大阪府立中之島図書館 平成16年度文化講演会
「内藤湖南講演会」ロゴ
― 人と学問 ―

《 講演会「内藤湖南 人と学問」は終了しました 》

 講師:礪波護(となみまもる)  (京都大学文学部名誉教授・大谷大学文学部教授)

プロフィール:1937年、東大阪市生まれ。京都大学文学部卒業、同大学院修了。文学博士。
中国の政治・社会・宗教史を研究。主な著書に『馮道−乱世の宰相』『唐代政治社会史研究』 『隋唐帝国と古代朝鮮』『京洛の学風』など多数。湖南についての講演も多い。


講師の礪波護氏  礪波護氏の講演会「内藤湖南‐人と学問‐」は、平成16年が内藤湖南(1866‐1934)没後70年、また当館の初代館長今井貫一、職員の一人武内義雄が図書や図書館、あるいは学問を通じ内藤湖南と無私の交わりを持ったことを契機として企画された。

 当館初代館長今井貫一(1870‐1940)は明治37年開館から昭和8年まで館長に在職した。昭和3年開館25周年、今井館長在職25周年の記念式と講演会があり、今井と交誼を結んだ内藤を始め本庄栄治郎、武田五一、新村出が演壇に立った。(注1)内藤が朝日新聞記者時代、図書館について今井がいろいろ相談をしたのが交友の始まりであった。今井が勇退した翌年の昭和9年内藤は隠棲の地・京都の恭仁山荘(くにさんそう)で69歳の生涯を閉じた。翌10年中之島図書館は「恭仁山荘善本展」を開催し、故人の和漢の古典籍に対する深い造詣に敬意を表したのである。(注2)

 中国哲学者武内義雄(1886‐1966)は、三重に生まれ京都大学で内藤の講義を受け、内藤の紹介で中之島図書館に大正3年から同6年まで奉職した。武内は懐徳堂を経て東北大学の教授となるが、内藤を“わが師”として学恩を生涯忘れることはなかった。

「内藤湖南」講演会の様子  礪波氏は作成された内藤湖南年表をもとに湖南の生涯を辿った。内藤湖南の湖南とは十和田湖の南という意味であり、本名の虎次郎は吉田松陰・寅次郎に因む。湖南が半ば家出のようなかたちで故郷秋田を出奔し、東京で高橋健三の私設秘書となり、内閣の施政方針を起草し、万朝報では幸徳秋水らの非戦論に対しロシア強硬論を展開したが、それが原因で社を辞した。 
 大阪朝日新聞記者時代、開かれた京都大学図書館論を展開し、京都大学の初代文科大学長の人選に奔走した。話は湖南がしきりに古書、古典籍を購求した大阪の古書店鹿田松雲堂に及ぶ、鹿田静七の古書販売目録「書籍月報」(明治23年創刊)の続巻として「古典聚目」(大正11年創刊)が出た。その100号に湖南のエピソードが出ている。(注3)
 続いて京都帝国大学の二人の支那学者、湖南と桑原隲蔵の話に移り、東洋史学を支えた二人の個性に触れられた。
 湖南は、地方史の大切さを父(十湾)の仕事から学び、また中国敦煌の値打ちを見定め、邪馬台国大和説を主張した。大正11年中国の近世は宋代に始まると歴史区分論を展開、日本史にも応用した。

当日展示した湖南の識語が載る『草稿抄』  司馬遼太郎は「風塵抄」で湖南を讃え、「街道を行く」で湖南を富永仲基、山片蟠桃の発見者としたが、実は内藤恥叟がその人であり、湖南27歳の折、恥叟から偉大さを教えられたのである。
 湖南には博士論文がない。その時代論文を提出する必要はなかった。ただ湖南が準備をしていたらしい手紙が残っている。後には規則が改正されて論文が必要になった。湖南の記念論集に「支那学論叢」があるが、支那学の名称に桑原は反対し東洋史学がよいと言った。宮崎市定(礪波氏の恩師)であればアジア史学と言ったかもしれない。

 最近の研究として、佐伯有清氏の近刊予定「邪馬台国論争と内藤湖南」を紹介され、中国での湖南研究にも言及された。湖南の遺骸は土葬で京都鹿ケ谷の法然院に埋葬されたが、晩年を過ごした恭仁山荘は、礪波氏が京都大学の東洋史の授業で最初に見学した場所でもあった。
 湖南の文献紹介、研究書や関連雑誌などその都度受講者に現物を示されながらの2時間に及ぶ講演会であった。

注1:大阪府立図書館長今井貫一君在職二十五周年「記念講演集并記念会記事」(天806)
注2:恭仁山荘善本展については、第2回小展示
「府立図書館展覧会の歴史」参照。
注3:「書籍月報」(013-91)「古典聚目」(013-91)


 秋田の漢学者の家に生まれた湖南内藤虎次郎が、大阪朝日新聞社の記者となったのは明治27年のこと。大阪朝日新聞に「関西文運論」を連載し、これが後の名著「近世文学史論」となる。
 ジャーナリストとして出発し、後に学者の道を歩んだ湖南。2004年は没後70年。当館初代館長今井貫一は交誼を結んだ一人であった。
 専門の中国政治社会史のほか、内藤湖南の研究者としても知られる礪波護氏に、湖南の人と学問について講演していただきます。

『恭仁山荘善本書影』

大阪府立図書館編『恭仁山荘善本書影』(湖南の蔵書を、当館で展示した際のもの)
『泉屋清賞(続編)』

住友吉左衛門編、内藤湖南監修『泉屋清賞』

【 日時 】 平成17年1月22日(土)  午後1時30分〜3時30分
【 会場 】 大阪府立中之島図書館 3階 文芸ホール
【 定員 】 90名 (申込み多数の場合は抽選)

お問合せ先 : 大阪府立中之島図書館 大阪資料課  TEL 06-6203-0473(直通)