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「はらっぱ」 No.35 いきる子ども読書活動推進計画にするために

更新日:2022年3月31日


「はらっぱ」 No.35 いきる子ども読書活動推進計画にするために

掲載日:2022年3月31日更新

元東近江市立図書館長・大阪芸術大学非常勤講師   巽 照子

一人ひとりを大事にする思想

児童憲章は制定から70年、民主主義の形骸化がすすむ今日の日本社会の中で、平和な世界と子どものしあわせ、生活と発達を保障する明確な指針として、ますます重要な役割を担っているといえる。
しあわせの一翼を担う生きる力を育むためにと生まれた「子ども読書活動の推進に関する法律」が制定されて20年になる。
この世に生まれて、人との出会いが人生の決め手になる場合がある。また本との出会いも一生を左右するくらい影響を与える。
身近で赤ちゃんが生まれたと聞くと彼らがこの先、よき人にたくさん出会い、そして、よい本にもたくさん出会うようにと願わずにはいられない。読書は、書き手という人、物語の中に生きる人との出会いをつくり、人と人との結びつきの多様さと喜びに気づかせてくれる。よい本はよい時間を届けてくれる。日々の中では、喜びも悲しみも、苦しみもある。泣きたいほど辛いとき、励ましてくれたりするそんな力を本は持っている。

地域での子育て

私の娘が3人の子育てを通じて、地域でのつながりの弱さを感じ、親と子が安心して気軽に集い、交流できる場として2013年に親子カフェ「おうちcaféモモ」を開いた。
コミュニティカフェとして作られ、案内では「ゆったりと“おうち時間”をお過ごしください。家族のごはんを作るように旬の野菜をたっぷり使い、バランスを考え手作りで、心を込めてあなたのごはんとおやつを作ります。小さなお子様がいても親子でゆったりとカフェタイムを過ごしていただけます」と、自己紹介。
2015年に賛同する地域の子育て世代の方々と子育て支援団体「モモの木」を作り、2017年には、「子ども食堂」も始めている。近隣の大阪府立大生や高校生も積極的にボランティアに加わってくれ、2021年にはNPO法人「モモの木」へと発展させている。
モモの木の活動は多様で、地域に伝わる百舌鳥精進おせち料理をはじめ伝統食(味噌や梅干し)作りや書き方教室を開くなど、子どもたちの生活を豊かにする場を利用者たちが共同して作り上げてきた。それらの一つとしてこども図書館が生まれた。

モモの木こども図書館

2020年に「子ども図書館」を開くことになり、図書館で働いていた私の力がもとめられ、子どもの本の案内役として関わることになった。
○毎週金曜日10時から11時30分は「絵本のひろば」として未就学児と保護者のために開き、15時から17時は、子どもの時間として、子どもらは本を読んだり、学生ボランティアスタッフと宿題をしたり、自分の時間を楽しんでいる。
○第2土曜日はこども図書館を開きながら、調理体験や農業体験(裏庭で野菜作り)、工作教室等を通して子どもと地域の大人の居場所づくりとなっている。
蔵書は私が仕事を通して集めた絵本を中心に、物語、知識の児童書、子育て支援の本を3000冊程寄贈し、活動に共感して寄せられた寄付金を活用し、モモの木で選書した1000冊。合計4000冊で運営している。スタッフが選書購入した本のうち300冊は学習漫画で、これには私もびっくり。しばらくは、推移を見守ることにしている。

つながることで広がる本の世界

午前10時の開館を待ちわびている一組の親子。Sちゃんは2歳になったばかりの女の子。「どんな本がお勧めですか」と聞かれたので、一緒に数冊読みあいをする。Sちゃんは、絵本『ぽぱーぺぽぴぱっぷ』(おかざきげんじろう絵 谷川俊太郎文 クレヨンハウス)で谷川俊太郎がお気に入りになり、お母さんは毎回彼の絵本を借りていく。「言葉の響きがここちよいのかな」とお母さんもニコニコ顔。
子育てしながら「自分の人生」について考えているとのこと。子どもの頃あまり本を読まなかったので「何かよい本教えて」と言われたので「モモの木」の命名のもとになった『モモ』(ミヒャエル・エンデ著 岩波書店)を勧めた。今は『クラバート』(オトフリート・プロイスラー著 偕成社)に挑戦している。
「子どもの本いいですね。絵本も楽しい。子どもと一緒に読んでいると私も心が豊かになる」「子どもの本には力があり、世界が広がりますね」と毎週来てくれて、二人で10冊位借りていく。

こども図書館いいね

ボランティアスタッフのKさんがお友達を連れてきた。小学校2年生の子どもがいて、「子育て、これでいいのか迷うこと多い。すぐ早く早くしなさいと言ってしまう」「こんな私にお勧めの本は」と聞いてくる。「今まで図書館で見つけられなかった本に出会えて嬉しい。一冊一冊紹介していただけるので借りて帰って子どもと読んでみようと思う」「ここにくるとほっとする。ここの場、ここにいられる時間を大切にしたい」と話しがはずむ。小さなこども図書館という空間にとても感激してくれていて、二人とのやり取りは、私にとっても楽しいひと時である。

