大阪府立図書館

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令和2年度 大阪府立図書館の活動評価について(外部評価報告)

更新日:2021年9月28日

[PDFファイル/998KB]

令和2年8月
大阪府立図書館協議会 活動評価部会

はじめに

令和2年度は活動評価第四期(令和元~4年度)の第2年目にあたる。第四期からは評価対象期間を従来の三カ年から四カ年へと延長し、長期間を要する取り組みも含んだ活動計画がスタートしたが、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う令和2年3月の臨時休館や、令和2年4月と令和3年1月の年度中における2度の大阪府下の緊急事態宣言発令などにより、図書館も大きな制約のもとで活動せざるを得なくなった。

ただし、このような困難な条件下にあってさまざまに工夫を凝らして、制約を乗り越える新しい試みに挑戦されたことは、これからの図書館にとって、その可能性を広げるうえで大きな意味を持った働きであることを確認しておきたい。

以下、5つの基本方針に沿って評価を加える。

1. 「基本方針1」(府立図書館は、市町村立図書館を支援し、大阪府全域の図書館サービスを一層充実させます。)

基本方針1の目標は、大阪府全域にわたる図書館サービスの充実・発展である。この点に関する今期の重点取組業務は以下の4項目であり、重点目標は「府域図書館間情報ネットワークの機能強化」であった。

(1)より一層効率的な資料搬送業務を通じて、府域図書館への支援を拡充します。

(2)府域図書館間情報ネットワークの機能強化を図ります。

(3)府域図書館職員等の能力向上を図るため、研修事業の新たな方策に取り組むなど、充実を図ります。

(4)図書館サービスの充実のため、調査・研究活動を行い、府立図書館の資料に精通し、幅広い能力を持つ司書の育成と継承を図ります。

重点目標である(2)の府域図書館間情報ネットワークの機能の強化については、令和3年度からの「電子掲示板など新たなコミュニケーションツールの運用」の本格実施に向けて、グループウェアの試行運用と検証が行われた。グループウェアの導入は、アンケートの実施や購入希望図書の申請、協力車運行の連絡等に有効に活用できるようであり、本格実施により府域の図書館のコミュニケーションがより緊密になることを期待したい。

(1)の資料搬送業務において、府立図書館からの協力貸出冊数は、府域の図書館の臨時休館が長期化した影響もあり、令和元年度に続いて減少し目標値を下回った。ただし、府域の図書館全体の相互協力資料の流通にあって、府立図書館の協力車を利用した搬送の割合が引き続き増加傾向にあることは、図書館間の資料搬送業務における府立図書館の役割の重要性を示しているといえる。

(3)の図書館職員等の研修事業では、研修実施回数が目標値を上回った。そのうえで、今年度の取り組みに関しては、コロナ禍にあって主として動画配信による遠隔形式での研修を積極的に展開したことを高く評価したい。集合形式の研修と異なり、これまで参加が難しかった遠方の図書館や少人数の職員の図書館からも多くの参加者があったことは、厳しい状況のなかでの工夫がもたらした前向きな成果だと考えられる。

 (4)の調査・研究活動による司書の育成と継承については、最終年度(令和4年度)の「来館サービスと非来館サービスの効果に関する調査・研究」に関する報告書作成に向けて、令和2年度はアンケート結果を分析した中間報告書が作成されたが、3年度に予定されている二次調査の準備に遅延が見られるようである。報告書のテーマは現在のコロナ禍における喫緊の課題でもあり、充実した調査が行われることを望む。

2.「基本方針2」(府立図書館は、幅広い資料の収集・保存に努め、すべての府民が正確な情報・知識を得られるようサポートします。)

基本方針2の目標は、蔵書とそれを基盤としたサービスの充実である。この点に関する今期の重点課題は以下の4項目であり、重点目標は「効果的な蔵書の構築」であった。

(1)資料収蔵能力の確保に努めつつ、効果的な蔵書の構築をめざします。

(2)府民への情報サポートを担うレファレンス能力の高い府立図書館司書の育成と、蓄積したノウハウの継承に努めます。

(3)障がい者サービスの充実を図るとともに、図書館利用に困難がある方へのサービスの向上を図ります。

(4)ビジネス支援に役立つ幅広い情報を提供します。

(1)の効果的な蔵書の構築に向けて取り組まれているのが、電子媒体資料と紙媒体資料の効果的な提供方法を探っていくことである。コロナ禍で電子書籍の貸出サービスが注目されていることもあり、市町村立図書館との合同調査を実施したことは、電子書籍の導入について市町村立図書館が慎重に検討する機会を設けたという点でも適切な働きかけであった。

