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大阪府立中之島図書館だより「なにわづ」 No.151

更新日:2017年10月19日

なにわづ・題字

2017年10月 No.151


織田作之助草稿類が見せてくれる世界の広がり

高橋 俊郎

 静岡県御殿場の富士霊園に日本文藝家協会の「文学者之墓」がある。大谷晃一先生がご存命の時、「共同墓碑に代表作を一点だけ刻めるので、やっぱり『生き愛し書いた織田作之助伝』にしたんや」とお伺いした。直接的に作之助の知己を得ていたとはいえ、数々の作家評伝をものにして、ベストセラー『大阪学』もある大谷先生にとっても、織田作之助は別格ということなのだろう。

その、大阪に生き大阪を愛して大阪を書いた織田作之助の自筆原稿・草稿類や蔵書などが、「織田文庫」として、自身も通った大阪を象徴する中之島図書館に集結していることには大きな意義がある。そして今回、作之助没後70年に際して、一般的には反古紙にも分類される自筆草稿類2,000枚が補遺されることになったのは、近代文学の研究にとっても新たな地平を拓くという意義がある。

私たちは大谷先生の『生き愛し書いた織田作之助伝』を筆頭とする評伝や研究書によって、作品が執筆された状況の一端を知ることができる。そこに今回のように大量の反古原稿があれば、その書かれた内容はもとより、原稿用紙の別、鉛筆や万年筆の別、筆致の別、筆圧の別などによって、作品の執筆経過を時系列に並べることも可能となった。つまり、逡巡しながら、苦悩しながら、または書き飛ばしながら、途中で投げ出しながら執筆した作之助の創作態度そのものをも浮かび上がらせることができる。代表作とされる『夫婦善哉』に限っても、何回も書き直しつつ発表に漕ぎ着けた姿が明らかになった。

戦中から終戦直後に活躍した小説家で、このような研究が可能な作家はそう多くはないだろう。反古紙とて裏面を再利用するという時代状況、戦禍に焼失しなかった幸運、これらを処分する間もなく他界したという不運、そして「作ちゃんが書いたものを処分なんかできますかいな」と散逸させずに持ち続けた遺族姉妹の思いがあって、今、私たちの目の前に存在することになった。これは作品研究に新たな方法論を提供することに他ならない。

そして、その中には未発表のものや、実は作之助の仕事で見落とされがちな脚本・シナリオなども含まれるところから、既刊の定本全集や研究書から漏れているものも発見することができる。ここから辿って織田作之助の作品世界が広がり、深化するだろう。

さらに、こうした草稿・反古紙類の書誌情報については、これまで的確に記述することが困難だったが、画像とそのメタデータによって整理されれば、情報資源の組織化という点でも画期的なものになるだろう。これは図書館の職員にしか成し得えない。そして公共図書館であるからには、一般に公開されるされることによって、誰もが接することのできる環境が提供されるところに大きな意義がある。

中之島図書館の特別文庫には他にも藤沢桓夫の「藤沢文庫」がある。この時代を共にした二人の文庫があるだけでも大阪の近代文学の中心的な研究拠点の役割を十二分に発揮できている。小説家の膨大な遺品を寄贈するという遺族の思いに応えられていることに敬意を表したい。

(大阪文学振興会総務委員、帝塚山派文学学会副代表、同志社女子大学嘱託講師)

『夫婦善哉』の初稿の画像   『夫婦善哉』 初稿

『夫婦善哉』の2稿の画像  『夫婦善哉』 2稿

『夫婦善哉』の3稿の画像  『夫婦善哉』 3稿

『夫婦善哉』の4稿の画像  『夫婦善哉』 4稿

平成28年度新収資料紹介     <大阪資料・古典籍課>

平成28年度中に収集した大阪にゆかりのある和古書・既刊書の一部をご紹介します。

                                         ※【 】内は当館の請求記号です。

 
 『〔大坂南組〕馬責場町(ませんばまち)水帳』『〔大坂南組〕馬責場町水帳之写』

『〔大坂南組〕博労町(ばくろうまち)水帳』                           28cm  全10冊 【甲和1332

江戸時代の土地台帳である水帳は、所有する一筆ごとの土地、間口・奥行・家守等の名前を記入し、土地家屋の売買があれば旧所有者の上に張り紙がなされます。

収集した水帳は、江戸時代の大坂三郷のうち南組に属した馬責場町(注1)・博労町(注2)のものです。馬責場町が明暦元(1655)年、寛文2(1662)年、延宝7(1679)年の3冊で、博労町が元禄7(1694)年、享保11(1726)年、宝暦3(1753)年、安永7(1778)年、寛政10(1798)年、文化12(1815)年、文政8(1825)年の7冊です。当館の貴重書に指定されました。

