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「はらっぱ」 No.31 探究心育つかな? 調べる学習と「おためし読書」

更新日:2024年2月21日


「はらっぱ」 No.31 探究心育つかな? 調べる学習と「おためし読書」

掲載日:2018年3月31日更新

清教学園中・高等学校 学校図書館リブラリア館長 探究科教諭 片岡則夫

自己紹介します

 清教学園中・高等学校の学校図書館リブラリアを運営する一方で、中学生の「総合的な学習の時間」でここ数年私は授業をしています。1年生から3年生まで約500名の生徒たちと、読書教育や探究的な学習(調べる学習)に取り組んでいます。

卒業研究と「なんでも学べる学校図書館」

 総合的な学習の時間は「自ら課題を見つけ自ら学ぶ」時間です。生徒たちは中学の3年間、いろいろな方向から自分でテーマを考えて、学習に取り組みます。中でも一番大きな学習の機会が、2年から3年にかけて行われる卒業研究です。約1年をかけて研究レポートをつくります。写真のように出来上がりは画用紙でつくった本の形になります。
画用紙でつくった本の形の研究レポートの写真 
 研究テーマは自由です。1学年160名なら、160通りのレポートが生まれます。当然、図書館は多様なテーマに応じて資料を提供しなければなりません。
 生徒はどんな分野を研究テーマとするのでしょうか。これまでの約2000名のテーマを調べてみると、現れた主題は約900種類でした。中には毎年のように出てくるテーマもあります。表は2007年度からのデータを集計して得た、人気テーマのベストテンです。例えば「睡眠」なら、これまでに18名が研究していて、その割合は8.24‰(パーミル)でした。ふつう割合を示すのは百分率(%)ですが、研究テーマは出てくる割合が低いので千分率(‰)を使っています。つまり8.24‰は0.824%です。1000人いれば8人くらいは睡眠をテーマにする、という意味です。
卒業研究人気テーマベストテンの表 
 こんな分析を通じて、2013年に図書館のスタッフとともに『「なんでも学べる学校図書館」をつくる:ブックカタログ&データ集』(少年写真新聞社刊)という本をつくりました。「ランキングの上位からブックガイドをもとに本を揃えれば、なんでも学べる学校図書館がいずれはできあがりますよ」という本です。

探究心は育つ?

 さて、本誌「はらっぱ」の編集の方から今回頂戴したテーマは、「子どもの探究心を育む」です。「調べ学習の支援の仕方を書いてください」ということでした。たしかに「なんでも学べる学校図書館」は探究心を育む条件のひとつです。しかし、それで十分かというと話はそれほど簡単ではありません。
 卒業研究では探究心を発揮してめざましく学ぶ生徒がいます。また本棚も充実して必要な本もかなりゆき渡るようになりました。その一方で、「探究心をどこに置いてきたのだろう?」と感じる生徒が毎年けっこう現れます。「興味のあることなんかない」と言い切る生徒も少なくありません。ですから、「『探究科』なら探究心が当然育まれているよね」と問われて、「もちろんです」とは言えません。「どうしたら探究心が育まれるのか」という問題は、実は謎中の謎なのです。

「探究心を持った子」ってどんな子?

 振り返って「探究心」とは一体なんでしょうか。「物事について、深い知識を得たり、原因を解明したりしようという気持ち」と辞書にあります。では、探究心が「育った」あるいは、「育っていない」子どもは、どんな子なのでしょうか。

 好奇心が豊か・貧しい/問題意識がある・ない/世の中に対して感度が高い・低い/知識欲がある・ない/「?」をたくさん持っている・持っていない/知らない現状を許せない、抜け出たいと思う・思わない…

 こうして書き出してみると、未来に向けて積極的に働きかけるポテンシャル(可能性としての力)を持ち合わせ、活発に「よく生きよう」としている、そんな性質の持続が「探究心」と言えそうです。
 こうした探究心が育つには、「世の中はなにはともあれ学ぶに値する」という世界観がどうしても必要です。また、そう考える以上は、「知らないことを知るのは手間をかけるだけの楽しさがある」という学習観や、「読書は楽しくなにかしら役に立つ」という読書観も必要です。こうした肯定的な世界観・読書観・学習観がどうすれば身につくのでしょうか。「なんでも学べる学校図書館」と探究学習のほかに、どんな工夫が必要になるのでしょうか。

