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本蔵-知る司書ぞ知る(105号)

更新日:2024年1月5日


本との新たな出会いを願って、図書館で働く職員が新人からベテランまで交替でオススメ本を紹介します。大阪府立中央図書館の幅広い蔵書をお楽しみください。

2023年7月20日版

今月のトピック 【小磯良平生誕120年】

7月25日は神戸出身で昭和を代表する洋画家、小磯良平の生誕120年の記念日にあたります。女性画が特に有名ですが、織田作之助の挿画や武田薬品が発行した薬用植物の図鑑など、大阪ともゆかりのある画家でした。そこで今回は小磯良平の作品集3点を紹介します。

絵になる姿:小磯良平画文集』(小磯良平/著 求龍堂 2006.3)

代表作「T嬢の像」をはじめ、油彩画69点、デッサン13点、ペン画3点、版画6点、薬用植物画8点を見ることができます。作品によっては関連する著者のことばも載っており、画文集ならではのよさを味わえます。

小磯良平素描展:デッサンの美再発見』(小磯良平/画 増田洋/監修 梅田近代美術館/編集 読売新聞社 c1989)

1988年に亡くなった小磯良平をしのぶ素描展として大丸心斎橋店などで1989年9月から1990年1月にかけて開催された「小磯良平素描展」の展覧会図録です。小磯良平のアトリエに残されていた未公開の素描作品を中心に計110点のデッサンを見ることができ、彼の確かな画力と、デッサンならではの味わいに見惚れてしまいます。

薬用植物画譜』(刈米達夫/解説 小磯良平/画 武田薬品工業 1971)

武田薬品が刊行していた月刊誌「武田薬報」の表紙画として昭和31年から13年間にわたって小磯良平が描いていた薬用植物の写生画をまとめ、薬学博士の刈米達夫が解説を付したものです。薬用植物の図鑑としてはもちろん、ボタニカルアート作品としても楽しめる1冊です。

今月の蔵出し

100万回死んだねこ:覚え違いタイトル集』 (福井県立図書館/編著 講談社 2021.10)

この本はレファレンスで判明した利用者がうっかり覚え間違えたタイトルと、これじゃないかという正しいタイトルを記載した本です。例えば、タイトルにも使用されている『100万回死んだねこ』の正しいタイトルは『100万回生きたねこ』など。レファレンス担当から見れば、このような似た言葉による相談は日常茶飯事です。ゴダール(フランスの映画監督)がタゴール(インドの詩人)になるくらいでは全然驚きません。

この覚え間違いを福井県立図書館のホームページで見た時は、(これを表に出しちゃうんだ)が正直な感想でした。出版した際もまた同じ。わが町大阪でこのような事例を公開すれば、ネタ帳を持った人たちがレファレンスカウンターに数珠繋ぎになるのは想像に難くありません。あちこちから「マルタン・デュ・ガールの名作にお好み焼きは出てきません!」とか「原田マハの名作は、なかなかオーバーラップしてこない右サイドバックの話ではありません!」とか聞こえてくること間違いなしです。

本題。本書の言いたい部分は、司書の役割について説明している部分です。エンターテイメントの裏側に潜ませているその部分こそがメインテーマに違いありません。基本、司書は策士ですから。

私が実際にレファレンスを受ける時には、笑顔の裏で神経を研ぎ澄ませ、一言も聞き漏らさないように傾聴し、必要に応じてインタビューを重ね、ディシジョンツリーを頭のなかに築き上げ、俯瞰しながらどのゴールに向かうのか想像しています。そして、そのゴールにはそれぞれ調べるための参考図書や検索ツール、データベースが紐づけられています。それらのツールを駆使し、欠如モデルに陥ることなく、並走することに心を配ります。中心は質問者で、調べたいと思っていること(言ったことではなく)、つまりうまく言語化できなかったり、表現できなかったりする部分までも汲み取り、その方にあった資料(難しすぎない、簡単すぎない)を提供します。
ある程度経験を重ねれば余裕もでてきて、これはもしかして違うキーワードではないかという選択肢も考えて対応することができるようになります。先ほどのタゴールのケースでは、違和感が浮かんだ時には、インタビューで「映画」というキーワードを引き出せば、ゴダールの道に戻ることができます。

さて、この本を読めば、いかに司書が皆さんの身近な存在であろうとしているかが分かります。ぜひ皆さんも気軽にお声掛けください。その時にはネタ帳はなしですよ。絶対なしだからね。絶対なしです。ネタ帳待ってませんから。待ってないよー。

【城東区のかけら 改め 本好きの下ノ上:認定司書になるためには手段を…】

ランプシェード:「こどもとしょかん」連載エッセイ1979〜2021』(松岡享子/著 東京子ども図書館 2023.3)

大きさも形も柄もさまざまな色とりどりのランプが一面に並んでいる表紙、裏表紙。柔らかなてざわりに、頁を開く前から期待が高鳴ります。この本は、松岡享子さんが、東京子ども図書館の機関誌『こどもとしょかん』に、43年にわたり連載したエッセイ全162編を収録したものです。タイトルは、松岡さんが、毎晩眠りに落ちる前、本を読むために使っていたランプから取られたそうです。実際に、そのランプがほの明るい光を灯す姿を写真で見ることができます。

松岡さんは兵庫県神戸市出身で、アメリカで図書館学を学んだ児童図書館員の先駆けであり、児童文学作家、翻訳家です。東京子ども図書館を設立し、同館の理事長を長年務められました。創作、翻訳、講演、おはなしの講習会など精力的に活動をおこなってこられた方ですが、この本を読む間、等身大の松岡さんがそっと話してくれているように感じました。

執筆当時の社会情勢も折に触れて描かれています。阪神淡路大震災、9・11、東日本大震災など未曽有の出来事が起こった時、幼くして大きな出来事に遭遇した子どもたちがこれからどう生きていくのかと心を痛めながらも、子どもにおはなしを届ける手立てを考え、実行に移していったことが伝わります。

思わず顔がほころぶようなエピソードも、心に残ります。たとえば、子ども時代は好き嫌いが多く食べられるものがなかったそうですが、ほとんどのものを食わず嫌いだったと克服したものの、こんにゃくだけは今でも苦手だという話。冬の朝、もう少し布団の中にいたい「あとちょっとの時間」に唱えたという自作のうた。これまで知り合った人との縁を大切にしていても、時に近くなったり遠くなったりする、人との距離感は、本やおはなしにも当てはまるという話には、思わずその通りとうなずきました。

頁の残りが少なくなるにつれて読み終わるのが惜しくなりますが、また次の本へと世界を広げてくれる一冊です。

【薄荷】


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