(注1): 馬責場町は江戸初期の博労町の旧称で、江戸中期以降博労町となる。

(注2): 博労町は現在の大阪市中央区(旧東区)にあり、位置的には大阪市営地下鉄本町駅と堺筋本町駅の南側にあたる。

『〔広貞大首絵(おおくびえ)集〕』  歌川広貞画 刊 1帖19cm 【914-546】

歌川広国名義の絵4枚、歌川広貞の絵30枚からなる、上方の歌舞伎役者絵帖です。広貞は江戸時代後期の大阪を代表する浮世絵師で、大首絵は人物の上半身や胸から上を画面いっぱいに描く浮世絵の様式です。

  『〔広貞大首絵(おおくびえ)集〕』の画像  
『浪華の魁(なにわのさきがけ)』の画像  『浪華の魁(なにわのさきがけ)』    〔長谷川〕貞信(二世)画

〔長谷川〕小信(二世)補筆 富士政七

明治17(1884)年 3枚  38×26cm 【枚-522】

 川崎造幣局を望む川べりで、お花見をする14人の女性を描いた錦絵です。川崎御蔵(かわさきおくら)の跡地に造幣寮(現在の造幣局)が開場したのは明治4年2月です。

『浪花大地震の次第幷ニ他所』の画像 この他にも、文楽首(ぶんらくかしら)の研究家斎藤清二郎が文楽の場面を描いた絵葉書集『人形浄瑠璃』(109枚・木版彩刷)【777.1/324N】や嘉永七寅年霜月四日(1854年11月4日)に大阪で起こった地震の被害状況を記した1枚物『浪花大地震の次第幷ニ他所』【枚-512】などを収集しました。
 
「織田文庫」に追加資料受入     中之島図書館には、以前より織田作之助の旧蔵資料など約1,500点をまとめた「織田文庫」があります。没後70年にあたる平成29(2017)年3月、作之助の姪で養女でもある織田禎子さんより、新たに関係資料約650点をご寄贈いただきました。資料は現在整理中で、整理作業完了後に閲覧していただけます。織田文庫の詳細につきましては、当館ホームページをご覧ください。

https://www.library.pref.osaka.jp/site/osaka/lib-collect-oda.html


イベントレポート     <ビジネス支援課>

(1)がん治療と仕事の両立支援セミナー
「働き続けるためにできること:がんと診断されたら、暮らしは?仕事は?雇用は?」

7月8日に当館にて、NPO法人キャンサーリボンズ、大阪府、大阪府立中之島図書館、大阪府立中央図書館、MSD株式会社の共催で、標記のセミナーを開催しました。当日は約90名もの方が参加されましたが、その内訳は多い順に、がん治療中・治療後のご本人、医療関係者、人事労務担当者、ご家族、キャリアコンサルタント・産業カウンセラー、社会保険労務士、経営者、行政担当者などでした。講師はがんと関係する各分野で活躍中の方々が担当されましたが、その演題や要旨を以下にご紹介します。

●「がん治療と仕事の両立を可能にする、がん医療最新事情」(大阪府立病院機構大阪国際がんセンター 副院長 東山聖彦氏)

「がん」と「癌」の区別から始まり、がんに関する各種統計の紹介、がんの治療法の種類(手術、放射線、薬物療法等)や、それがそれぞれの患者にどのように選択・適用されるのか、薬物療法の種類(抗がん剤、分子標的薬、ホルモン療法薬、免疫チェックポイント阻害剤(免疫療法)の特徴)などをお話しくださいました。

●「体験談:がんのその後の人生設計」(中川企画建設株式会社、厚生労働省委託事業がん対策推進企業アクションアドバイザリーボードメンバー 阿南里恵氏)

当館所蔵『神様に生かされた理由:23歳で子宮頸がんを宣告されて。』(合同出版 2015.2)の著者でもある講師が、がんであると判明してからの失敗(誰にも相談できずに勤務先の会社を辞めてしまったこと、次の就職試験でがんのことや後遺症のことを言わなかったこと、以前と同じ感覚で仕事を頑張ってしまったこと、周囲の人に迷惑をかけていると思い込んでまた退職してしまったことなど)と成功(その後の再就職で経歴にがんのことを書き、理解のある会社に採用されたことなど)や、がん対策推進協議会委員として「若いがん患者に対するがん・生殖医療及び緩和ケアに対する意見書」を取りまとめて提出するに至った経緯などをお話しくださいました。

●「がん治療と仕事の両立に関する施策と、知っておきたい制度」(社会保険労務士 関孝子氏)

がん患者を支えるいくつかの社会保障制度のうち、「疾病手当金」に焦点を当て、受給するための注意点などを詳しくお話しくださいました。

●「自分にあった働き方、生き方を考える」(NPO法人キャンサーリボンズ委員、大阪警察病院看護師長・がん化学療法看護認定看護師 有働みどり氏)

