大阪府立図書館

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令和元~4年度 大阪府立図書館の活動評価について(外部評価報告)

更新日:2024年5月2日

[PDFファイル/586KB]

令和5年7月
大阪府立図書館協議会 活動評価部会

はじめに

 令和元年度から4年度の四カ年は、大阪府立図書館の活動評価の第四期にあたる。
 府立図書館の変革は、国際児童文学館の移転・開館および大阪版市場化テストの導入に取り組んだ第一期に始まり、その後、中之島図書館のあり方の再検討・リニューアル、府域図書館基盤の充実・向上、おおさかポータルの構築・公開など進化を遂げてきた。
 今次の評価対象となる第四期は、その期間の大半が新型コロナウイルス感染症拡大の影響下にあった。とりわけ令和2年から3年にかけては、大阪府域の緊急事態宣言発出に伴い、臨時休館を余儀なくされ、また図書館サービスの提供に制約を課さざるを得ないなど、これまでに経験したことのない多くの困難に直面することとなった。しかしこうした困難な時期にあって、府立図書館ではオンラインでの活動などコロナ禍の制約を乗り越える様々な取組に果敢に挑戦されたのみならず、館内外から注目される大部の報告書を相次いでまとめられた。

 以下、5つの基本方針に沿って評価を加える。

1. 「基本方針1」(府立図書館は、市町村立図書館を支援し、大阪府全域の図書館サービスを一層充実させます。)

 基本方針1の目標は、大阪府全域にわたる図書館サービスの充実・発展である。この点に関する今期の重点取組業務は以下の4項目であり、重点目標は「府域図書館間情報ネットワークの機能強化」であった。

(1)より一層効率的な資料搬送業務を通じて、府域図書館への支援を拡充します。

(2)府域図書館間情報ネットワークの機能強化を図ります。

(3)府域図書館職員等の能力向上を図るため、研修事業の新たな方策に取り組むなど、充実を図ります。

(4)図書館サービスの充実のため、調査・研究活動を行い、府立図書館の資料に精通し、幅広い能力を持つ司書の育成と継承を図ります。

 重点目標である(2)の府域図書館間情報ネットワークの機能の強化対策として、大阪府立図書館グループウェアが一年間の試行期間を経て、令和3年度より本格導入された。これにより市町村立図書館からの定型の連絡・申請の効率化、アンケートの実施や掲示板での情報交換など、府域図書館間のコミュニケーションの円滑化が図られた。このツールは、コロナ禍の中での情報共有に早速に力を発揮したことが報告されている。「災害発生時等の危機管理対応・情報共有」を一つの背景とする本基本方針において、意義のある取組であることを強く認識することとなった。広域図書館でのグループウェアの導入事例はまだ少なく、他地域での取組に資する先進モデルとなっている。

 一方、双方向のコミュニケーションの機会を確保することが懸案事項となっていたが、アンケートのフィードバックや掲示板での双方向の情報共有が実施され、改善が見られた。フォーマルなもののみならず、ざっくばらんな意見交換の場の確保にも引き続き努めていただきたい。

(1)の資料搬送業務については、府立図書館からの協力貸出冊数が期を通して目標値を下回った。特に令和2年度の落ち込みは大きかったが、その後持ち直した。コロナ禍による府域図書館の臨時休館が影響したと見られる。一方で、府域図書館全相互協力冊数に占める協力車搬送冊数の比率は上昇を続けている。図書館間の資料搬送業務における府立図書館の役割の重要性を示している。

(3)の図書館職員等の研修事業も、実施回数が4カ年中3カ年で目標値を下回った。コロナ対策により講師派遣研修の実施が困難であった期間があったことによる。一方、令和2年度からは動画配信による遠隔研修に取り組まれた。多数の申し込みがあり、好評であったことが報告されている。実施回数の落ち込みを補って余りある参加者が得られたであろう。双方向性の実現をという評価部会の指摘にも迅速に対応し、視聴後の質問受付、リアルタイム形式の一部導入により改善が図られた。集合形式で行われる対面研修の重要性は失われるものではないが、時間や場所の制約から日頃研修に参加できない人々にとって、遠隔研修の意義は大きい。コロナ禍は一方で、府立図書館の実施する研修の意義の再認識と新たな需要の開拓をもたらした。遠隔研修のさらなる進化に期待したい。

