大阪府立図書館

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平成30年度 大阪府立図書館の活動評価について(外部評価報告)

更新日:2019年10月10日


令和元年8月
大阪府立図書館協議会 活動評価部会

はじめに

 平成28年度から30年度の三ヵ年は、大阪府立図書館(以下、府立図書館)の活動評価の第三期に当たる。活動評価の第一期には、国際児童文学館の移転・開館と大阪版市場化テストの導入という大きな変革があった。また第二期には、中之島図書館のあり方の再検討と、それにもとづいたリニューアルがあった。第二期の外部評価報告(以下、報告)では、府立図書館がこれらの取り組みを着実に進めながら、府域全体の図書館基盤の充実に大きく貢献してきたことについて、高く評価されている。

 続く第三期では「府立図書館の使命」を第二期から引き継ぎ、これまでの成果をもとに足元を着実に固め、府域全体の図書館サービスの向上が目指された。また、おおさかポータルの構築・公開により、大阪府域の情報におけるハブ拠点づくりへの取り組みも推進された。

 以下では三ヵ年の活動全体について、5つの基本方針に沿って評価を加える。

1. 「基本方針1」(府立図書館は、市町村立図書館を支援し、大阪府全域の図書館サービスを一層充実させます。)

基本方針1の目標は、大阪府全域にわたる図書館サービスの充実・発展である。この点に関する今期の重点課題は、以下の3項目であった。

(1) 市町村への資料提供、図書館間連携・協力の強化
(2) 府域図書館職員を対象とした研修事業の充実 [最重点項目] (3) 調査・研究活動、専門性の向上

最重点項目である(2)の研修事業については、研修実施回数が目標値を大幅に上回った。研修参加者の満足度も高い水準を維持している。第二期における研修内容の整理が今期にも引き継がれ、加えてインフォーマルな交流の場の設定、ニーズを的確にとらえた研修内容など、質量ともに充実してきた。高く評価したい。

一方で、今後に向けた課題を2点指摘しておく。

ひとつは、正規・非正規など府域職員の多様な立場を考慮し、異なるキャリアパスに対応した、きめ細やかな研修のあり方の検討である。

もうひとつは、研修成果の共有である。府立図書館での研修に直接参加できる職員の数は限られる。参加した職員が研修の成果を所属館に持ち帰り、他の職員と共有する伝達研修を含めてどう活かしているのか。その把握は、受講者の満足度とあわせて大変重要である。市町村図書館の中で知識・情報を共有する仕組みをどのように作っていくか、といったことを視野に入れておく必要があろう。昨年度は成果発表の場が設けられた。これは研修がどのように役立ったのかを情報共有できる貴重な場と言える。そこでは課題も出たであろう。市町村図書館での関連の研修の状況を可能な範囲で把握し、課題を探って、府立図書館が支援していくことも考えていただきたい。

(1)の市町村への資料提供等について、第二期の報告では、協力貸出冊数が目標値に届いていない問題点が指摘されていた。しかし、今期は搬送数などいずれも目標値をクリアし、支援の提供は安定的に行えていることを確認した。PRポスターを作成し、府域図書館へ配布するなどの利用促進活動が実を結んだと言える。

(3)の調査・研究活動、専門性の向上についても、目標を達成している。研修講師としての力量は受講者の満足度にもあらわれており、専門性の向上は着実に図られている。調査研究については、第二期の蔵書評価に匹敵する大きな取り組みはなかったが、これは次期への準備期間ととらえたい。次期には紙と電子媒体の効果的な蔵書の構築に向け、意欲的なテーマでの調査が予定されている。市町村との合同調査である。平成29年度の報告で市町村立図書館職員と府立図書館職員との共同研究の提案をしたことが、早速実現された。こうした迅速な行動は賞賛に値する。調査の成果にも期待したい。

2.「基本方針2」(府立図書館は、幅広い資料の収集・保存に努め、すべての府民が正確な情報・知識を得られるようサポートします。)

基本方針2の目標は、蔵書とそれを基盤としたサービスの充実である。この点に関する第三期の重点課題は、以下の4項目であった。

(1) より効果的な蔵書構築、収蔵能力の確保 [最重点項目] (2) レファレンス、資料提供サービスの充実
(3) ビジネス支援サービスの展開・強化
(4) 府域全体の障がい者サービス向上

最重点項目の効果的な蔵書構築については、複本資料の整理、蔵書満足度、いずれも目標をほぼ達成している。平成28年度の報告でも指摘したように、複本資料の整理は非常に困難で地道な作業であるが、よりよい蔵書構築へと繋がる重要な取り組みである。職員の方々の尽力に改めて敬意を表しておく。ただし、蔵書数日本一を掲げている府立図書館にあっては、さらに一歩、蔵書の充実に向けた積極的な取り組みを期待したい。前述の蔵書構築に関する調査はその第一歩であろう。同時に資料費の確保が重要であることも、念を押しておきたい。