著作権法の改正もあり、「紙媒体資料のデジタルでの提供」ということが社会的にも認められる方向になってきている。これまではデジタル資料と紙媒体資料のそれぞれを、どのように扱うのが効果的かという論点が中心であったが、これからは紙媒体資料を電子化して提供することも含めて検討する必要がある。紙媒体と電子媒体を一つのシステムで提供できるようにすることも視野に入れて、海外を含めた先進事例の調査・研究を進めることが望まれる。

(2)のレファレンス能力の高い府立図書館司書の育成では、継続的に館内でのレファレンス研修が実施されている。府立図書館に蓄積された豊富な経験は貴重なものであり、これを継承していく努力を続けてもらいたい。

基礎指標を見ると、e-レファレンス質問件数が前年度と比較して倍増している。Webによる複写受付件数も同様の傾向を示している。来館が困難になっているなかでの遠隔利用による増加ではあるが、府立図書館に対する信頼があるからこそ、さまざまな質問が数多く寄せられているのであろう。レファレンスサービスを広く知ってもらうためにも、この機会をうまく活用していただきたい。

(3)の障がい者サービスの充実では、特筆すべきこととして遠隔コミュニケーションアプリを用いた対面朗読サービスを全国に先駆けて実施したことが挙げられる。図書館に足を運ばなくとも、自宅で対面朗読サービスを受けられることから、利用者には好評のようである。府立図書館に続いて多くの図書館でも実施されることになったが、先鞭を切った府立図書館の姿勢は高く評価しておきたい。

 (4)のビジネス支援サービスでは、セミナー等の開催が困難な状況であり、目標値に届かなかったことは止むを得ないことと考えられる。e-レファレンスの増加などを見ると、ニーズに合致すれば、Webを活用したビジネス情報サービスなどの需要は高いと思われる。来館を前提としたサービス展開の見通しが厳しいなかでは、コロナ禍に対応した新しいニーズの把握に努める必要があるだろう。

3.「基本方針3」(府立図書館は、府域の子どもが豊かに育つ読書環境づくりを進めるとともに、国際児童文学館の機能充実に努めます。)

基本方針3の目標は、府域の子ども読書活動の推進である。この点に関する今期の重点課題は以下の3項目であり、重点目標は子どもの読書活動を推進するうえでの「図書館利用に配慮が必要な子どもへの読書活動支援」であった。

(1)府域の子どもの読書活動を推進します。

(2)広域自治体の図書館の視点から、学校等に対する支援を進めます。

(3)国際児童文学館資料の一層の活用を図ります。

(1)の子どもの読書活動推進における「図書館利用に配慮が必要な子どもへの読書活動支援」についての指標である「催し、講座等の回数」は、感染拡大防止のため定例のおはなし会などが開催できず、残念ながら目標数値には達しなかった。いっぽうで、府立聴覚支援学校などへのヒアリング、府立児童自立支援施設への団体貸出実施、外国にルーツのある児童・生徒の外国語資料の利用に向けた教員や外国人児童生徒支援員向け広報チラシ作成など、より幅広い子どもたちへのアプローチを目指した取り組みが行われている。令和3年度には教育庁の図書館所管課において文部科学省委託事業の「様々な居場所における子どもの読書活動習慣形成事業」でフリースクール等への貸出も実施され、図書館では貸出セットの選書等に協力しているとのことである。数値指標では見えてこないが、全ての子どもが読書の楽しさと大切さを知ることができるようにするため、子どもたちの読書実態を把握するための調査など地道な活動に取り組まれていることについては高く評価したい。

(2)の学校等への支援に関しては、府域図書館への協力貸出と同じく府立学校への協力貸出も減少し、貸出冊数は目標値の三分の一にしか達しなかった。直接的なサービスにコロナ禍の影響が大きく現れているが、こうした状況を踏まえて、教職員ポータルへの目標値を上回る積極的な情報提供を展開していったことは評価しておくべきであろう。令和2年度からは矯正施設への特別貸出に加えて、児童自立支援施設への貸出を開始している。評価指標は矯正施設のみが対象になっているが、指標に掲げられていなくても、子どもたちが本に出会える可能性を広げる取り組みはこれからも積極的に展開していってほしい。

 (3)の国際児童文学館については、「講演と新刊紹介」を従来の講座形式から動画配信に変更したところ、全国から参加があり好評だったという。国際児童文学館の利用者は府域だけではないことを、あらためて実感させられた。コロナ禍は、全国の利用者に向けたサービスのあり方を考えていく機会になったともいえる。

4.「基本方針4」(府立図書館は、大阪の歴史と知の蓄積を確実に未来に伝えます。)