(4)の調査・研究活動の今期のテーマは「来館サービスと非来館サービスの効果に関する調査・研究」である。他都道府県への詳細かつ丹念な調査と結果分析に基づき、今後のサービスを測る指標の提案および検証が行われた。他館の政策決定にも大いに資する意欲的な内容であり、高く評価するものである。

2.「基本方針2」(府立図書館は、幅広い資料の収集・保存に努め、すべての府民が正確な情報・知識を得られるようサポートします。)

 基本方針2の目標は、蔵書とそれを基盤としたサービスの充実である。この点に関する今期の重点課題は以下の4項目であり、重点目標は「効果的な蔵書の構築」であった。

(1)資料収蔵能力の確保に努めつつ、効果的な蔵書の構築をめざします。

(2)府民への情報サポートを担うレファレンス能力の高い府立図書館司書の育成と、蓄積したノウハウの継承に努めます。

(3)障がい者サービスの充実を図るとともに、図書館利用に困難がある方へのサービスの向上を図ります。

(4)ビジネス支援に役立つ幅広い情報を提供します。

 重点目標である(1)の効果的な蔵書の構築に向けては、「紙・電子媒体資料統合提供調査チーム」を立ち上げ、調査が実施された。図書館協議会では、大阪府域市町村立図書館との合同調査および令和5年度に予定されている次期システム更新に向けて、紙媒体資料と電子媒体資料とを一つのシステムで提供できる仕組みの検討を要請した。これに応えて、都道府県立図書館および大阪府域市町村立図書館における電子媒体資料の導入状況をアンケートにより把握し、さらにはWeb会議システムを活用し、市町村と合同での情報収集・調査が進められた。報告書では、読書バリアフリーやデジタルアーカイブ、ウェブスケールディスカバリーの観点も含めて、実態に立脚した丁寧な分析が加えられている。実施に向けて乗り越えるべき課題点を示すとともに、府立図書館としての今後の優先順位を提言した。「基本方針1」の「来館サービスと非来館サービスの効果に関する調査・研究」同様、図書館界全体にとって意義ある調査報告になった。賞賛に値しよう。

 (2)のレファレンス能力の高い府立図書館司書の育成では、e-レファレンス質問件数は令和2年度以降、微減傾向ながら高い値で推移している。レファレンス事例データベースへのアクセス数も増減はあるものの、140万~180万件の間で推移している。コロナ禍の影響により、オンラインで提供されるサービスが一定の利用を集め、また高い満足度も得ている。対面、オンラインを問わず、図書館の実施するレファレンスサービスの意義は複数の情報源により根拠を明示した調査の信頼性である。この信頼の維持には人材の育成が不可欠である。

 政策立案支援サービスに関わっても、レファレンス受付件数が大幅に減少した。行政がコロナ対策に集中する期間があったことがある程度影響したとも見えるが、資料の貸出は増加している。利用状況を分析し、さらに拡げていくのも、府立図書館への信頼となる。レファレンスサービスの質向上については、今後も一層の研鑽を積み重ねていただきたい。

 (3)の障がい者サービスについては、令和元年6月に「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法)」が公布・施行され、大阪府は令和2年度末に「大阪府視覚障がい者等の読書環境の整備の推進に関する計画(読書バリアフリー計画)」を策定した。府立図書館は以前より障がい者サービスに先進的な取組を続けており、同計画でも大きな役割を果たすことが期待されている。今期については、令和2年度、遠隔コミュニケーションアプリを用いた対面朗読サービスを全国に先駆けて実施した。図書館に足を運ばずとも自宅で対面朗読サービスを受けられると、利用者から好評を得ている。令和3年度には研修動画も作成し、限定公開ではあるものの、より多くの府域図書館員への研修に繋がった。

 (4)のビジネス支援サービスでは、講座セミナー回数はコロナ禍の影響により目標値を下げざるを得なかった。中之島図書館の書庫建て替え工事やコロナ禍の中での講師派遣調整など、講座セミナーの実施には困難が伴った。そうした中で令和元年度の数値には及ばないものの、令和4年度には18回の講座を実現された努力は多大であり、評価したい。また、こちらにもオンライン開催や動画配信が導入され、実施回数以上の効果があったと推察される。ここでも、府立図書館におけるこれまでの知識・技能の蓄積を基礎として、コロナ禍は新たな利用の裾野を拡げる契機となった。

