコミュニケーション方法、点字の触読能力についてなどを直接お会いして確認した。講習会は4日間(計20時間)で、点字ディスプレイを使っての電子メールの体験、ホームページ閲覧の体験、6点入力を使った文字の入力を中心におこなった。受講者にはパソコンのことがある程度分かる触手話通訳者または指点字通訳者を配置した。1回目の講習は手探りであり、問題点も多かった。

  • 1)こちらで通訳者を選んだため受講者にあった通訳者を準備できなかった。
  • 2)パソコンの画面情報が全て点字で出力できないなど、盲ろう者にあまり使いやすい環境を構築できなかった。
  • 3)点字があまり読めない受講者もいて、画面拡大など、複数の方法に対応せざるを得なかった。
  • 4)通訳に時間がかかるため、1回の講習でできる内容は極僅かで、4回の講習では十分ではなかった。

しかし、全国の公立図書館で初めて重度の障害者へのパソコン講習をおこない、その結果として盲ろう者がパソコンを使うきっかけとなり、受講生から一定の評価をいただいた。
2004年度は前年の反省から点字の読める盲ろう者に対象を絞り、通訳者も本人が推薦した人にきていただいた。その結果、講習の質も一定に保つことができた。
2005年度は、初級の講座に加えて中級講座(5時間を2回、計10時間)をおこなった。それまでの電子メールを中心とした講習から、ホームページ検索の基本を学習するなど、講習の幅も広げた。
2004年度までは視覚障害者用のソフトウェアで、ある程度盲ろう者に使いやすいものを使用したが、点字表示や画面拡大がうまくいかない部分もあり、使いにくい部分も多かった。しかし、2005年度からは盲ろう者に使いやすいメールソフト、ネット検索補助ソフトなどを使用することで、効率的な指導をすることができた。
2006年度から初級講座と中級講座を各年で開催することとした。2006年度は初級、2007年度は中級講座をおこなった。以下、最近2年の講習会の概要を記す。

2006年度初級講座

2006年度は点字が読める盲ろう者でパソコンの基礎(電子メール)を学習したい人を対象として初級講座を開催し、大阪府と周辺の地域から3名の盲ろう者が参加した。講習内容:点字ピンディスプレイを使っての電子メールの体験、ニュース閲覧などその他、盲ろう者が使うと便利なソフトの紹介1日目:自己紹介、盲ろう者のパソコン環境、キーボード練習、電子メール体験2日目:ボイスポッパー(盲ろう者に配慮したメール、ニュース閲覧ソフト)でメールの送受信3日目:ボイスポッパーでメールの送受信とニュースの閲覧4日目:ボイスポッパーでメールの送受信とニュースの閲覧、インターネット体験

2007年度中級講座

2007年度は点字が読める盲ろう者で、電子メールができる程度の人を対象として中級講座を開催し、大阪府及び近隣府県の盲ろう者4名が参加した。
講習内容:点字ピンディスプレイを使っての電子メールの応用、ホームページ閲覧、インターネット検索、最新の小型の点字情報端末の紹介など
1日目:自己紹介、ボイスポッパー(盲ろう者に配慮したメール、ニュース閲覧ソフト)でメールの送受信、ニュースの閲覧
2日目:サーチエイド(ネット検索補助ツール)を用いてインターネット検索(国語辞典、駅から時刻表、姓名判断など)
3日目:サーチエイドを用いてインターネット検索(Googleを使って調べたいページへアクセス)ブレイルメモポケット(16マス表示の小型の点字ディスプレイの紹介と体験):点字での文書作成、電卓など機能の紹介
4日目:サーチエイドを用いてインターネット検索(高速バス検索、テレビ番組(ドラマ)検索、辞書・宿泊検索、ぐるなびなど)ブレイルセンス、シンクブレイル(小型の携帯情報端末の紹介と体験):ワープロ、メール、ウェブブラウザ機能を中心に説明)

