令和5年度 大阪府立図書館の活動評価について(外部評価報告)
更新日:2025年5月3日
令和6年8月
大阪府立図書館協議会 活動評価部会
はじめに
令和 5 年度は活動評価第五期(令和 5~7 年度)の第 1 年目にあたる。第五期についても第四期までの「府域の図書館ネットワークの核として、広域的かつ総合的な視点から府民と資料・情報をつなぎ、府民の”知りたい”という気持ちにこたえ、”学びたい”という意欲を育み、豊かで活気あるくらしと大阪における新たな知識と文化の創造に寄与すること」という使命の下、5 つの基本方針に基づき事業を展開する枠組みは維持されている。また、第五期からはこれら 5 つの基本方針に対応した事業(基本事業)に加え、複数の基本方針に横断的に関連した 2 つの重点事業も設定・実施する体制となった。評価に入る前に、5 つの基本方針について確認しておく。
5 つの基本方針
- 府立図書館は、市町村立図書館を支援し、大阪府全域の図書館サービスを一層充実させます。
- 府立図書館は、幅広い資料の収集・保存に努め、すべての府民が正確な情報・知識を得られるようサポートします。
- 府立図書館は、府域の子どもが豊かに育つ読書環境づくりを進めるとともに、国際児童文学館の機能充実、資料の利用促進に努めます。
- 府立図書館は、大阪の歴史と知の蓄積を確実に未来に伝えます。
- 府立図書館は、府民に開かれた図書館として、地域の魅力に出会う「場」と機会を提供します。
前期(第四期)は期間を通じて新型コロナウイルス感染症拡大の影響下にあり、図書館の活動も多くの制約を課される形となった一方で、オンラインでの活動など、その制約を乗り越える多くの試みが始まり、あるいは強化される時期でもあった。今期(第五期)は引き続き予断を許さない状況ではあるものの、多くの図書館活動がコロナ禍以前と同様の形態を取り戻しつつあるのみならず、第四期で培われたオンライン・非来館型のサービスの提供、非対面型のコミュニケーション・チャンネルの活用等も進められている。計画段階では想定外であったコロナ禍に見舞われた第四期に対し、第五期ではウィズコロナ、ポストコロナを前提とした事業・目標設定がなされており、令和 5 年度の活動評価はその初期段階を問うものとなる。
以下ではまず 2 つの重点事業について、続いて 5 つの基本事業について、評価を加えていく。
重点事業
1.すべての府民が図書館サービスを享受できる環境の整備 ~図書館利用に配慮が必要な府民への読書活動支援~
重点事業 1 は「すべての府民が読書活動を通じて文字・活字文化の恵沢を享受できること」を目標としており、「大阪府視覚障がい者等の読書環境の整備の推進に関する計画(読書バリアフリー計画)」に沿った施策に重点的に取り組むものである。基本方針 1、2、3、5 に横断的に関連している。
具体的な事業内容としては以下が設定されている。
(1) 活字による読書や来館が困難な利用者、日本語を母語としない利用者への多様なサービス提供
(i) アクセシブルな書籍等の充実に向け、デイジー図書・テキストデータの作成と国立国会図書館(NDL)へのデータ提供、アクセシブルな書籍等を周知するための取組等を実施する。
(ii) 日本語を母語としない、読書や図書館の利用に困難を伴う利用者に向けてサービスを行う上で、市町村立図書館が府立図書館に 対しどのような支援を必要としているかを把握するため、初年度(令和 5 年度)にアンケート調査を行う。一層のバリアフリーを進めるため、広報等を見直す。
(2) 障がいのある子どもへの支援
(i) おはなし会やイベントを実施し、障がいのある子どもたちに資料を届ける。
(ii) 支援学校の教員や学校司書に向けて、障がいのある子どものための図書館サービスや読書支援活動の講座等について情報提供等を行う。
(3) 市町村立図書館向けの研修実施、情報提供
(i) 府域図書館職員等を対象とした研修を実施する。
(ii) (1)・(2)の事業内容について府域図書館全体に関連情報を周知する。
このうち(1)(i)については、デイジー図書を毎年 40 件以上作成し、NDL へデータ提供するという数値目標を掲げ、令和 5 年度は 45 件と目標を上回る実績を実現した。また、アクセシブルな書籍等を周知するための取組としては「見て、聴いて、さわって楽しむ読書の世界」と題した、点字図書制作、デイジー図書再生機器など多様な読書体験ができるイベントを夏休み中に実施し、のべ 146 人の参加を得た。これを受け府域市立図書館(吹田市)でも同名のイベントが開催されるなど、府域内での波及効果にもつながっている。初年度としては順調に事業進行しているものと評価できる。(ii)については 12 月に実際にアンケート調査を実施し、令和 6 年度から要望の高