3.「基本方針3」(府立図書館は、府域の子どもが豊かに育つ読書環境づくりを進めるとともに、国際児童文学館の機能充実に努めます。)

 基本方針3の目標は、府域の子ども読書活動の推進である。令和2年度末に「第4次大阪府子ども読書活動推進計画」と「大阪府読書バリアフリー計画」が策定され、令和3年度は両計画のもとでの活動初年度となった。今期の重点課題は以下の3項目であり、重点目標は子どもの読書活動を推進するうえでの「図書館利用に配慮が必要な子どもへの読書活動支援」である。

(1)府域の子どもの読書活動を推進します。

(2)広域自治体の図書館の視点から、学校等に対する支援を進めます。

(3)国際児童文学館資料の一層の活用を図ります。

 (1)の子どもの読書活動推進のうち、重点課題は「図書館利用に配慮が必要な子どもへの読書活動支援」である。これに関わって今期開始された事業の一つは、支援学校へのサービスの提供である。令和元年度に検討を開始、令和2年度以降、支援学校向けの図書貸出しセットの作成、府立聴覚支援学校との連携、府立児童支援施設への団体貸出が実施された。また、外国にルーツのある児童・生徒の外国語資料の利用に向けた取組も同時期に開始された。令和3年度にはさらに府教育庁所管課(文部科学省委託事業)によるフリースクールへのセット貸出等への協力も行われた。令和4年度には、学校図書館関係者への読書バリアフリーへの理解を促進するため、毎年開催している学校との合同研修に合わせて読書バリアフリーイベントを開催している。計画に留まることなく、それを実現にこぎつけ、さらに向上させていく姿勢を高く評価したい。ひとつ要望するとすれば、令和3年度の報告書にも記したように、個別ヒアリングの手法を用いるなどして、図書館サービスを必要とする子ども等の声を直に汲み取る努力もしていただきたいという点である。

 (2)の学校等への支援に関しては、高等学校等への協力貸出冊数が今期を通じて低調であった。コロナ禍の影響と見られている。しかし令和4年度には「主体的で対話的な深い学び」を目指した新たな学習指導要領を受け、図書館活用に関する見学や講座の問い合わせが増えている。教職員ポータルへの目標値を上回る積極的な情報提供を続けたことの成果とも言えよう。協力のあり方は貸出だけに留まるものではない。高等学校等が今後どのようなサービスを必要とするのか把握しつつ、進めていただきたい。

 (3)の国際児童文学館については、今期を通じてのデータ再整理点数が目標値を大きく上回った。日々の地道な努力を評価したい。また、令和2年度と令和3年度には「講演と新刊紹介」を従来の会場形式から動画配信に変更、令和4年度からは会場形式と動画配信とのハイブリッドで実施され、いずれの年も全国から多くの視聴があった。コロナ禍は、国際児童文学館の魅力に触れたいと願う人々の存在を改めて顕在化させる契機ともなった。

4.「基本方針4」(府立図書館は、大阪の歴史と知の蓄積を確実に未来に伝えます。)

 基本方針4の目標は、大阪の歴史と知の蓄積・継承で、主として中之島図書館に関わる。この点に関する今期の重点課題は以下の2項目であり、重点目標は市町村立図書館、大学、研究機関等とのデータベース連携の拡充であった。

(1)地域資料および古典籍を収集・保存し、積極的な利活用を図ります。

(2)府域の地域資料や情報を収集し、「おおさかポータル」を充実することにより、大阪の歴史や文化についての情報発信を強化します。

 重点目標である(2)の「おおさかポータル」の充実に関する外部機関との連携については、連携先を10機関とした目標を達成した。それに伴い、データの登録件数も今期トータルで15,000件を超え、累積では8万件を突破した。件数のみならず、事項マップや一部書影の追加、検索結果のソート順など、魅力を増す工夫も施された。令和4年度には前年比70%増の17万件のアクセスがあり、従来指摘されてきた認知度の課題にも改善が見られる。このアクセスの実態については、アクセス元やアクセス先など詳細に検証することによって、一層効果的な情報提供に繋げていただきたい。

 (1)については、今期中に貴重図書未公開分、「石崎文庫」等の特別コレクションなどが追加され、おおさかeコレクションの公開データ数が5万件を突破した。府立図書館の有する奥行きの深い数々の資料の公開は、現在および将来の多くの研究に資するだろう。ジャパンサーチとの連携によるアクセス可能性のさらなる向上にも期待したい。

