大阪府立図書館

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令和3年度 大阪府立図書館の活動評価について(外部評価報告)

更新日:2022年10月7日

[PDFファイル/568KB]

令和4年7月
大阪府立図書館協議会 活動評価部会

はじめに

 令和3年度は活動評価第四期(令和元~4年度)の第3年目にあたる。令和元年度より続く新型コロナウイルス感染症の拡大は未だ終息の気配がない。令和3年度も4月から6月にかけ、大阪府下の緊急事態宣言発令のもとに約2か月の臨時休館を余儀なくされた。その後も警戒は続き、年度を通じて大きな制約のもとでの活動となった。

 そうした中でも、令和2年度の挑戦を踏まえ、オンラインでの活動などコロナ禍の制約を乗り越える様々な取組に挑まれたことに、改めて敬意を表したい。

 以下、5つの基本方針に沿って評価を加える。

1. 「基本方針1」(府立図書館は、市町村立図書館を支援し、大阪府全域の図書館サービスを一層充実させます。)

基本方針1の目標は、大阪府全域にわたる図書館サービスの充実・発展である。この点に関する今期の重点取組業務は以下の4項目であり、重点目標は「府域図書館間情報ネットワークの機能強化」であった。

(1)より一層効率的な資料搬送業務を通じて、府域図書館への支援を拡充します。

(2)府域図書館間情報ネットワークの機能強化を図ります。

(3)府域図書館職員等の能力向上を図るため、研修事業の新たな方策に取り組むなど、充実を図ります。

(4)図書館サービスの充実のため、調査・研究活動を行い、府立図書館の資料に精通し、幅広い能力を持つ司書の育成と継承を図ります。

 重点目標である(2)の府域図書館間情報ネットワークの機能の強化については、令和2年度からの試行を経て、「電子掲示板など新たなコミュニケーションツールの運用」が本格実施に入った。グループウェアの導入により、市町村立図書館からの定型の連絡・申請の効率化、アンケートの実施や掲示板での情報発信など、活用範囲が広がった。今後は府域図書館間での双方向コミュニケーションの促進にも期待したい。

 (1)の資料搬送業務において、府立図書館からの協力貸出冊数は引き続き目標値を下回ったが、令和2年度からは大きく持ち直し、平成30年度の数値をも上回る結果となった。中でも府立図書館の協力車による搬送の割合は令和2年度よりも3ポイント増加し、約85%を占めた。府域でも臨時休館が相次ぐ状況下でのこの結果は、府域の図書館を支える府立図書館の役割が、その重要度を増している証左と言えよう。

 (3)の図書館職員等の研修事業では、研修実施回数は目標値を下回った。実施回数は多い年と少ない年とが交互に表れる傾向にあり、令和3年度は令和元年度と同程度である。コロナ禍のもとでの開催であることを考えれば止むを得まい。動画配信による研修にも引き続き取り組まれた。多数の申し込みがあり、好評であったことは、この方式が一定程度定着しつつあることを示している。視聴後に質問を受け付けて、受講者からのフィードバックを得る工夫もされた。次年度以降はリアルタイム配信やチャットでの質問受付も検討(部分的に試行)されている。集合形式の対面研修の重要性が失われることはないが、時間や場所の制約から日頃対面研修に参加できない人々にとって遠隔研修の意義は大きい。双方向性をも確保した遠隔研修の実施に期待したい。

 (4)の調査・研究活動の今期のテーマは「来館サービスと非来館サービスの効果に関する調査・研究」である。令和4年度中の報告書完成・公表に向けて、報告書案が作成された。丹念な調査と結果分析により、他館の政策決定にも大いに資する意欲的な内容となる見込みである。次年度の完成・公表が待たれる。

2.「基本方針2」(府立図書館は、幅広い資料の収集・保存に努め、すべての府民が正確な情報・知識を得られるようサポートします。)

基本方針2の目標は、蔵書とそれを基盤としたサービスの充実である。この点に関する今期の重点課題は以下の4項目であり、重点目標は「効果的な蔵書の構築」であった。

(1)資料収蔵能力の確保に努めつつ、効果的な蔵書の構築をめざします。

(2)府民への情報サポートを担うレファレンス能力の高い府立図書館司書の育成と、蓄積したノウハウの継承に努めます。

(3)障がい者サービスの充実を図るとともに、図書館利用に困難がある方へのサービスの向上を図ります。

(4)ビジネス支援に役立つ幅広い情報を提供します。

 (1)の効果的な蔵書の構築に向けては、令和2年度の外部評価で紙媒体資料と電子媒体資料とを一つのシステムで提供できる仕組みの検討を要請した。関連して、府立図書館では令和5年度に予定されている次期システム更新時のウェブスケールディスカバリー(WSD)の導入可能性につき検討がなされた。導入は見送りの方向とのことだが、その経緯を可能な限り報告書にまとめ、一般にも公開していただきたい。導入された経緯について公表した先行例はあるが、見送った経緯をまとめたものは寡聞にして知らない。十全な検討の結果としての見送りの経緯は他館にも有益な示唆を与えよう。

