■ 大阪府立中之島図書館百周年記念「大阪百人一首」 入選・入賞歌 ■ 選者 道浦母都子 <最優秀賞> 手作りの蘭和辞典を奪ひあひ俊英学びし北の適塾  【千葉県 池谷秀雄】 <優秀賞> 首都の夢みたかもしれぬ中之島水とうとうと獅子(ライオン)の橋  【京都府 水原 茜】 ここからの眺めが好きと寄りそって水晶橋で見る夜の川  【堺市 一條智美】 好きやねんぽつりと告げた恵比寿橋震える足をまた踏みしめて  【和泉市 池邊文香】 阿部野より信太の森に続くみち哀れ葛の葉偲ばるる丘  【豊中市 中野キミヨ】 信貴けぶりそこより広ごる浪速路のしぶきの如き走り梅雨かな  【大阪市 坂本のり子】 七曲り滝道ゆけば赤き布敷きつめし如箕面の秋は  【箕面市 松井喜栄子】 神於山(こうのやま)の笹食むパンダ写りたる「府政だより」を見つつ愉しも  【貝塚市 南 スガ】 風そよぐ夕陽ヶ丘の夏木立歴史を秘めし多宝塔立つ  【大阪市 宮山繁一】 大阪は橋多き街川風に吹かれて急ぐ美術館へと  【兵庫県 阪上民江】 川面映え航跡白し海彼(かいひ)の書ひもとく学徒眉うら若き  【大阪市 森田恒子】 適塾の急階段は幕末の若者の意気をいまに伝ふる  【泉大津市 礒田貴美子】 永代浜に着きし昆布を担ひつつ板橋撓(たわ)ませ人ら降りくる  【三重県 上野喜子】 戦(いくさ)終りて帰りし兄とボート漕ぎし堂島川の水清かりき  【枚方市 丹波昭子】 法善寺の水掛け不動尊(ふどう)の苔むして水掛く先に星のひかれり  【寝屋川市 大口廣一】 をさな日の蕪村も駆けしや淀川の長き堤を句碑の見守る  【大阪市 橋昭子】 大阪城とツインビルとがならびたち茜の色に染まるわが町  【大阪市 森中澄江】 春若葉夏の緑蔭秋黄落(こうらく)冬ガス燈の銀杏並木よ  【大阪市 竹山八重子】 ふるさとの夕陽が丘の風吸えばあしたを生くる楽しさの湧く  【千早赤阪村 吉岡蓁子】 茅渟(ちぬ)の海に外(と)つ国の人旅の人夜も睡らぬ関空の島  【阪南市 井上正恵】 遠き世は鶴(たづ)鳴き渡りし淀の洲も埋め立てられて遊ぶ釣人  【大阪市 阪井利江】 通勤の喜怒哀楽を胸に抱けば通天閣は百の表情(かお)持つ  【茨木市 永山誠也】 はらからの生れたる樟葉に遠く来て梁塵秘抄の石文(いしぶみ)をみる  【愛知県 奥村道子】 満面の落花打ち寄せ過ぎゆける水上バスの人ら手を振る  【大阪市 城戸チト】 穏やかに道頓堀川(とんぼりがわ)に水脈(みお)を引く鴨の一族一糸みだれず  【大阪市 渡部つぎ】 仁徳のみかども見しか生駒嶺(いこまね)の南の端に初あかね射す  【大阪市 入谷 稔】 空堀(からほり)の坂を下れば菓子・玩具の問屋がならぶ松屋町筋(まっちゃまちすじ)  【池田市 鷺ひさ緒】 迫る火に追はれて逃げし淀川も炎あげゐし大阪大空襲  【兵庫県 清水矢一】 湊町リバープレイス夕茜つばさのごとき大階段(きだ)に逢う  【大阪市 村上敬子】 ゆるやかな傾(なだ)りに河内ぶどう園のビニールハウスは夏日を反す  【松原市 元山公子】 敬老のパス有り難し訪ね行く鶴見服部大泉緑地  【大阪市 貴島博利】 モガ、モボの夢は何処(いずこ)になつかしき道頓堀の川面に写る灯  