2006、2007年度の講習会は受講生1名に通訳者が2名ずつ付いた。通訳は手話を手で触る触手話が中心であったが、一部は、目の前での手話通訳(弱視対応手話、接近手話)と指点字通訳であった。最近2年間の受講者7名ともそれなりに点字を読むことができたため、ほぼ共通の内容で講習を進められたが、点字の読み速度には多少の差があった。弱視聾の3名に関しては大きなディスプレイ(19インチなど)を用いて画面拡大との併用をおこなった。

受講者の感想など:

  • 盲ろう者に使いやすい電子メールソフトを体験できてよかった。
  • 新しいソフトや機器を体験できてよかった。
  • メールは自分で使うけど、インターネットは難しくて使っていなかった。今回の中級講習でそれを勉強できたのはとってもよかった。
  • 4回の講習会では時間が足りなかった。せめて6日とか7日ぐらいの講習期間が必要。
  • 通訳者の人もパソコンが分かる人だったので、とってもよかった。
  • テキストに具体的な操作など分かりやすく書かれていたので、後で復習しやすかった。

写真2 講習会 全体写真

 

講習会でサーチエイドを使ってインターネット検索の説明をしています。机にはノートパソコン、点字ディスプレイ、外付けキーボードがあります。受講生1名に触手話及び接近手話通訳者が2名ずつ付いています。

写真3 触手話通訳

 

強度の弱視聾の人が手話を手で触って通訳を受けています。盲ろう者の多くは触手話での通訳が主となります。

写真4 点字ディスプレイ

 

全盲ろうの人がパソコンの画面の情報をパソコン手前の機械に表示される点字を読んで確認しています。このディスプレイにはパソコン画面1行分(46マス)の点字が出力されます。

写真5 パソコンの画面拡大

 

弱視聾の人がパソコンの拡大画面(128ポイント)を目で確認しています。光がまぶしいので暗闇の中で講習を受けています。

5.考察(盲ろう者のパソコン支援の現状と問題点)

(1)盲ろう者とのコミュニケーション: 盲ろう者にパソコン支援する場合にもっとも問題となるのが盲ろう者とのコミュニケーションである。触手話、指点字などの通訳が必要で、個人指導の場合、指導者のコミュニケーション能力が問題となる。また、講習会の場合、通訳者の通訳技術とともにパソコンに関する知識、盲ろう者が利用するソフト、ハードの知識が求められる。それら両方を兼ね備えた人材の養成が今後求められるが、当館の講習会での通訳者のほとんどはそれらの両方を兼ね備えた人にきていただいている。しかし、そのような人材は少ないのが現状で、毎回、同じ人に頼まざるを得ない。また、コミュニケーションにおいてもパソコンの操作と通訳を両方受けることは難しいので、必要に応じて盲ろう者とのサインでコミュニケーションを図ることが必要である。具体的には、盲ろう者が正しくパソコン操作をしている場合は盲ろう者の背中に「○」を書き、間違えた操作をしている場合は「×」を書くなど、講師・通訳者と受講される盲ろう者の間で前もって決めておくとよい。

(2)盲ろう者の特性とパソコンへのニーズ: パソコン指導の際に個々の盲ろう者の特性の把握が重要で、それによりパソコン指導の方針を立てる。盲ベースの人なのか、聾ベースの人なのか、残存視力・視野、残存聴力、点字が読めるかなどを事前に調査し、計画を立てる。その上で、盲ろう者へのパソコンニーズがコミュニケーションの習得なのか、情報入手であるのか、情報発信であるのかを詳しく聞き、その指導方法を決定する必要がある。個別指導の場合、それぞれのニーズに応えていけるよう対応していくことが望まれる。

(3)点字や日本語の習得: 盲ろう者がパソコンを使用する際に点字や日本語の習得が重要である。特に全盲ろうの場合、パソコンへのアクセスは点字以外に方法はない。そのため、点字の習得が必要で、盲ベースの人は比較的問題とならないが、聾ベースの人の場合、この習得が問題となる。聾ベースの人は漢字を形で覚えており、また表意文字である手話言語を用いているために、基本的に漢字がなく、表音文字である点字の習得には困難をもっており、特に表音文字からの漢字変換は大変難しい。

