資料に見る『銭と貨幣のすがた』



−大阪府指定文化財・指定記念『オランダ記念貨幣誌』によせて− 



《 展示会・講演会ともに終了しました 》

 『オランダ記念貨幣誌』(原題 Beschryving Der Nederlandsche historipenningen)は当館創成期の明治37年(1904)に住友家より寄贈された貴重書で著者はG.V.ローン。全4巻から成る赤革装丁の美本です。この『オランダ記念貨幣誌』が平成18年1月20日大阪府文化財(典籍)の指定を受けました。これを記念して近世の貨幣関係資料、造幣局関係資料を展示します。

日時: 平成18年6月12日(月)〜6月24日(土) 入場無料
       午前10時〜午後5時  6月18日(日)は休館
会場: 大阪府立中之島図書館3階 文芸ホール
       地下鉄御堂筋線・京阪電車「淀屋橋駅」下車5分

   ■ 主な展示資料
『オランダ記念貨幣誌』(原題 Beschryving Der Nederlandsche histripenningen)全4巻。その他『西洋銭譜』『三貨図彙』など江戸時代に出版された貨幣カタログや造幣局関係資料として『浪花川崎鋳造場の風景』『大新板川崎鋳造場切組灯篭』などの錦絵や立版古など約50点。


   〜 関連講演会のお知らせ 〜
   ◆「オランダ記念貨幣誌」と鎖国下の大坂キリシタン研究 久米雅雄氏 (大阪府文化財保護課)
      
   ◆「造幣局の誕生」 幕末から明治へ 塩川幸男氏 (造幣博物館館長)
      

         日時: 平成18年6月29日(木)  午後1時〜午後4時30分
         会場: 大阪府立中之島図書館 3階 文芸ホール  ※定員90名


   


■■■ 講演会報告 ■■■



  ◇ 久米雅雄氏(大阪府文化財保護課)の講演
      「『オランダ記念貨幣誌』と鎖国下の大坂キリシタン研究」 ◇


 今回の『オランダ記念貨幣誌』指定記念講演では、『オランダ記念貨幣誌』そのものと「大坂キリシタン研究」との関わりをわかり易くお話していただいた。
(1)高山右近の父飛騨守大慮(Dario)の印章解読、(2)千提寺・下音羽各家持物に注目した帳方−水方−聞役など、禁令下における信仰組織の析出と復原、(3)新井白石から吉雄耕牛・石川大浪・山村才助などを経て辻蘭室・山片重芳・松浦静山・渡邊崋山等にいたる『聖書』にふれた学者たちのこと、(4)これら蘭学輸入の過程の中で「ヘブレウスの4文字」(テトラグラマトン)に注目した人物が二人おり、その一人は「西洋開闢之図」(アダムとエバのいる楽園図)を自らの筆で描いた石川大浪、今ひとりは「ヘブレウスの文字」の解読に取り組みつつも、この「テトラグラマトン」については『西洋雑記』筆録本の中で「其義未詳」と記さざるを得なかった無念の山村才助の話など、近世の学者たちの燃えるような知的探究心と命を賭すほどの熱情について話していただいて、深く心うたれるものがあった。
『オランダ記念貨幣誌』が住友家に贈られたのは本書のオランダ商館長の署名が示すように1789年(寛政元年)のことであり、山村才助(1770−1807)は文化年間まで生きながらえた人物であるので、もしも彼がこの『オランダ記念貨幣誌』を手にしていたとしたら、この4文字は『聖書』の神の固有の聖名JEHOVAHをあらわしている、とさわやかな表情で解き明かしたにちがいない、とも話された。本書は日蘭交渉史の実相のみならず、神の御名の伝来史を考える上でもきわめて貴重であることがよく理解できた。



  ◇ 塩川幸男氏(造幣博物館館長)の講演
      「造幣局の誕生」 幕末から明治へ 


 今回の講演会では造幣局が誕生したころの世相と貨幣をめぐる動きなどから設立の経緯や当時としては最大級の超近代的な造幣工場の担った役割についてお話いただいた。
江戸時代末期、わが国の貨幣制度は度重なる貨幣の改悪・改鋳により混乱の極みに達しており、その上にペリー来航による安政の開国により外国貨幣が流入してきていた。内外貨幣の交換比率の問題から商取引の阻害や物価の混乱は日本に駐在する外国人の生活にも影響が及んだため、諸外国から貨幣制度の整備を迫られた。しかし当時の江戸幕府は崩壊寸前でありその課題は明治新政府に受け継がれ、大混乱の中での造幣局設立は重要かつ急務を要する大規模な国家事業であった。
造幣機械の購入、最大級の近代的な造幣工場の用地確保や建設に始まり、お雇い外国人の指導のもと貨幣製造に必要な化学品、工具、機械などもほとんど自給自足しなければならず、そのことが結果としてわが国の化学工業、機械工業の近代化に大きく貢献することになったことも話された。
幕末から明治にかけての、世の中が大きくかわった大変な時代にこのような大きな事業をなしとげた当時の人々の活躍やエネルギーを感じ取ることができた。
江戸時代末の安政小判や新貨条例によりつくられた実際の貨幣や造幣局の役割や造幣博物館についての紹介ビデオなども見せていただいた。



○産経新聞(大阪朝刊) 2006年6月9日 26頁
   メッセージボード:催し 「資料に見る「銭と貨幣のすがた」」
○大阪日日新聞 2006年6月19日 10頁
   展覧会「資料に見る「銭と貨幣のすがた」」
○NHK大阪放送局デジタル総合テレビ 2006年6月5日午前10時〜6月12日午前10時 
   <関西情報>耳より情報BOX「資料に見る「銭と貨幣のすがた」〜大阪府指定文化財・指定記念『オランダ記念貨幣誌』によせて」
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