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「はらっぱ」 No.27(2014) 子どもに楽しさとワンダーを届けるために

更新日:2014年3月28日


「はらっぱ」 No.27(2014) 子どもに楽しさとワンダーを届けるために

掲載日:2014年3月28日更新

同志社大学非常勤講師 脇谷邦子

はじめに 

1980年代前後から、塾や習い事、ファミコンの登場などにより、活字離れが問題になってきました。教育界や出版界が危機感を抱き始め、平成13年には「子どもの読書活動推進に関する法律」が制定され、国家が子どもの読書活動に関与しなければならないような状況になってきました。テレビ・ビデオに加えてDVD、インターネット、携帯電話(スマホ)、ロールプレイングゲームなど、多様で刺激的なメディアが増え、活字という地味なメディアは敬遠され、子どもの読書時間は減少しています。

テレビなどの映像メディアは、イメージを作って提供してくれ、音声は受け身で流れてきます。活字を読むという行為は、文字という記号の羅列から、記号の表すイメージを自分の中で作り出していかねばならないしんどい行為であり、意志を持って読もうとしない限り頭に入って来ないメディアです。それゆえ、子どもだけでなく、大人も含めて活字離れ現象が進行するのも無理のないことかもしれません。しかし、情報という断片ではなく、個人の思想や考えをまとまって発信し、受容するには、活字メディア抜きには考えられないと思います。読むことで、新しい知識や認識を獲得することは自己変革を促し、さらに深く読み取る力を拡大させ、読む人の主体性を確立し、生きる力の獲得につながります。

読む力を獲得するためには幼い時から本に親しむことが肝要です。それだけではなく、本には子どもの成長を助ける力があると思います。

 

1.子どもの成長に読書の果たす役割 

子どもが成長する社会環境が大きく変わってきました。核家族化、少子化、メディア環境の多様化、さらには交通及び通信技術の発達により、都市部と地方に住む子どもたちの成長環境も差異がなくなってきました。異年齢も含めた子ども集団が減少し、子ども同士が遊びを通じて対人関係やコミュニケーションを学ぶ場も減少しています。

乳幼児期は子どもたちが言葉を獲得する大切な時期です。人が子どもに語りかけることにより、子どもは言葉を獲得していきます。地域社会が機能していた時代は、3世代同居の家族も少なくはなく、地域の人間関係も密で、近所のおばちゃんたちが、赤ちゃんに語りかけたり、あやしてくれる機会は少なくありませんでした。少子化が進む今の時代は近所に同じ年齢の子どもは少なく、ドアを閉ざすことが当たり前のマンションで、企業戦士の父のいない部屋の中で、母親と二人きりで長い1日を過ごします。赤ちゃんが言葉を獲得するのは、コミュニケーションが成立することが前提です。お母さんが赤ちゃんの目をみて、おっぱいをやりながら、「おいしかった?おなかいっぱいになった?」などと話しかけるとき、母親の声音と表情から言葉の意味を理解していくのです。だから、多くの人の豊かな語りかけがあれば、赤ちゃんも豊かな言葉を獲得していきます。絵本はそのための一つのツールとなります。ブックスタートがはやり、図書館の乳幼児のためのおはなし会が盛況なのも、その証だと思います。

絵本を読むことで、子どもは様々な知識を獲得するだけでなく、感性を磨き、想像力を養うことができます。絵本の主人公に同化することで、追体験や、疑似体験をすることができます。疑似体験は、経験値として子どもの中で積み重なっていきます。後日、リアルな体験の場において、子どもの問題解決の一助となります。また、絵本の中で、子どもはまだ知らない世界に出会うこともできます。また、絵本は読んでくれる人(親など)と、読んでもらう子どもが居て、わくわくドキドキ同じ世界を味わうことで、心を通わせ、共感しあうことで、人と人との絆を深めることができます。このように絵本は、子どもの世界を広げ、子どもの心を育て、子どもの成長を助けるものだと思います。また、子どもたちは物語の中で様々な人生を生きることができます。そのことは子どもの育ちを豊かなものにしてくれるとことと確信しています。

2.子どもに本を手渡す人が必要

絵本は子どもに喜びをもたらし、子どもの成長を助けるものと言えますが、様々なメディアがある中で、絵本というメディアは、読んであげる人のリアルな存在を要求します。ビデオやテレビは、人が介在しなくてもよいメディアです。絵本は読んであげる人がいなくては、子どもたちに伝わることは困難です。また、非常にたくさんの絵本が出版されている中で、発達段階も違い、個性も違う一人一人の子どもにふさわしい適切な絵本を選ぶことは必ずしも容易なことではありません。

また、子どもは幼ければ幼いほど、誰にでも心を開くわけではありません。まずは親との愛着形成から、親や身近な人を通してこそ、世界を広げていけるのです。親や保育園、幼稚園の先生など、まずは子どもの身近にいる人が、本を読んであげることが大切です。親を始め、子どもの身近にいる人たちに、子どもの育ちにとって絵本が大切なことを知らせ、読み聞かせを奨励するように働きかける人も重要です。子どもの本の専門家である児童図書館員、子どもと本について良く知っていて、経験豊富な読書ボランティアは、そうした働きかけができる人でもあります。

社会変化の激しい現代は、親も子も忙しく、絵本を読んであげるゆとりのない家庭も少なくありません。絵本は、読んであげる人=子どもに本を手渡す人がいなければ、子どもには届きません。対人関係が希薄化している今日、絵本の読み聞かせという形で親以外の大人との関わりが生じるのは、子どもの育ちにとってプラスになることでしょう。

3.手渡す人の養成を

子どもの身近に本を手渡す人がたくさんいてほしいと思います。でも、誰でも良いわけではありません。そのためには、絵本を読んであげる人自身がたくさんの本を知っていることが大切です。物語絵本だけでなく、社会的なテーマを扱った絵本、自然科学の絵本など、様々なジャンルの絵本に対する知識、それぞれの絵本作家の特徴など、学ぶべきことはたくさんあります。読み聞かせや、ストーリーテリングや、手遊びなども含めた子どもと本をつなぐ様々な技法についてのスキルも必要です。子どもの成長・発達段階を知ること、子どもの扱い方を心得ておくことなど、学ぶべきことはたくさんあります。

子どもに適切に本を手渡すためには、子どもと子どもの本について十分な知識を持ち、子どもと本をつなぐ方法をきちんと学んだ図書館員や読書ボランティアの養成が必要です。熟練した児童図書館員や、経験豊富な読書ボランティアなどの専門的な指導者のもとで、子どもに関すること、子どもの本に関すること、子どもと本をつなぐ技術について、体系的に学び、練習を積み重ねて、子どもに本を手渡すことが可能になります。

また、読書ボランティアを志す人には、子どもの人格を尊重し、不用意な発言で子どもを傷つけないこと、子どもの安全に注意すること、子どものプライバシーにも十分に配慮することなど、ボランティアとしての基本的な心構えを知っていただくことも必要です。

計画的に子どもに本を手渡す人を養成し、少しでも多くの子どもたちに本と出会わせる機会を増やしたいと思います。そして、本をとおして、一人でも多くの子どもたちに楽しさとワンダーを届けたいと思います。


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