なお、府域図書館からの蔵書に対する満足度は最終年度には持ち直したが、残念ながらわずかに目標には達しなかった。しかしながら、残り2ポイントの満足度を高めるために過剰にリソースを投入することは上策ではない。満足度の低かった図書館には、個別にその理由を確認するなどきめ細かな対応が必要であることを付言しておく。

電子書籍の予算要求は三ヵ年を通じて見送られた。現今の国内電子書籍サービスの状況に鑑みれば英断と言えよう。ただし、今後も継続して業界動向の情報収集をおこない、状況の変化に即応可能な体制を整えておくことが必要である。

(2)のレファレンス、資料提供サービスについては、資料展示回数が目標値の2倍を達成した。閉架資料の展示は、そのヴィジヴィリティを向上させる揺籃期の取り組みとして大いに評価できる。一方、展示による貸出向上率は最終年度、目標に届いていない。この取り組みを評価する指標として貸出向上率が適切かどうか、再考が必要であろう。

第三期は、調査ガイド・資料案内のCCBYライセンスによるオープンデータ化も図られた。第二期の報告では「デジタル化されたコンテンツは再加工を含めた利用がされてこそ、その真価が発揮される」として、CCライセンスの導入などによる二次使用の円滑化を求めた。貴重な一歩として評価したい。オープンデータ化が望まれる対象資料は多くある。統計データをはじめ、より再利用可能な形式でのオープン化を望む。

政策立案サービスは中間年度に落ち込んだが、最終年度には持ち直した。地道な広報活動とともに、利用した結果に対する満足度の高さがリピート利用の多さ、ひいては庁内での評価に繋がり、利用を増やしたと考えられる。先進事例として図書館関係の雑誌等にも紹介され注目されている。大いに評価したい。平成29年度の報告で指摘したように、こうした先進的な取り組みの実質的な効果は単純な利用件数では測れない。評価方法には別途の工夫を求めたい。

(3)のビジネス支援サービスは、第二期においては中之島図書館のリニューアルの影響により、充分な展開がなされなかったこと、利用者の認知度が低いことが指摘されていた。第三期は特に外部機関との連携による意欲的な事業展開が行われた。ビジネス支援分野における府立図書館の存在感向上に繋がる取り組みとして評価できる。また、ビジネス支援サービス実施のための研修会に近畿一円の図書館から多くの参加があったことも、この分野における府立図書館の活動が高く評価されている証左であろう。これらを足がかりに、さらなる取り組みに期待したい。

(4)の障がい者サービスでは、DAISY等障がい者支援資料の利用数が中間年度に目標値を下回ったが、最終年度には回復した。読書バリアフリー法の成立により、今後、利用者からも、行政からも、府域図書館からも、従来以上の期待の高まりが予想される。府立図書館には早くからICTを活用して取り組んできた経験・知識の豊かな蓄積がある。全国の取り組みを主導する存在として、存在感を高めていただきたい。

3.「基本方針3」(府立図書館は、府域の子どもが豊かに育つ読書環境づくりを進めるとともに、国際児童文学館の機能充実に努めます。)

基本方針3の目標は、府域の子ども読書活動の推進である。この点に関する今期の重点課題は、以下の3項目であった。

(1) 子ども読書活動の推進(「人材の育成」[最重点項目]を含む)
(2) 学校等への支援
(3) 国際児童文学館機能の充実

最重点項目である人材の育成については、府域のすべての図書館未設置自治体で「子どもの読書活動推進支援員養成講座(派遣)」が開催され、これが二巡目に入った。取り組みの継続、派遣先のニーズを拾った上での講座内容の組み立てなど、きめ細かな対応である。二巡目に入る中では、支援員を派遣した自治体で、それがどのように活かされているのかも確認しておくことが重要であろう。

また、令和元年度は第3次大阪府子ども読書活動推進計画の4年目である。府立図書館としては、大阪府全体の読書状況がどこまで向上しているのかにも注意を払い、府の目標の達成に向けて取り組んでいただきたい。

(2)の学校等への支援に関して、支援学校については、相談・助言後のフォローも行われており、評価したい。学校司書については、府域自治体における仕事の実態や配置状況の把握も重要である。学校図書館は「一人職場」であることも多いことから、各種情報の共有を図り、府域全体の底上げに努めていただきたい。具体的方策のひとつに「学校へ通うことが困難な子ども」への支援がある。そうした子どもの中には貧困などで図書館から遠くにいる子どもたちも含まれる。府立図書館として府域全体の児童サービスの今後を考えるうえでも、図書館のカウンターからは視野の外にあるそうした子どもたちについて、まずは実態把握が必要である。実態把握に際しては、ケースワーカー等、関係部署との連携を深め、アプローチの仕方を工夫する必要がある。

(3)の国際児童文学館については、移転資料の再整理の点数が目標に達した。今後も継続していただきたい。第三期は特に、タンザニアの絵本作家講演会など児童文学館の特色を活かした意欲的な事業が試行された。こうした様々な試行の中からやがて定着イベントが生まれることに期待したい。

