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第84回小展示(大阪資料・古典籍課)
平成20年5月31日(土)〜7月9日(水)  (入場無料)

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シリーズ 観光の大阪展
−旅行案内書[ガイドブック]に見る大坂 大阪 OSAKA−

第1回  大大阪観光案内

はじめに

 

旅に出る時、旅行案内書(ガイドブック)は欠かせません。まだ見ぬ土地の景観やおいしい郷土料理。私たちは旅行案内書を手がかりに、旅への期待を大きくします。旅行案内書は、その土地のイメージを端的に表す資料といえます。


 ところが大阪は、奈良や神戸そして世界レベルの観光地である京都を控えているために、「観光」という面においてはその存在感はけっして高いものではなく、イメージも「お笑い」や「粉もん」など画一的ものだと言えるでしょう。


 

そうした中で現在、観光産業が注目され、基幹産業になりつつあります。 山崎治氏は「観光立国に向けて」(『レファレンス』平成16年10月号)という論文で、観光産業が期待されている理由について、以下のように述べています。少し長いのですが、引用します。


「観光産業は、製造業とは異なり、生産・雇用が国内で行われるため、『空洞化』とは無縁の産業であると言われている。また、旅館・ホテル業だけでなく、運輸、飲食、娯楽・レジャー産業まで含む裾野の広さをもっているため、経済に対する波及効果が大きい。」


 現在では、これまでのような物見遊山的な観光だけではなく、国際会議などを含むコンベンション、映画やテレビドラマのロケーション誘致などの新しいかたちの「観光」を積極的に推し進め、都市の魅力を高め、経済力を強化することが期待されています。


 今年度の中之島図書館 大阪資料・古典籍課の小展示では、この注目されている観光をメインテーマに、旅行案内書を手がかりに観光都市大阪がどのようにイメージされてきたのか。そして現在、未来の大阪の観光、都市の魅力について紹介していきたいと考えています。



シリーズ第1回 大大阪観光案内

1925(大正14)年4月、大阪市は隣接地域を市に編入する第二次市域拡大を実施しました。これにより人口は200万人超となり、東京市を凌駕する日本一、そして世界第六位の大都市が誕生しました。

 これを記念して2つの会場と5つの百貨店による協賛会場で「大大阪記念博覧会」が3月15日から4月30日まで開催されました。

「大大阪記念博覧会」では27のテーマをもとに大大阪を紹介しましたが、そのうちの1つ、「趣味と娯楽の大阪」で、「行楽」が取り上げられ、観光・行楽が大衆的なものとなっていた様子がうかがえます。

 それでは、当時の旅行案内書の紹介を通じて、日本一の大都市となった大阪がどのように紹介されていたのかを見ていきたいと思います。

  
                                    

大大阪記念博覧会 1 大大阪記念博覧会誌(807-203#)
大阪毎日新聞社編纂 1925(大正14)年9月発行

 大大阪の誕生と大阪毎日新聞の15000号を記念して開催された博覧会です。大阪で開催された博覧会の中では、1903(明治36)年の第五回内国勧業博覧会や1970(昭和45)年の日本万国博覧会、1990(平成2)年の国際花と緑の博覧会に次ぐ大きな博覧会でした。展示しているのは大大阪記念博覧会のポスターです。

2 大阪名勝(378-47#)
秋浦生 著 青木嵩山堂 1903(明治36)年2月発行

 第五回内国勧業博覧会に際して出版されました。博覧会の会場を基点に3日かけて大阪を巡るという編集になっています。大大阪成立前の観光の様子を知ることができます。

  

3 大大阪市名勝パノラマ地図(378-987#)
清水吉康 著 金尾文渕堂 1925(大正14)年4月発行

 発行年月日から、大大阪の誕生に際して作成されたものと思われます。新しい市域を加えた大阪市の地図で、周りに大阪の各名所の絵が配されています。  裏面は「近畿遊覧地図」になっています。

 

大大阪独案内                         4 大大阪独案内(378-767#)
大阪市電気局校閲 海事彙報社 1926(大正15)年5月発行

 「広告本位」ではなく、旅行者や買物客、仕入客、大阪市を視察する人のための旅行案内書。旅館の設備待遇や料亭、飲食店の批評、品物の精巧粗悪を調査して、刊行しているとのことです。さらなる内容の充実のために利用者からの投書を「切望致します」とあります。  大阪市電気局校閲らしく、市電との交通事故防止を呼びかけています。

5 大阪新電車地図(378-933#)
大黒屋旅館 発行年月日不明

 旅館の宣伝パンフレットですが、大阪の主要な名所の案内も記載されています。裏面には充実つつあった郊外電車(私鉄)の路線図が市域を越えて描かれています。


6 御大典記念 大阪案内記(291.63-1323N)
大阪市役所産業部 1928(昭和3)11月発行

 「口絵」「沿革」「大都市計画」「交通」「産業」「教育」「社会」「保健」と市政全般にわたって記載されています。「名勝と遊覧地」では大阪城、天王寺公園と茶臼山、中之島公園、住吉公園、生国魂神社、高津神社、天満宮、御陵神社、四天王寺、南北両御堂、道頓堀、千日前、新世界を紹介。郊外については、各私鉄の沿線案内が記載されています。

7 大阪府全図(378-1075#)
大阪府 1929(昭和4)年5月発行

 これまでに紹介した資料は大阪市内のものでしたが、これは府内の名所を紹介している案内書になります。大阪市以外にも、堺市、岸和田市、三島郡、豊能郡、泉北郡、泉南郡、南河内郡、中河内郡、北河内郡の名所旧跡が紹介されています。

