平成29年度 大阪府立図書館の活動評価について(外部評価報告)
更新日:2019年1月29日
平成30年8月
大阪府立図書館協議会 活動評価部会
はじめに
平成29年度は第三期大阪府立図書館活動評価の中間年にあたる。昨年度の評価報告において「従来の方針を保ちつつ、また更に新しい企画に踏み出していることが確認された」としているように、織田作之助文庫の目録公開や新しい事業企画なども含めて第三期の事業は着実に進展していると感じられる。
以下では、5つの基本方針に沿って評価を加える。
1. 「基本方針1」(府立図書館は、市町村立図書館を支援し、大阪府全域の図書館サービスを一層充実させます。)
基本方針1の目標は、大阪府全域にわたる図書館サービスの充実・発展である。この点に関する今期の重点課題は以下の3項目であり、重点目標は「研修機会の提供」であった。
- 府域市町村立図書館へのより効果的な資料および情報の提供を行い、図書館間相互の連携・協力を強化します。
- 府域図書館職員の能力向上を図るため、研修事業を充実します。
- 図書館サービスを充実させるための調査・研究活動を進めるとともに、府立図書館の蔵書に精通し、幅広い能力を身に着けた司書の育成と継承に努めます。
(1)については、情報と資料の流通支援の実績がともに前年度より増加し目標値を上回っている。府立図書館の基本である市町村立図書館支援の骨格となる仕事が着実に進められていることは高く評価したい。
(2)の研修に関しては、昨年度の報告で研修直後の満足度だけではなく、実際のアウトカムを測定するといった評価方法の工夫と、その結果を研修内容に活かすことの必要性を指摘していた。研修終了後に一定の時間を置いたアンケート調査なども検討しているとのことなので、その結果にも注目していきたい。また、研修会の終了後に参加者の交流会を開催して府内図書館職員のインフォーマルな情報交換の場を設定されていることは、目立たないが大切な取り組みとして評価したい。
(3)は府立図書館職員の研修であるが、これからは例えば市町村立図書館職員と府立図書館職員との共同研究といったかたちで、(2)と(3)を一体化したような研修などを考慮しても良いのではと思われる。
2.「基本方針2」(府立図書館は、幅広い資料の収集・保存に努め、すべての府民が正確な情報・知識を得られるようサポートします。)
基本方針2の目標は、蔵書とそれを基盤としたサービスの充実である。この点に関する今期の重点課題は以下の4項目であり、重点目標は「保存対象資料の精査」と「効果的な蔵書の構築」であった。
- 資料収蔵能力の確保に努めつつ、効果的な蔵書の構築をめざします。
- 図書館資料と検索技術に精通した職員(司書)の専門性を活かし、レファレンスや資料提供サービスを充実させます。
- ビジネス支援サービスの新たな展開と強化を図ります。
- 障がい者サービスの充実を図るとともに、府域全体の障がい者サービスの向上を図ります。
(1)では効果的な蔵書の構築の指標として「蔵書満足度」が挙げられている。このうち府域図書館の満足度は88.4%で、対象となる43館中5館が満足していないことを示している。ただ、内訳を確認すると「どちらとも言えない」が4館、「やや不満」が1館、「非常に不満」は0館ということであるから、この数値を上げることを目的に過剰にリソースを投入することには意味がないと考える。市町村立図書館には府立図書館に対して多様な期待があるはずであり、ここでは「満足でない」と回答している図書館に対してその理由を確認するといった丁寧な対応をしていくことのほうが重要であろう。
電子書籍の導入について、平成29年度に予算要求を見送った決断は高く評価したい。コンテンツ数が圧倒的に不足している現段階では導入コストに見合った効果は期待できない。これについては、引き続き情報収集に努め全体的な動向を把握しておいていただきたい。
(2)はレファレンスサービスであるが、この中で「政策立案支援サービス」の利用件数が前年度と前々年度に比較して減少している。平成30年度は増加傾向にあり実績値の変動は年度ごとの件数の「揺れ」と見ることができるようであるが、図書館サービスとしての政策立案支援が府庁内の各部局に浸透しリピート利用も多いということからみて、このサービスの評価は単純な利用件数ではない別途の指標化を図るなど、実質的な効果を測定できるような工夫をすべきと考える。
(3)のビジネス支援サービスでは、特に外部機関との連携による事業の展開を目指している。この点ではセミナー等のイベント開催回数と実施にあたっての連携機関数ともに目標を大きく上回る実績となっており、意欲的な取り組みがなされていることを確認できた。また、図書館におけるビジネス支援サービス実施のための研修会に近畿一円の図書館から多くの参加があったということは、この分野における府立図書館の仕事が先駆的な活動として高く評価されていることを示すものであろう。これからも、ビジネス支援サービスの多様な可能性を提示するような取り組みを展開していっていただきたい。
(4)の障害者サービスにおいては、DAISY等障がい者支援資料の利用数が数値目標となっているが、達成率は97.7%と目標値を下回った。前年度比では95.2%であり、府立図書館両館あわせての個人貸出冊数が前年度比95.5%となっていることからみて、これに関しては全体的な図書館利用の減少傾向とあわせて捉える必要があるのかもしれない。目標達成に向けて利用者ニーズを把握することはもちろんであるが、郵送貸出といったかたちで図書館には直接来館しない利用者も対象となる障がい者サービスにあっては、府立図書館の存在感を高めるための方策も検討する必要があるだろう。来館されない府民の目に府立図書館がどのように映っているのかといったことを調べてみてもいいのではないかと思われる。
