1.ますむらひろしさん とは? ‐ますむらさんをめぐる会話‐



さとねこ(以下さ):ますむらひろしさんって、「銀河鉄道の夜」をマンガ化した作家さんだよね?

やまねこ(以下や):ジョバンニやカンパネルラなど、登場人物をネコのキャラにしたことで、話題になったね。

さ:賢治と同じ東北のご出身と聞いたけど?

や:山形県米沢市のお生まれだそうです。

さ:やはり風土として、賢治に親しむ土壌があったのかな。

や:小学生と高校生のとき、それぞれ教科書で賢治に出会われたとか。20歳のときに再会して衝撃を受け、
   マンガを描き出されたそう。このあたりは講演でもお聞きできるかも?

さ:マンガ家としてのデビュー作は?

や:1973年の「週刊少年ジャンプ」に掲載された「霧にむせぶ夜」。これは少年向けストーリーマンガの新人賞である
   手塚治虫賞(準入選)を受賞。これも20歳のとき。

さ:なるほど。

や:その後、あの白土三平が「カムイ伝」を連載した「ガロ」や、手塚治虫や石ノ森章太郎、松本零士なども執筆する
   「マンガ少年」などに作品を掲載し、本格的な活動を開始していく。

さ:代表作は?

や:「アタゴオル」かな。

さ:それは?

や:「ヨネザアド大陸」の「アタゴオル」と呼ばれる架空の舞台があって、
   そこにネコのヒデヨシとテンプラという青年が登場する話。

さ:ヨネザアド?そういえば、賢治の作品にも「センダアド」とか出てきたような…

や:仙台をエスペラント風にもじったものだそうな。ヨネザアドは米沢。響き合うところだね。

さ:賢治の作品では、何をマンガ化しているの?

や:「銀河鉄道の夜」や「風の又三郎」など、長編から短編までたくさんあるよ。

さ:特徴やおもしろい見方なんてある?

や:文学作品を絵に描くっていうことは、言語(文字)では書いていないことも提示しなければならない。
   それは必然的に、作品をどう読むかという作者ならではの視点や解釈が要求される。

さ:なるほど。

や:例えば、「銀河鉄道の夜」の場合、車中を描くためには、汽車の内部構造がイメージできないと描けないよね。
   またこの作品の場合、〈天気輪の柱〉や〈三角標〉など、謎に包まれた言葉やモノがたくさん出てくる。
   これらをすべて絵にするってことは緻密に作品に向き合うことが求められるし、大変なことだよ。

さ:むかし読んだ「やまなし」の〈クラムボン〉もよくわからなかった。読者のイメージもまちまちだしね。

や:ひとつひとつの絵に、作者の解釈がある。このあたりも、ますむらさんの作品を読む一つのおもしろさなのかも。

さ:どんな解釈を聞かせてもらえるか、楽しみだね。



2.弦楽四重奏で楽しむ賢治ファンタジー 演奏曲目について



    イラスト「銀河鉄道の夜」最終形

    copyright(イラスト2点とも)
    ますむらひろし メディアファクトリー

    ☆弦楽四重奏で楽しむ賢治ファンタジー

    演奏曲目(予定) ※演奏時間 30分

    1.ケンタウル祭の夜に… ~宮沢賢治「銀河鉄道の夜」によせて
         Ⅰ 午後の授業
         Ⅱ ジョバンニ
         Ⅲ カンパネルラ(レクイエム)
         Ⅳ ケンタウルス、露を降らせ!
         Ⅴ 星めぐりの歌

    2.交響曲第9番 新世界より 第2楽章 (家路) ドヴォルザーク

    3.見上げてごらん夜の星を

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    ☆演奏(日本センチュリー交響楽団メンバー)

      第1ヴァイオリン 関 晴水さん   第2ヴァイオリン 大中和代さん

      ヴィオラ     清水豊美さん    チェロ      高橋宏明さん




3.賢治のことば ‐賢治童話の断章‐



 これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらつてきたのです。
 ほんたうに、かしはばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかつたり、十一月の山の風のなかに、ふるえながら立つたりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんたうにもう、どうしてもこんなことがあるやうでしかたないといふことを、わたくしはそのとほり書いたまでです。        

童話集『注文の多い料理店』序より


「僕もうあんな大きな暗の中だってこわくない。きっとみんなのほんたうのさいはいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一諸に進んで行かう。」

「銀河鉄道の夜」より


「この砂はみんな水晶だ。中で小さな火が燃えてゐる。」
 河原の礫は、みんなすきとほって、たしかに水晶や黄玉や、またくしゃくしゃの皺曲をあらはしたのや、また稜から霧のやうな青白い光を出す鋼玉やらでした。ジョバンニは、走ってその渚に行って、水に手をひたしました。けれどもあやしいその銀河の水は、水素よりももっとすきとほってゐたのです。           

「銀河鉄道の夜」より


そのとき西のぎらぎらのちぢれた雲のあひだから、夕陽は赤くなゝめに苔の野原に注ぎ、すすきはみんな白い火のやうにゆれて光りました。わたくしが疲れてそこに睡りますと、ざあざあ吹いてゐた風が、だんだん人のことばにきこえ、やがてそれは、いま北上の山の方や、野原に行はれてゐた鹿踊りの、ほんたうの精神を語りました。

「鹿踊のはじまり」より


『クラムボンはわらつたよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらつたよ。』
『クラムボンは跳てわらつたよ』
『クラムボンはかぷかぷわらつたよ。』              

「やまなし」より


チユンセはポーセをたづねることはむだだ。なぜならどんなこどもでも、また、はたけではたらいてゐるひとでも、汽車の中で苹果をたべてゐるひとでも、また歌ふ鳥や歌はない鳥、青や黒やのあらゆる魚、あらゆるけものも、あらゆる虫も、みんな、みんな、むかしからのおたがひのきやうだいなのだから。          

「〔手紙 四〕」より


そのとき風がどうと吹いて来て教室のガラス戸はみんながたがた鳴り、学校のうしろの山の萱や栗の木はみんな変に青じろくなってゆれ、教室のなかのこどもは何だかにやっとわらってすこしうごいたやうでした。すると嘉助がすぐ叫びました。「あゝわかったあいつは風の又三郎だぞ。」                    

「風〔の〕又三郎」より


(ああ、かぶとむしや、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。そしてそのたゞ一つの僕がこんどは鷹に殺される。それがこんなにつらいのだ。あゝ、つらい、つらい。僕はもう虫をたべないで餓えて死なう。いやその前にもう鷹が僕を殺すだらう。いや、その前に、僕は遠くの遠くの空の向ふに行ってしまはう。)           

「よだかの星」より


熊。おれはてまへを憎くて殺したのでねえんだぞ。おれも商売ならてめへも射たなけぁならねえ。ほかの罪のねえ仕事していんだが畑はなし木はお上のものにきまったし里へ出ても誰も相手にしねえ。仕方なしに猟師なんぞしるんだ。てめえも熊に生れたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次には熊なんぞに生れなよ。

「なめとこ山の熊」より


「だからぼくらはぼくらの手でこれからそれを拵えやうでないか。」「ぼくはきっとできるとおもふ。なぜならぼくらがそれをいまかんがへてゐるのだから。」

「ポラーノの広場」より