【岸和田市 三谷義明】 三月(みつき)かけやっと覚へし茶屋町の露地を夕顔にふれつつあゆむ  【大阪市 大上美智子】 波さわぐ夕風とみに秋めきて淀川べりを妻とあゆめり  【兵庫県 大津正美】 戎おこしは遠きおもいで戦死せる父のみやげの定番なりき  【茨城県 後藤愛子】 金剛山に向かふ車窓の青き風吾が髪なぶる思ひのままに  【柏原市 中野澄子】 市の木とふ名前背負ひてくすの木はゆつたり美し金岡公園  【東大阪市 西村幸子】 OSAKAは小さき巴里とう外(と)つ国の友は御堂筋ぎんなんが好き  【大阪市 前田信子】 薔薇の咲く中之島には名にし負ふ八百八橋の美(は)しき面影  【八尾市 川西 守】 栴檀(せんだん)の青葉のかげを選(よ)りて歩く東洋陶磁美術館まで  【門真市 中野伊智子】 淀川のわんどを見つめる子らの目に魚影うつればたもの早さよ  【和歌山県 三木惇子】 「はよいかな」急(せ)かされて来し大川の仕掛け花火に散りゆきし恋  【和歌山県 森 妙子】 片割れは大阪城の堀の辺に落ちてあらむやこの耳飾り  【北海道 荒谷禎子】 堂々と伽藍連ねる下寺町夕陽ヶ丘に鐘響きをり  【大阪市 阪田 收】 ちらほらと紅梅白梅咲くころの交野の森のこの場所が好き  【四條畷市 松岡裕子】 いづこより来たりしものか花筏甚兵衛渡しに若きらの声  【貝塚市 行松俶子】 人模様ひたすら運ぶ環状線は空の丸さと駅をめぐりて  【吹田市 橋節子】 大阪城を警護するがに住む人のブルーシートの並ぶ公園  【山口県 木村桂子】 太閤の怒りと嘆きみる如くビルの谷間の城は小さき  【大阪市 野瀬敬子】 天平の代に新羅へと出で立ちし浪速の港いまフェリー着く  【大分県 はまもときよこ】 愛地球博見て憶ふ大阪の万国博の太陽の塔  【富山県 丸山忠正】 新しきマンション訪ねてペダルこぐ船場の街の国勢調査  【箕面市 稲垣芳男】 ふる里の大阪駅に降り立てばざわめき寄せ来て安らぎ満つる  【三重県 大屋康子】 口笛吹いて四ツ橋肥後橋天満橋頼みもしないのに夕暮が来る  【奈良県 瀧 妙子】 「おおきに」と黒門町に別れたり浪花の人の言葉なつかし  【山口県 浜田道子】 亡母(はは)が生き吾も育ちし南区御津(みつ)アメリカ村と呼ばれて久し  【奈良県 森本良子】 社会へと踏みし一歩や難波駅はち切れし胸波打ちし髪  【堺市 大津武美】 あけくれをエンジン唸る数分の安治川渡船人々の足  【岸和田市 向井恒雄】 排気ガス吸いて胡瓜の育ちゆく難波パークス空中菜園  【貝塚市 天野栄子】 願い事一身に受け苔衣青々伸びる水掛不動  【東大阪市 曽根源蔵】 河内より大和路へ越す先人につづく足跡暗がり峠  【東大阪市 林 睦子】 ふる里の丘より臨む佐野の海関西空港空へと続く  【熊取町 米澤紀壬子】 大和路線快速電車に見る月が通天閣につかのま隠る  【柏原市 仲田光江】 大潮に鷺や千鳥もそばにいて二色の浜で潮干狩りする  【貝塚市 Mアミスエ】 埋め立ての大阪湾に見ゆるらん晶子の詠みし遠きいさり火  【堺市 松永直子】 縦糸は「筋(すじ)」横糸は「通(とおり)」にて難波の街は彩に織られき  【堺市 