大阪府立図書館

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平成28年度 大阪府立図書館の活動評価について(外部評価報告)

更新日:2017年12月6日


平成29年8月
大阪府立図書館協議会 活動評価部会

はじめに

 今期の平成28年度は第三期(平成28年度~30年度)の第1年目にあたる。今期は第二期までに掲げていた「府域の図書館ネットワークの核として、広域的かつ総合的な視点から府民と資料・情報をつなぎ、府民の“知りたい”という気持ちにこたえ、“学びたい”という意欲を育み、豊かで活気あるくらしと大阪における新たな知識と文化の創造に寄与すること」を軸に、5つの基本方針が維持されている。

 以下、5つの基本方針に沿って評価を加える。

1. 府立図書館は、市町村立図書館を支援し、大阪府全域の図書館サービスを一層充実させます。

基本方針1では、

  1. 府域市町村立図書館へのより効果的な資料および情報の提供を行い、図書館間相互の連携・協力を強化します。
  2. 府域図書館職員の能力向上を図るため、研修事業を充実します。
  3. 図書館サービスを充実させるための調査・研究活動を進めるとともに、府立図書館の蔵書に精通し、幅広い能力を身に着けた司書の育成と継承に努めます。

と三項目が重点取組業務として取り上げられている。いずれの項目も目標値とほぼ変わらない達成率が示されている。たとえば「資料搬送による支援」については協力車による府域図書館相互協力資料の搬送が増加しており、大阪府立図書館が府域の図書館への資料提供を支えていることが示されている。ただし、府立図書館の搬送数に影響を与えうる各自治体の資料費の動向についても注視しておく必要があるだろう。

 「研修機会の提供」については、研修実施回数は目標値を上回っている。現在、直接雇用ではない図書館員が増大しつつある中、時として彼ら・彼女らは研修の機会が得られないケースがある。その中で人と情報を繋げていく専門職としての研鑽を継続的に積むためにも、府立図書館の取組は非常に重要であり評価できる。ただしアンケートの実施にあたって研修を実施してすぐの満足度を測定するだけでなく、少し時間を置いて調査したり、アンケートの設問を工夫するなどして、実際のアウトカムを測定することで研修内容の実質化を図ることも今後は重要になってくると考えられる。

2. 府立図書館は、幅広い資料の収集・保存に努め、すべての府民が正確な情報・知識を得られるようサポートします。

基本方針2では

  1. 資料収蔵能力の確保に努めつつ、効果的な蔵書の構築をめざします。
  2.  図書館資料と検索技術に精通した職員(司書)の専門性を活かし、レファレンスや資料提供サービスを充実させます。
  3.  ビジネス支援サービスの新たな展開と強化を図ります。
  4. 障がい者サービスの充実を図るとともに、府域全体の障がい者サービスの向上を図ります。

とある。

 これは昨年度までに行われた、量的な蔵書分析や各専門家における蔵書評価を踏まえた上での展開であり、着実に業務が進展していることがうかがえる。実際の具体的取組にしても、11ある具体的方策のうち4つが目標値を超えるA評価となり、また残りの項目も全て、目標値をほぼ達成している。

 作成に非常に労力のかかるパスファインダーも、新規作成が継続的に行われており、実際の資料へと繋げていく道しるべを図書館が積極的に作っていることがここから明快に分かる。ただしパスファインダーは、新規の資料受け入れや除籍によって利用可能な資料が異なることもあるので、継続的なメンテナンスも同時にお願いしておきたい。

 また今年度特筆すべきは、複本資料の整理である。除籍作業は非常に工数のかかるものであり、困難な作業を達成した職員の方々の尽力は評価に値するだろう。ただし、大阪府立中央図書館はアピールポイントとして、現在「蔵書数日本一の公共図書館」を謳っている。この点について、外部への説得的な説明を行っておく必要がある。実際に、除籍というものは次に繋がる蔵書構築のために行うものであり、蔵書数日本一というアピールと除籍作業は無理なく両立しうるものである。量だけではなく高い質を備えた蔵書数日本一を維持していくためには、継続的な除籍作業の重要性について理解を得ていく努力も必要であろう。