​ (2)のレファレンス能力の高い府立図書館司書の育成では、基礎指標でe-レファレンス質問件数が令和2年度には及ばないものの、高い値で推移している。府立図書館への信頼の高さを物語る数値である。レファレンス事例の登録数も3,000件を超えた。質の高い事例を広く公開する努力を多としたい。レファレンス事例DBのアクセス数は年に180万件余りである。府立図書館司書の作成した質の高いレファレンス事例がより多くの目に触れれば、府立図書館への信頼のさらなる獲得へと繋がるだろう。そのためにもレファレンス質問への回答レベルを日々維持することは重要である。e-レファレンスの満足度がやや低下している点については、今後の経過を注視したい。回答レベルの維持、満足度の向上、信頼の獲得の良い連鎖で相乗効果が得られるよう、今後も研鑽を積み重ねていただきたい。

 政策立案支援に関わっては、貸出冊数は増加傾向であるが、レファレンスサービスの受付件数が減少している。背景の分析が必要であろう。図書館にとっての重要なステークホルダーである政策立案部局との緊密な連携は維持しておきたい。

 (3)の障がい者サービスの充実では、令和2年度から全国に先駆けてオンラインでの対面朗読サービスを実施しており、令和3年度も好評を博した。出前講習についても、40分の研修動画1本を6月から翌1月にかけて参加図書館に限定公開する方法で実施された。結果、館内職員研修にも活用されるなど、より多くの図書館職員等への波及効果があったと推測される。併せて高く評価したい。

 (4)のビジネス支援サービスでは、書庫建て替え工事やコロナ禍の中での講師派遣調整など困難な状況のもと、15回の開催を実現したことは評価したい。とりわけ昨年の指摘に迅速な対応がなされ、オンライン開催や動画配信が導入された。障がい者サービスにおける出前講習同様、実施回数以上の効果があったものと推察される。

3.「基本方針3」(府立図書館は、府域の子どもが豊かに育つ読書環境づくりを進めるとともに、国際児童文学館の機能充実に努めます。)

 基本方針3の目標は、府域の子ども読書活動の推進である。令和2年度末に「第4次大阪府子ども読書活動推進計画」と「大阪府読書バリアフリー計画」が策定され、令和3年度は両計画のもとでの活動初年度となった。今期の重点課題は以下の3項目であり、重点目標は子どもの読書活動を推進するうえでの「図書館利用に配慮が必要な子どもへの読書活動支援」である。

(1)府域の子どもの読書活動を推進します。

(2)広域自治体の図書館の視点から、学校等に対する支援を進めます。

(3)国際児童文学館資料の一層の活用を図ります。

 (1)の子どもの読書活動推進のうち、重点課題である「図書館利用に配慮が必要な子どもへの読書活動支援」は、感染拡大防止のため、催し、講座等の回数が令和2年度に続いて目標に達しなかった。残念だが、止むを得ない事情である。令和3年度は、令和2年度に実施された府立聴覚支援学校などへのヒアリングに基づき、手話による出張ブックトーク、図書館運営の相談と蔵書整備のアドバイスが実施された。矯正施設への特別貸出用図書セットの利用が全施設で可能となったことは大いに評価したい。また手話による出張ブックトークは新規の取り組みである。府教育庁所管課(文部科学省委託事業)によるフリースクールへのセット貸出も新たに実施され、選書や図書館案内リーフレットの作成に府立図書館が協力した。外国にルーツのある子どもへのサービスについては、府域図書館へのアンケートが実施された。このように利用者のニーズを的確に汲み取り、時宜に応じて臆せず挑戦する姿勢は高く評価できる。なおニーズの把握に当たっては個別ヒアリングという手法を奨めておきたい。図書館サービスを必要とする子ども等に図書館員が直に向き合って、その声を直接汲み取ることは大変重要である。

 (2)の学校等への支援に関しては、高等学校への協力貸出冊数は令和2年度よりもやや持ち直したが、目標値にははるかに届かなかった。感染防止対策による学校行事の中止継続等が主な原因であるが、協力貸出は必ずしも学校行事のみに関わるものではない。教職員ポータルへの情報提供回数は目標を大きく上回っている。協力貸出の制度を活用して実施されている授業の事例紹介など、学校行事以外の活用も模索いただきたい。

 (3)の国際児童文学館については、令和3年度も引き続き「講演と新刊紹介」の動画を配信して、全国からの視聴があったほか、魅力ある多彩なテーマでの展示や講演が実施された。データの再整理点数は令和2年度よりも約4,000件多い16,205件に及び、日々の地道な努力を評価したい。