かった日本語学習資料の収集強化に取り組んでいる。また、アンケート中でも「やさしいにほんご」について扱っているが、令和 6 年度はその活用について重点的に取り組んでいくことを予定している。アンケートを実施するのみとならず、事業に反映できている点も評価できよう。
(2)(i)について、コロナ禍で中止していた手話によるおはなし会を令和 5年 9 月から再開した。
また、支援学校への出前おはなし会、支援学校からの来館見学などもおこなった。支援学校へのサービスについて充実しつつあり、めどがついてきたことを受け、今後は病院と連携した入院している子どもに対するサービスなど、「障がいのある子ども」の範囲を拡大した取り組みにも期待したい。また、(ii)については「見て、聴いて、さわって楽しむ読書の世界」を合同研修の日程とあわせて実施することで、教員や学校司書が多様な資料を体験する機会とすることも狙った。「見て、聴いて、さわって楽しむ読書の世界」についてはアクセシブルな書籍等の周知・情報提供として充実した取り組みとなったと評価できるが、加えて、インクルーシブという観点では、障がいの有無にかかわらず誰でも参加できる子ども向けのおはなし会・イベントといった形との接続もできるとよいのではないか。研修・周知的なイベントと並行する形で、横で子ども向けの別の面白いイベントも同時開催する、和気あいあいとした、楽しい場の設定等もあってもよいと考える。
(3)(i)については多くの研修を実施し、うちいくつかはオンライン研修や、対面研修の後、オンデマンド配信を実施するなど、オンライン・オンデマンドも取り入れたものとなっている。(ii)関連情報の周知については、1(ii)のアンケート結果にもとづく意見交換会をおこなったほか、府域図書館での実践事例を共有できるよう、市町村図書館職員ポータルサイトにおいて実践館へのインタビュー記事の投稿も開始されている。対面とオンラインを取り混ぜた研修・情報提供については今後も推進されていくことに期待したい。
2.府立図書館蔵書の利活用の拡充 ~非来館型利用の促進~
重点事業 2 は「デジタル化した古典籍資料や、国際児童文学館資料等の利活用の推進と、府立図書館資料へアクセスできる機会の拡充」を目標とするものである。基本方針 1、2、3、4 に横断的に関連している。
具体的な事業内容としては以下が設定されている。
(1) デジタルコンテンツの拡充
古典籍資料のデジタル化画像の追加や、行政資料等のデジタル資料の収集を継続するとともに、国際児童文学館所蔵雑誌の目次データの追加により、所蔵情報の充実を図る。
(2) デジタルコンテンツの認知度の向上
大阪府立図書館のデジタルコンテンツについて、他機関データベースとの連携や、SNS・ホームページでの情報発信による認知度 向上に努める。
(3) 資料および情報への多様なアクセス手段の確保と利便性の向上
オンラインによる利用者登録の実現等、来館せずに、より幅広い図書館サービスが利用できる環境整備を進める。
このうち(1)については、古典籍資料のデジタル化:毎年 4,000 画像、行政資料等のデジタル資料の収集:毎年 100 件、国際児童文学館所蔵雑誌の目次データ追加件数:毎年 100 号分、という数値目標を掲げている。古典籍資料のデジタル化については、令和 5 年度は国文学研究資料館の歴史的典籍 NW 事業に協力したことで、117 点の資料の、16,577 画像のデジタル化を実現した。さらに図書館の継続事業撮影では新収集資料 5,506 画像を作成しており、合わせたデジタル化画像数は 22,083 件で、掲げた目標を大幅に上回っている。さらに「おおさか e コレクション」では貴重書画像 4,129 件の公開も実現した。国際児童文学館所蔵冊子目次データについては目標通り、100 号分のデータ追加を実現した。デジタル資料収集については目標の 100 件には達しなかったものの、継続発行タイトルを中心に 95 件を収集した。国文学研究資料館歴史的典籍 NW 事業は終了したものの、後継事業に引き続き協力を進める予定であるとのことで、令和 5 年度に続いてデジタルコンテンツの大幅な拡充を進めていくことを期待したい。
(2)のうち他機関データベース連携については、国文学研究資料館「国書データベース」に 3 年間で 14,000 点のデータを提供するという数値目標を掲げているが、令和 5 年度時点ですでに「おおさか e コレクション」にて公開されている貴重書データ等、計 18,097 点を提供し、目標達成に至った。これらのデータは「国書データベース」から、歴史的典籍 NW 事業によりデジタル化を実現した 117 点の資料とあわせて、令和 6 年度中に公開される予定である。デジタル化については4(1)とあわせて、目標を大きく超えて充実してきているところであるが、それだけに今後はコンテンツの活用をさらに図っていくことが重要である。「国書データベース」にとどまらず、ジャパンサーチとの連携や、図書館自らによる発信等を通じた活用促進をさらに促していくことを求めたい。