「がんの診断後、勤務者の34%が依願退職や解雇、自営業者等の13%が廃業、また収入は半分以下に減少している」という現状の中、NPO法人キャンサーリボンズの活動の一環として講師の勤務先の病院に設置された、患者の療養と生活(就労)をつなぐ場所としての「リボンズハウス」の紹介や、「『がんと働く』リワークノート」の使い方などをご説明くださいました。

●「必要な情報を得るための、図書館活用法」(大阪府立中央図書館 調査相談課 徳森耕太郎)

がんや医学を含む自然科学系資料を扱う大阪府立中央図書館の社会・自然系資料室職員が、大阪府立図書館の紹介や資料の利用方法についてお話ししました。

二人に一人ががんに罹るとも言われている昨今、このような情報・理解・支援が多くの人や職場に広がっていくことを期待します。

「がん治療と仕事の両立支援セミナー」の写真(講師と受講者)

(2)大阪中小企業診断士会×大阪府立中之島図書館 高校生向けビジネスセミナー
「高校生のときから考えてみない? お金のこと、ビジネスのこと」

大阪中小企業診断士会とビジネス支援課は日頃から連携しており、「今日から始める『実践!経営力アップ講座』」や「経営・起業相談会」を実施しています。新しい試みとして、初めて高校生向けのビジネスセミナーを開催しました。

参加者の中には、すでにユーチューブで音楽配信をしている生徒や、家族に介護者がいるため介護事業をしたいと考えている生徒もいて、熱心に参加していました。

●第1回「高校生のための起業講座 あなたも高校生社長になれる!?自分の好きなことで収入を得る方法を学ぶ」

講師:大西眞由美さん(中小企業診断士) 開催日 8月2日(水曜日)

まず、現在活躍している高校生起業家達の紹介があり、共通点として「自分の強みや得意分野を伸ばす」「比較的資金がいらない事業分野である」ことがあげられるそうです。次に、起業するためのステップとして、自分自身についての整理、事業コンセプトを考えること等、起業するにあたり自分の考えをまとめる手順について学びました。どんなビジネスにもビジネスモデルがあり、論理的・構造的な組み立てが必要であると教わり、「ビジネスモデルキャンバス」シートを使って、パーソナルキャンバスを作るワークショップを行いました。「ビジネスモデルキャンバス」は、IBM、アマゾン、カナダ政府、富士通、コクヨ等、世界中の多くの企業・組織で活用されており、1枚でビジネスの仕組み全体が把握できるビジネスの設計図です。成功企業のビジネスモデルを分析した後、参加者それぞれが自分の起業のアイデアや、将来の夢などをシートに書き込みました。ペアで発表しあうことで、自分の考えを深めることができ、今後の目標に気づくきっかけになったようです。このシートは、起業しなかったとしても今後の生活に活かすことができるものだと感じました。

●第2回「社会で活躍する20代になるためのお金の授業」

講師:吉田喜彦さん(中小企業診断士) 開催日 8月9日(水曜日)

最初に講師が将来どのような職業につきたいか質問すると、参加者全員が会社への就職ではなく「自分で起業したい」「世界に出て何かしたい」と答えていました。高校生の時から、起業したいという明確な目標を持てるのは、インターネットやSNSで様々な情報が得られる時代だからでしょうか。起業の夢を持つ高校生をとても頼もしく感じました。

ワークショップでは「10年後の自分を描いてみる」として、将来の自分を想像して6個の項目にそって書き出す作業をしました。続いて、飲食店を例に原価率や粗利益、人件費等の説明を受け、「お金のブロックパズル」を作成しました。最後に「勉強」と「自由」と「働くこと」の関係について講義がありました。勉強すること、資格を取ることで仕事の権利が得られること、責任の無い自由と責任のある自由について、仕事をすることで自分の能力が鍛えられること、業務経験から得られる能力について等、働くことの意義がよく理解できる先生のお話に、高校生が大きく頷いて聞いていたのが印象的でした。人生の先輩から大きなアドバイスを受け取ったようです。

アンケートではほとんどの生徒が「また参加したい」と回答しており、「事業を始めるまでのイメージがわかった」「面白かった」「会社のお金の仕組みなどの知識が深まった」等の感想がありました。今後も高校生等をはじめとする将来のビジネスパーソン対象のセミナーを開催していきたいと考えています。

「高校生向けビジネスセミナー」の写真(講師と受講者)


図書館周辺図

開館時間 月~金 午前9時~午後8時
土    午前9時~午後5時

休館日  日曜日・国民の祝日及び休日・年末年始
6月、10月、3月の第2木曜日

大阪府立中之島図書館   
〒530-0005 大阪市北区中之島1-2-10
電話(代表) 06-6203-0474

https://www.library.pref.osaka.jp/site/nakato/


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