大阪府立図書館

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令和元年度 大阪府立図書館の活動評価について(外部評価報告)

更新日:2021年3月9日

 [PDFファイル/1014KB]

令和2年8月
大阪府立図書館協議会 活動評価部会

はじめに

 令和元年度は活動評価第四期(令和元~4年度)の第1年目にあたる。第四期においても、第三期までと同様、「府域の図書館ネットワークの核として、広域的かつ総合的な視点から府民と資料・情報をつなぎ、府民の”知りたい”という気持ちにこたえ、”学びたい”という意欲を育み、豊かで活気あるくらしと大阪における新たな知識と文化の創造に寄与すること」という使命の下、5つの基本方針が維持されている。評価対象期間は従来の三カ年から四カ年へと延長されており、活動計画内には従来よりも長期間を要する取り組みも含まれている。評価期間初年度から意欲的な取り組みが行われていたものの、令和2年以降、新型コロナウイルス感染症の拡大(以下、「感染拡大」)に伴って複数の取り組みが中止を余儀なくされ、令和2年3月2日以降は図書館自体も臨時休館せざるを得ない事態となっている。感染拡大の影響は図書館自身の努力では避けようもないことも多く、今期の活動評価においてはその点に留意せねばなるまい。※

※そのような中でも府立図書館は自己点検において、感染拡大の影響に伴って目標を達成できなかった項目であっても真摯に「B」等の評価をつけている。しかし感染拡大に伴って目標を達成できなかった項目については、それ以外の場合と区別できるよう、なんらかその旨がわかる表記とする(「(B)」とする等)ことを検討いただきたい。

 以下、5つの基本方針に沿って評価を加える。

1. 「基本方針1」(府立図書館は、市町村立図書館を支援し、大阪府全域の図書館サービスを一層充実させます。)

 基本方針1の背景として、府域図書館間の連携や業務ノウハウの維持・向上のために、図書館間での情報共有・連携を促す狙いがある。また、災害発生時等の危機管理対応・情報共有のための連携強化・情報インフラの整備も念頭に置かれている。それらの背景の下で、重点目標としては「府域図書館間情報ネットワークの機能強化」、重点取組業務としては

(1) より一層効率的な資料搬送業務を通じて、府域図書館への支援を拡充します。

(2) 府域図書館間情報ネットワークの機能強化を図ります。(重点目標と特に密接に関係)

(3) 府域図書館職員等の能力向上を図るため、研修事業の新たな方策に取り組むなど、充実を図ります。

(4) 図書館サービスの充実のため、調査・研究活動を行い、府立図書館の資料に精通し、幅広い能力を持つ司書の育成と継承を図ります。

の四項目が設定されている。

 重点目標(及び重点取組業務(2))である府域図書館間情報ネットワークの機能強化については、メーリングリスト等の従来からあるツールの運用も継続しつつ、双方向コミュニケーションを実現するためのグループウェアの導入・運用が計画されている。令和元年度には他県立図書館での事例調査を踏まえてグループウェアの運用テストまで至り、令和2年度上半期には試行運用に入る段階にまで至った。令和2年度7月には一部機能の試行運用が開始されており、計画は順調に推移している。さらにグループウェアの導入のほかに、府域図書館を対象とする図書館関連ニュースの配信も今期より開始された。取り組みの開始が8月からと年度当初には間に合わなかったものの、開始以降は目標とした週1回の配信を維持している。特に感染拡大に伴って府域図書館のサービス縮小が相次いだ令和2年3月以降にニュースの存在が役に立ったとされており、「災害発生時等の危機管理対応・情報共有」を一つの背景とする本基本方針において、意義のある取り組みになったと評価できる。

 重点取組業務(1)、(3)においては活動実績が目標値を下回った項目もいくつか存在した。ただし、研修実施、協力貸出冊数など、感染拡大下においては活動を縮小せざるを得ない項目であり、単純に数値目標を下回ったことを問題視すべきものではない。研修については動画配信等による遠隔研修の実施等、感染拡大に応じた取り組みも開始されており、集合型研修では不可能な参加者数(視聴者数)を達成する例も出ているとのことである。引き続き感染拡大下でも実施できる形での、柔軟な取り組みが継続されることが望ましいだろう。

 重点取組業務(4)のうち、調査・研究活動については基本方針2とも関連するため、評価は後述する。司書の育成・継承については、目標値を大きく上回る回数の館内研修が実施されていた。

2.「基本方針2」(府立図書館は、幅広い資料の収集・保存に努め、すべての府民が正確な情報・知識を得られるようサポートします。)

 基本方針2については重点目標として「効果的な蔵書の構築」を掲げ、商用データベース・電子媒体資料と紙媒体資料の効果的な提供方法を提案していきたいとされている。重点取組業務としては、