その促進につながるのが SNS・ホームページでの情報発信による認知度向上であるが、これについてはまず中之島図書館ホームページに「デジタル展示」ページを新設し、鯰絵と織田作之助草稿を紹介した。また、中之島図書館、中央図書館とも、デジタル化コンテンツに関し X(旧 Twitter)での紹介発信を行った。デジタルコンテンツの紹介については年 30 回という数値目標を掲げているのに対し、令和 5 年度の発信回数は 79 回で、目標を上回っている。令和 6 年度以降はこうした発信について、X 上でどういった反応があったかなど、効果分析を行うことを検討されたい。また、発信に適した SNS については利用者の変化が激しく、キャッチアップが困難であるだろうとは推察されるものの、近年は Instagram が比較的、幅広い年代で最も活用される媒体となってきている。大阪府立図書館では現在、専ら YA 向けの媒体と位置付けられている Instagram であるが、デジタルコンテンツ紹介などにも活用していく可能性がありえるだろう。
(3)のオンライン利用登録については令和 7 年 1 月の運用開始を目標に、令和 6 年 1 月の図書館システム更新時にオンライン利用者登録実現のための実装仕様を作成し、システムを構築するとともに、現行の利用者登録の運用見直し・様式整理を実施した。オンライン利用者登録に向けたプロジェクトチームも令和 6 年 4 月より結成している。そのうえで、非来館型利用を促進していくにあたってはオンラインで利用登録し、そのまま来館することなく魅力的なサービスを利用できることが必要である。例えば館内で利用できるのと同等のデータベースをリモートアクセスで利用できるようにすること等が有効と考えられる。人口 880 万人の自治体の図書館として、データベースの同時接続数を担保する方策も検討していくことを期待したい。
基本事業
1.府域図書館情報ネットワークの活性化
基本事業 1 は基本方針 1「府立図書館は、市町村図書館を支援し、大阪府全域の図書館サービスを一層充実させます。」に対応するものである。その実現状況を測る評価項目として情報ネットワーク(大阪府域図書館グループウェア)を活用した、図書館実践事例を共有する取組回数を設定し、年間の目標値を 80 回とした。令和 5 年度は上半期の検討を経て、9 月よりグループウェアの機能を利用した展示リストの共有や、注目の取組をおこなった図書館へのインタビュー記事の配信等を開始した。インタビュー記事については府域図書館に限らず一般にも資する優れた取り組みを紹介するものではあるものの、グループウェアでの発信ということで一般に公開する媒体以上に踏み込んだインタビューが行えている面もあり、当面はグループウェア限定公開を維持する形が妥当と考えられる。年度半ばから実際の取組を開始したということもあり、令和 5 年度の配信回数は 72 回と目標をやや下回ったが、通年の取組となる令和 6 年度以降は数値目標の達成が期待される。
2.レファレンスサービスの拡充と、所蔵資料を活用できる司書の育成
基本事業 2 は基本方針 2「府立図書館は、幅広い資料の収集・保存に努め、すべての府民が正確な情報・知識を得られるようサポートします。」に対応するものである。実現状況を測る評価項目としては資料展示回数(目標値 110 回)、パスファインダー新規作成・更新数(目標値 60 回)、府立図書館職員向けレファレンス研修実施回数(目標値 8 回)が設定されている。このうち資料展示回数は年間 134 回と目標値を大きく上回り、パスファインダー作成・更新数も 63 回、レファレンス研修実施回数も 8 回と、すべて目標値を達成している。令和 5 年度は新型コロナウイルスの影響を受けた時期からの回復期でもあり、入館者が本と出会う機会の創出に努めた結果として高く評価できよう。
3.1 広域自治体の視点から学校等に対する支援を拡充し、府域の子どもの読書活動を推進
基本方針 3「府立図書館は、府域の子どもが豊かに育つ読書環境づくりを進めるとともに、国際児童文学館の機能充実、資料の利用促進に努めます。」に対しては 2 つの基本事業を設定しており、そのうちの 1 つが学校等に対する支援の拡充・府域の子ども読書活動推進である。実現状況を測る評価項目としては府立学校等向けの講座回数(目標値 10 回)を設定している。令和 5 年度は司書教諭・学校図書館司書、担当者を対象とした研修に加え、高校生のための図書館講座「LibCo(りぶこ)」を 4 校で実施し、またスクールサービスデイ以外でも探究学習利用に対応した。それらの総実施回数は 13 回と、目標値を大きく上回った。
