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本蔵-知る司書ぞ知る(77号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2021年3月20日版

今月のトピック 【一万円札三代】

今年の大河ドラマ「青天を衝け」の主人公渋沢栄一は、一万円札の新たな顔となる人物です。一万円札の顔としては三代目となります。初代は聖徳太子で発行開始日は昭和33(1958)年12月1日、発行停止日は昭和61(1986)年1月4日でした。二代目は福沢諭吉で2種類発行されました。黒色記番号の発行開始日は昭和59(1984)年11月1日、発行停止日は平成19(2007)年4月2日でした。褐色記番号の方の発行開始日は平成5(1993)年12月1日で現在発行中です。三代目となる渋沢栄一は発行開始が令和6年(2024)予定となっています。

これらの3人について聖徳太子は伝記を福沢諭吉と渋沢栄一については自叙伝をそれぞれ紹介します。

聖徳太子伝記』(牧野和夫/編著 三弥井書店 1999.5)

聖徳太子(574-622)は、一般的には、推古天皇の摂政として、あるいは冠位十二階や十七条憲法の制定などで知られる人物です。昔から太子に関してはいろいろな伝説がありました。最近では一部の教科書に「聖徳太子」ではなく「厩戸皇子」と記されたり、実在を疑う説もあるようです。

本書は、数ある聖徳太子の伝記のなかで、著者の言によれば、中世より近世を通じて最もよく読まれたという『聖徳太子伝』10巻を翻刻・紹介した資料ということです。また、ルビも多く振られており、読み易い資料となっています。

「福翁自傳」の研究 本文編』(佐志傳/編著 慶應義塾大学出版会 2006.6)

後に慶応義塾大学を創設する福沢諭吉は、1835年1月10日中津藩士の福沢百助の第五子として生まれました。数多く刊行されている自伝のなかでも『福翁自伝』は著名な自伝で、岩波文庫版ちくま新書版など数多く刊行されています。本書は福沢諭吉の口述校訂原稿を忠実に復元したものを底本としており、昭和版全集本や初版本ならびに大正版全集本などの諸本と比較検討されています。また、『「福翁自傳」の研究 註釈編』も刊行されており、両書合わせて利用すればより深く自伝の世界に入り込むことができるのではないでしょうか。

青淵回顧録 上巻下巻』(渋沢栄一/述 小貫修一郎/編著 青淵回顧録刊行会 1927.8)

渋沢栄一(1840-1931)は武蔵国血洗島村に生まれました。その生涯は、尊王攘夷志士から幕臣へ、明治政府の官吏から実業界へと目まぐるしく変転していきます。書名のなかの「青淵」は渋沢の号であり、「渋沢栄一記念財団ホームページ」の「渋沢栄一Q&A」(外部リンク)に号の由来についての記事があります。上巻には「少年時代の回顧」に始まり「討幕の義挙を企てた頃」、「欧州各国観察見聞録」、「明治政府仕官時代」から実業界に転じたことなどが、下巻には「朝鮮鉄道創設の由来」や「私の見た原・大隈・山県の三氏」、「帝都を焦燼した大震火災」、「米寿を迎へた喜び」などの文が収録されています。

今月の蔵出し

マルジナリアでつかまえて 書かずば読めぬの巻』(山本貴光/著 本の雑誌社 2020.7)

「マルジナリア」(Marginalia)とは、本などの余白部分に書き込まれたものを指すそうです。
本書では、夏目漱石、モンテーニュなど名だたる人物の書き込みやカフカの『変身』、ジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』、プログラミングに至るまで、先人の自由で力強いマルジナリアを写真とともに紹介しています。

あの人が?あの本に?
ここだけの話、私は、人のメモ書きや書簡、落書きなどを見るのが好きです。とはいえ、自分が見られる立場になったらと思うと恥ずかしすぎる!でも、ここで紹介されている書き込みは、もう世に出ているものだし、見てもいいですよね?ちょっとお邪魔しますね!という気持ちでページをめくりました。

初めに目に入ったのは、『うさこちゃん』などの翻訳で知られる石井桃子さんの書き込みです。刷を重ねてもご自身の訳本にダメ出しアメアラレ。読み手や作品を思う真摯な姿勢を想像し、もっと石井さんを知りたくなり、改めて作品を読みたくなりました。そして、刷ごとの進化を知ると図書館資料を選ばせていただく立場としてさらに身の引き締まる思いもしました。

既にあるマルジナリアの紹介のほか、書き込み方のコツなども紹介されています。書き込みをするつもりで本を読むと、そうでない時とは違った読み方ができるような気がします。もちろん、図書館所蔵の本書に書き込んだりはしておりませんのでご安心ください!マルジナリアを施すのは自分の本にだけ。読み手が本と1対1で向き合えるように守っていくことが、私たち図書館の大切な仕事だと改めて思うところです。

この本を読んで、本の余白にあふれる言葉をつかまえてみませんか?

【大麦畑のピッチャー】

あふれでたのはやさしさだった 奈良少年刑務所絵本と詩の教室』(寮美千子/著 西日本出版社 2018.12)

奈良市にある「旧奈良監獄」は、「明治五大監獄」の1つとして、1908(明治41)年に建てられ、1946年から2017年3月まで「奈良少年刑務所」として使用されていました。重厚な赤レンガ建築は、重要文化財に指定されています。保存が決定し今後はホテルに改装されるそうです。

この元「奈良少年刑務所」で、童話作家である著者は2007年から2016年まで「社会的涵養プログラム」のなかの絵本と詩の講師を務めました。

1期6回の講座のうち、最初の2回は心の準備体操として絵本の朗読劇を行います。最初の授業で、みんなの表情が変わり、交流が難しかった少年たちが積極的になっていきます。3回目からの詩の授業では、書くことがなければ「好きな色」について書いてもらいますが、提出された詩は著者が驚くほど多彩で繊細な色にあふれています。

何を書いても、評価(点数)はつけない、注意しない、声が出るまでじっと待つという安心・安全な場で、受講生の一人が固く閉ざしていた心の扉を開くと、それをきっかけにみんながつらい経験や悲しい出来事を堰を切ったように語り出します。そして慰めの言葉や共感の言葉が教室にあふれます。それが一度や二度ではなく、メンバーが変わっても繰り返し同じことが起こったそうです。

詩によって自分を表現し、だれかに受け止めてもらうことで人はこんなに変わるのかと驚きます。そして、そこで出会った少年たちがみな、様々な困難を抱えていて加害者である前に被害者であったことがわかります。「その子に寄り添って、心のささえになる添え木になる。それはだれにだってできるはずです。支えられているうちに、しっかりと根を張り、自立できるようになっていくんです」という教官の言葉が心に残ります。

著者がまとめた少年たちの詩集は『空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集』『世界はもっと美しくなる 奈良少年刑務所詩集』があります。ぜひ手に取っていただければと思います。

【雪丸】


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