夢中になっているのは

子ども食堂の手伝いもしている子どももいるなか、午後の開館中彼らが夢中になって読んでいる本の一つは『はたらく細胞』という清水茜による日本の漫画。
また、学習マンガ「科学漫画サバイバル」シリーズも人気がある。次々と襲い掛かるピンチに、主人公の子どもたちが勇気と知恵で立ち向かう科学漫画。なぜここまで子どもの心を引き付けることができるのか。
モモの木子ども図書館を利用しているお母さんも同様に「『サバイバル』シリーズは本嫌いな我が家の子どもを本に近づけてくれる」といい、「図書館にいっても書架にないので」と喜んで借りていく。どこが魅力的なのかと尋ねると、「イラストや写真が豊富で、子どもが読みやすい工夫がされているから」と感想を語ってくれた。
夢中になっている子どもたちとそれを見守る親の姿を目のあたりにしながら、自ら学習する子どもたちへの成長をひそかに願っている。

タブレットが配布された

私の孫も堺市内の小学校に通っているが、タブレット端末は学習のあり方、学校図書館の活用との関わりなど、気になる点も多くあると考えているなか、2021年4月学校現場の議論もないまま子どもたちに1人1台配布された。長時間の利用は自分で考えて判断する力が失われることにつながると、タブレット端末の配布を先送りしたところもあると聞いているのだが。
内閣府調査によると、通園児(0歳~6歳)では57.8% 小学生(6歳~9歳では82.4%がインターネットを利用。インターネットを利用する機器は、スマートフォン(32.3%)、タブレット(30.6%)、インターネット接続テレビ(21.4%)、据置型ゲーム機(17.7%)、携帯ゲーム機(14.6%)が上位である。(青少年のインターネット利用環境実態調査スマホ、2019年度内閣府調査)
また、東北大学加齢医学研究所所長川島隆太教授は、「スマホ使用にリスクがあるという。少なくとも、成人に達しない子どもたちが、長時間スマートフォン等の電子機器を利用すると脳を破壊する」と指摘している。

子どもはポジティブ

目に見えないウイルスによって脅かされて、今後の生き方が模索されている今、超スマート社会(Society5・0)、ICT環境の整備のGIGAスクール構想、英語の早期教育はどうかかわってくるのだろうか。
そんな中、モモの木にやってくる子どもたちを見ると、前向きに楽しみを見つけたり、友達づくりをしながらポジティブに行動をとっている様子がうかがえる。
カプラやオセロゲームをしたり、2階の大広間で座布団投げをして、思いっ切り遊んで、古民家の天井が抜けるかと心配するほどだが、「だめ」とは言わないで見守っている。「これから絵本読むよ」と投げかけると2階から降りてきて一緒に絵本を楽しんでいる。
金曜日の午後は子ども食堂(コロナ禍の中でお弁当販売一食100円)を運営しているので、裏庭でとれた「サヤエンドウ」のすじとりや、差し入れにもらったチョコレートをお弁当買ってくれた人々に公平に配るためにどうしたらいいか、考えて作業する。「お弁当は100食だ。チョコレートを一食に5個あげるとちょっと残るね。(おっ、割り算してる)残りはお手伝いの僕らにもらえるかな」と言いながら、袋詰めをしている。子どもたちだけで学習し、これらの作業をワンチームでこなしていく姿はなんとも頼もしい。
今を大切にすること、必要なことを自分たちで考え、解決する力が育つにも集える場が必要なのだと思う。

本とつながり、人とつながる

コロナ後は、今までとちがう世界になるのではと多くの人が語っているが、やはり、私も変わるのだろうと思う。その先に何が待ち受けているかが見通せないが、私たちよりも長く生きるであろう子どもたちにむけ、過度の情報や知識の中で、どう接して良いのかわからないという親が増えているのも事実。だからこそもっともっと工夫をこらし、ひとり一人に寄り添う多様な場が生まれることがまたれている。
オンライン授業、デジタル文化の普及が加速されているが、生身の人間同士のコミュニケーンの重要性を見失わないようにしたい。

これからの読書推進に期待すること「子どもの時間」づくり

今から半世紀近く前、ミヒャエル・エンデは『モモ』(大島かおり訳 岩波書店)の中で日に日に時間に追われ、貧しくなる現代人の生活に対して鋭い警鐘を鳴らした。
一見無駄に見えるような、のんびり、ぶらぶら、ぼんやりと過ごす時間の中にも想像力が醸し出される。
子どもの遊びや読書は、いま目の前の面白さ、楽しさ、心地よさで夢中にさせ、我を忘れて没頭する体験を与えてくれる。子ども期にたっぷりと遊びきる・夢中になる時間を保障したい。
石井桃子さんのメッセージは、「子どもたちよ 子ども時代をしっかりとたのしんでください。おとなになってから 老人になってから あなたを支えてくれるのは 子ども時代の「あなた」です。」
子どもたちの人との出会い、自然との出会いがあればこそ本との出会いで豊かになる。
また子ども時代を一人ひとり自分なりに取り組む「時間」を保証し、子どもたちの主体性と仲間意識を育てる「子どもの居場所」をつくること。そのためにアンケート等で子どもの声を聞いて一緒に考え、一人ひとりの子どもと向き合った深く広い読書推進計画を様々に作ることに期待している。


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