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「はらっぱ」 No.32 公立図書館とブックリスト

更新日:2024年2月21日


「はらっぱ」 No.32 公立図書館とブックリスト

掲載日:2019年3月31日更新

日本図書館協会児童青少年委員会委員 川上博幸

はじめに

 ブックリストってなに? 初めて聞いた、というような人は、幼い子を除いてはまずいないのではないか。本でも読もうかと思ったときに、本の情報が集められていて案内役になるものという感じであろうか。
 現在、日本では毎年8万点にも及ぶ本が出版され、世には20万点もの実に多くの本が流通しているとも言われる。いざ本でも読んでみようかと思うと、読めそうで自分にあった本は…? ウーン何を読んでいいかわからない。そんな人たちに少しは手がかりになればと、いろいろな個人や団体や機関が、なんらかのテーマや目的で、本の情報を集めた物を作ってきた。作成に際しては、単に新しいもの、さしたる観点もなくちょっとした目安で集めたものから選定の基準を意識して厳選したものまで、いろいろあった。

ブックリストとは

 なんの目安もなく、出版されたものを網羅的に挙げたものは「リスト」とは呼ばない。網羅的に本を挙げたものは一定の基準があったとしても膨大になりすぎる。教育図書目録、保育図書目録、法律・経済図書目録、理工書目録など、50ページ以上の図書目録が、業務用、研究用などとして刊行され、販売もされている。もっと総合的なものとしては、『ブックページ』や『出版年鑑』があり、毎年の商業出版物を網羅している。いずれもブックリストではない。
 では、リストとは、もう少しはっきりとした目的や主題があり、選ぶ知識や能力のある人、団体や機関が、一定の基準で選定した本の情報集ということになろうか。これらは成人式、なにかのイベント、催し物などで配布される。子どもの本では、ブックスタート事業で配布される「赤ちゃん絵本」のリストやティーンズ向けの「おすすめの本」のリストであったりする。形態はパンフレット、リーフレットから小冊子のものが多く見受けられる。無料のものが多いが有料のものもあり、100ページ以上の図書形態のものもある。
 言論の自由があり、出版の自由、学習する権利、意見表明する権利が認められている民主社会においては、刊行物、出版物が少量多品種になるのはしぜんなことで、それを受けて、作成する人や団体や機関によって選定基準もまちまちで、多様なものとなる。これも当然である。本は1冊1冊では人々にアピールしにくいが、一定量選定されてリスト化されると、広まりやすく有用性も増す。
 ブックリストは、インターネット全盛の現在、新たな意味を持ちだしている。印刷資料が主だった高度情報社会でも、必要な本選びにとまどう人はいた。加えてデジタル情報が飛び交うユビキタス社会では、人は本への向き合い方が変質し始めている。
 つまり、インターネットが始まる以前では、暮しや学習、仕事や楽しみなど、何か必要があって、あることを知りたい、調べたい、課題を解決したい、そんなとき、本や資料が基本ツールだった。1995年以降、これが革命的に変化して、パソコンやスマートフォン、タブレットなど、電子情報機器が主となり、インターネット検索となった。いまは大人も学生も生徒も、調べものはたいてい、ネット検索ですませてしまう。ビジネスマンや学生、専門家は、有料情報・データベースも利用する。このようにデジタル情報が活字情報を凌駕する時代に入っている。図書情報も検索方法さえよければ、どんな本が出版されているか、どんな本を使い読めばよいかなど、かなり使い勝手がある。だから、情報検索をして必要な本は書店よりネット通販の利用となる。でも、ネット情報は感覚的なうえにフェイクありなので、五感で認識を深める人間には、身近な図書館や書店で目にして、直に手に取る必要性は捨てきれない。地域に本が存在すること、そのことが地域文化を育む意義もある。ここに本と人をつなぐブックリストの存在意義が残されている。