(4)講習会の必要性: 盲ろう者にパソコン講習会を開催しているのは各地の盲ろう者当事者団体、都道府県が設置するITサポートセンター(東京都など)(盲ろう当事者向け講習会や個別支援)、日本障害者リハビリテーション協会や全国盲ろう者協会(ボランティアや指導者向けの研修)など一部である。当館が2003年度から盲ろう者向けの講習会を開催していることは盲ろう者へのコミュニケーション支援、情報受発信、盲ろう者の社会参加の機会を増やすという点から重要である。特に図書館という情報提供施設が重度の障害のある人も含めてサービスをすることは意義深いことと考える。

(5)講習会後のフォロー: 盲ろう者にとっては講習会などみんなが集まって同じ目的で参加することに意義を感じている。しかし、講習会が終わり、そのまま支援がないとパソコンも使わず、せっかく覚えたことも忘れてしまう。当館では講習会を修了した盲ろう者への継続的な個別支援をする中で個人のニーズを把握し、適切なサポート・支援をおこなうことができていると考える。またパソコン購入やその後の支援についてはパソコンがある程度できる通訳・介助者に協力いただき、自宅でのサポートをお願いしている。図書館での支援だけでは難しいので、福祉制度などをうまく活用し、支援をしていくことが重要である。

(6)機器やソフトの問題: 盲ろう者に使いやすいハード、ソフトが現状では少ない。現在ではWindows Vistaを点字や拡大で利用することが困難であり、そのような開発も不十分である。Windows XPパソコンも今年の夏以降入手困難となる中で今後の盲ろう者へのパソコン支援方法を再検討する時期がきている。

6.まとめ

2001年からの盲ろう者へのパソコン個別支援、2003年度から2007年度まで5年間の講習会をおこない、電子メールやホームページ閲覧などを中心とした支援を実施してきた。受講した盲ろう者からも一定の評価をいただき、何度も講習会に参加する人や継続的に個別支援を受けている人がいるのはその成果の一つと考える。
講習会については講習内容、使用機器、通訳体制、支援者の問題などがあり、最初の2年間は十分な支援をおこなうことができなかった。しかし、講習会、個別支援を通じて開発者に協力することで、盲ろう者に使いやすいハード・ソフトの研究・開発にも協力することができ、盲ろう者への支援を少しずつであるが進めていくことができた。
今後、当館が多くの盲ろう者への支援をすることで、盲ろう者のパソコンを利用したコミュニケーションの獲得と情報障害の克服につながればと考える。さらに全国には多くの盲ろう者が住んでいるが、盲ろう者へのパソコン支援をしているのは東京の日野市立図書館が盲ろう者への個別支援をしている程度であり、講習会として開催しているところは全くない。住民に身近な施設(図書館)が盲ろう者へのパソコン支援などを通じて、盲ろう者のコミュニケーション障害、情報障害を少しでも改善できるようなサービスを今後、展開し、どんな利用者にもサービスをおこなう図書館を目指していく必要がある。

参考文献

  • 1)「大阪府立中央図書館 盲ろう者にIT講習 今後に期待広がる」、『点字毎日』活字版 307(点字版 4182) 2004年3月18日(点字版2004年3月14日) 3頁(点字版10頁)
  • 2)「(ルポ最前線を行く)盲ろう者のインターネット講習会」、『点字毎日』活字版 311(点字版 4186)2004年4月15日(点字版2004年4月11日)8頁(点字版31-34頁)
  • 3)「大阪 盲ろう者向けIT講習会 ニュース閲覧に達成感」、『点字毎日』活字版 356(点字版 4231)2005年3月10日(点字版2005年3月6日)11頁(点字版11頁)
  • 4)『盲ろう者生活実態調査報告書』 平成16/17年度 全国盲ろう者協会、2006年、137p
  • 5) 『平成18年度盲ろう者向けパソコン指導者等養成研修事業報告』 全国盲ろう者協会、2007年、93p

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