4.「基本方針4」(府立図書館は、大阪の歴史と知の蓄積を確実に未来に伝えます。)

 基本方針4の目標は、大阪の歴史と知の蓄積・継承で、主として中之島図書館に関わる。この点に関する今期の重点課題は以下の2項目であり、重点目標は市町村立図書館、大学、研究機関等とのデータベース連携の拡充であった。

(1)地域資料および古典籍を収集・保存し、積極的な利活用を図ります。

(2)府域の地域資料や情報を収集し、「おおさかポータル」を充実することにより、大阪の歴史や文化についての情報発信を強化します。

 重点目標である(2)の「おおさかポータル」の充実に関する外部機関との連携については、大阪観光局等のデータの「おおさかポータル」公開画面への反映が実施された。また、事項マップや一部書影の文献資料への追加により、魅力を増す工夫がなされた。令和2年度の外部評価における指摘に対し即時対応いただいた。一方、本文データとのリンクが今尚わずかである点や、認知度の課題など、改善の余地も小さくない。2025年の大阪万博開催に向け、今後国内外からの大阪への関心の高まりが期待される。「おおさかポータル」のサイトはもちろんのこと、高校生向けに中之島図書館の歴史や所蔵資料を紹介したYouTube公式チャンネルの動画「なにわタイムとらべる」等、利用実態をよく把握した上で、コンテンツが有効に活用されるための方策を引き続き練っていただきたい。

 (1)のデジタル化した古典籍については、電子資料検索システム「おおさかeコレクション」の公開データ数が遂に5万件の大台を突破した。令和2年度の「石崎文庫」資料に続き、特別コレクション「三井文庫」、「森田文庫」、「近世活字本」の大規模な資料追加による。また、未公開であった「甲和」の請求記号を持つ貴重書2,600点が新たに公開された。大阪府立図書館の有する資料の奥行きが感じられる。現在そして将来の多くの研究に資するものとなろう。ジャパンサーチとの連携によるアクセス可能性の向上にも期待したい。

5.「基本方針5」(府立図書館は、府民に開かれた図書館として、地域の魅力に出会う

基本方針5の目標は、府民に親しまれる図書館づくりである。この点に関する今期の重点課題は以下の2項目であり、重点目標は、中央図書館が生涯学習事業における外部機関等との連携(展示・イベント等の企画実施)、中之島図書館が指定管理者との共同企画であった。

(1)「大阪から世界を知る」を基本コンセプトに生涯学習の拠点として図書館の魅力を高め、充実した事業を実施するとともに情報発信に努めます。(中央図書館)

(2)「大阪の歴史と商い」を基本コンセプトに指定管理者等との共同企画による多彩な事業を実施するとともに情報発信に努めます。(中之島図書館)​

 (1)の中央図書館の生涯学習関連の連携イベントについては、令和3年度もコロナの感染拡大防止の観点から中止や規模の縮小で参加者数が目標値を下回ったことは止むを得ない。

 SNSについては、ツイッターに加えインスタグラムの利用も令和3年4月から本格的に始まった。表紙画像やPOPなど親しみの持てる投稿だが、図書館側が主なターゲットとしているYA層とインスタグラム自体の利用者層の間には齟齬があるのではないか。YA世代の反応や意見をよく聴取し、効果的な発信に繋げてほしい。

 (2)の中之島図書館での指定管理者等との共同企画についても、感染拡大防止に留意しての実施となった。指定業者が変わっても、事業は問題なく継承されている。府立図書館側での品質管理が行き届いていることを示すものであろう。ビジネス講座、古文書講座などの参加者満足度は令和元年度には及ばないが、令和2年度に比べ大幅に向上した。

 中央図書館の地下書庫見学ツアーは中止されることもあったが、令和2年度より紹介動画がYouTubeで配信されている。タイトルからも内容がよく分かるようになった。第1編から第6編までのシリーズものになっているが、後編になるほど再生数が減少している。内容は良いのだから、YouTubeをうまく活用するための研修を受けるなどして、アピールの方法に一工夫あれば違ってくるのではないか。

さいごに

​ 足元では地道な努力を続けられ、また新たな取組にも挑戦する姿勢が随所に垣間見られた。ウイズコロナの困難な状況は今後も続くと予想される。世界情勢も混迷の度合いを増し、先行きが不透明である。活動評価第四期の期間は令和4年度で終了する。第五期の評価枠組みの検討も始まった。困難な時代を乗り越える知識・情報を遍く提供する、地域の頼りになる存在として、制約も多くあろうが、日本のトップリーダー館ならではの力を十二分に発揮していただきたいと願う。

大阪府立図書館協議会 活動評価部会 (50音順・○は部会長)
岸本岳文(元京都産業大学教授)
佐藤翔(同志社大学准教授)
○ 村上 泰子(関西大学教授)

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