5.「基本方針5」(府立図書館は、府民に開かれた図書館として、地域の魅力に出会う

 基本方針5の目標は、府民に親しまれる図書館づくりである。この点に関する今期の重点課題は以下の2項目であり、重点目標は、中央図書館が生涯学習事業における外部機関等との連携(展示・イベント等の企画実施)、中之島図書館が指定管理者との共同企画であった。

(1)「大阪から世界を知る」を基本コンセプトに生涯学習の拠点として図書館の魅力を高め、充実した事業を実施するとともに情報発信に努めます。(中央図書館)

(2)「大阪の歴史と商い」を基本コンセプトに指定管理者等との共同企画による多彩な事業を実施するとともに情報発信に努めます。(中之島図書館)​

 連携イベントの回数や講演会等への参加者数は、コロナ禍の影響を考慮して目標値を下げざるを得なかった。その中でも感染症対策に努めて実施された講座の参加者満足度は高水準を維持した。ただし、令和元年度と比較すると満足度は10ポイント程度低下しており、講師とのやり取りや参加者同士の交流などに制約があったことの影響が考えられる。コロナ禍は、平常時には当然のことと考えられていた対面コミュニケーションの意義を、改めて浮き彫りにすることにもなった。今後の講座の開催においては、対面ならではの交流の場の提供のあり方が問われよう。

 今期は対面講座が十分に開催できなかった一方で、古文書講座や書庫ツアーの動画が発信された。古文書講座(全3回)の動画は延べ23,000回の視聴があり、需要の多さが見て取れる。府立図書館の古文書に対する識見への信頼の表れであり、ここでもコロナ禍は新たな関心者層を顕在化させる結果をもたらした。近年は比較的短い動画がよく視聴される傾向にある。じっくり視聴する講座等の動画以外に、それへの導入になるような短い動画の作成があってよいかもしれない。YouTubeなどをうまく活用するための研修の受講も検討してほしい。

さいごに

​ 今期を通じて、コロナ禍は大きな影響をもたらした。それは対面で実施するサービスには負の影響を与えたが、一方で遠隔で実施するサービスに新たな地平を開いた。府立図書館は直面する困難にも立ち止まることなく、足元では地道な努力を続けられ、また新たな取組にも果敢に挑戦する姿勢を貫かれた。なかでも特筆すべきは、2本の調査報告書を計画通りにまとめられたことであろう。府立図書館の底力が遺憾なく発揮された点、現在の力を未来に継承するきっかけとなった点、図書館界全体に資する内容となった点、いずれも高く評価したい。府立図書館の資料に精通し、幅広い能力を持つ司書の育成とそうした知識・技能の継承を図ることも目的とされた。この目的は一朝一夕に培われるものではない。今後の継続を望みたい。

 次第に日常を取り戻しているとはいえ、ウイズコロナの困難な状況は今後も続くと予想される。世界情勢も混迷の度合いを増し、先行きが不透明である。可能性と脅威を併せ持つ生成AIという新たなツールも身近なものとして登場してきた。府立図書館にはレファレンスサービス等で確度の高い情報を提供し、多くの課題に直面する人々にとっての道しるべを示す存在であっていただきたい。そのためには人材育成の継続が欠かせまい。これは府立図書館に留まらず府域図書館全体の問題でもある。第四期で構築した府域図書館間情報ネットワークを十二分に活用しつつ、図書館間の人的交流を深めることが求められる。

 第五期は基本方針をそのままに、第四期までの成果と課題を踏まえ、新たな評価枠組みのもと、すでに活動が開始している。これまで府立図書館は常に現状に満足することなく、着実に前進し、新たな挑戦を続けてきた。そうした姿勢があればこそ、府立図書館を支援しようという周囲の声も大きくなる。困難な時代を乗り越える知識・情報を遍く提供する、地域の頼りになる存在として、制約も多くあろうが、第五期もまた日本のトップリーダー館ならではの力を十二分に発揮し、新たな府立図書館の姿を見せていただきたいと願う。

大阪府立図書館協議会 活動評価部会 (50音順・○は部会長)
岸本岳文(元京都産業大学教授)
佐藤翔(同志社大学准教授)
○ 村上 泰子(関西大学教授)

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