 また、きわめて興味深い試みとして、閉架資料を中心に「展示」することで「魅力的な資料展示の実施」に取り組んでいることについても触れておきたい。実際に展示した資料の母数が必ずしも多くないため、「貸出向上率」という表現が妥当か否かは精査が必要であり、揺籃的な試みであることは間違いない。これは閉架に「眠っている」資料を展示することでヴィジビリティを向上させる試みである。実際の資料が持つ可能性を利用者に知らしめるという意味で非常に興味深い試みだといえるだろう。この試みを継続的に行うと同時に数値的なエビデンスをきちんと把握しておくことが重要だろう。

 基本方針1でも確認されたように、府立図書館と府域図書館の連携は重要である。府立図書館らしい蔵書構築を引き続き進めていただきたい。全国的に、図書館の予算が削減されていく中で、大阪府立もその例外ではない。ただし、府立図書館の蔵書に対する満足度調査において、府立図書館の蔵書を外部からの客観的な視点で最も的確に捉えている府域図書館からの評価が低下している事実は重く受け止める必要があると思われる。府立図書館らしい蔵書構築を引き続き進めていくためにも、資料費の確保に努めていただきたい。

 また、府立図書館が持つ各種のデータをオープンデータ化し、クリエイティブ・コモンズラインセンスを導入して、再活用・再利用が可能な状況を整えたことは大きく評価できる。これは一部、基本方針4とも重複するが、オープンデータ化は府立図書館の広報にも繋がることである。今後も積極的に行っていただきたい。また同時に、ライセンスについては、場合によってはパブリックドメインの資料として積極的に公開していくなど、著作権上の問題がない資料については広く共有されるべき財産であるという意識を強く持っていくことをお願いしたい。

 なお、平成30年度に控えている図書館システムのリプレイスにおいて、電子書籍を導入しない件については、現在の日本の図書館向け電子書籍の状況等を複数館に調査した上で費用対効果の面などから結論付けており、やみくもなブームに敢えて乗らない、筋の通ったまなざしが見て取れる。これは現段階の判断として異論を唱えうるものではないが、電子書籍を取り巻く状況は日進月歩である。従って、平成30年度のリプレイス以降、次期リプレイスまで全く電子書籍が導入できないケースが生じうることについては懸念があり、状況に変化が生じた場合に柔軟に対応できる態勢を予め取っておく必要があるのではないか。

3. 府立図書館は、府域の子どもが豊かに育つ読書環境づくりを進めるとともに、国際児童文学館の機能充実に努めます。

基本方針3では

  1. 府域の子どもの読書活動を推進します。
  2. 広域自治体の図書館の視点から、学校等に対する支援を進めます。
  3. 国際児童文学館資料の一層の活用を図ります。

の三点が謳われている。

 子どもの読書活動推進に貢献する人材の育成に関して、図書館未設置自治体の一つにおける支援員養成講座の実施など、府域の人材育成をさらに進めている点、各種の情報提供も目標を上回っている点など評価したい。府立図書館職員の長年にわたる知識・技能の蓄積が、講座内容の評価にも繋がっていると考えられる。それらを今後も発展させていっていただきたい。

 学校図書館の職員はいわゆる「一人職場」であることが多く、他の図書館で行われている企画や図書館運営上のヒントを入手しづらい状況にある。公共図書館等が持つ「棚の魅せかた」といった各種のノウハウを学校図書館と共有することにより、学校図書館のサービスが学校の先生方に好評に受け入れられるケースがある。連携サービスの一つとして展開していただければと考える。

 また、近年の学校図書館関係における大きなトピックとして、学校図書館法が改正され、学校司書を置くことが努力義務となった。このような状況下、大阪府立図書館が実際の学校司書の仕事の実態や配置状況を把握しておくことで、より円滑な学校図書館支援や連携が可能となるだろう。もちろん、学校図書館への支援は第一義的には基礎自治体の図書館である市町村立図書館が責任を負うべきものである。しかし、専属の学校司書が依然として不足しており、複数の学校を兼務する学校司書が多く存在する状況を鑑みるに、自治体間によっても学校司書に対する配置の進度の差があることから、それらの格差を解消していけるような試みがあることが望ましい。

 現在、それぞれの学校を所管している課によって各学校図書館の状況を個別に把握しているとのことであるが、学校図書館と公共図書館の連携サービスが求められる中で、「第3次大阪府子ども読書活動推進計画」のもと、府立図書館においても府域の学校図書館の状況は関係各所と共有しておく必要があるだろう。