(1) 資料収蔵能力の確保に努めつつ、効果的な蔵書の構築をめざします。

(2) 府民への情報サポートを担うレファレンス能力の高い府立図書館司書の育成と、蓄積したノウハウの継承に努めます。

(3) 障がい者サービスの充実を図るとともに、図書館利用に困難がある方へのサービスの向上を図ります。

(4) ビジネス支援に役立つ幅広い情報を提供します。

の四項目が設定されており、先の重点目標はこのうち(1)の中に位置づけられている。

 重点目標(及び重点取組業務(1))である商用データベース・電子媒体資料と紙媒体資料の効果的な提供方法の提案については、「紙・電子媒体資料統合提供調査チーム」が立ち上げられ、ウェブスケールディスカバリー、電子書籍、電子ジャーナル等に関する情報収集が多様な手法で行われ、結果が中間報告としてまとめられている。中間報告を受けての館内意見聴取では特にウェブスケールディスカバリーについて可能性を感じ、さらなる調査の必要性が指摘されたとのことである。従来は主に大学図書館での導入例が中心であるウェブスケールディスカバリーであるが、効果的な資料の活用という点では公共図書館、レファレンスサービス等での活用が期待される。一方、既存のウェブスケールディスカバリーは電子ジャーナル等の学術的な電子媒体資料の契約を前提とするものであるが、高額な海外電子ジャーナルを大阪府立図書館が多数、契約することは必ずしも現実的ではない。この点についても「紙・電子媒体資料統合提供調査チーム」の調査では神奈川県立川崎図書館での電子ジャーナル導入事例の検討、オープンアクセス資料の拡大等の点について触れられており、課題が適切に認識されている。公共図書館における紙・電子媒体資料の統合提供は前例の少ない、最先端の課題であるが、取り組みの端緒として本年度の調査は高く評価できるものである。

 そのほかの重点取組業務についても概ね目標値を達成する、あるいは上回る実績値を達成している。重点取組業務(4)のみ、成果指標として設定した「ビジネス支援に係る機関等と連携した講座・セミナーの実施回数」が目標値を下回ったものの、これは感染拡大に伴って中止された回があったためであり、感染拡大の影響がなければ目標値は達成できていたものである。基本方針2に関しては十分な活動が達成できたものと評価したい。

3.「基本方針3」(府立図書館は、府域の子どもが豊かに育つ読書環境づくりを進めるとともに、国際児童文学館の機能充実に努めます。)

 基本方針3については、今期は特に「全ての子ども」への読書活動を一層推進するために、支援学校や矯正施設等にいる子どもたち等、直接利用が困難であったり、配慮が必要な子どもへの読書活動支援が重点目標として設定されている。重点取組業務としては

(1) 府域の子どもの読書活動を推進します。

(2) 広域自治体の図書館の視点から、学校等に対する支援を進めます。

(3) 国際児童文学館資料の一層の活用を図ります。

の三項目が設定されており、先の重点目標はこのうち(1)の中に位置づけられている。

 重点目標(及び重点取組業務(1))である図書館利用に配慮が必要な子どもへの読書活動支援について、今年度は大阪府の子ども読書活動調査を活用し、支援学校と公立図書館の連携状況が把握された。結果、約65%の支援学校が公立図書館と連携していないことがわかり、未連携校向けのサービス実施が検討されている。また、今年度から新たに団体貸出を行う矯正施設が1ヶ所増え、府内全矯正施設での団体貸出が実現している。府機関等との連携が進んでいる点について高く評価できる。一方で、府内には民間事業として行われている不登校の子どもの集まり等もあるが、公的な機関ではないことから連携の対象となっていない。また、保護者に図書館の利用習慣がない等の理由で、家庭内で読書に親しむ機会を得られていない子どもたちもいる。「全ての子ども」への読書活動推進という観点からは、こうした図書館から「見えない」子どもたちを如何に発見していくかについても、取り組みを期待したい。

 そのほかの重点取組業務については、感染拡大に伴う講座等の中止・延期等の影響が出た項目を除けば、概ね目標値を達成するか、上回る成果を挙げている。その中で、重点取組業務(2)、学校等に対する支援のうち、「府立学校等への支援」について、成果指標として設定した「高等学校等への協力貸出冊数」の実績値が、目標値を大きく下回った。原因としては熱心に取り組んでいた学校司書の異動、授業内容の変更等が考えられるとのことであるが、異動や授業内容の変更が単純に協力貸出冊数減少につながってしまうより根本的な理由としては、学校現場に制度の周知が行き渡っていないことが考えられる。また、学校現場における協力貸出サービスに対する需要を、図書館側が十分に把握できていないという課題もある。従来も学校図書館担当教員向けの研修等では図書館からのサービス案内をしてきたとのことであるが、今後は校長会を通じてのやり取りなど、教員向けに図書館サービスを周知する方法を様々に模索いただきたい。

4.「基本方針4」(府立図書館は、大阪の歴史と知の蓄積を確実に未来に伝えます。)