3.「基本方針3」(府立図書館は、府域の子どもが豊かに育つ読書環境づくりを進めるとともに、国際児童文学館の機能充実に努めます。)
基本方針3の目標は、府域の子ども読書活動の推進である。この点に関する今期の重点課題は、以下の3項目であり、重点目標は「子どもの読書活動推進に貢献する人材の育成」であった。
- 府域の子どもの読書活動を推進します。
- 広域自治体の図書館の視点から、学校等に対する支援を進めます。
- 国際児童文学館資料の一層の活用を図ります。
(1)のなかで「講座等の開催回数」が目標値を下回りC評価となっている。C評価は、今回評価項目として挙げられている33項目のうちでは、先に言及した「政策立案支援サービス」とこの「講座等の開催回数」の2項目のみである。国費事業として実施していた研修会等が終了し、新たに国費事業によるブックリスト等の編纂に取り組んだ結果、開催数が減少したとのことである。リストの編纂自体は子どもの読書推進活動に資するものとして一定の評価はできるが、数値目標を設定している以上は、別途、独自の講座を企画するなどして、目標値に到達するよう取り組むべきである。
(2)の学校支援では、「府立学校等への支援」で資料を貸し出した学校数が34校と大幅に増加し、前年度のC評価からA評価に変わった。学校の先生の間で府立図書館のサービスが紹介されて広まったり、校長先生の集まりで評判を聞いて利用するようになったりといった事例からも口コミによる効果は大きいようである。サービスに対する満足度の高さが、そのサービスを他者に推薦することにつながっていくとすれば、これは協力車利用による府立図書館の学校への特別貸出セットなどのサービスが高く評価されていることの表れであろう。
(3)の国際児童文学館資料について、目標の一つである移転資料の再整理点数は28〜29年度の2年で目標値である3万点を達成した。貴重な移転資料が有効に活用されていくためにも、再整理については今後も継続した取り組みを期待したい。タンザニアの絵本作家を迎えた国際講演会やワークショップの開催などは国際児童文学館ならではの事業として評価できる。「新刊紹介講座」のように毎年多くの参加者を集めるイベントもある。国際児童文学館の特色を活かした事業をいろいろと試みることで、そのなかから毎年開催が待たれるような定着したイベントが生まれてくるのではと楽しみにしている。
4.「基本方針4」(府立図書館は、大阪の歴史と知の蓄積を確実に未来に伝えます。)
基本方針4の目標は、地域資料・行政資料の収集・蓄積および情報発信、とりわけデジタル資料の収集、蓄積、提供である。この点に関する今期の重点課題は以下の2項目であり、重点目標は「情報発信の強化」であった。
- 地域資料および古典籍を収集・保存し、デジタル化を進めます。
- デジタル化された地域資料および古典籍の活用により大阪に関する情報発信の強化を図ります。
(1)について、昨年度の報告で大阪府の持つ行政資料に関して「ボーンデジタル資料についても、何らかの形で実態を把握する仕組みを考える必要があるだろう。資料公開の方針を確認しながら、より一層の情報公開を進めていただきたい」としていた。府としての方針が未確定な部分もあると思われるが、図書館は資料の組織化と保存についてもっとも適切な能力と経験を保有する機関であり、府民が情報にアクセスする場合にもっとも期待されるのが図書館であることからも、これについては府立図書館として責任を持って取り組んでいただきたいと願っている。
(2)は情報発信の強化である。「おおさかeコレクション」には「浄瑠璃本」804件が一括掲載されるなど、古典籍のデジタル化は順調に進められている。技術や通信環境の進展に伴い今後も解決すべき様々な課題が出てくると思われるが、これまでの蓄積を基盤にして今年度に予定されている「デジタル大阪ポータル(仮称)」が新しい情報発信の拠点として充分に機能することを期待したい。
5.「基本方針5」(府立図書館は、府民に開かれた図書館として、地域の魅力に出会う「場」と機会を提供します。)
基本方針5の目標は、府民に親しまれる図書館づくりである。この点に関する今期の重点課題は以下の2項目であり、重点目標は「生涯学習事業における外部機関等との連携(中央)」「指定管理者との共同企画(中之島)」であった。
- 外部機関等との連携強化により、多彩な事業を実施し、賑わいづくりに貢献します。
- 府立図書館の蔵書や機能、活動に関する情報発信を強化します。
(1)の外部機関との連携事業と指定管理者との共同企画はともに目標を上回る実施回数となり、連携団体と参加者の満足度も高いことから、これらの事業の展開は安定してきたと捉えてもよいだろう。
(2)の情報発信では、ツイッターの発信回数が大幅に増加している。ツイッター、フェイスブック、インスタグラムはそれぞれに利用する世代や性別が異なっていることから、今後は連携してツイッター以外のSNSにも積極的に情報を流すこともするべきだろう。
大阪府立図書館協議会 活動評価部会 (50音順・○は部会長)
岸本岳文(京都産業大学文化学部教授)
佐藤翔(同志社大学学習支援・免許資格課程センター准教授)
○ 村上 泰子(関西大学文学部教授)