4. 府立図書館は、大阪の歴史と知の蓄積を確実に未来に伝えます。

基本方針4では

  1. 地域資料および古典籍を収集・保存し、デジタル化を進めます。
  2. デジタル化された地域資料および古典籍の活用により大阪に関する情報発信の強化を図ります。

の二つが謳われている。

 とくに人文系資料のデジタル化は世界的な潮流でもあり、大阪府立図書館が全国的にも先進的な試みを行っていくことは評価できる。資料の電子化に伴う困難は多々あるといわれるが、基本方針2でも述べたように、利活用の仕組みを考慮しながら進めていただきたい。

 ただし、過去のデジタルアーカイブの中には、アーカイブを謳いつつも、短期間で消滅してしまったケースが多数あったことが過去の研究で明らかになっている。今年度はシステム更新に向けて「デジタル大阪ポータル」(仮称)の仕様策定の時期に入っている。図書館が行う事業である以上、継続的な予算獲得等の仕組みを整えるなど、長期的な展望を持ったシステムを目指していただきたい。また、とくに行政資料の場合、全体数を把握せずに収集点数のみを数値的な目標として短期的に掲げてしまうと、収集点数は目標を達成していたとしても、全体数がそれ以上に伸びており、収集比率は減少しているという事態が生じかねない。大阪府の持つ行政資料の全体像を『大阪府市町村等刊行物収集目録』などによって把握するとともに、現段階では作成件数自体が不明なボーンデジタル資料についても、何らかの形で実態を把握する仕組みを考える必要があるだろう。資料公開の方針を確認しながら、より一層の情報公開を進めていただきたい。

5. 府立図書館は、府民に開かれた図書館として、地域の魅力に出会う「場」と機会を提供します。

基本方針5では

  1. 外部機関等との連携強化により、多彩な事業を実施し、賑わいづくりに貢献します。
  2. 府立図書館の蔵書や機能、活動に関する情報発信を強化します。

の二点が謳われている。

 従来から行われている連携イベントや展示を継続的に行うとともに、外部メディアやツイッターといったSNSの利活用も現代では求められている。実際に図書館が行ったツイートをきっかけにし、利用者が実際に来館するなど、一定の実績を積みつつあるといえるだろう。

 ただし、一方的な情報発信だけでなく、親しみのある図書館像を生み出すような発信方法も工夫していただければと考える。たしかに、SNSの利用には炎上といったリスクもある。実際にそれで組織のイメージを毀損したケースも数多い。しかし、これを過度に怖がり安全性を志向しすぎることは、図書館の堅いイメージを増幅させ、利用者を図書館から遠ざけることにも繋がりかねない。ツイッターの利活用法について長じている職員もおそらくおられると想像する。適材適所の配材も必要かと思われる。

 情報公開の一環として、国立国会図書館のレファレンス協同データベースにも、より一層の活発な登録・発信をしていただきたい。また、大阪らしい、身近で、くだけた事例を出すことにより、利用者に図書館のもつ面白さを伝えるとともに、より図書館に親しみをもってもらえることになるだろう。

 なお、図書館自身の自己点検では、自らを精緻にまた厳格に評価していることがうかがえた。例えば、第二期の基準からより厳しい基準へと、基準値の引き上げが図られた評価指標があり、おおむね評価指標については妥当と判断できる。評価は不十分な箇所を点検するだけに留まらず、その目的の根幹は未来に繋げることにある点を押さえておきたい。

さいごに

 大阪府立図書館 第三期活動評価において、府立図書館が従来の方針を保ちつつ、また更に新しい企画に踏み出していることが確認された。

 情報環境の激変の時代で、変えてはならぬ部分は変えず、変えるべきところは変えてゆく、新しい図書館のありかたを探求され続けていることに深く敬意を表したい。個別の事象に目を奪われすぎることなく、足元を一歩一歩固めながら、日本有数の図書館として、府域のみならず我が国全体を牽引していくよう望みたい。

大阪府立図書館協議会 活動評価部会 (50音順・○は部会長)
岡部 晋典(同志社大学学習支援・教育開発センター助教)
岸本 岳文(京都産業大学文化学部教授)
○ 村上 泰子(関西大学文学部教授)

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