 基本方針4については「市町村立図書館、大学、研究機関等とのデータベース連携の拡充」を重点目標とし、重点取組業務としては

(1) 地域資料および古典籍を収集・保存し、積極的な利活用を図ります。

(2) 府域の地域資料や情報を収集し、「おおさかポータル」を充実することにより、大阪の歴史や文化についての情報発信を強化します。

の二項目が設定されている。このうち(2)の中に先の重点目標が位置づけられている。

 重点目標かつ重点取組業務(2)である「おおさかポータル」の充実・外部連携については、今年度内に自館作成データ3,118件が追加・更新されたほか、大阪市からオープンデータ約110件の提供を受けた。さらに大阪観光局、国立国会図書館との連携に向けた作業も進んでおり、府内市町村立図書館との連携調整準備も行われている。市町村立図書館との連携は当面はデータ化され、一定の評価を得て継続されているものを中心としていくが、他の図書館からもデータ登録がしやすいように、管理機能の改修にも取り組んでいる。また、前期では広報の課題が指摘されていたおおさかポータルであるが、最近はアクセス数が増加しており、特に(今回の評価期間からは外れるが)令和2年度になって月間アクセス数が大きく伸びているとのことである。感染拡大下で来館利用ができない分、おおさかポータルの利用が伸びたことに加え、在宅でのレポート作成等を求められる大学生の利用が増えたことも考えられる。大阪府立図書館もサービスを再開し、また大学図書館等も再開するものが増えたとは言っても、感染拡大を契機にオンラインで入手できる情報への需要は従来以上に伸びていくと想定される。おおさかポータル関連の活動には一層、力を入れて取り組んでいただきたい。

 その他の重点取組業務についても、感染拡大の影響がある中でも目標値を達成する成果を挙げている。基本方針4に関わる活動については高く評価できると言えよう。

5.「基本方針5」(府立図書館は、府民に開かれた図書館として、地域の魅力に出会う「場」と機会を提供します。)

 基本方針5については、「図書館の枠を超えた外部機関との連携等により、地域の魅力に出会い、賑わいづくりに貢献できる、府民に開かれた図書館」という理想の下、中央図書館、中之島図書館ごとに重点目標と重点取組業務を設定している。

 このうち中央図書館については「生涯学習事業における外部機関との連携」について参加者満足度80%以上を達成することを重点目標とし、また「「大阪から世界を知る」を基本コンセプトに生涯学習の拠点として図書館の魅力を高め、充実した事業を実施するとともに情報発信に努めます。」を重点取組業務としてきた。外部機関との連携事業については、感染拡大下で6回ものイベント中止があったにも関わらず、実施回数・参加者数とも目標値を達成あるいは大きく上回る成果を挙げ、また参加者満足度も88%と目標値を上回った。高く評価できる一方で、情報発信については、SNSでの発信数が目標値を下回っており、一層の活用が必要である。

 中之島図書館については「指定管理者との共同企画」について参加者満足度80%以上を達成することを重点目標とし、「「大阪の歴史と商い」を基本コンセプトに指定管理者等との共同企画による多彩な事業を実施するとともに情報発信に努めます。」を重点取組業務としてきた。情報発信については中央図書館とまとめて行われているためここでの評価は割愛する。指定管理者等との共同企画については、感染拡大に伴い延期された以外のイベント等はすべて目標回数、達成されており、参加者満足度も90%を超える高い値を示した。

 このように基本方針5については、SNSでの情報発信を除いて高く評価できる活動ができていたと言える。しかし令和2年度については感染拡大を防ぐために、イベントの実施回数や参加者数を絞る、研修同様にオンライン開催等のあり方を検討するなど、これまでのあり方を見直さなければならない。感染拡大の中でどのように「場」としての図書館を実現していくのか、模索と検証の年として位置づけて活動いただきたい。

さいごに

 令和元年度は活動評価第四期の第1年目として、いくつかの課題はありつつも基本方針に則って高いレベルで活動を実現できてきていた。しかし年度末に発生した新型コロナウイルス感染症の拡大が一部で目標の達成を困難にし、感染拡大に応じてのサービス・図書館のあり方の見直しを迫る状況にも至っている。図書館にとっても利用者にとっても困難な状況ではあるが、その中で府域図書館を対象とするニュース配信が役立ったと評価されたこと、おおさかポータルの利用が伸びていること等は、これまでの基本方針とそれに則っての活動が危機的な状況にも対応できる、実のあるものであったことの証左である。

 基本方針5の項目末でも触れたが、令和2年度は感染拡大下でのサービスを模索しつつ、成果指標についてもどの点を見直すべきか等、検証する年と位置づけざるを得ないであろう。しかし本年度およびこれまでの活動評価を通じ、大阪府立図書館は現下の状況でもその使命を果たせる存在であると確信している。

大阪府立図書館協議会 活動評価部会 (50音順・○は部会長)
岸本岳文(京都産業大学教授)
佐藤翔(同志社大学准教授)
○ 村上 泰子(関西大学教授)

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