3.2 国際児童文学館資料の利用促進
基本方針 3 に対応するもう 1 つの基本事業は国際児童文学館資料の利用促進であり、実現状況を測る評価項目としては展示・イベント合計回数(目標値:12 回)、SNS・HP 等による所蔵資料や使い方の発信数(目標値:50 回)を設定している。令和 5 年度は前者 14 回、後者 52 回といずれも目標を達成しており、特に後者については利用方法や複写混雑状況をホームページに加え X でも案内するなど、広報内容を工夫している。
4.地域資料の収集・保存と利活用
基本事業 4 は基本方針 4「府立図書館は、大阪の歴史と知の蓄積を確実に未来に伝えます。」に対応するものである。実現状況を測る評価項目としては 2025 年日本国際博覧会関連資料の収受タイトル数(目標値:3 年間で 200 点)を設定している。令和 5 年度は博覧会協会や関連機関に依頼し、図書 11 点、ポスター・リーフレット 55 点を収受したものの、3 年間で 200 点の目標を 3 分割した場合の値(66.66666…)にわずかに達しなかった。令和 5 年度時点では電子媒体での広報誌等が発行されておらず、記録としての万博関連資料作成が本格化するのはこれからと考えられる。提供依頼は専ら万博協会や行政部局に対して行っているとのことであるが、今後は企業・民間など、広く協力を呼び掛ける可能性についても検討を期待したい。また、万博については博覧会協会のホームページが国立国会図書館の WARP の収集対象となっていないようであり、確認が必要である。
5.府民の生涯学習、地域の情報拠点として地域の発展にも貢献し得るよう様々な事業を展開
基本事業 5 は基本方針 5「府立図書館は、府民に開かれた図書館として、地域の魅力に出会う「場」と機会を提供します。」に対応するものである。実現状況を測る評価項目としては関係機関との連携事業数(目標値:35 回)、各種媒体に応じた情報発信(目標値:デジタル媒体 3,000、紙媒体 130)を設定している。このうち関係機関との連携事業については、中之島図書館では中小企業診断士会とのビジネスセミナー、契約データベース会社から講師派遣を受けたオンラインDBセミナーを、中央図書館では連続講演会や読書週間記念講演会等を開催した。コロナ禍以前の連携先との連携が再開したのみならず、新たな連携先への積極的な働きかけもおこなったことで、連携事業の回数は 54 回と目標値を大幅に上回った。
情報発信についてもデジタル、紙媒体とも目標値を大きく上回って実現している。デジタルに関してはイベント開催にあたってXやメールマガジン、ホームページで広報するほか、連携イベントでは連携先 SNS の協力も受けた。また、Instagram では POP 広場(コンテスト)の受賞作品や対象となった本の連続した紹介などもおこなった。POP 広場については事業自体も多くの応募を受けて盛り上がっており、SNS 上での発信がその盛り上がりを伝えている素晴らしい事業である。
「応募総数〇〇作品中の優秀賞/最優秀賞」といった、全何点のうちの表彰作品なのかという情報は受賞者に対する箔付けになる側面もあり、令和 6 年度以降はそうした情報の公開・発信にも期待したい。
さいごに
令和 5 年度は活動評価第五期の第 1 年目である。新型コロナウイルス感染症拡大が多くの目標の達成を困難にした第四期と対照的に、第五期 1 年目は新型コロナウイルス感染症の影響で縮小していた活動の多くが再開されると同時に、平成 8 年の中央図書館開館以来 27 年ぶりに初めてベンダーが変更となる図書館情報システムのリプレイスを実施された年でもある。リプレイスが円滑に遂行され、かつスマートフォンでの利用者カードバーコード表示やインターネットからの郵送貸出申込、OPAC からの書庫出納申込といった利便性向上の新機能を実装されたこと、そのうえで、設定されたほとんどの数値目標を達成されたことを高く評価したい。来館型サービスがコロナ禍以前の活況を取り戻しつつあることで、相対的に非来館型サービスの構成比率が下がるなどの影響も現れたものの、全体として第五期初年度は好調なスタートを切ったものと評価できよう。
特に重点事業 2、基本事業 5 については設定した目標を大幅に上回った実績を達成している。
これらの事業については当初設定した目標を達成することにとどまらず、関連する基本方針の更なる実現に向けて、さらに事業の効果を高めるにはどういった方策がありうるかの検討の余地もあるだろう。さらなる高みを目指していただきたい。
大阪府立図書館協議会 活動評価部会 (50 音順・○は部会長)
川窪 和子(大阪成蹊大学・大阪成蹊短期大学図書館副館長 大阪成蹊大学特任講師)
佐藤 翔 (同志社大学教授)
○村上 泰子(関西大学教授)