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「はらっぱ」 No.33 科学遊びと科学の本

更新日:2024年2月21日


「はらっぱ」 No.33 科学遊びと科学の本

掲載日:2020年3月31日更新

科学読物研究会・国際児童文学館専門協力員 西村寿雄

1. 「科学読み物」と科学

 世の中には、「科学読み物」「自然の本」と多種多様な本が出ていますが、そのなかでも、「科学遊び」「科学工作」に関する本も多々出ています。それらの本は「科学読み物」「自然の本」とは別の意味で大切です。
 今まで、科学者と呼ばれている人はいろんな発明発見をしてきましたが、その発明発見はどのようにして生まれたのでしょうか。難しい科学の理論を考えてやがて発明発見に結びついたのでしょうか。それとも、ちょっとした勘に基づいて新たな着想を生み出したのでしょうか。
 今までの多くの発明発見は、難しい科学の理論を考えてやがて発明発見に結びついたものはほとんどありません。多くの科学事象の発見は、難しい科学理論よりも先に、今までの経験や着想・勘によって生み出されたものが多いです。
 人間が生まれて以来長い間、便利になるように少しずついろいろな工夫を重ねてきました。あの巨大なピラミッド、奈良の大仏などを作るのにどれほどの知恵と工夫が働いていたことでしょう。特別な科学技術の世界ではすべてそうとは言い切れませんが、それでも着想や勘が大切にされています。ファラデー(1791-1867)しかり、ライト兄弟(兄1867-1912 弟1871-1948)しかりです。ドイツのアルフレット・ウェゲナー(1880-1930)は「ひょっとして大陸が水平に動いたのではないか」という直観によって「大陸移動説」を考えついたのです。私たちが重宝している電子レンジも、ちょっとした手違いが発見のきっかけになっています。今のノーベル賞を受賞するほどの科学者も、発想の違いで研究の糸口をつかんだ人が多いです。けっして、理論が先ではありません。

2. 科学遊びと科学工作の場所

 多くの科学者がそうであったように、科学の前段階のちょっとした勘や経験を小さい子どもの時から育てるのが「科学遊び」とか「科学工作」と呼ばれている領域だと思います。これは楽しく科学を考える上でも、とても大切な領域です。理屈だけの学びでは味わえない勘所や技術力を養います。
 最近になって「科学遊び」や「科学工作」が盛んになってきたのは公民館とか児童館・図書館です。各地域において地域ボランティアの人たちの活躍が目立ってきました。そういう人たちの多くは、学校や企業で活躍された方が多く、一定の技術を持ち合わせておられます。その技術を子どもたちに伝えるのはお手のものですし、次世代に伝えることはその人の生きがいにも結びつきます。そしてそこでは、「科学遊び」とか「科学工作」の本が役立っています。
 一つ例を書きましょう。私が勤めていた寝屋川市は廃校を利用して「自然体験学習室」というのを作っています。廃校になった学校の有効利用でした。地域の人の熱望もあり、そこに「自然体験学習室」が設置されました。部屋代や電気代、少しの消耗品代は市の補助で賄われます。(今は、昨年の地震の影響を受け、元の学校を出て別の教育施設に場所替えになっています。市立の図書館と同居です。)
 ここで、大切なことは「だれがどう運営するか」です。市としても、人件費を使ってまでこういった自然体験施設を設置することは今の財政事情では無理なことです。そこで注目されたのは、何人かの地域におられる自然体験経験者です。幸い寝屋川市では、元教員で理科系の人が数多く活躍した実績がありますので、この受け皿になりました。その人たちが中心になって「自然体験学習室」の運営にかかわり出しました。
 そして、1年経ち2年経つ間に次第に市民に知られるようになり、「自然体験学習室」のスタッフを広く募集しました。するとどうでしょう。市民の中にはいろんな人がおられるのです。鳥好きの人、虫好きの人、植物好きの人、木工技術にたけた人、自然好きの人、しかもリタイアした人が増えています。公募してからは、さまざまな経歴の人がスタッフの一員として加わってくれるようになりました。
 「自然体験学習室」の部屋は、子どもたちがいつ来てもいいように、様々な工作の材料が用意されています。スタッフは暇を見つけては竹を取りに行ったり、木を切ったり、いろんなどんぐりを集めてきたり、美しい木の葉を集めてきたり、さまざまな活動を幅広く実施されています。
 市内の他施設に伺うこともしています。小学校や幼稚園、野外活動センターなどへ応援に出かけることも多いです。さらに、ちょっとした講座も実施しています。まずは自然に触れることから始めますが、一つのテーマを継続して追いかけるなど、広い視野のある話をしたりもします。
 ここに来た子どもたちは、まずは簡単などんぐり工作などから始めて、だんだんと手の込んだ作り物に変わっていきます。木材にクギを打つのもノコギリで竹を切るのも貴重な体験です。
 また、スタッフの研修も行われています。木工など電気機械を使うにはちょっとした技術がともないます。子どもには使わせませんが、便利な機械も備えています。
 他施設の見学会も実施されています。「こんなこともできるのか」とそのアイデアを学ぶこともあります。