子どもと子どもの本のブックリスト

 先行き不透明で不安感が増す、現在の多価的な日本社会にあって、子どもと子どもの本のブックリストについて考えてみたい。
 人の発達・成長は、人間社会がたどったように「アナグロからデジタルへ」である。はじめからデジタルだけというわけにはいかない。赤ちゃんはまわりに働きかけて物事を知り、認識し、言葉を獲得し、耳からの読書を経て、一人読みができるように育つ。幼児は読み聞かせてもらいながら、本独自の味を知る。本を読む喜びを知ると、自分で本を探そうとする。そこで本選びに役立つ道具をだれかが用意して、養育者や養育者を援助する人に届け、間接的に幼児に役に立ててもらおうということになる。
 この段階で、ブックスタート関係者、児童出版社、保育所、公立図書館などが、乳幼児に役立つ絵本などを選定してリスト化した。当初はリーフレットやパンフレットだったが、すぐに小冊子化された。乳幼児向けの働きかけは、先進的な公立図書館では、「乳幼児サービス」として、1970年代半ばから試行され、2002年の「子ども読書推進計画」の具体的活動の一つ「ブックスタート事業」の開始から急速に広がった。絵本の書影をつけた紹介文付きのリストは、書影がカラフルになり、養育者向けに手立ての解説も記載したものなど多彩にある。ブックスタート後の幼児向けには、家庭での読み聞かせや、ストーリーテリング活動に向く冊子が主となる。この作成者は、出版界、公立図書館、保育施設などに加えて、ボランティア団体など、多岐にわたる。出版界、図書館などの無料のものから民間団体や公益財団法人の有料出版物まである。
 本が読めるようになった子ども向けリストについて考えてみよう。
 子どもの心を確かにつかみ、読む喜びを実感させる作品にしっかり出会ってこそ、一人読みが定着し、読書行為が習慣となる。日本・外国の、子どもの心をとらえて離さない、時代を越えて読み継がれてきた“力のある作品”がある。その良さを確実に伝える紹介文を付けた、何段階かのブックリストが十分必要である。絵本のリストに比べて、ロングリーダーリストが図書館界以外も含めて十分とは言えない。
 大学生のレポートでは、「私がいちばん多く本を読んだのは小学生のころだ」と、書く者がとても多い。想像の翼を広げてくれるもの、異世界に連れて行って多彩な経験をさせてくれるもの、自分のめざす道に関わるもの、生きるモデルを提供してくれるもの、こういう作品が、高学年から中学生には必要である。読む本の“量より質”である。
 この領域では、著名人によるおすすめ本が図書の形になって商業出版されている。だが、実際には、この段階の対象年齢の生徒たちはほとんど手を出さない。そこで一部の子ども読書推進団体や公立図書館や官民で取り組まれる、ブックリスト作成事業に期待が向く。即ち、この年代の人がもう少し身近に感じられる物、教師や図書館員、加えて児童図書専門書店員、子ども文庫関係者やブックトークなど、実際に子どもの読書活動をしている方々の、協働によるブックリスト化が、もっと取り組まれても良いのではないか。
 現在、学齢以前、5歳くらいから、たどたどしくとも文字を読める子がけっこういる。でもまだ、子どもの本のリストを活用できるまでには至っていない。もう少し年齢が上がって小学校2年生あたりから、本好きで一人読みを早くからできる子が、貼付された本のカバーや本の帯、紹介文付きイラスト画などを見て、読みたい本を知ることに役立てている。実際、公立図書館でよく観察していると、こんな子の存在に気が付く。
 とはいえ、図書館だよりに載った本やパンフレット、冊子を使って本を探すのは、一般的に高学年から中学生以上であろう。それも比較的良く読む子が使うことが多く、読み慣れていない子や読むのが苦手な子はほとんど利用しない。さらに、この種のものを利用するのは、経験上、子どもより大人の方が多い。作成者は、このことを念頭に置いて作品を選び、紹介し、案内をすることが肝要だと考える。
 ブックリストとは言い難いが、紹介文付きのパンフレットや手帳型の児童書ガイド(小学校低学年、中学年、高学年、中学生用の4種類)を配布して、読んで一言、感想を記入し、図書館員に見せてスタンプやシールをもらい、リスト分を全部読んでいっぱいになると、ご褒美がもらえる。こんな活動をしている公立図書館や子ども文庫がある。読んだページ数を書く読書マラソンや読書の木や読書シールを貼る取り組みの類型とも言えるが、実際にはけっこう効果があると思われた。当然、異論もあろうが、読書が敬遠され気味な現在、ブックリストを活用する“手ほどき”も、図書館の役割の一つではないかと考える。
 ブックトークやビブリオバトル、課題解決など、目的がはっきりした学生や大人は、冊子リストや図書形態を利用して、必要な本や読みたい本を探す。加えて、読書大好きの人たちが利用する、これがブックリストの主たる利用者であろう。読み始めた子や読むのが苦手な子には、本の面展や書影の展示、本のカバーや帯の掲示、書影に紹介文をつけたクリアファイル作成など、各図書館では、別の方策、独自の工夫をする必要があろう。

今後に向けて

 公立図書館や私設こども図書館のブックリストだけではないのだが、紹介された文章が、本の帯やブックカバーの袖にある案内、あるいは市販マークをほぼ真似たものが目につくようになってきた。さらにまた、あとがきの解説を紹介文に使っていて、読まずに書いているのではないかと思えるものもある。これらの中には、著作者が伝えたいことを誤って伝えているものにも出会うことがある。
 世の中には、幼児や小学校低学年に向く絵本のリストが多いが、高学年向けの物語や知識・科学読物などのリストは少ない。公立図書館では、本離れが目立つ高学年向けに収録冊数や内容を多彩にして、とっつきやすい案内付ガイドを幾種類も定期的に発行する、この面の活動を強化していくことが望まれている。すでに図書館員に加えて、教師や読書家の市民などで協働して作成している例も、全国的には見受けられる。
 ある公立図書館では、毎月発行の図書館だよりの総集版を作って冊子化している。日頃の選書会議の記録や、検討に使うレビュースリップ、評価表を活用して、時に応じて冊子化している図書館もある。子どもと本をつなぐ日常の活動の積み重ねが、よりよいブックリストの作成につながる。日常業務のなかで、著作の内容を多角的に伝える活動を創りだしていただきたい。


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