4.「基本方針4」(府立図書館は、大阪の歴史と知の蓄積を確実に未来に伝えます。)

基本方針4の目標は、大阪の歴史と知の蓄積・継承で、主として中之島図書館に関わる。この点に関する第三期の重点課題は、以下の2項目であった。

(1) 地域資料、古典籍の収集・保存とデジタル化
(2) デジタル化された地域資料および古典籍を活用した情報発信の強化 [最重点項目]

(1)の地域資料、古典籍のデジタル化およびその発信に関しては、おおさかeコレクションの掲載データ数が当初目標を大幅に上回った。新規公開だけでなく、モノクロ画像1,600点のカラー画像への更新も行われ、世界的潮流でもある人文系の貴重資料群がデジタル化され発信されたことは評価できる。今後は利活用の仕組みが重要である。現在、展示、講演会、高校生向け講座、古文書講座などを実施して、利用に繋げる策が講じられている。今後はそれらの取り組みが実際にどの程度、コンテンツの利用に効果をもたらしているかの評価も必要となろう。

第三期の特筆すべき事項として、平成31年1月の「おおさかポータル」の公開がある。大阪に関連するキーワードや地図上の場所のクリックにより、その事項の簡単な紹介と、関連する図書や雑誌のリストが表示される。文献からはOPACデータへのリンクもある。この事業は第二期の頃から準備が進められてきたもので、当初計画どおりの公開となった。デジタルデータの公開にとどまらず、APIが公開されたことも非常に野心的な取り組みであり、評価したい。

ただ一方で、アピール不足は否めない。活用事例を集めて紹介するなど工夫がほしい。APIの場合には、サンプルURLを掲載し、ユーザがその場で結果を確認できるような配慮があってもよい。また、リストされる図書、雑誌がデジタル化されていない点も、一般的な利用者への訴求力において十分とは言えない。今後計画されている他機関のデータベースとの連携拡充に際しては、こうした点も考慮し、さらなる発展を目指していただきたい。

また、「大阪の行政資料」の収集、提供については第一期からの懸案事項である。第二期の報告では「おおさかeコレクション」の一部に「大阪の行政資料」が加えられた点を成果としたが、リンクされたコンテンツは極めて限定的であった。大阪府の行政資料は公文書総合センターが収集・提供をおこなっているが、全体像が把握しづらい。まずは、行政資料の全体像についての実態把握を、府立図書館が声を上げ、中心となって実施すべきではないか。

5.「基本方針5」(府立図書館は、府民に開かれた図書館として、地域の魅力に出会う「場」と機会を提供します。)

基本方針5の目標は、府民に親しまれる図書館づくりである。この点に関する今期の重点課題は、以下の2項目であった。

(1) 外部機関等との連携強化 [最重点項目] (2) 情報発信の強化

最重点項目である外部機関等との連携について、中央図書館の生涯学習関連の連携イベントは目標を大きく上回る実施回数を達成した。中之島図書館の指定管理者との共同企画も目標をクリアしている。各イベントについて連携機関や利用者の満足度も高い。今後はさらに「満足」の内実を明らかにすることが求められよう。時には利用者に声をかけ、30分程度じっくり話を聞いてみることもあってよいだろう。さらには、米国図書館協会・公共図書館部会(PLA)による公共図書館パフォーマンス評価に関する共通手法、Project Outcomeを参考に、参加者がイベントから何を得たのか、参加前後に生じた変化を検証することも有益かもしれない。これまで府立図書館はすでに多くの課題を達成してきた。今後はより具体的に、府民にどのような形で貢献できているのか、そのアウトカムを検証していく段階に来ているのではないか。

(2)の情報発信の強化については、ツイッター発信数が目標を大幅に上回り、一定の実績を積みつつある。内容はまだまだ硬いものが多いが、写真を多用したり、やわらかい口調を交えるなど、努力が垣間見られる。引き続き、親しみある図書館像を生み出す工夫を求めたい。同様のことは、レファレンス協同データベースの登録データにも言える。また、ツイッター以外のSNSも活用し、裾野を広げることも検討されたい。

2014年から開始された『本蔵 -知る司書ぞ知る』(月刊)も、毎回、司書ならではの「知る人ぞ知る」おススメ本が紹介されていて興味深いが、これ自体が「知る人ぞ知る」情報になってはいないだろうか。

さいごに

第三期の評価を行う中で、府立図書館は府域の図書館から厚い信頼を寄せられていることがうかがわれる事例を数多く発見した。第一期からの取り組みが着実に実を結んでいると言える。次期に向けては、大阪府域にとどまらず、日本の図書館界全体を牽引していく意気込みを持って、各事業を進めていただけることに期待して、第三期の評価を終えたい。

大阪府立図書館協議会 活動評価部会 (50音順・○は部会長)
岸本岳文(京都産業大学教授)
佐藤翔(同志社大学准教授)
○ 村上 泰子(関西大学教授)

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