基本方針4の目標は、大阪の歴史と知の蓄積・継承で、主として中之島図書館に関わる。この点に関する今期の重点課題は以下の2項目であり、重点目標は市町村立図書館、大学、研究機関等とのデータベース連携の拡充であった。

(1)地域資料および古典籍を収集・保存し、積極的な利活用を図ります。

(2)府域の地域資料や情報を収集し、「おおさかポータル」を充実することにより、大阪の歴史や文化についての情報発信を強化します。

重点目標である(2)の「おおさかポータル」の充実に関する外部機関との連携については、大阪観光局等のデータの「おおさかポータル」公開画面への反映は次年度に持ち越されたが、府域の市町村立図書館からのデータ提供についても準備が進められており、充実した内容になることが期待される。検索結果の「事項詳細」画面に写真が表示されるようになったことで提供される情報にインパクトが増しており、利用頻度は高まると思われる。ただし、例えば事項詳細からリンクしている国立国会図書館のレファレンス協同データベースの検索結果の初期設定が「最終更新日時」の降順となっている点などは、利用する側から見れば「適合度順」のほうが便利なのではないだろうか。データベースの拡充に伴い、今後はより幅広い層の利用が見込まれることから、利用実態を把握するとともに、利用者の視点に立った改善に努めることが求められる。

 (1)の古典籍収集では、電子資料検索システム「おおさかeコレクション」に「石崎文庫」資料を登載したことで、ここ数年は3万2千件台で推移していたデータ数が4万5千件弱となり、古典籍の本文が画像で閲覧できるタイトルが大幅に増加したことは評価しておきたい。これにより1951年に収蔵され、1968年に目録が刊行されている「石崎文庫」に新たな光があてられることとなった。図書館の仕事のなかでは目立たない地味な作業を積み重ねた結果であるが、このことこそが中之島図書館のもつ底力であると感じさせられた。

5.「基本方針5」(府立図書館は、府民に開かれた図書館として、地域の魅力に出会う

基本方針5の目標は、府民に親しまれる図書館づくりである。この点に関する今期の重点課題は以下の2項目であり、重点目標は、中央図書館が生涯学習事業における外部機関等との連携(展示・イベント等の企画実施)、中之島図書館が指定管理者との共同企画であった。

(1)「大阪から世界を知る」を基本コンセプトに生涯学習の拠点として図書館の魅力を高め、充実した事業を実施するとともに情報発信に努めます。(中央図書館)

(2)「大阪の歴史と商い」を基本コンセプトに指定管理者等との共同企画による多彩な事業を実施するとともに情報発信に努めます。(中之島図書館)

(1)の中央図書館の生涯学習関連の連携イベントについては、コロナの感染拡大防止の観点から中止や規模の縮小で参加者数が目標値を下回ったことは止むを得ない。

SNSについては、インスタグラムもかなり準備して取り組んでいる様子が窺え、資料紹介の表紙写真などは背景にも工夫がされていて好感が持てるものになっている。インスタグラムでの情報発信は公共図書館としては先進的な取り組みであり、さらに工夫を重ねて利用者にアピールしてもらいたい。

(2)の中之島図書館での指定管理者等との共同企画についても、感染拡大防止に留意しての実施となった。講座参加者の満足度は目標値を上回っているとはいえ、前年度に比較すると10ポイントほど下がっているようである。感染拡大防止のため講師とのやりとりや参加者同士の交流などに制約があったことも影響しているかと思われるが、これからの講座の開催にあたっては考慮しておくべき点となるだろう。

来館者に対するサービスが制約されるなかで、中止した中央図書館地下書庫見学ツアーに代えて、地下書庫の紹介動画をYouTubeで配信するなどの積極的な取り組みは評価しておきたい。動画はわかりやすくまとめられていて府立図書館の書庫への興味を惹くものになっているだけに、「地下書庫紹介1」「地下書庫紹介2」というタイトルの付け方などにはもう少し工夫が欲しかったところであるが。

さいごに

コロナの終息が見通せないなかで、図書館の運営にも新しい知恵を出すことが求められています。図書館の遠隔利用など、状況に応じた図書館サービスの展開に注目が集まっています。新しいことへ挑戦する姿勢は大切にしてほしいと思います。だからこそ、その挑戦を通して常に図書館の社会的な役割とは何か、図書館の基本的な働きはどこにあるのかと、図書館サービスの原点に立ち戻って活動を深めていただけたらと願っています。

なお、感染状況を踏まえた今期後半の目標値変更が提起され、妥当なものと考えられることから協議会として承認したことを付言しておく。

大阪府立図書館協議会 活動評価部会 (50音順・○は部会長)
岸本岳文(元京都産業大学教授)
佐藤翔(同志社大学准教授)
○ 村上 泰子(関西大学教授)

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