8 堺市(378-1109#)
堺市役所 1935(昭和10)9月年発行

堺市の案内図。吉田初三郎の鳥瞰図を載せています。裏面に堺各所の案内が記されています。紹介されている名所は、中百舌鳥耳原の三御陵、西南戦争への対処として御前会議の開かれた中之町の明治天皇の聖蹟、堺水族館、大浜公園、大浜飛行場、大浜潮湯、開口神社、菅原神社、方違神社、両本願寺別院、南宗寺、大安寺、臨江庵、少林寺白蔵主稲荷、祥雲寺、妙国寺の蘇鉄、土州十一烈士の墓、天誅組上陸地、大和川堤。


修学旅行大阪見学 9 大大阪観光叢書(378-989#)
大阪市役所観光係 1940(昭和15)年発行

 第1輯神社編、第2輯仏閣編、第3輯美術編、第4輯史蹟編、第5輯厚生編、第6輯市施設編の全6輯。このうち第5輯厚生編は「大阪を中心としたハイキングコース」と題し、南海沿線、阪和沿線、大鉄沿線、大軌沿線、京阪沿線、阪急沿線、阪神沿線の35のコースを紹介しています。

10 修学旅行大阪見学(291.63-1331N)
大阪市役所観光係 1939(昭和14)年3月発行

 大阪市の編集した修学旅行用の案内書。大阪は「日本の台所」、学問の隆盛した「町人の都」、「実際を重んずる」街といいます。瓦の波、煙突から吐き出される黒煙、電車に乗る幾十万の人の流れ、を大阪の横顔と紹介する一方で、娯楽施設、山川、神社仏閣などが点在する面も強調しています。修学旅行団体取扱旅館一覧も載っています。


11 大阪(291.63-1152N)
大阪市役所産業部 1938(昭和13)年3月発行

 中国語で記載された大阪の旅行案内書。「観光大阪」では、大阪駅、中之島公園、大阪証券取引所、造幣局、大阪城、四天王寺、住吉神社、築港、心斎橋、道頓堀、千日前、天王寺公園、動物園、美術館、地下鉄、電気科学館、を紹介しています。

12 大大阪郊外案内(378-1405#)
浅野習業 著 内外旅行案内協会 1927(昭和2)年12月発行

 大阪を「水の都、煙の都と呼ばれる事は既に久しいものだが、其上に現在では自動車の都、電車の都、其他何、何、何と急進追加して、さても美々しく、目まぐるしい、新装文化の大都市」と呼び、大阪から八方に伸びる各私鉄の鳥瞰図、名所案内を載せています。


博覧会と大阪 13 博覧会と大阪(807-701#)
大阪出品連合会 発行年月日不明

 1937(昭和12)年3月15日から5月31日まで名古屋で開催された「名古屋汎太平洋平和博覧会」の大阪館で配布されたであろう冊子です。「商工相談」「貿易斡旋」では当時の大阪のビジネス支援機関が掲載されています。「商工相談」には観光案内についても記載され、「市内及近郊観光の斡旋並ルートプランの作成」「土産品斡旋」を大阪市産業部貿易課観光係が担当している旨の記述があります。



14 大阪案内(378-393#)
大阪之商品編輯部 1936(昭和11)年1月発行

 沿革、先覚者などを記述する大阪市勢案内からはじまり、後ろ半分から210ページ分が大阪遊覧案内となっています。市内各方面の名所案内のほか、名物土産品、「大阪には昔から『食ひ倒れ』の名がある」と記す食道楽、高級なものから大衆的なものまでを紹介した旅館・ホテルの案内、歓楽街が詳細に記述されています。


15 大阪名所遊覧自動車名所案内(378-1351#)
大阪乗合自動車 発行年月日不明

大阪名所遊覧自動車名所案内
名所遊覧自動車のコースを記したパンフレットです。昼食は天王寺公園の休憩所で実費で摂れること、希望に応じた記念撮影があること、遊覧中に雨が降っても傘を用意していることなどが、裏面の説明からわかります。乗車料金は大人3円50銭、12歳未満は2円50銭でした。


16 観光艇「水都」(291.63-1335N)
大阪市 発行年月日不明

 1936(昭和11)年5月に進水した観光艇「水都」が巡るところをイラストマップで紹介しています。  同乗した「マリーンガール」の案内から当時の大阪の様子がよくうかがえます。

    「次ぎ次ぎに大工場が立ち並び 工業大阪の心臓部となって参ります」「鴎飛びかふ茅淳の浦 波をへだてゝ 金剛、葛城の連山や堺の大仙陵 さては六甲連峰から 通ふ千鳥の淡路島まで 指呼のうちに眺めることが出来ます」「盛んな工業地帯でありまして 躍進日本の産業舞台に重要な役割を演じてゐるのでございます」「水の都の名にそむかず 約七十の川筋に 一千三百近くの橋が架せられ」ています。


観光艇「水都」 観光艇「水都」



17 大阪案内(378-903#)
大阪商品研究会編輯部 1941(昭和16)年3月発行

紀元2600年(1940(昭和15)年)を記念して刊行されました。『大阪案内』(378-393#)の改訂版。沿革、商工総覧につづいて大阪見学案内が記述されます。遊覧バス、観光艇「水都」のコースに沿った案内が順序もよいとしていますが、非常時局によりバス・船ともに休止している、とのことわりがあり、戦争の影響が観光にも及んできたことをうかがわせます。


[参考文献] 橋爪節也編著『大大阪イメージ 増殖するマンモス/モダン都市の幻像』創元社 2007年(216.3-754N)

    

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