「おためし読書」で読書観を培う

 目を転じて、清教学園のような中高一貫校の良いところは、中学から高校卒業まで、生徒を見続けられるところです。読書に関していえば、「入学時で子どもの読書観は相当かたまっている」と感じます。6年間、調べる学習に付き合い本を貸してきた者としての感想です。つまり、肯定的にせよ否定的にせよ、子どもの読書観は中学入学から高校卒業まで(例外はありますが)それほど変わらないように感じるのです。そこから「読書観を培うには早い方がいい」と考えるようになりました。
 そこではじめたのが、中学入学後に行う「おためし読書」です。「おためし読書」は、多様な本と多様な生徒との出会いを実現する方法です。読書生活の活性化をねらった、清教学園オリジナルの授業実践です。2013年にはじめて今年で5年目になります。
 「おためし読書」は「フィクション編」「ノンフィクション編」の2時間の授業です。フィクション編の場合、図書館から選ばれた約130冊が、3冊セットになって机上に置かれます。セットの中から生徒は1冊を選び約6分読んで記録を残し、順次回してゆきます。こうして授業50分で10数冊の本との出会いができ、うち6~7冊の試し読みができる、というわけです。一方「ノンフィクション編」では約170冊が、4冊セットに分けられました。同様に生徒は1冊を選び約5分読んで評価を残して回します。
おためし読書の風景の写真

予約カードに見る人気の本

 この授業では「予約・リクエスト用紙」が数枚配られます。授業の直後に本の予約がこれでできます。2017年の4クラス約160名のノンフィクション編の授業では、合計66冊の予約が入りました。ひとりあたり0.4冊です。本は授業後に取り置きされて(下の写真)、予約した本人に連絡が届きます。ちなみに予約の重なった人気の本は例えば以下のとおりです。

 『10代のためのケータイ心得』4件/『ディズニーそうじの神様が教えてくれたこと』3件/『のうだま』3件/『マンガで学ぶナチスの時代』2件/『ズボラさんのための片づけ大事典』2件/『ポケモン・ストーリー』2件ほか
ノンフィクション編での予約本の写真

評価ランキングに見る「生徒をつかむ本」

 「おためし読書」の評価は、4段階(100点満点)で記録されます。借りて読みたい[100点]/まあ面白い[75点]/それなり[50点]/おもしろくない[25点]です。このデータを生徒に入力してもらい、「生徒をつかむ本」のランキングを毎年作成しています。
 ランキングに掲載する第一の目安は「その本を選んだ人数」です。「手元に来た3冊の中でその本が選ばれた回数」という意味です。男女の総合では8回以上の本を選びました。第二の目安は,「評価点」です。個々の本への評価はばらつきがありますが、平均が75点以上の「まあおもしろい」というレベル以上の本をランキングにのせました。
2017年のフィクション編ランキングの表
 表は2017年のフィクション編ランキングのトップ10です。たとえば瀬尾まいこの『卵の緒』は、11名が読み平均点が93点ですから、11人のうちかなりの生徒が「借りて読みたい」と評価をしたことになります。詳しく見ると男子が6人(平均92点)、女子が5人(平均95点)の評価を残しています。瀬尾さんに限らず,読者をつかむ作家さんの力量にはただただ驚くばかりです。ちなみに「フィクション編」と「ノンフィクション編」を比べるとフィクション編の方が例年高い支持率を得ています。

「おためし読書」してみませんか

 「探究心を育てる前提として、肯定的な読書観を培いたい、そして「読書観を培うには早い方がいい」と書きました。「おためし読書」は中学1年生を対象としましたが、もっとこうした試みをして頂きたいと声をかけました。すると各地の方々が興味を持って「おためし読書」を試みて下さるようになりました。
 なかでも河内長野市の学校司書のみなさんが最近熱心に取り組んで下さっています。読書の時間で小学校1年~6年まで全学年でデータをとってくれました。小学生ではコンピュータ入力というわけにはいきませんから、記録カードから集計をしたそうです。その結果、何人もが読み、「借りたい」と感じ、実際に借りられた、たくさんの本が見つかりました。それに、低学年では一度に何冊も本を渡さないほうが「おためし読書」はすすめやすいこともわかりました。
 ここでみなさんへの呼びかけです。「おためし読書」を一緒にしてみませんか。関心を持たれましたら文末の連絡先までご一報ください。これまでのランキングもお届けします。また、記録用紙のデータやもう少し突っ込んだ授業展開の方法をお知らせできます。

おわりに

 「おためし読書」で肯定的な読者観を身につけた子は、楽しんで読解力を身につけてくれることでしょう。加えて、探究学習の楽しい経験があれば、「知らないことを知るのは楽しい」という学習観も育つことでしょう。そして、こうした読書観・学習観は「世の中は学ぶに値する」という世界観と、「探究心」という資質の成長をきっと伴ってくれると思うのです。そんな願いを抱きつつ、清教学園からの報告を終わります。
 学校図書館リブラリアは見学も可能です。「おためし読書」の本と、蔵書化した生徒作品が書架で待つ、「なんでも学べる学校図書館」にお運び下さい。また、近況はツイッターでも発信をしていますので、こちらも覗いて頂ければ幸いです。

清教学園中・高等学校
〒586-8585 大阪府河内長野市末広町623
電話:0721-62-6828
ホームページ: http://www.seikyo.ed.jp/
学校図書館リブラリアTwitter:https://twitter.com/seikyolibraria
片岡則夫mail:norikataoka@seikyo.ed.jp


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