小西美根子】 やわらかな日差しの空に花ふぶき千里の街はしばし天上  【吹田市 吉田芳枝】 蓴(ぬなは)繰(く)る依網(よさみ)の池も今はなく記紀の歌にぞ昔しのばむ  【堺市 坂倉秀樹】 ビルに響く梅田の朝の蝉時雨わたしの声は届くだろうか  【大阪市 小苗玲子】 彼岸花の道を辿れば正成の風に会うかも千早赤阪  【千早赤阪村 松田美智子】 漢詩人秋渚(しゅうしょ)恋せし堂島は様変えいまに水の流るる  【兵庫県 林 玉崇】 海遊館のぶ厚き硝子に隔てられ甚兵衛鮫に恋をしてゐる  【吹田市 藪田ふみ子】 ゆるやかに潮(うしほ)ひきゆく堂島川告白したるかの朝に似て  【奈良県 横山季由】 淀川の河口にひかりを躍らせて夕陽ゆっくり墜ちてゆくなり  【大阪市 横山美子】 和泉野に田植終わりて呼ぶごとく応えるごとく蛙鳴き交う  【岸和田市 松尾菊子】 住之江の浦は夕焼け赤とんぼ飛びて昔日の“花いちもんめ”  【大阪市 北野静代】 学舎(まなびや)は上町台地をの子等があかあか帰る浮瀬(うかむせ)の秋  【三重県 山縣みさを】 「代書屋」を演ずる枝雀は束の間を眉寄せて見す一生(ひとよ)の悲哀  【茨城県 吉川英治】 大阪の友に支えられ二十年わが魂は清められたり  【神奈川県 落合なほみ】 大阪のどこか必ず一箇所に生まれ故郷に繋がる出口  【熊本県 井上眞一】 月光(つきかげ)に小滝の音の交じりゐて眠りの深き箕面のもみぢ  【池田市 太田省三】 夕暮れてひとり厨に思い出す母漬けくれし水茄子の色  【豊中市 片岡法子】 太陽が両手ひろげし時からだった日本に生れしよろこび持つは  【愛知県 伊藤京子】 薄紅の花びらが舞う中之島浪速の幸は卯月にありて  【京都府 下岡昌美】 道ゆけば「もうかりまっか」、「あきまへん」久しき夕べ船場堀川  【愛媛県 吉岡健児】 商店街一筋入れば空堀(からほり)の笹の葉揺れる長屋の軒並み  【大阪市 近藤多美子】 車窓より見える淀川きらきらとモネの絵のように水面輝く  【大阪市 市森晴絵】 素裸の語尾につつまれ暮れてゆく大阪の街めっちゃ好っきゃねん  【福島県 鈴木博太】 名にし負ふ夕陽丘の陽の光ひと夜限りの夕顔を染む  【大阪市 前橋由紀子】 晶子の生まれし大阪の空に向日葵の如積乱雲咲く  【宮城県 相澤由紀子】 たこ焼きを器用に作る君の手の小さな傷にも愛しさは増す  【東京都 大村早苗】 めぐる歌碑晶子息づく堺の地あやかり我も熱く生きたし  【堺市 谷川美湖】 疎と密に人移りゆく気象告げ通天閣のともる夕暮れ  【羽曳野市 坂東正勝】 明け方の空気を感じたくてゆくなにはの海はふうはりかほる  【大阪市 芝 典子】 参道と知りてか知らずか御堂筋銀杏並木を足早に行く  【京都府 江角智枝】 満員の御堂筋線乳母車囲む小さな隙間の優し  【兵庫県 足立有希】 タイガース勝つたび街は盛り上がりグリコの服も衣装がえする  【大阪市 野村あずさ】 たこ焼きは作る人の優しさでふっくらまるい形へとなる  【豊中市 眞鍋知恵】 豊中の真上に雨雲雨ふらず毎日部活やっぱし部活  【箕面市 大村涼子】 かくれんぼ大阪城で見上げた空ひで吉の夢きらりと光る  【吹田市 照沼夕祈】