自然体験学習室の風景1

自然体験学習室の風景2

3. 「科学あそび」「科学工作」を支える本

 このような「科学あそび」「科学工作」を支える本もよく出ています。今は、いろんな本が出ていて本当に多種多様です。美しい絵があしらわれている本、説明に重点が置かれている本、大型で分厚い本と、さまざまです。学校や図書館向けの本もあります。それぞれネットで検索するとたくさん出てきます。適当な名前の本をネット等で探されても、まずは図書館等で実際に手に取られることをお勧めします。中には、すぐには難しいものや説明がわかりにくいものもあるかもしれません。
 私がずっと以前から重宝しているのは、東京の「仮説社」という所から出ている「ものづくりハンドブック」シリーズです。この本は『たのしい授業』という雑誌に出たものを再編集したものです。学校の教員が書いたものが多く、「うまくできるかできないか」を、実際に子どもたちに試してみて工夫して書いたものが多くあります。書いてある通りにしても失敗がほとんどありません。
 こういう工作で大切なことは、だれにも簡単にできることです。ある一部の器用な人だけが成功するようでは一般書ではありません。

ものづくりハンドブックシリーズの写真

4. 「科学あそび」「科学工作」を支える組織

 こういった科学遊び、科学工作関連のサイトもたくさんあります。ネットでその都度探すのもいいでしょう。私は「科学読物研究会」(東京)などいくつかの科学読物関連の全国組織に入っていて、それらの会報などから、科学あそび等の情報も得ています。
 東京が活動の中心ですので、それぞれの行事には参加できませんが、その会の中に、「科学遊び分科会」もあります。いろんな科学遊びの事例や実際にやってみた実践例も出しておられます。その他、「静岡科学読み物と自然を学ぶ会」「京都科学読み物研究会」、「大分児童文学と科学読み物の会」などもあります。
 科学遊びでつぎつぎとアイデアを出しているのは、東京の野呂茂樹さん(元教諭)です。野呂さんのサイトを開けてみると科学遊びのいろんな資料が出てきます。その他、いろんな大学や個人がさまざまなサイトで公表されています。今の時代、ネットを探すのも一つの手でしょう。
 「科学遊び」「科学工作」の意義は初めに書いたように大切です。「科学の本」の中でも子どもの経験を広げる大切な領域です。「自然体験学習室」や「図書館行事」「公民館行事」などで子どもたちはもの作りの勘所やちょっとした技術を学びます。ここから、想像力、着想力の豊かな子どもたちに育ってくれることが望まれます。
 今はネットで本の入手も容易になりました。もちろん図書館でも借りることもできます。こうした本を参考にして、各地域で、活発な「科学あそび」「科学工作」が広がることを願っています。

博士
「ドライアイスであそぼう」(板倉聖宣言・藤沢千之素共著 国土社 1990)より


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